UNITIA 神託の使徒×終焉の女神 -BEYOND THAT-   作:トブト

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〜Symptom〜 揺れる水面 その3

 

 

 

 

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別室にて。

 

「アルドルフさん」

 

紫髪の紳士な宰相に声を掛ける緑の軍師。

 

「おやこれはカロル殿。いかがいたしましたかな?」

 

声を掛けられた宰相もいつもの飄々とした態度にどこか余裕ある笑みを浮かべ──。

 

「……先ほどの立案は少々早計が過ぎるかと」

 

しかし、常に変わり続ける戦場の下で培われた人心を読むかの如き慧眼の持ち主である緑の軍師の前ではそれが虚勢のものであることなどひと目見ただけで看破してしまうのであった。

 

「……やはりカロル殿には敵いませんな」

 

ここで己の虚勢を張り続けても無意味であると悟った紳士な宰相はため息をつくとやや疲れたような表情を浮かべながら設えられている椅子に腰掛ける。

 

「……確かに先ほどの施策案に関しては我ながら性急が過ぎた。そこは認めよう。だが…」

 

と、そこで言葉に詰まる。

それを百戦錬磨の軍師が見逃すはずもなく。

 

「一体何をそんなに急いでいるのです?」

 

その指摘によりいつもは泰然自若とする姿勢を貫くアルドルフの表情に動揺が走ったことをカロルは見抜いた。

 

「……カロル殿の目には私はそんなに余裕が無いように見えますかな?」

 

自嘲気味に笑みを浮かべる紳士な宰相。

 

「誰が見ても今の貴方から余裕などあるように見えないのは明らかでしょうね」

 

緑の軍師の指摘にはアルドルフも力無く笑うだけで特に言い返すようなことはしなかった。

 

「…貴方もここ最近は町民たちが起こす諍いへの弾圧に追われるばかりで碌に休められてはいないのでは?民たちへの過重労働を課すために自分が率先してその見本となるべく実行に移しているのでしたらさぞ立派な試みではあると思われますがそれで貴方が倒れられてはそれこそ立つ瀬がないというものでしょう。アセリアさんの反対を押し切ってまで徴兵制度を通したいのであればまずは自身のことを省みては?」

「…………………返す言葉もありませんな」

 

まるで出来の悪い子どもを教え諭すかのような物言いにさしもの宰相も精いっぱいの空元気を見せることだけが唯一彼の自尊心を保つための抵抗であった。

そのまま視線を窓の方、バウム王国の空へと向ける。

そこではミストレアの純粋なマナを含有した空気が鳥を運び、そのまま緑豊かな森の木々へと降り立っていく。

そこでは生命の循環を巡らすためにミストレアの厳しくも美しい自然の営みが繰り広げられている。

風光明媚なその光景はまさに調律の取れた自然が生み出した芸術作品そのものとも言え──。

 

そのすぐ側の町ではそれをいつ脅かしてもおかしくない喧騒が飛び交う光景が。

今は個々人小規模な集団であるために対処はできているがいずれその波が大きく波打つことになれば調律の取れたミストレアの自然もたちまち飲み込まれていくだろう。

壊すのは簡単でも元に戻すのは一筋縄にはいかない。

全てが手遅れとなるために──誰かが動き出さなくてはならないのだ。

 

そう、誰かが。

 

「……それでも私は守ってみせるさ……国を……バウムの民たちを……」

 

まるで正反対なその動機に駆り出されるかのように己の信念を完遂せんとする気迫を放ち始めるアルドルフ。

それは正義によるものなのか、はたまたは──。

 

「そうそう」

 

と。

 

そんな彼の覚悟に水を差すような形で緑の軍師は声を掛ける。

 

「先程、私の密偵の者から聞いたのですがどうやら現在、城下町の方に彼ら一行が訪れたみたいで」

 

その言葉にピクッ、と反応するアルドルフ。

 

「ですがこのまますぐにバウム王国を離れるようですね。せっかくですしひと目会っておきたかったものですが今はこのご時世ですからね。それに彼らは今この国にとっても極めて微妙な立ち位置にいますから。ここはすぐにこの国を出てもらうのが彼らの安全のためにもなりますかね」

 

カロルの言葉を受けて紳士な宰相は。

 

「…………そう、ですな」

 

その視線は窓の外へと向けられたまま。

 

「巻き込まれなくて本当によかった」

 

独りごちる。

その表情に、いつもの笑みはなく──。

 

 

 


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