【悲報】無惨さま、禰豆子の鬼化に失敗して殺っちまった模様。   作:ζ+

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第二話

「ここは……?」

 

「そうだ、俺は鬼に捕まって──!」

 

 俺は思わずベッドから飛び上がってしまったが、どうやらそこには誰かがいたようだ。

 その人と、俺の頭がぶつかってしまう。

 

「!? ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

 

 そこには、蝶のような髪飾りをした、サイドテールの女の子がいた。

 しかし、特に気にした様子はなく、そのまま椅子から立ち上がり、部屋に一つしかない扉の方へ歩いて行った。

 

「あっ……行ってしまった」

 

 ここはどこなのだろうと思案していると、少女が去っていった扉が再び開いた。

 さっきの子だろうか。

 お礼と、謝罪のために口を開くが──

 

「あ、あの──っ!?」

 

 違う女の人だ。

 だが、頭の後ろでさっきの女の子がつけていた髪飾りに似たものをつけている。

 

「うん……? 目が覚めたようですね」

 

「あ……はい」

 

 すると、その女性は少し思案する間を置いた。

 

「あぁ、私と入れ違いになった女の子は”嗣子(つぐこ)”のカナヲといいます。坊やが目覚めるまで看病をしてもらっていました。恥ずかしがり屋さんなので、なにか粗相をしてしまっていても許してあげてくださいね」

 

「はい! でも、粗相とかではなくで、俺が急に起き上がったのでぶつかってしまったんです。謝りたくて……」

 

 あの子は、”つぐこのかなを”……というのか。

 

「あら、まぁ。その辺は後で本人に言ってあげてください。それにしても、急に起き上がったりしたら、傷が痛みませんか? 一応、私が色々処置はしておきましたが……なにせあんなにひどい有様でしたし」

 

「え──っ!? あ゛ッ!?」

 

 意識した途端この世のものとは思えない、身体の中から何万本もの針が埋まっているかのような激痛が走った。

 

「どうやら自分の身体がどれ程損傷してるか気付いてなかったみたいですね」

 

「ガハッ──うう、くぅ」

 

「落ち着いて。呼吸(・・)を整えてください」

 

「う……はぁ、はぁ……すぅ──」

 

 呼吸を。そうだ、呼吸を整えろッ! 

 あの時(・・・)のように。

 

「ふぅ……」

 

「落ち着きましたか。どれ程の傷かと言うと意識してしまうので言いませんが、まぁざっくり言えば死にかけ(・・・・)です。包帯も取らないようにしてください。特殊な薬品を染み込ませてありますので」

 

 痛みは引かないが、だいぶマシにはなった気がする。

 そして特殊な薬品……なるほど、ツンとした草の匂いがするわけだ。

 話しぶりからして、この女性のおかげで俺は生きているらしい。

 

「私も鱗滝さんが急に担ぎ込んできた時はおどろきましたよ。ぐったりとした様子は、死人でも担いできたのかと思ったほどです」

 

 入ってきた時からずっとにこやかな表情なのだったのだが、そんなに言われるほど酷かったのか……

 

「ええ、坊やが思っている以上に重症です。目が覚めたと言っても、安静にしていてくださいね」

 

「はい……」

 

「おっと。自己紹介がまだでしたね。私は胡蝶(こちょう)しのぶ。この屋敷の持ち主で、専門は薬学ですね」

 

「ご丁寧にありがとうございます。俺は竈門炭治郎(かまどたんじろう)といいます。助けていただいてありがとうございました」

 

「いえいえ、そう畏まらなくていいですよ。感謝なら、竈門君を運び込み、この刀を拾ってきてくれた鱗滝さんに言ってください」

 

「はい……って!? その刀は!?」

 

「はい。現場で殺された方の埋葬ついでに拾ってきてくれたそうです。竈門君をここまで担ぐのには邪魔だったようで、一度放置してしまったそうですね。謝られていましたよ」

 

「そんな。むしろ俺が助けられ、感謝する立場なのに……ありがとうございます」

 

 そうか、鱗滝さん。

 俺の代わりにあの人たちを埋葬してくれたのか。

 

「お返ししますね。ですがこれ──私の勘違いでなければ、"ただの刀"ですよね」

 

「……? はい、ただの刀です」

 

「えっと、竈門君は鬼と戦って重症になったと聞いていたんですが……まさかこれで?」

 

「はい、鬼と戦って──」

 

「──俺は、殺すことができませんでした」

 

