【悲報】無惨さま、禰豆子の鬼化に失敗して殺っちまった模様。   作:ζ+

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最終選別は前後半に分けています。


第四話

「生きものがいない……?」

 

 最終選別が行われる藤襲山(ふじかさねやま)

 咲く時期ではない藤の花に包まれ、独特の雰囲気を醸し出していたそれは、一歩踏み込めばこの通り。

 日中でも生い茂る木々で日光が遮られ、まさに試験に使われるような鬼を飼い殺す牢獄となっていた。

 そこには、木々が生い茂る森にいてしかるべき、蟲の羽音や鳥の鳴き声、すなわち生命の気配が失われている。

 

「……いや、この"匂い"」

 

 だが――そう、鬼を除いて。

 

 炭治郎は今、最終戦別の最中だ。

『この中で7日間生き抜く』ことが最終戦別の突破条件。

 それを越えた者のみ、鬼殺しの一員と認められる。

 

 炭治郎は慎重に進んでいく。

 先ほどからただの木々が続くばかり。

 しかし鳥の鳴き声や、虫の気配さえまるでないにも関わらず、彼の嗅覚は鬼の"匂い"だけは強烈に漂ってくるのを感じていた。

 

(どこかにはいるんだろうな……)

 

 炭治郎は一度立ち止まって周囲を伺ってはみるが、何かを見つけることはできなかった。

 それでも刀をそっと抜刀し、体の正面に構える。

 しばらくして、何も動きがないことを確認すると、ゆっくりと慎重に足を進んでいく。

 

 この場においても、炭治郎の目的は一つだ。

 生き抜くなどはは前提に過ぎない。

 ただ鬼を殺す。

 試験のために用意された鬼だとしても、それは変わらないのだ。

 

「……!」

 

 大きな鬼がいた。

 炭治郎の前を大きな鬼が通り過ぎていく。

 どうやら気づいてはいない様子で、のしのしとそのまま歩いていった。

 チャンスだ。

 炭治郎は静かに後をつけ、距離を縮める。

 ついに刀の間合いまで後一歩だ。

 

(このまま──いやッ!?)

 

 何かが近づいてくる。

 そう感じ、炭治郎はすぐさまその場を飛びのく。

 絶好の機会であることは間違いない。

 しかしその音で目の前の鬼に気付かれてしまうとしても、炭治郎は直感の方を信じた。

 すると、目の前に凶悪なナニカが掠めた。

 それは一つではなく沢山であり、目にも止まらない程の鋭い連撃だ。

 恐らくそのまま目の前の鬼に気をとられていたら、炭治郎はそのナニカで引き裂かれていたことだろう。

 現に先ほどまで炭治郎が息をひそめていた大木には、その余波だろうか、不自然にいくつもの小さな傷痕が残されていた。

 

「ふざけるなよ、どうして避けられる?」

 

 落ちてきた(・・・・・)鬼が憎らしげに睨みつけながらそう呟く。

 先の不意の連撃に相当な自信があったらしい。

 見れば、その鬼は小柄ながらも、腕の先には凶悪な爪が十本伸びていた。

 これがナニカの正体であろう。

 そしてなるほど。

 この爪で不意打ちならば、その広い攻撃範囲も相まって、炭治郎が肉団子になるのが普通であっただろう。

 それを直感で感じ取り、無理やり身体をひねらせ生存の道を掴み取った炭治郎に対して、落ちてきた鬼の驚きは至極当然と言えよう。

 

(木の上にいた……そうか、一匹だけじゃない。尾行されていたのは俺の方だったのか)

 

 ただ、本人に窮地を脱したその自覚はない。

 だが、隠密性、不意を打つという狡猾さなど、炭治郎は遅まきながら、目の前の鬼に気をとられたが故に死の間際に立っていたということは実感し、冷汗を背に伝わせていた。

 彼の心臓も、今までにないほどバクバクと波打っている。

 

「なぁ、聞いてるか?」

 

「……たまたまさ。でも、人間なら──気合と根性があれば誰でもできるんじゃないか?」

 

「そうか、人間なら、ねぇ……ふん、まぁいい。死ね」

 

