UNITIA 神託の使徒×終焉の女神 -BEYOND THAT-   作:トブト

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〜Symptom〜 揺れる水面 その2

ユニティア 《カーマラ編》25

 

 

 

32

 

 

引き続き、謁見の間にて。

 

ふたりの四賢人が退室し、その場に誠実の騎士、御簾の向こうで女王のみが残る。

 

「ふぅ…」

 

先程の張り詰めていた緊張をほぐすようにため息をつくアセリア。

すると御簾の向こうからくすくすと上品な笑い声が。

 

「ふふっ、あなたがあんなに取り乱すなんて久しぶりね?アセリア」

 

どこか子どものような純朴さを感じさせる声を聞いて誠実な騎士もハッとしたように肩を震わせる。

 

「……これは失礼しました。女王陛下」

 

さすがは王国を守護する騎士団長とも言えるのかその一声を聞いただけですぐさまいつもの毅然とした態度の戻り、先程の緩んだ姿勢など見せない。

それこそ王国を守護する者としては正しい姿であるもこの国ではただひとり、その姿勢に不服を申す者がいた。

 

「もう、アセリアったら。ふたりきりの時くらいは昔みたいに『リーゼ』って呼んでくれてもいいのよ?」

「……………………いえ、そういう訳にも」

「相変わらず頑固なところは変わらないのね」

 

くすくす、と再び御簾の向こうから上品な笑い声が響く。

 

 

民や貴族、果ては四賢人さえも崇拝と畏敬の対象とするキルシュバウム王国の実質頂点に君臨する人物。

 

クローネリーゼ女王。

 

正真正銘王家の血を引いており、王国の方針を決める最高決定権を有する。

そのため如何に国の代表たちである四賢人であっても彼女の鶴の一声で全ては覆る。

王国の行く末は彼女ひとりの言葉で決まるのだ──。

アセリアとは幼い頃からの友人関係を築いており、今のように互いがまだ要職に就く前はふたりで遊ぶ仲でもあった。

 

今や互いに国の重鎮とも言える立場で迂闊な行動も控えなくてはならなくなったふたりであるのだが時折、特に女王はアセリアとふたりきりになると隙を見ては昔のような関係の振る舞いをしてみせる。

それが誠実な騎士の頭を悩ませる悩みのタネでもあるのだが。

 

はぁっ、と未来を憂うかのようなため息をつく。

 

「あら、随分とお疲れの様ですね。なんでしたらあなたも休んできていいのよ?アセリア」

 

その原因を生み出している張本人であるという自覚がないことに更に頭を痛めそうになるもアセリア自身はその様な態度をお首にも出さずに話題を変える様に話す。

 

「…………女王陛下はどのようにお考えですか?」

「考え、というと?」

 

御簾の向こうから漂う気配が変わる。

 

「アルドルフ宰相の新たな政策……武器製造の継続と徴兵化です」

 

先程の議論を思い出してか誠実な騎士の拳が強く握られる。

 

「あのような政策……私にはとても承服致しかねます……」

「…………………………」

 

そこでふたりはしばらく無言になる。

女王は女王としての答えを模索しており、またアセリアもその返答を待つ。

やがて御簾の向こうから声が聞こえてくる。

 

「宰相が言うことは尤もであると考えます」

「なっ!?」

 

さすがのアセリアもその返答は予想外だったのか思わず声を上げてしまう。

 

「昨今の情勢よりネオラントからの侵攻が来る…………というのは考えにくいものですがしかし同時に情報局という脅威がミストレアにも及んでいることは事実。これは二世界間でも抱えるべき問題として事に及ぶ必要もありますがまずは地盤を固める意味合いでも民たちへの自衛の手段を与えるという意味合いでも宰相の案には賛同致します」

「お、お待ちください!女王陛下!」

 

堪らず女王の言葉を遮るようにアセリアは待ったをかける。

 

「お言葉ですがいくら自衛を目的としても既に国民への負担は限界を超えているのです!そこに更に負担を強いるような政策を行えば不満が増すばかりです!民たちを守るためという事でしたら我々王国守護騎士団と王国魔法師団が……」

「脅威は情報局だけとは限らないのですよ?アセリア」

「………………………っっ!!」

 

女王の言葉に誠実な騎士は言葉に詰まってしまう。

 

「依然、虹災の脅威は残っており、未だにこの問題も解決への糸口は見つからず起きてから事に当たると後手に回る形…その被害は近年では増えていると聞きます。さらにはこの情勢に乗じて我が国へと攻め入ろうとする同盟外国の存在も聞いております。これらを並行して対処は可能ですか?」

「そ、それは…………」

 

それ以上の言葉が出ないのか誠実な騎士は俯いてしまう。

現状、王国守護騎士団と魔法師団のほとんどは暴動の鎮圧とダストの討伐に駆り出されている。

そこに今後は貴族に対しての規制まで取り締まろうとすると人員のほぼ全てがそこにあてられることとなる。

そうなればもしそこにキルシュバウム王国に攻め入る国が出れば手薄な状態となった体制ではひとたまりもないだろう。

 

「さらには報告には人型のダストの存在も確認されたそうですね?知性も備わっていると。もしそうならば今までは無秩序な虹災も統一性が生まれ、今後はより苦戦を強いられることも多くなるでしょう」

「…………………」

 

アセリアはかつて対峙した人型のダスト、クリムを想起する。

明らかに人とはかけ離れた造形に向けられる悪意。

あれがもしも軍単位で攻め入ろうものならそれこそひとたまりもない。

 

「王国守護騎士団と魔法師団の実力は疑いようもありません。しかしその守れる範囲も限りがあるのも避けようのない事実でしょう。その穴を埋めるためにも宰相はそこまで考えての発言であったと私は思います」

「……ですが」

「無論、民たちへの強制労働や過酷な環境下での訓練は私も承服致しかねます。あくまで人道的な範囲のものに留まり施行する必要性が出てくることでしょう。その点の課題は次の四賢人会議にて議論致しましょう」

 

御簾の向こうから優美な微笑みを覗かせる。

それを見てアセリアもまた忠誠の儀を行うことで返事をする。

 

「分かっているわよ。アセリア。私のことを気にかけてくれているのでしょう?この政策を私から国民へ声明を出せば国民の不満が私に集中すると……」

「そ、それは…」

 

目をそらす行動にくすりと笑う。

 

「昔から嘘は得意ではなかったわね。大丈夫よ。どんなことがあってもアセリアが私を守ってくれるのでしょう?」

「………………!」

 

その御簾の向こうではどのような表情を浮かべているのかは誠実な騎士の方からは分からない。

だが、そこには幼き頃から心を通じ合わせたふたりだけが知る繋がり──確信に近いものを感じ取っていた。

 

「………ハッ。このアセリア。命を賭して女王陛下をお守りすると誓います」

 

それは女王と騎士の間にある忠義ではなく。

ふたりのみが知る幼き頃からの誓いで──。

 

 

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