「いえいえ、そんな落ち込まないでください! これで殺せたら、それこそわけがわかりませんから!」

 

 そう、俺は殺す手段を持っていなかった。

 技術も、体力もなく、ただ覚悟のみで挑んでしまった。

 世の中は心だけでなんとかなるほど甘くはないと痛感する。

 もっと、俺に力を。

 心技体、全てを備えなくては。

 

「これに関しては鬼殺隊としての問題でしょう。まだ隊員でもない坊やを危険にさらしてしまった。ごめんなさい竈門君。”柱”が説明不足で色変わりの刀、”日輪刀”のことを教えなかったなんて、許されないことです。本当に、生きていてくれて良かった」

 

「しのぶさん、頭を上げてください!」

 

 知らなかったとはいえ、挑んだのは俺の意思であり、責任だ。

 しのぶさんにも、もちろん義勇さんにも謝られることなど何もない。

 

「冨岡さんには、後で謝罪しに来させます。たっぷり文句を言ってあげてください」

 

「え、でも”柱”を呼びつけるなんて……」

 

 ”柱”とは、鬼殺隊の中でもっとも位の高い9名の剣士である。

 

「ふふ、心配してくれてありがとうございます。私はこれでも”蟲柱”なので問題はありませんよ」

 

「むしばしら……柱!?」

 

「あっ、その顔。信じてませんね……?」

 

 とてもしのぶさんがそうには見えない。

 どちらかというと、”(カクレ)”とよばれる非戦闘部隊の所属なのではないだろうか。

 

「私は柱の中で唯一鬼の(くび)が斬れない剣士ですが、鬼を殺せる毒を作った、ちょっとすごい人なんですよ?」

 

 その後、しのぶさんは俺の包帯をてきぱきと変え食事を持ってきてくれた。

 2日ほど寝込んでいたようで、とても腹が減っていた。

 食事は、いきなり内臓がビックリしないようにお粥だ。

 とても食欲の誘ういい香りがする。

 俺はひったくるようにして器を受け取り、無心で貪った。

 ちょっと苦いけど、うまかった。

 なんでも、身体の自然治癒力を高める薬草をすりつぶして混ぜてあるそうだ。

 

 食事が終わり、窓から空を見れば影が短い。

 時刻は正午といったところだろうか。

 

 相変わらず全身が痛むし、腹部は──考えたくもない。

 はやく鬼を殺しに行きたいが、今は体を休めるしかないだろう。

 

「賢明な判断です。今竈門君にできるのは、食べて寝る。ただ、それだけですよ」

 

「はい……」

 

 それでも、俺は一刻も早く家族の仇を打ちたい。

 燻る激情を抑え、俺は瞼を閉じた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ここに来て、かれこれもう一週間。

 俺は歩けるまでには回復していた。

 だが、激しい運動は禁止。

 本当はしのぶさんは、俺がこうして持っていた刀を杖にしてまで動くことを良しとしていなかった。

 そもそも、傷の具合からして今歩けるのが不思議らしい。

 俺としては、はやく動けるようになりたいし、まだ足りないところだ。

 

 そうして久々の太陽の元、ふらふらと覚束ない足取りで庭を徘徊していると、一人の少女が縁側に腰かけているのが見えた。

 

 とても見覚えがある少女だ。

 

「つぐこのかなを……だよね? 看病してくれてありがとう! 俺が目が覚めた時頭ぶつけちゃったけど、大丈夫だった?」

 

 初めて戦った鬼にも石頭と言われたし、少し心配していた。

 不思議とこの広い屋敷の中、彼女とは初めて目を覚まして以来会っていなかった。

 まぁ、俺が病室から動いていないっていうのもあるのだが。

 

「違う」

 

「え? ご、ごめん!」

 

 な、名前を間違えてしまった。

 どうやら記憶違いをしていたらしい。

 特徴的な名前だったから、むしろ印象的だったのだが……

 

「”嗣子”は柱が育てる隊士」

 

 そういうことか。

 ”つぐこ”は特有の名詞。

 柱が育てるってことは、しのぶさんが師範なのだろう。

 

「なるほど。ごめん、じゃぁカナヲか。俺は竈門炭治郎っていうんだ。よろしく」

 

「……」

 

 あれ? 

