UNITIA 神託の使徒×終焉の女神 -BEYOND THAT- 作:トブト
25
バウム王国・城下町。
あの後、トリストラの言われた通りに跡を追いかけていた短髪団長含め三人と一匹。
その間ドレスの騎士は一度も話すこともなく、また短髪団長たちの方を振り向くこともなかった。
やがてはとある宿屋の一室に入り込む。
「ふぅ…」
部屋に着くや否や、ドレスの騎士はそれまで引き締めていた表情を緩め、朗らかな表情を短髪団長たちに向けてくれた。
「ごめんなさいね。特に説明もなくここまで…。あの場では立場上あなたたちと懇意である姿勢を見せられなかったのよ」
「………?」
なにが何やらと言った状況の中で短髪団長たちはひとまずは落ち着いて話が出来る場を設けてもらえたことにひとまずの安心感を得る。
「私たちと仲良くするのはダメなのですか?」
そこにテラが直球の言葉で斬り込んでくる。
空気を読まない発言にリアンとリュインは固まったまま動けないでいた。
ドレスの騎士もさすがに虚を突かれたのか目を丸くしている。
「ち、違うのよ!?別にあなたたちと仲良くなりたくないって訳じゃなくて!!その…」
あたふたとした様子で弁明に入るところで。
「ネオラントの侵略を許すなー!!」
突如外から響く怒声。
慌ててリアンは窓から顔を出して外の様子を見ると、複数の団体が集まって道の真ん中を闊歩する様が見れた。
「二世界大戦より和平を結ばれて幾歳!!世は平穏が訪れ価値観は違えど我らは共に生きていくことを良しとした!!なのに!!ネオラントはこの平穏を脅かし、あまつさえ秘密裏に戦争の準備を進めていたという背信行為!!激しく遺憾である!!我らは信じてその手を握ったというのに奴らはそれを振り払ったのだ!!かの大戦で流れた血は決して少なくない!!その犠牲の元に今の平穏があるというのに奴らはそれを無駄にし、先人たちの想いを侮辱した!!もはや言葉による和解など見込めない!!我らも剣を取り、自国を!!世界を!!家族を守るために今ミストレアは立ち上がるべきなのだぁ!!」
「おぉーーーーーーーっっ!!!!」
戦闘に立つ人物を筆頭に集団は呼応するように声を張り上げながら町中を行進していく。
「な、なんですかアレ……?」
あまりに異様な光景に戸惑いが隠せない短髪団長に対しドレスの騎士は沈痛な面持ちで答えた。
「先日…リブラでの両世界各国の代表たちが集う親交会談が行われる日に起きた爆発の件は知ってるわよね?」
リブラの倉庫爆発事件。
公には中の火薬庫が引火したことによる爆発ということで処理されたものだが、その実そこにあったものは両世界の関係に亀裂を入れるのに十分なものであり、現在判明していることも少ないために謎の多い一件としていた。
そのことが虹の調査団は【封鎖エリアB3】クレーブスに行くきっかけとなり、ひいては情報局とも戦う契機ともなった───。
「その一件は事故として処理されたはずなんだけど…一部の上流貴族がどこからか聞きつけたみたいでね。ネオラントがミストレアとの戦争の準備を進めていると危ぶんだ公爵たちが各自で武器の製造と収集を始めるようになったの」
「そ、そんな!?」
それではまるで──と口が動いたところでリュインは口を噤んだ。
「それが原因で……あのデモが?」
リアンが表面上は落ち着いた口調で話すも、ふるふるとドレスの騎士は首を横に振った。
「そうじゃないの………問題はその貴族たちが行った製造や収集を自治民たちに強いたことなのよ……」
ギュッ、自身の手を強く組んでトリストラはその重い口を開く。
「最初は…武器商人や鍛冶職人の競争から始まり、次第にインフレが起きると次は個々が武器製造のための製造所を設けて知識のない民たちを半ば無理やり働かせ、さらには領民たちを兵士とするために訓練を行わせ、挙句の果てに軍資金を集う名目で民たちの月々の税を引き上げたり……今バウム王国周辺はパニック状態なのよ」
告げられた事実はリアンたちが想定していた以上に大きく、深刻化していた。
皆、あまりのことにひと言も発せずにただ聞いていた。
「無茶な労働に過酷な訓練、そこに上がり続ける重課税……領民たちの負担は日増しに増える一方でその不満が爆発するのに時間はそれほど掛かりはしなかった。でも…」
そこでトリストラは目線を下に落とす。
「でも……貴族制であるバウム王国で貴族に逆らうということはどういう意味を指すのかは自明の理。そこで彼らは自分たちの中に燻り続ける怒りの矛先を向けられる相手を探したの。………それが」
「ネオラント……ですか?」
26
同時刻。
バウム王国・外周辺。
「何よそれ!?」
あの後、関所にいた門番たちに「丁重に」送ってもらったマキアとリオノーラはその付近の茂みから現れ出た顔馴染みの騎士、ガレサから今バウム王国で起きている事の顛末を聞かされていた。
ガレサは騎士の称号を貰ってからまだ日も浅い、どこか儚げで幼さが残る印象を持った騎士だ。
長い紫髪を後ろにふたつのおさげを携えた学生服の上に鎧を身につけたような装いで、正道から反することを嫌う清らかな心の持ち主で、常に物腰が低く忍耐と礼節を持って事に当たるその姿勢には周囲を魅了して止まない。
現在はバウム王国周辺の見回りの最中で、マキアたちが門番の騎士に「丁重に」送られていた様子を見て周囲の目を忍んで接触を図り今に至る。
おずおずとした調子で話す清楚な騎士を前に青髪制服は憤りを見せる。
「つまり領主やその上にいる貴族たちが好き勝手にするからその不満がネオラントに向かってるってことでしょ!?だったらあたしが直々にその貴族たちをとっちめてやるわ!」
「えぇっ!?」
「マ、マキア落ち着いて!?」
頭に完全に血が上り詰めている青髪火山の噴火まで時間の問題であった。
今の発言が万が一にでも貴族の耳に入るようならば、たとえネオラント人であるマキアであってもただでは済まない。
そのことを一番よく理解しているガレサは表情を青ざめたままにあたふたとした様子で青髪火山の口を手で押さえる。
「なななななななな、なんてこと言うんですか!?今のを貴族の方たちに聞かれでもしたら……!」
「むがもがむごっ!?」
慌てて周囲に視線を巡らせ、誰の気配もないことに安堵の息を漏らす。
「ひ、ひとまずは今守護騎士団内でも近々貴族たちに規制を促す方針で動いています…。それまではマキアさんたちも控えるようにお願い出来ますか……?」
諭すようにお願いする清楚な騎士であったが青髪火山の熱が引いていく様子は見られない。
「マキア………」
その様子に懸念したリオノーラは目で訴えかけるように話しかける。
「………分かってるわよ…」
未だ腹の据えどころが悪い青髪火山ではあるが、ひとまずはその鳴りを潜めるのであった。
おもむろに来た道を振り返る。
その先は今は自分たちが入れない国、バウム王国。
そこには自分たちの仲間たちが今も混乱の中で情報局に至るための情報を集めているはずであり───。
「…………………っ」
握る拳が強くなる。
今も奔走する仲間たちを想い、その力になりたいと思うもその自分たちネオラント人がその調査の妨げの要因になりかねないという事実の板挟みに、マキアは歯噛みして耐え忍ぶことしか出来ないのであった。