UNITIA 神託の使徒×終焉の女神 -BEYOND THAT- 作:トブト
28
改めて、今後の方針について話し合う短髪団長たち。
現況を精査し、整理をした結果、当面はバウム王国内にてリアンとリュイン、テラは調査を行うものとすることとした。
リアンたちがバウム王国に滞在中の間は並行してマキアとリオノーラ、アンネマリーはネオラントにてジェイニーの捜索を続けてもらい、情報を集めていく。
地道な方法ではあるもこれが現状、虹の調査団が取れる最良であることに変わりない。
方針が固まり、バウム王国の外で待つ仲間たちに情報の共有を図るために一度短髪団長たちはブルーバードまで戻ろうと立ち上がった時だった。
「きゃあっ!」
店の外から悲鳴。
何事かとリアンたちは顔を見合わせてすぐさま声のした方に駆けつける。
店を出ると道の真ん中で人だかりが出来ており、そこへ近づく。
その中心にいる人物を見ると、数人がかりの大人がひとりの子どもを押さえつけているところであった。
最初は子どもが盗みを働いたものと考えた短髪団長であったがどうも数人の中のひとり、無精髭の男の様子がおかしいことに気がつく。
「返して!ねぇ、返してよ!」
取り押さえられている子どもは尚も叫びながら必死に無精髭の男が持っている物に向けて手を伸ばしている。
しかし、無精髭の男はふるふると体を震わせており、子どもの声に耳を貸す様子がない。
「なぜネオラントの物がここにある……!!」
何事かを呟くとキッ、と突然子どもの方を睨みつける。
「小娘!答えろ!これをどこで手に入れた!?」
手に持った物を忌々しげに見つめながらに無精髭の男は突きつけるようにして恫喝を浴びせ掛かる。
「ひっ!」
「答えろと言っているのが分からんのか!?」
大の大人複数人に取り押さえられたまま詰め寄り問い詰められるというのはまだ幼い子どもにとっては恐怖でしかない。
恐怖で震え、涙を流す子どもに尚も問い詰め、耐えかねた子どもは震えながらに口を動かす。
「パ…パパから……おみやげって…………」
それを聞いた無精髭の男は。
「……………っっ!!なんということだ!!」
と、突如芝居掛かったかのように天を仰ぎだす。
そして騒ぎを聞きつけて集まってきた民衆の方に向けて声高々に告げる。
「見ろ!これがネオラントのやり方だ!奴らは“かがく”という我らとは異なる技術を用いて密かに我らの生活を脅かそうとしていたのだ!友好的な態度の裏ではいつミストレアの寝首を掻こうかと虎視眈々と狙っていたのだ!その証拠としてこんな無垢な少女の手にも渡るネオラントのペンダントには盗聴器が仕掛けられていた!!」
「っ!!?」
「なっ!!?」
無精髭の男の言葉に周囲を含めリアンたちにも走る。
男が掲げるネオラント製のペンダントはネオラントではよく見かける品であり、色彩豊かでミストレアでは難しい精細な装飾も施されていることからミストレアへの土産としても人気の高い品々のひとつだ。
だが、子どもの手に収まるのが精々な小さいペンダントに盗聴器が仕掛けられているかどうかは遠目であることも含めて短髪団長たちでも分からなかった。
確かに何度かネオラントでの活動をする際にリアンもリュインも“盗聴器”という単語を耳にしたことはある。
その際一度マキアにどうすれば盗聴器を見つけられるのかとリアンは聞いたことがある。
青髪制服が言うには「難しい」と。
『ネオラントの科学技術は日々成長と進化を繰り返してるからね…昨日あった技術が今日には過去のものとされているのもざらだわ。あたしが保安省に勤めていた時も盗聴器の種類なんて数百とあったわよ。中でも対象の食べ物の中に忍ばせて体内から盗聴するなんて奇抜な手段を取るものもあるくらいだし……それでも見つけるには発見器で怪しい電波を探るしかないわけだけど……肉眼での盗聴器発見はプロでも見つけられないわ。……………え?体内に入った盗聴器はその後どうなるのかって?…そんなことあたしに聞かないでよ!!バカッ!』
そういうこともあり、仮に今ここに盗聴器に詳しい者がいても見ただけでは発見には至れない。
そうなるとあとは発見器で見つけるしかないのだが男の手にはペンダント以外にそれらしき物があることは確認出来ない。
そして無精髭の男はミストレア人。
科学に精通するネオラント人でもひと目見ただけでは分からない盗聴器の存在をミストレアの者が分かる道理があるのだろうか。
そこから導き出される答えはひとつ。
「酷い言いがかりだ……」
短髪団長は今にも駆け出したい気持ちを歯噛みして押し殺しながらペンダントを掲げる無精髭の男を見据える。
おそらく純白ワンピースがここにいれば無精髭の男は真っ黒なオーラを出しているのが見えていたのだろう。
そう、男が言うことは全て詭弁であり、今握られているペンダントには盗聴器など仕掛けられていない。
