召還試験が終わりゼルギウスに学校の中を案内しながら、ルイズはこの自分が召還した使い魔について考えていた。
彼はこの国やこの学校を知らない、全く自分の知らない景色をどんな気持ちで見ているのだろうか、今は兜をかぶっているのでその表情を伺う事はできない、先ほどから『ほぅ』とか『なるほど』とか反応を示してはくれているのだがいずれもさして興味を示してはいないようだ。
しかし、今一度こうして彼を見てみるとやはり傭兵なのかと疑ってしまう。
その重厚な鎧は何でも跳ね返してしまいそうだし、まぁ現に一部の武器を覗いて跳ね返してしまうのだが、そしてその腰に下げている剣は素人のルイズからしてみても名剣だとわかる神秘的な輝きを放っている、王国の美術館に飾って会ってもおかしくないほど見事な剣だ、そして歩く姿も背筋が通っていて威厳を醸し出している。
元騎士とか言う話しなのでその名残なのかもしれないが、それにしてもそこら辺の騎士ではないとどこかの高名な騎士だったのだろうなとルイズは思う。
そしてルイズは彼がどこか自分と似ているような気がしていた。
その何というか周りから一線引いているような雰囲気がある、あまり人を近付けないと言うか近づけるのを恐れている。
自分と同じ[孤独]なようなものをゼルギウスから感じていた。
でも彼は、契約のときに私に優しい笑顔を見せてくれた、だから放っておけないともルイズは思う。
初めて自分が魔法が使えると言う証明をしてくれた彼でもあるし、なりより唯一無二の私の使い魔なのだから。
そうこうしている内にどうやらルイズの自室についたようだ、先ほどから私に学校の中を案内してくれていた。
食堂や教室、図書館など一生懸命に説明をしてくれているのだがあまり反応を示さないようにしている。
なぜなら先程から誰かに明らかに見られているからだ。
視線を至る所から感じる、奇異の視線を向けられているわけではなく、明らかに監視の視線だ。
だから私はルイズには悪いと思うのだがあまりしゃべらないようにしていた、私が興味を示していないと思っているのルイズは困惑の表情を浮かべながらも説明してくれていた。
必死に興味をひこうとして一生懸命身振り手振りを加えて説明してくれるその姿がなんだか微笑ましい。
そして何故だか心に温かいものを感じていた、初めての感情で戸惑いを感じたのだが…
これはこれで悪くない。
この気持ちがなんなのか私にはまだ分からないがけして悪いものではないという事だけは分かる。
そして監視の目もなくなったので謝らないとなと思いつつルイズの自室に私達は入った。
『ここが私の部屋よ、ゼルもここで過ごしてもらうのだけど…まぁ女子寮だけど使い魔だしいいわよね』
そうルイズが言い部屋を開けると部屋は窓から差し込む月の光でぼんやりと中の様子が伺えた、豪華な作りの部屋だやはり貴族の学校だけはある。
暗いわね…とルイズがつぶやき指を鳴らす、すると部屋のランプにそっと光が灯った。
『凄いな、なにか手品の類のものなのか?』
『え?これは魔法よ、私の魔法ではないけれどランプに音に反応してつくように魔法をかけてあるの、なにせここは将来メイジになるための魔法学校よ、そんな事も知らないの?』
これが普通と言うルイズにゼルギウスは疑問を抱いた。
この指を鳴らすだけでランプがつくと言う音で反応する、そんな物はゼルギウスの時代にはないものだしそんな技術もなかった、なにより聴いたことがまずない。
『ほう、ここは魔法学校なのか、私はてっきり貴族の学校とばかり…してメイジとはなんなのだ、魔法使いの類のものか?』
『そう魔法使いであってるわ、でもねメイジって言うのは貴族、選ばれた人間しかなれない…って皆は思ってるみたいだけど私はそうは思わないわ、努力次第で何とかなるはずよ、ブリミル様がそんな不公平するはずないもの絶対、私だって…ううん、なんでもないわ、それとねメイジにはランクがあってね、下からドット、ライン、トライアングル、スクウェアって上がっていくのそれに付け加えて属性もあるの、火、水、風、土の四属性あるわ伝説ではもう一つ、虚無って言う属性があるといわれているの、でもどういった魔法かは全く分かってないわ伝説上の物だから』