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が辛い。

 

「!?」

 

「……」

 

 カナヲはどこからともなくすっとコインを取り出す。俺はそれが何か気になって少し目を凝らしてみたが、”表”という文字が書かれているだけのようだ。

 するとそのままピンと親指で弾き上げ、自由落下するそれを手の甲にパンッと打ち付けた。

 カナヲの瞳が、そっと開いた手の隙間に落とされる。

 

「師範の指示に従っただけなので、お礼を言われる筋合いは無いから。さようなら」

 

 喋ってくれた! 

 

「えっと、今投げたのは何……?」

 

「さようなら」

 

 あからさまに無視された!? 

 

「それ……何?」

 

「さようなら」

 

 重ねての拒絶。

 だが、そうまで隠されると逆に気になてしまう。

 

「表と裏って書いてあるね。なんで投げたの?」

 

「……」

 

「あんなに回るんだね」

 

「…………」

 

「あっ……行ってしまった」

 

 こうして、俺とカナヲの最初の邂逅は失敗に終わってしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 さらに数日。

 

「さて、現状の鬼と鬼殺隊については以上です。何か質問はありますか?」

 

 もう俺の体は全快といっていいくらいだろう。

 傷痕は残っているが、もうどんなに動いても痛みはない。

 しかし、どうやらしのぶさんは本当に申し訳なく思っているようで、こうして暇を見つけて、直々に座学という形で指導をしてもらっていた。

 

「ありがとうございます。つまりこれから俺は、"育手(そだて)"の鱗滝さんの元で修行し、"最終選別"に合格すれば、鬼殺隊の一員になれると」

 

 "育手"は、文字通り剣士を育てる。

 それは山程いて、それぞれの場所、それぞれのやり方で剣士を育てている。

 

 そして最終選別を終えれば、専用の鬼殺しの刀"日輪刀"を支給してもらえる。

 これが重要なところだろう。

 前回は殺す手段が足りなかった。

 いくら気合いと根性で鬼と張り合えても、止めを差せねば鬼殺しは完遂できない。

 

 俺の目的──悪鬼滅殺のためにも、これらは必須のものであった。

 

「そうですね。炭治郎君は理解が早くて教え甲斐があります」

 

「しのぶさんの教え方が上手ですから」

 

「あらあら、お世辞もお上手ですね」

 

 お世辞ではなく、本心なのだが。

 しのぶさんは薬学が専門なだけあって、論理的な説明がうまい。

 どういう成り立ちで鬼と人の戦いが生まれたのか、体系的に順序立てて教えてくれた。

 俺は、妹にも人に教えるというのが下手だと言われていたから見習いたいものだ。

 

「炭治郎君の身の上話は聞きましたし、悪鬼滅殺を願う気持ちも分かります。冨岡さんが"育手"を紹介したのも納得です」

 

 そして俺は、一通り義勇さんにも話したことを伝えていた。

 身の上話というのは大げさだが、

 とにかく家族の仇を打ちたいから鬼殺隊に入りたいということだ。

 

「……やはり、鬼と人は仲良く出来ませんよね」

 

 しかし、そう言うしのぶさんの顔には影が差している。

 どうしたというのだろうか。

 

「しのぶさん……?」

 

「いえ、なんでもありません。気にしないでください。そういえば、もう明日出発するというのに、結局富岡さんは来ませんでしたね。先日手紙が届いていたと思いますが、何か言ってましたか?」

 

「えーと、それが『標的は"鬼舞辻(きぶつじ)"だったが、急遽"女の鬼"を追うことになった』、『見舞いに行けず、すまない』の2言だけで……」

 

「うーん、冨岡さんの言葉足らずは相変わらずですね」

 

 いつもどおりしのぶさんは笑顔だが、その笑顔が怖い。

 家族の埋葬や、話を聞いてもらったりお世話になったが、あの義勇さんが見舞いとか、いや、そもそも手紙とか書く人のようには思えない。

 謝罪させにこさせるって言っていたし、どういう風に伝えているのだろうか。

 

「鬼舞辻は鬼を増やす原始の鬼──すなわち俺の最終目標だということは、しのぶさんの説明で分かりました。ですが、鬼殺隊にとっても重要なそれを置いて追っている"女の鬼"とは、一体……?」

 

「知りません」

 

「え?」

 

「いえ、本当に知らないんですよ。”柱”である私のところにすら情報が来ていない。ひょっとしたら、その”女の鬼”というのは鬼舞辻につながる手がかりの様なもので、お屋形様が内密に冨岡さんへお願いしているのかもしれません」

 

