UNITIA 神託の使徒×終焉の女神 -BEYOND THAT- 作:トブト
27
バウム王国・城下町。
「ネオラントの侵略を許すなー!!」
町中で響くデモの叫びを遠くに短髪団長たちは捜索に入っていた。
あの後、トリストラから町の現状を伝えられたリアンたち。
その際この混乱が落ち着くまで調査団の活動は控えるべきと提案されるも、それで止まる彼らではなかった。
「はぁっ……分かったわよ」
やがて、小一時間の説得も無意味と観念したドレスの騎士はある条件を下にバウム王国での調査団の活動を認めることとした。
一つ、自分たちが虹の調査団であるということを知られてはいけない。
一つ、デモとの必要以上な接触は控えること。
一つ、目的を果たしたら速やかにバウム王国から出ること。
これがトリストラとしても譲れる範囲らしい。
「いい?この三つの約束は必ず遵守すること。今のバウム王国にとってあなたたち調査団の立ち位置は騒動を激化する発火材になりかねないわ。そうなるといくら私たちでも庇いきれない。混乱を防ぐために守護騎士団はあなたたちにその務めを果たすことになることを肝に銘じておいてね」
「わ、わかった…」
釘を刺すように言いつけられた短髪団長は頷くもその表情は強張っており、見るからに緊張しているのが分かる。
その様子を見て、くすっ、と微笑んだドレスの騎士は活を入れるように、とん、とリアンの胸を肘で軽く小突くとおもむろに部屋に設えてあるクローゼットから何かを取り出すとそれを短髪団長たちに手渡していく。
「外に出るときはこれを被って行きなさい」
手渡したのは頭巾が付いた外套。
体の大部分を覆い隠せ、顔も付いている頭巾を被れば端から見ただけでは誰なのか分からなくなる。
「却って目立つんじゃないかな…?」
「あなたたちが虹の調査団ということを隠すための処置よ。それに魔術師団ではフード被ってる人も多いから意外とバウム王国内では普通よ」
「そ、そうなんだ…」
最初は着ることを躊躇っていたリュインたちであったが、調査のためと割り切って外套を纏うのであった。
「ブカブカです」
「ぐもぐも!」
「トリストラ、グモモの分はありますか?」
「え!?ご、ごめんなさい……ないかな…」
「そうですか…」
「ぐも…」
28
そして現在。
リアンたちは町でデモの行進がある中で陰に潜めるように情報収集にあたっていた。
目的の人物がよく行く店、その人物との関連や縁のありそうな場所、いそうな物陰など思い当たるところへ片っ端から捜索をした。
しかし、どれだけ探しても目的の人物が見つかるようなことはなかった。
「ふぅ…」
ひと通り調べ終えた短髪団長たちは一度小休止を挟むために人の立ち入りが少ない喫茶店を訪れていた。
「なかなか見つからないね……」
「うん……」
「すみません、ここに“ぱすた”はありますか?」
「ぐもぐも〜♪」
調査の方は難航していた。
ジェイニーの件とは違い今探している人物は“確実に”バウム王国にいる。
しかし、それは逆を言えばバウム王国にいることしか分からない。
言わずもがな王都キルシュバウム王国は広く人口もミストレアいちだ。
そもそも、調査団がその人物と出会うのはいつだって向こうから接触があった時がほとんどだ。
調査団一行がバウム王国に滞在すると、いつも“なぜか”向こうから近づいてくる。
その際、調査団の背後からネチネチとした視線を投げかけながらコソコソと尾行してくる。
本人は至って真面目に隠れているつもりらしいが、調査団含めその周りの者にも大概尾行していることはバレている。
そういうこともあり、当初はバウム王国に訪れればそのうち“なぜか”向こうからやって来てくれるために、見つかるのにそれほど時間は掛からないものと思われていた。
だが、現在戒厳令を敷かれており、町中でデモが発生する状況では安易に外に出ることが叶わない。
デモに反対の住民も警戒して外出を控える者が多いため、必然、調査も滞りを見せている。