『ほぅ、なるほどな、ここでは魔法使いは最上位の人間がなっている、支配階級といったところか、そしてここはそのメイジを育てる学校と言うわけか』
どうやらここでは、誰でもかれでも魔法使いになれるようではないようだ、貴族と言う家柄か血筋かは分からないがそう言った身分のものでないとなることは出来ない、特別な存在のようだ。
その話を聞きゼルギウスは確信をした。
『主よ、どうやらここは私のいた世界ではないようだ』
薄々は感づいてはいたのだが、ルイズの話と先程少し窓の外を見たときに月が二つあった、これは明らかにゼルギウスのいた世界にはないものだ。
これならこの学校の住人が私のことを知らないのも頷ける。
それにゼルギウスのいた世界の魔法は誰にでも鍛錬を積めば使えるものだ。
まず属性の構造が違う、彼の世界の魔法は、火、風、雷、光、闇、とどれも攻撃魔法ばかり、そしてその属性のどれか一つを極めるといったものではなく闇以外ならばある程度の魔法使いが使用できる、それに杖も存在はするものの回復の効果や錯乱させる効果を持つものばかりだ。
この世界の杖とは用途が違うのだ、このとことをルイズに簡単に説明をしてみた。
『つまりあなたは違う大陸じゃなくて、世界そのものが違うところから来たって言いたいの?』
『あぁ、そうだな私の世界の魔法はこれほど便利ではないしそれに土や水などという属性はないからな、なにより杖で魔法を発動するのではなく書物からルーンを読み解きそれを己の魔力を本の属性に変換して発動するからな、おそらくだが威力もこの世界のものとは違うだろう、私も多少なら使えるし、おそらく本とルーンさえ読めればこの世界の住人も使えるだろう』
『そうなの?でも私はまだよく信じられないわ、見ていないもの』
『それもそうだな、なに主には知っていてほしかったのだ、私の契約者なのだからな』
するとルイズが何か考え込むかのように俯く、そして顔をあげ弱々しく私に質問をしてきた。
『でも、もし…もし仮にそうだとしたら、ゼルは戻りたいと…思う?』
その質問をしたときの彼女の目は余りにも寂しそうだった、まるで自分の居場所を無くしてしまうのではないかと不安に瞳が震えていた、そしてその恐怖を私は知っていた。
だから私は、はっきりと彼女に答えた。
その不安を打ち消して上げたくて
その孤独を二人で無くしていきたくて
君の居場所になれたらと思って
『いいや、私は全く思わんよ』
え?とルイズの瞳が驚きと期待と疑惑で見開く。
正直あたしは、ゼルは本当は帰りたいんじゃないか、あの誓いは一時的なもので本当はそんな気は無いんじゃないかと心のどこかで思っていた、いざ聴いた時に自分が傷つかないように、あぁやっぱり一人なんだって、やっぱりそんな上手く行くわけないよねって、笑い飛ばせるように。
でも…彼はそんな不安をいとも簡単に打ち払った、まるで宵闇に溶け込んで消えていくかのようにスッと不安がなくなった。
こんなの初めてだった、彼の言葉はそれ程までに優しく私に溶け込んで行った。
でも恐がりな私は、それでも聞いてしまった。
『うそ…どうしてゼル?元の世界に帰りたくはないの?アナタを待っている人達はいないの?』
すると彼は考えるように顎に手を当てる、するとふっと微笑み。
『そもそも私は傭兵、宛のない流浪の身だそれは元の世界でもこちらでも変わらないさ、それに今は君と言う雇い主がいる、新しい世界も楽しいだろうさ』
と、なにを心配しているの?と言う表情にルイズはなんだか心配していた自分が少し可笑しくなって笑ってしまった。
『ふふふっ、そうよね、昔はどうでも今は私の使い魔なのよね、こき使うからしっかりとご主人様の為に働くのよ!』
『ハハハ……お手柔らに頼むよご主人様』
『あっ、そう言えばアナタに使い魔の仕事を教えていなかったわね、使い魔って言うのはね、まず契約者の目となり耳となるの、でもあなたと契約しているのに何にも見えないわなぜかしら?』
考え込んでいるルイズにゼルギウスは『他には?』と訪ねる。
『そうそう、それでね仕事って言うのは言ってしまえば雑用ね、洗濯したり掃除をしたり私の身の回りの事をしてもらうわ、後……そうね秘薬を作る為に素材を採ってきてもらったりもするわ』
『秘薬?そんな物があるのか?』
『ええそうよ、例えば折れた骨を一瞬で治したりとか凄いのになると、どんな病も一瞬で治るなんてのもあるのよ!でも…アナタはここの世界のことをよく知らないしすぐには無理そうね』