 鬼は、どこか不愉快そうな様子を一瞬見せるも、すぐに捕食者としての在り方を思い出したようだ。

 鬼は距離を詰めながら爪を構えた。

 炭治郎はそこから繰り出された連撃を、とっさに構えた刃で受け止め続ける。

 弾き、逸らし、受け止め、時には身体ごとずらして避ける。

 この小さな鬼の一発一発は、十本の爪から繰り出される連撃であれど、そう重くはない。

 多少掠り、炭治郎の肌を傷つけはするものの問題なく対処はできていた。

 だが、それに紛れる鋭い一撃。

 これが厄介であり、より精度を上げて命を奪わんと襲ってくる。

 そう、小さな鬼は回数を重ねるごとに癖を読み、追い詰め、キレが増していき、着々と炭治郎の死へのカウントダウンが進んでいるのだ。

 

「まだだッ」

 

 しかし炭治郎もやられっぱなしではない。

 鱗滝のところで修行した一年弱。

 かつて、廃寺で鬼と戦った時より強くなっている。

 それは技術面でも、体力面ででもそうだ。

 加えて、今は鱗滝の”日輪刀”がある。

 殺す手段がなく、絶望に打ちのめされたあの時とはもう違うのだ。

 

「む?」

 

 炭治郎の刃が鬼の防御を突破し、腕に浅く傷を着けた。

 鬼はすぐに傷は治ってしまうが、修行にて実力を身につけた証拠であった。

 

「中々いい筋をしている。俺の連撃に対応する奴はそうそういないからな」

 

「お前の攻撃は軽い(・・)。そして軽いだけなら──」

 

「ふむ」

 

 炭治郎は全てを捌く。

 着実に。

 そして隙をうかがい、繰り返し狙っていく。

 落ち着け、焦るなと言い聞かせながら。

 そして──

 

(そう、いまだ!)

 

 炭治郎はついに(くび)を落とさんと刃を振るう。

 しかし、鬼は一体ではない。

 そして当然、1vs1(タイマン)で戦ってくれるなど期待するのは愚かだろう。

 すなわち──

 

「おい、てめぇ。俺をおとりにしやがったな?」

 

(──ッ!)

 

 そう、愚かさの代償。

 最初に暗殺しようとした大きな鬼、認識外から振るわれた大柄なそれの一撃を炭治郎はノーガードで受けることになった。

 

「あガッ!?」

 

 その鬼の一撃は重い(・・)

 目の前の軽い一撃を連続で繰り返すのと違い、最初の鬼はとにかく重いのだ。

 炭治郎は遠くに飛ばされる。

 

「はぁ……気付かない貴様が悪いだろう」

 

「ふざけるな、そのガキ共々殺してやる」

 

(俺ら)で争ってどうするよ、決着がつかん。まぁ、足の一二本折って転がしておけば、久しくヒトを喰ってない鬼が喰ってくれるか」

 

「上等だ、やってみらぁ!」

 

 大きな鬼と、小さな鬼は言い争っている。

 だが、その目はお互いに向いておらず、ただ炭治郎(エサ)に絞られていた。

 

 炭治郎は、苦痛に耐える。

 

「グっ、お前たちは……”共喰い”するのか?」

 

 炭治郎はふらふらと立ち上がり、鬼に問うた。

 

「……? ああ、さっきはそのように言ったが、普通喰うわけないだろ。消耗するだけってのがオチだ。長く喰わなくても死にはしないしな。まぁ、よっぽど空腹なら別かもしれんが……」

 

(やはり、”女の鬼”は特別なのか)

 

「オイオイ、腹減ってないならてめぇは向こうに行け。俺がコイツを喰う」

 

「何言ってるんだ? それを言うなら貴様が失せろ。結果的には助けてやったんだから」

 

「知るか、俺の獲物だぞ」

 

「黙れ──いや、もういい。先に()った方が喰えばいいだろうが」

 

「おう、そうだな。久方ぶりの人肉だァ!」

 

 小さな鬼の目線は、炭治郎の”狐の面”をチラリと見た後、そう答えた。

 そんなことに、大きな鬼は気付かない。

 

「くッ! まだだ」

 

「応とも、まだまだァ! さっさとくたばれ、このガキィイ!」

 

 大きな鬼は重い。

 炭治郎より身体が一回り大きいからか、その肥大化した腕から繰り出される薙ぎ払いは、動作は遅いながらも、しかし破壊力は抜群であった。

 腕が振れた先に在った木々は粉砕、あるいはへし折られ、地面にどさりと崩れ落ちる。

 こんなものに人間が掠りでもすれば、ただでは済まないだろう。

 

「やはり殺されるまで待っておけばよかったな……しかたない」

 