そもそも不特定多数に配る盗聴器など数が多いだけで何の効力もない。ただ手間なだけである。
だが、男にとっては仕掛けられていようとなかろうと関係はなかった。なぜならば。
「なんて汚い奴らだ!」
「最初から私たちを騙していたのね!」
「ネオラントは敵だ!」
「許せない!」
「ネオラントの侵略を許すな!」
次第に集まってきた民衆たちからネオラント排斥の声が高まっていく。
「な、なにこれ…?」
その様子に動揺する短髪団長たちを余所に声は徐々に増え、感化され、同調圧力に負けた者も出始め、やがて一体感が生まれる。
これこそが男の狙いであった。
ネオラントの科学については疎いミストレアのバウム王国民にとって、無精髭の主張が虚偽であるかどうかの判断はつかない。
さらにはネオラントへの疑心も募っている今ではありもしない事実を風評されてもミストレアの者はそれを容易に信じてしまう。自然ネオラントへの疑惑は強まりネオラント排斥に対して懐疑的であった者たちもその意識を半ば無理矢理変えさせられ、デモの一員に組み込まれていく。
実に効率的で狡猾的なやり方。
「返して……返してよぉ……」
涙ぐみながら訴える子どもの悲痛な叫びも、活気付いた民衆たちの声にかき消されていくのだった。
その場のほぼ全員が同調し声を揃えて掲げる様を見て無精髭の男は満足そうに眺めるとさらに拍車を掛けようと畳みかけていく。
「聞こえているかネオラント!我らは決してお前たちに屈したりはしない!誉れ高き伝統を持つミストレア人を甘く見るなよ!ネオラントぉ!!」
そんな誰も聞いていない宣戦を声高々に掲げ、そして持っているペンダントを地面に叩きつけ──。
「やめてぇっ!!」
子どもが手を伸ばすも──。
「リュイン!発光だ!!」
「分かった!」
ひとつの声と共に放たれたのは閃光と見紛うほどに眩ゆい燈光。
「!?」
突如出現した光にその場にいた民衆たちの視界は一時白へと染められる。
それは無精髭の男も同様で腕で光を遮っていると──。
バシッ!
いきなり何かに手を弾かれた感覚。
そこで男は持っていたペンダントが手元から消えたことに気づくも光が眩しくてそれがどこにあるのかが分からない。
次第に光は弱まり、民衆たちの視界が開けていくと、その中心に立つように目深に外套を被る人物──リアンがそこにいた。
その手にはペンダントを握りしめて。
「おま…」
「あたしのペンダント!」
光の影響で拘束が解けていた子どもは我先にとフード団長の元へ駆け込む。
リアンは子どもの目線になるように膝をついてしゃがむと、その手に取り返したペンダントを握り込ませた。
「大事にするんだよ」
「……うん!」
ペンダントが戻りパァッ、と明るい笑顔になる子ども。
それを見てフードの奥で微笑みを浮かべ、頭を撫でる。
「お前は誰だ!?」
そこに無精髭の男の怒号が飛んでくる。
見ると息を荒くして血相を変えた様子でリアンを睨みつけており、演説の邪魔をされたのを相当にお怒りの様子であった。
「言えっ!お前は何者だ!?なぜ邪魔をした!?」
「虹の…」
と、言いかけたところでフード団長は慌てて口を閉じる。
現在ミストレアとネオラントの関係に亀裂が生じ始めたところにその中立とも言える虹の調査団の者が、しかもミストレア人の団長である自分がここでそれを明らかにすれば現場の混乱は避けられないどころか最悪、両世界の関係を悪化させかねない。
ドレスの騎士との約束もあるため(もうほとんど破っているが)自ら公言することは出来ず、どう答えたものかと決めあぐねていると。
「まさか……ネオラントの!?」
「え?」
その時どこからか疑惑の声が飛ぶ。
「そうだ…ネオラントの物を守るなんてネオラント人以外考えられない!」
「敵よ!やっぱり敵なのよ!」
「ネオラントの侵攻だー!」
「ネオラントの侵攻を許すなー!!」
疑惑は確信に変わり、確信は怒りへと変貌する。
思わぬ形での敵意を向けられたことに戸惑いを覚えつつもこの状況をどのように切り抜けるか思案するフード団長。
正体を明かせない以上逃げるの一択しかない。しかし、リアンが立つ場所は民衆たちが立ち並ぶ輪の中心地で囲まれた状態。逃げるにしても容易ではないだろう。
そうなると戦闘は避けられなくなるわけだがそもそも同じミストレア人同士で争うなど論外だ。無益な戦いはそれこそ状況を泥沼化させる。
こうしている今も選択の時は差し迫っている。
その内騒ぎを聞きつけて王国守護騎士団もここに駆けつけてくるだろう。そうなればいよいよ追い詰められたことになる。
今自分の判断が後のミストレアとネオラントの関係に影響を与えるものになると意識すると忽ち動きが鈍くなる。
あらゆる葛藤が渦巻く中で、ふとリアンの手にあたたかいものが触れる。
「…………………」