『ん………それは私も勉強しなければ、どうすることもできんな…』
と少し皮肉を言ってみたのにゼルギウスはどこ吹く風と言う顔をしている
『そして最後にご主人様を守ること、これが一番大切なのよ、まぁ…アナタはそこら辺の盗賊とか傭兵とかには勝てそうね』
とルイズは言ってみる、実際のところメイジも倒してしまうのではと思ってはいるがそれを言ってしまったらなんだか負けた気がするので言わないでおいておく。
『ふむ、そうだな君を守るという点おいては一番自信がある任せておいてくれて大丈夫だ』
その表情は涼しいが彼の瞳には確かな自信が漲っている。
『その言葉、本当よね?口先だけだったら…ご飯抜きなんだから』
『任せてくれてかまわん、必要とあらば指一本触れさせんさ』
なんだか、彼なら本当に私を守ってくれるような、その言葉を実現させてしまうようなそんな気がした。それに見た目からしてもそうだ、彼が纏う大きな黒鎧を見ていると何だか自然と安心感がある、しかし余りにもその鎧とこの部屋が合っていないというか、なんで寝室に鎧?と思ったら可笑しくなってルイズは思わず笑みがこぼれてしまった。
『フフフ、ねぇゼル?いつまでその鎧を着ているの、ここは私の部屋、だれにもおそわれたりなんかしないわ、それに暑そうだし重そうだし…脱いだら?』
『脱ぎたいのも山々なのだが、なにぶん着るものがこれしかないのだ』
『ん………仕方ないわね、明日私がもらってきて上げるわ、今日はもう寝ましょう、ふぁぁぁ~、私疲れてしまったもの』
気づけばそんな時間になっていたのかとゼルギウスは思う、まぁ仕方ない鎧姿で寝るなどいつものこと部屋の隅で寝ればよい。
そしてふとルイズをみると、いきなり脱ぎだした。別に興奮するとか、そんなことは一切も思ったりはしないが、一応ルイズは年頃の女の子なのだから気をつけなければならないのではないか?とゼルギウスは思うが、いや私は今は彼女の使い魔、男と思われてないのならそれは仕方ない事なのかと彼女を見ていると…。
『ん……それじゃこれとこれ、明日洗っておいてくれるかしら、それとそのタンスからパジャマを出してくれる?』
と彼の方へ目を向けるとおもっきり目があった。
その誰もが吸い込まれてしまいそうな碧色の目が私を見つめていた。
その右手に私の下着をもって。
なんだかとても恥ずかしくなっきてた、顔がすごく熱い。
誰が見ても見とれてしまうような淡麗な顔、そんじょそこらにはいないような顔立ちをしている、それこそどこかの王子か騎士のような気さえしてくる。
そんな彼が私の下着を持っているなんて、なんだか凄く変な気分になる、思わず体を布団で隠してしまった。
(なっなっにをうろたえているの私!、確かにちょっとカッコいいかもしれないけど、所詮使い魔よ、それも私の使い魔!、私の下着洗うなんて当然じゃない!気にしない気にしないの!)
『はっ早く、私のネグリジェ取って!』
『すまん、えーと、あった!これか?』
とルイズに渡すと凄い勢いで奪い取りすぐにベッドに戻ってしまった。
『そっそれじゃ私は、ねっ寝るとするわ、おやすみなさい!』
カバッと布団をかぶりどうやらルイズは寝てしまったようだ。
それにしても何故、あんなにも焦っていたのだろうか?
やはり年頃の乙女のことは良く分からんな…と結論づけた。
ゼルギウスは窓の近くで寝ることにした、壁に背を預け、そっとカーテンの外側の二つの月を眺めている。
なんて綺麗な月なのだろうと思う、戦いばかりだった彼にはその月がとても綺麗に見えた。
こんな、呑気に月を眺めたのはいつぶりだろうと思う。
いきなり違う世界に来てどーなるかと思ったりもしたが、そんなにこの世界も悪くないようだ。
月を見ている内に睡魔がゼルギウスを襲ってきた。
このまままどろみながら眠りにつこうと思い睡魔に身を任せる。
そして睡魔に飲まれる前にゼルギウスはふと思う。
(女性物の下着など初めて洗うが、果たして私にできるだろうか?うーむ、不安だ…)
そんな今まで彼がいた世界にしてみれば些細な、しかし今の彼にとっては重大な問題を抱えながらゼルギウスは眠りにつく。
こうして、漆黒の騎士ゼルギウスの使い魔の生活が始まった。