 対して、小さな鬼は軽い。

 身体は小さく、先に述べたように鋭い爪が連続で炭治郎に襲い掛かる。

 まるで繰り出されるごとに調整しているかのように、速度と精度が上がり続けるそれは、確実に炭治郎に小さな傷を増やしていく。

 このまま戦い続けてもジリ貧であることは明白であった。

 

「くそっ! それでも、まだだ!」

 

 炭治郎は勇気をふり絞り二匹の鬼に立ち向かう。

 しかし、二匹の鬼はいずれにせよ総合力が高い。

 重いとは言え炭治郎より速いし、軽いとはいえ炭治郎より力強い。

 鬼は、ただの雑兵でさえ人間のスペックを越えている。

 これが高位の者なら言わずもがな。

 さらにはそんな化け物が二匹同時に炭治郎へ襲い掛かっているのだ。

 

「そいつの一撃は重いし、避けるのが正解だ。そして俺の攻撃は繋ぎが強みだ。かわし、弾き、受け止めるなんてすれば細切れだ。いい判断だよ、ほんと」

 

「ごちゃごちゃうるせぇな。てめぇはどっちの味方だよ」

 

「どっち? 馬鹿なことをいう。俺自身の味方に決まっているだろう」

 

 そう会話を交わし、鬼たちはおぞましく笑ったかと思うと、また戦場の支配権は元に戻る。

 立ち向かってはいるものの、炭治郎はなんとかしのぐので精一杯だ。

 それもそのはず。

 二匹の鬼はお互いがお互いに攻撃が当たったとしても気にもせず、炭治郎を狙い続けているのだから。

 別にお互いが傷ついても構わない。

 どちらがとどめを刺しても構わない。

 なぜなら、最後に立っている側が喰えばいいだけのこと。

 鬼たちは、ただそれだを考え、本来ならあり得ない共闘という状態が発生していた。

 これに対し、炭治郎は依然変わらず一人で挑む。

 

「さすがは”狐の面”だな」

 

「あ? ”狐の面”がどうしたってんだよ」

 

アイツ(・・・)が大好きな奴ってことさ。わかるだろ?」

 

「何言ってんだおまえ?」

 

「はぁ……お前はここに落とされて短いようだな。ついでに、鬼になってからも短いか。なら知らなくても無理はない」

 

「あん? 気に入らねえな、なんだその態度」

 

「だいたい、ここに試験だなんて遠足気分で来る奴らはゴミだ。ただ刀が振るえる程度のな。だが、コイツは違う。”狐の面”の奴らは大体育ちがいいが──とりわけコイツはできる子(・・・・)だ。まともに鬼と戦ったこともあるんだろう。ヴィジョンを持って殺しに来ている」

 

「くだらねぇな。どうでもいい」

 

「……そうか、それが命取りにならないといいな」

 

 このままでは死を待つのみだ。

 しかし──

 

(鬼は、こちらに攻撃してくるが喧嘩するとき少しゆるむ。それも、隙も見つけた……けど、踏み込むだけの力が足りない)

 

 向こうが慣れてきたように、炭治郎も慣れ、鬼の”癖”を見抜き始めていた。

 例えば、小さい鬼は手数が多いが一撃が軽い分、繋げることを意識している。だから、大きな鬼に攻撃が吸われるといい顔をしない。

 対して、大きな鬼は小さな鬼に御構い無しに、当たれば儲けものと大ぶりな攻撃ばかりだ。

 ならば、大きな鬼の雑な攻撃の影に隠れ小さな鬼の攻撃を掠らせればムリに全てを受ける必要はない。

 しかし、鬼の総合力は人間のそれを越えている。

 持久力、筋力、素早さ、反射速度etc……

 繰り返すが、重いとは言え炭治郎より速いし、軽いとはいえ炭治郎より力強い。

 現状、炭治郎が優っているのは、その精神だけだ。

 つまり、決定打にかけている。

 

(でも、総合力が負けているのなら……人が鬼に敵わないと言うのならばッ!)

 

 だが、忘れてはいけない。

 そんな化け物に対して、英雄(サムライ)は──鬼殺隊は、何を継承(・・)して来たのかを。

 

(そう、人だからこその可能性を、今ここに──() () () !)