 お屋形様──鬼殺隊当主のことだろう。

 全ての情報は彼のもとに集まり、そこから柱、一般隊員へと標的の情報が与えられるそうだ。

 なんでも戦闘向きの人ではなくて、”鬼殺しの初代”のパトロンとして名をあげ、代々”呼吸の使い手”の手伝いをしているそうだ。

 しかし、その関係は一方的なものではない。

 対等だ。

 鬼殺隊は、鬼殺しも、この当主もお互いに信頼し、助け合っているからこそ何百年もの間、誰か(・・)の明日を守るために戦い続けて来れたのだと。

 

()柱で育手の鱗滝さんなら、冨岡さんの師匠ですし何か知っているかもしれませんね」

 

「なるほど、聞いてみることにします」

 

「熱心なのはいいことです。ついでに薬学も勉強していきますか? 徹夜で頑張れば基礎はできるかもしれませんよ」

 

「ははは、またの機会にお願いします」

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日。

 ついに、この”蝶屋敷”を去る時が来た。

 身体は回復し、傷痕は残っているが問題なく動く。

 

「いた! おーい、カナヲ!」

 

「?」

 

「ありがとう。俺はもう出発するから、挨拶がしておきたくて」

 

「”嗣子”については改めて聞いたよ。すごいなカナヲは。俺と同じくらいの年なのに、実力が認められてここにいるって。尊敬するよ。だから──」

 

「俺も必ずその域に辿り着く。これから鱗滝さんのところで修行して、”最終戦別”を越えて鬼殺しになる」

 

「俺も頑張るから、また会おう」

 

 すると、カナヲは初めて話をした時のように、コインを取り出した。

 結局、このコインはどういうものなのだろう。

 そして、またコインが宙を舞い、カナヲの手にパシンッと叩きつけられる。

 

「……どうでもいいの」

 

「指示されてないことは、これを投げて決める。今、あなたと話すか話さないか決めた」

 

「”話さない”が表、”話す”が裏だった。裏が出たから話した。あの時も」

 

「……そっか。教えてくれてありがとう」

 

「さよなら」

 

「……ねぇ、カナヲ。どうして自分で決めないの?」

 

「……」

 

「カナヲは、どうしたかった?」

 

「……全部どうでもいいから、自分で決められないの」

 

「この世にどうでもいいことなんてないと思うよ」

 

 カナヲからはどこか悲しい匂いがした。

 

「カナヲは心の声が小さいんだろうな。うーん、指示に従うのも大切なことだけど」

 

「”人間は可能性の塊だ”。俺も禰豆子(ねずこ)も、家族は皆そういう風に育てられてきた。だから──ちょっとそのコイン貸してくれる?」

 

 放っておけない。

 本音を見ようともせず、不本意も知らないで、求める未来を描かずわざわざ心を我慢させ続けることのみを選択するのは、すなわちこの可能性の放棄だ。

 お節介かもしれないが、見過ごしたくはなかった。

 

「えっ? うん。あっ……」

 

「ありがとう。よし、投げて決めよう」

 

「何を?」

 

「カナヲがこれから、自分の心の声をよく聞くこと」

 

 ピィンと甲高い音とともに、コインが空高く舞い上がった。

 飛ばし過ぎたかもしれない……

 

「表! 表にしよう」

 

「表が出たら、カナヲは心のままに生きる」

 

「わっ、あれ? どこいった。おっとっと……」

 

 なんとか落ちてくるそれを手で捕まえる。

 

「表だ──っ!」

 

「カナヲ、頑張れ! 恐れず進め、道は拓く。

 勇気と気力と夢さえあれば大概なんとかなるものさ!」

 

 人はそういう心が原動力だから。

 心はどこまでも強くなれる。

 気合(・・)根性(・・)は、あらゆる不可能を可能にする心の力だ。

 

「……」

 

「なっ、なんで──表を、出せたの?」

 

「偶然だよ。それに、裏が出ても表が出るまで何度でも投げ続けようと思ってたから」

 

 キョトンとした表情だが、カナヲの悲しみの匂いは薄れていた。

 きっと何か助けになれたのではと思う。

 

「じゃぁ、元気でー!」

 

 こうして俺はただ刀を一本携え、

 まずは()の少女を越えるため、”育手(そだて)”の鱗滝さんの元へ向かうのだった。

 




このような感じのペースで、
まずは原作沿いの独自展開、独自解釈で進めていこうと思います。



2020/05/30
誤字報告ありがとうございました。
富岡×→冨岡〇
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