そうなると外にいるのは大半がデモ参加の者となるために接触を禁止されているリアンたちにはかなりの制限の下での調査になっている。
「やっぱり今はこんな状況だから外には出てないのかな?」
「かもしれない……」
「グモモ、“ぱすた”美味しいですか?」
「ぐもずるる…」
想定外の足止めを食らってしまい、リアンたちの表情に沈鬱な影が差し込む。
こうしている今でも情報局は秘密裏に計画を着々と進めている。
その手段を選ばない非人道的な行いはとても許されたものではなく、ミストレア、ネオラントの両世界にその魔の手は今も差し迫っている。
その脅威を払うためにも一刻も早く情報局の居所を突き止め、計画の阻止をしなくてはこの悲劇は終わらない。
そのことも相まって逸る気持ちが募っていく。
「やっぱりカロルさんにお願いしてみよう」
気づけばリアンの口は自然と動いていた。
「えっ!?でもそれは…」
リアンの言葉に赤ポニテは当惑する。
王家の相談役であり、王国全土の防衛にも携わっているバウム王国軍を率いる大総督を担う四賢人のひとり。
常に一手、二手先を読む頭の回転の速さは最早凡人の理解を超えているとされている。
それがカロルという人物だ。
先のリブラでの一件、虹の調査団は故あってその四賢人のひとりである彼女と行動を共にし、事にあたっていた経歴を持つ。
以降、彼女は大総督としても個人としても度々調査団と行動を共にすることが多くなったため交流も深い。
ただ、それでも国の重鎮とも言える人物にそんな気軽に会えるのかと言えばその限りではない。
リュインが懸念しているのは先にトリストラから伝えられた事柄にある。
『現在この混乱に乗じて王都キルシュバウムに攻め入ろうと企てる諸外国や謀反を起こそうと考える逆賊の動きがあることも報告に上がっていてね……。現在アセリア様含め四賢人の方々はその対応に追われて緊急会議を開き、今も対策を練っておられる最中なのよ……』
『えっ?じゃあフレミィさんも?』
『フレミィ殿は欠席されている』
『…………………』
同時に余計なことも思い出してしまう赤ポニテ。
父ロベール・ドラサールの知人であり、リアンたちが幼少の頃からなにかとお世話になっているリュインの恩師でもあるフレミィの有事の際でも通常運転な行動にはその時の赤ポニテも苦笑いを浮かべることしか出来ないでいた。
ともあれ、現在この火急時であるなかでその邪魔をするような押し入りをするというのはさしものカロルといっても寛容ではいられないだろう。
最悪今後の虹の調査団としての活動にも支障が生じかねない行いだ。
そしてそれは短髪団長も重々承知の上であるはずで、その上での発言なのだから赤ポニテの困惑は尚更である。
しかし、本人の意思は固いようで。
「このままじっとしていても状況は変わらない。さっそくカロルさんに会いに行こう」
言うが早いか席から立ち上がり、王城に向かおうとする。
その顔には焦りの色のようなものが出始めていた。
「?もう行くのですか?グモモ、行きますよ」
「ぐもっ!?ぐもずるるるるるるっ!!」
「ま、待ってリアン!!」
あまりに勇み足な行動にリュインは慌てて短髪団長の前に立ちはだかる。
「リュイン、今は…」
「聞いて!」
普段はリアンに対して声を荒げないリュインだが、この時ばかりは語調も強くなる。
義妹のあまり見せないその姿に短髪団長も雰囲気に飲まれるのであった。
赤ポニテはまっすぐと目を見て言う。
「今はこんな事態だしカロルさんたちもみんな忙しいはずだよ!そんな時にあたしたちが邪魔しちゃ悪いよ!一旦落ち着いて!」
リアンは団長ということもあってどんな時も冷静に物事を見据えて判断をするが、しかし、切迫した状況に追い込まれると自分を顧みずに突発的な行動を取るという悪癖がある。
それは昔、ふたりが幼い頃。
