ファンタジー、学園、その次が現代SFになっただけのTransfur小説です。

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自殺願望の少女が竜に変えられる。

「今回の対象はこの子かい?」

 

 薄暗く、薬品の匂いが漂う倉庫の中、白衣を着たメガネの女性が焦げ茶のベストとYシャツを着た無精髭の男に確認する。二人の視線の先には、Tシャツと半ズボンといった一般的な格好をした女子中学生が椅子に座っている。

 男は肩をすくめながら答える。

 

「ああ。深夜の道端に一人でいたから声をかけてみれば、両親という名のクソ野郎とあばずれ女に痛めつけられる人生にうんざりして、この世から旅立とうと彷徨いていたぜ」

「……またそういう経緯か。前は奴隷商人から買うか、社会から見放されたガキを連れてきたのに。まあ、『誰にも必要とされていない奴』を私が使ってやればいいだけだけどね」

 

 女性はそう言うと、薬品が入った注射器を手にし、ゆっくりと自殺願望を持つ女子中学生に近づいていく。

 服から出ている腕と足、顔の肌には傷跡が残されており、虚ろな表情で椅子に座っている中学生が彼女に気づき、顔を向ける。白衣の女性は優しく尋ねた。

 

「君の名前は?」

「……みほ」

「みほちゃんかー。漢字でどう書くの?」

「命が……歩く……」

「それが君の名前なのね。しっかし、それを名付けた人たちに殺されそうだったなんてね……」

 

 注射器を持たない片手で目元を覆い、悲しそうな素振りを見せる白衣の女。しかし、少女の口から出たのはその反応を否定する言葉だった。

 

「やめてよ……悲しむだけ悲しんで、結局何の解決にもならない反応は何度もされてきたの……」

「……そっかそっかー、早速本題に入った方がいいか。単刀直入に聞くけど、君は死にたいんだね?」

 

 先程見せていた優しさと悲しみをあっさりと消し、白衣の女は冷たく聞いた。その切り替えに命歩が驚くも、白衣の女は言葉を続ける。

 

「自分を生み出した糞野郎と尻軽女に憂さ晴らし用として扱われ、そんな一生は嫌だと命を捨てて楽になるのは結構。だけどね、あんたみたいな能無しを使ってくれる連中もいることを知ってほしいなぁ」

 

 白衣の女性の言葉に命歩はネットで知った噂が頭に浮かび、恐怖が込み上げてくる

 

「……内臓」

「ん?」

「私のお腹を裂いて……内臓を……?」

「……私と彼はそういう仕事もするかもしれないけど、別の理由であんたが必要なの」

 

 そう言いながら、注射器を見せつける。何をされるかは分からない恐怖に命歩は身体を震わせる。

 白衣の女の言動に恐怖を感じる。しかし、それだけじゃない。呟きながら命歩に近づく白衣の女の姿が変わっていくように見える……

 

「自殺するつもりみたいだけど、どうやって自殺するつもりだった?」

 

 いや、実際に変わっている。彼女の眼鏡越しの目の片方が瞬きする度に瞳が“分裂”していく。

 

「縄を使って首吊り? 下手したら苦しみ続けるよ。高い所からダイブ? 下手したらグチャグチャな体で意識が保っちゃうよ。リストカットしてお湯に浸る? ……どうなっちゃうだろうね?」

 

 そう言い終えた頃には、白衣の女の片目には複数の瞳が命歩を見つめていた。その異様な姿に命歩は何も言い出せず、開いた口をパクパクと動かすしかなかった。

 複数の瞳がそれぞれ動く中、その目の持ち主である白衣の女は言い始める。

 

「畜生耳、角、羽付きの“自称化物”の人間を見ても驚かないくせに、私のたったこれだけで嫌悪感と恐怖を感じるとはね。さてと……」

 

 命歩の首元に注射器を刺し、薬品を注射した。突然の行動に反応できなかった命歩だが、薬品を注入され切った直後に体を動かした。

 

 最低な両親から逃げ切るために自殺しようと徘徊したのは事実だが、恐怖や痛みを感じながら死のうとは一切思っていない。人の皮を被った化け物に何かされる前に逃げないと……

 

 背中を向けて離れていく命歩を見ながら、白衣の女が男に話しかけた。

 

「君の望み通り、君好みの異形に変えているところよ」

「へっ、そいつは楽しみだ」

 

 男は満足そうに命歩の変化を待ち望んだ。

 倉庫の出口までまっすぐ逃げる命歩。しかし、突然の激痛が全身に走り、思わず転んでしまう。床に転がった後も痛みが治まらず、口からの絶叫が倉庫に響き渡った。それは彼女の変化の始まりだ。

 全ての指が歪に痙攣した直後、中からナイフのように鋭い爪が突き破ってくる。

 臀部からは音を立てて大きな尻尾が生えていく。それは長く立派に成長し、先端が鋭い形になった。

 背中からも皮を破り腕や足とは違う膜で作られた二つの羽が飛び出す。

 激しい頭痛と同時に頭が変化していき、鋭い牙が生えた口が鼻と共に前に突き出てマズルを形成する。

 髪の中から一対の角が後ろに伸びる。

 変化が止まり、死んだように動かなかった命歩がゆっくり起き上がった時、彼女は人として死んだ。今の命歩は人の形をした羽付きトカゲ――架空の生物である竜に変わっていた。

 変化した自分の両手を信じられずに見つめている命歩を白衣の女と無精髭の男は見て、それぞれ笑みを浮かべるだけだ。

 


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