見るとペンダントを握った子どもが震えながらに手を掴んでいた。
過去にミストレアとネオラントは互いを受け入れられずに争ってきた。
和平を結び、平和が訪れた今でもそのわだかまりが消えずに残っている。
だが、リュインは言っていた。
「私たちの活動でネオラントの人たちも少しずつだけどミストレアに理解を示してくれる人が増えてきてるんだって!凄いよね!?私たちがふたつの世界の架け橋になってるんだよ!!」
わだかまりは消えない。
過去の遺恨はこれからも残り続けるだろう。
互いが真の意味で理解し合うなど簡単なことではないだろう。
それでも、歩み寄る歩幅は少しずつではあるが大きくなっている。
それがどんなに小さくか細い光でも、その輝きを失ってはいけない。
失わせない。
リアンの覚悟は決まった。
「リュイン!もう一度発光を──」
時間は掛かるかもしれない。
かなりの遠回りとなってしまうのかもしれない。
それでも。
それでもミストレアとネオラント。
ふたつの世界が共に歩み寄れる世の中になれる光が灯り続ける限りは──。
「静まれ!!」
張り上げるような美声がその場に轟く。
しゃらん、と錫杖にも似た杖を鳴らし、威風堂々の立ち居振る舞いで歩み寄る、バウム王国とは違った民族の装いの人物。
その美貌に魅せられた者は先程までの憤りが嘘のように惚けた様子で見惚れていた。
その口からまたも美声が発せられる。
「憶測だけで物事を判断するは己が無知であると周りに吹聴すると同義であるぞ!ぬしらは自らを愚か者と断ずるのか!?」
その一声だけであれほどの気勢が忽ち引いていくのを直に感じるリアンたち。
無精髭の男も同様で、首を横に振ると慌てた様子で反論する。
「だ、だがその者がネオラントの者でないかどうかの確証などない!違うと言うのならばそのフードを取って顔を見せてもらおうか…」
「愚か者めが!!」
パシンッ、と張り上げた美声により平手を受けたかのような衝撃が男に飛ぶ。
「この者は妾の客人!故あって人前にその顔を晒せぬ事情がある!そんな事も分からぬのか!?」
「い、いやそんなこと言われても……」
有無を言わさぬ勢いで身勝手な主張を叩きつけられる無精髭の男。
言ってることは支離滅裂であるにも関わらず、その美貌を前にして何も言い返せないでいる。
庇ってもらっているリアンであるが少しだけ男に対して気の毒に思うのであった。
「よいか!よく聞け民衆よ!」
やがて完全に萎縮してしまった男を視界から外し、今度はその端正な顔立ちを大衆に向ける。
「今後、妾の客人にあらぬ誤解から無礼を働く不届き者が現れればその時はこのカーマラ第三王女である妾を敵に回すものと心得よ!!妾の客人を侮辱はカーマラの侮辱と同義であると!今日は妾の美貌に免じて見逃してやろう!分かった者から早々に立ち去るがよい!!」
張り詰めた美声は瞬く間に観衆たちの耳に届き、やがてひとり、またひとりとその場から去っていく。
ついには無精髭の男たちもその場から去り、残ったのはリアンたちだけとなった。
「す、すごい……あれだけの人たちを言葉だけで……」
一部始終を見ていた赤ポニテは感嘆の音を漏らしていた。
それはフード団長も同じで。
「あ、ありがとう……パ」
「会いたかったぞぅ♪主様♪」
むぎゅっ。
突如リアンの視界は柔らかいもので覆い尽くされた。
「ふごぉっ!?」
「えぇっ!?」
突然の出来事に短髪団長と赤ポニテも面食らう。
「まったく、相変わらず無茶をするな主様は。まぁ、そこが主様の良いところであり愛いところでもあるがな♪もっと近くに寄るがよい♪」
それ以上近づくことなど出来ないのに尚もリアンの顔に自身の柔らかいものを押し付けていく。
その無邪気さの行動からは先程の威厳ある立ち居振る舞いを想像することは出来ない。
むぎゅーっ、とさらに顔全体を覆うように柔らかいものを押し付け、短髪団長に幸せの苦しみを与えていく。
「ちょ、ちょっと!!そろそろリアンを離してください!」
本格的にレッドゾーンに突入しかけたところを契機に慌てて救出に入る赤ポニテ。
だったが。
「なんだ?おぬしもしてほしいのか?よいぞよいぞ♪おぬしらならば妾はいつだってウェルカムよ♪」
「え?いや、私はむぐぅっ!?」
そのままリュインも洗礼を受けることとなるのであった。
赤ポニテが身代わりになることで生還を果たした短髪団長は息を整えてその人物に向き直る。
「こ、こっちも会いたかったよ………パトラ」
「ん?そうかそうか♪」
ミストレアとネオラントの未来に暗雲が立ち込める中、そこに輝くひとつのか細い輝きに引き寄せられるようにして現れた美の化身。
まだ混乱が続くバウム王国の空の下で、絢爛豪華の輝きを持つ我が儘な王女様は無邪気に美笑を浮かべるのであった。
「むごーーーーっ!?」
「次は私たちもお願いします」
「ぐもぐも♪」
「よいぞよいぞ♪」