リュインがまだ魔法の制御が出来ず、魔力の暴走で村近くの森一帯を燃やし、そこにひとり残されたことがある。
そのことを知ったリアンは周囲の反対を押し切って衝動的に燃え盛る森の中に単身文字通り体ひとつで入りこんだという。
結果的に森の火は鎮火し、ふたりも無事助かったものの一歩踏み違えればリアンの命が危うかった状況でもあった。
それは彼の良きところでもあるが、同時に致命的でもある。
それが団長という立場であるならば尚更である。
リブラでの一件、情報局との対立、進まない調査、バウム王国の現状、そしてミストレアとネオラントに生じ始めた亀裂。
何も解決せず、ただ事態だけが深刻になっていくことに虹の調査団団長として、なによりリアン自身に重圧が掛かっていたのかもしれない。
そして、知らず知らずのうちにそれをひとりで背負おうとも。
確固たる意志を持って赤ポニテは続ける。
「情報局のことはダフネさんやメーヴィスさんも動いてくれている!バウム王国だってアセリアさんやカロルさんにアルドルフさんたちが必死になって考えてくれてるし守護騎士団や魔術師団の人たちが頑張ってくれてる!それに私たちだっている!リアンひとりが全部を解決しなきゃいけない訳じゃないんだよ!?」
「………………っ!!?」
発破をかけられたかのような衝撃。
見るとリュインの目には涙を湛えてそれが頬を伝って床に落ちていくのをハッキリと。
それにより焦燥感に駆られていたリアンも我に帰る。
『だからこそ将である貴方は鋭く決断をしなければ。そのためにも盤上をよく見ることです。起こりうる全てのことを』
かつてリブラでカロルに言われたことを思い出す。
それは彼が団長という立場であることの責任と覚悟の表れであるとリアンは理解していた。
仲間を危険から守るために、的確な指示を出すためにも、いの一番にその場の状況を把握し、理解する必要があると。
だが、この言葉の意味はそれだけに留まらない。
リアン・ドラサールはひとりではない。虹の調査団は彼ひとりでは出来ていない。リュイン、マキア、テラ、リオノーラ、アンネマリーにグモモ、アリア、頼りになる仲間たちがいて始めて成立する。
リアンはダスト相手には無力だ。
レリックの性質上、女性にしか発現しないその力をリアンは持ち合わせてはいない。
オラクルという異例の力を行使できはすれどそれもテラが側にいてこそ。
戦闘のほとんどはリュインやマキアに頼らざるを得ない。
戦闘で負傷すれば治すことが出来るのは癒やしの力を持つリオノーラだけだ。
虹の調査団として活動するためにはミストレアとネオラントの両世界を自由に行き来するためにブルーバードを操縦できるアンネマリーは欠かせない。
野宿をする際はグモモの中に広がるグモトピアは便利で有効であり、その管理と団員たちの身の回りを世話してくれるアリアは心の支えにもなる。
誰かひとりでも欠けていれば虹の調査団は今日まで活動を続けてこられていない。
互いが互いを支え合い、補ってきたからこそ虹の調査団は今があるのだ。
『盤上を見る』という言葉にはそこに起きた事象に限らず、『そこにいる者たち』も含まれていた。
そのことを体を張ってでも止めてくれたリュインに教えられたリアン。
仲間の頬にそっと触れ、涙を拭う。
「……………ごめん」
短く謝る。
その顔には穏やかな笑みが浮かべられ、焦燥の色はもう見られなかった。
それを見てリュインも安堵したのか湛えていた涙を溢れさせるも笑顔で。
「ううん。色んなことが起きて焦っちゃったんだよね。大丈夫。リアンはひとりじゃないよ。今はたくさんの仲間がいてくれるから。きっとどんな問題だってみんなが力を合わせれば乗り越えられるよ。それに私たちはどんな時でもリアンの味方だよ?だから全部ひとりで背負い込まずに今は出来ることからやっていこう。ね?」
その優しい微笑みから語りかけられ、リアンはただコクリと頷くのであった。
「?行かないのですか?」
「ぐもごっくん!…ぐももっ!?」