 

 そう、これを以て様子見(・・・)はもう終わりだと、炭治郎は地を這う四足の獣が如く疾走を開始した。

 

「何、当たらない……? どういうことだ? いや、まさか使っていなかったのか!?」

 

「ははっ、面白れぇ! 俺の重さと張り合うか!」

 

 小さな鬼は警戒するが、大きな鬼はそのまま突っ込んでくる。

 

ま だ だ(・ ・ ・)

 

 その炭治郎が発した決意の言葉と共に、大きな鬼は吹き飛んだ。

 細胞一つ一つまで酸素を取り込み、限界まで肉体を強化し鬼に迫った人間は、総合力で雑魚の鬼など凌駕する。

 もはや、ずさんな大ぶりでは捕えられない。

 

「くそ、そろそろ喰わせろやぁ!」

 

 鬼はそう喚きながら、再び突撃してくる。

 そう、頸を落とさねば、鬼は死なない。

 

「そうだな、呼吸なしにあそこまでとは──完全に予想外だ。お前を脅威と判断した。このまま殺す」

 

 そして、それに便乗して小さな鬼も動き出す。

 本能的に悟ったのだ。自身の優位性など存在しない。局面は、目の前のヒトが支配していると。

 ゆえに、合わせる。

 大きな鬼の大ぶりの一撃に乗って(・・・)、そのまま炭治郎に肉薄する。

 

「あぁ、俺もさ。必ず遂げると誓ったんだ」

 

 だが、大きな鬼の腕を伝って小さな鬼が襲てくるという異常事態。

 そんな中でも炭治郎は冷静であった。

 

「なに!?」

 

 小さな鬼は目の前に起きた出来事が信じられない。

 一瞬の邂逅の後、腕が落ちた。

 爪はもはや振るえない。

 

「くそがぁあああ」

 

 大きな鬼も、同じ手など通じるわけもない。

 逸らされ、切られ、有り余った力は地面に吸われた。

 そして、二匹の鬼が体勢を立て直す前に──

 

(見えた、隙の糸ッ)

 

 隙の糸。

 確実に殺せるという状況に持ち込んだ時、炭治郎が見るそれは、今まさに刀の先から二匹の鬼の頸に繋がっていた。

 ならば、鬼殺しが取る行動は一つ。

 

「水の呼吸──」

 

 ”呼吸”を解した炭治郎に迷いはない。

 ただ、廃寺の鬼との戦闘の後、これまで鍛え上げた技を放つだけだ。

 

()の型、打ち潮」

 

「ばか、なッ!?」

 

「ありえん……」

 

 結末は、一瞬であった。

 鬼の頸は二匹とも両断され、地面にごとりと4つの塊が落下した。

 

「うっ……ふぅ……」

 

 炭治郎は呼吸を整える。

 ともあれ炭治郎は、鬼殺しを為したのだ。

 それを認識すると、炭治郎に今まで張りつめていたせいで感じなかった痛みや疲労がまとめてやってきた。

 そして、そのまま休息をとろうと近くの大木にもたれかかろうとすると――

 

「や……やるじゃないか」

 

「ッ!?」

 

 そこで、炭治郎は跳ねるように振り向いた。

 そこには、灰になりかけの鬼がいる。

 小さな鬼の方だ。

 わかれた胴体はほぼ全体が灰に侵されているが、頭の炭化は遅い。

 もう一方の、大きな鬼はすでに事切れ、完全に灰になった様子だ。

 そのように状況を素早く確認し、炭治郎は出したままの刀を再び構え直した。

 

「しぶといんだな」

 

「あいにく特別性でね……まぁ、(くび)を斬られた以上、もう死ぬさ──だが」

 

 警戒し、疑いのまなざしを向ける炭治郎に対し、鬼の目はすでに輝きを失っていた。

 炭治郎が見えているかどうかもあやしい。

 目の前で、全体的に炭化が進んでいく。

 

「くっくっく。さぁ、来るぞ」

 

「なに?」

 

アイツ(・・・)が……檻の主が──」

 

 何か伝え切る前に、今にも朽ちようとしていた小さな鬼だったモノが目の前で爆ぜた。

 腕の様なものに潰されて。

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ。俺の可愛い子狐(・・)よ」

 

 

 

 

 

 

 その押しつぶした大きな手の(はざま)から、灰がひらひらと舞う。

 それに伝うように、とてつもなく強大な気配を感じ、炭治郎は反射的にそちらの方へ顔を上げた。

 

「──ッ!?」

 

 そこにいたのは、大型の異形。

 腕が無数に生えた化け物であった。

 

(馬鹿な、この距離まで気付かなかった!?)

 

 炭治郎は、疲労した体に鞭打って素早く飛びのく。

 対して、その異形は特に反応することなく、その腕でがっちりと覆われ、ただ唯一見える双眸で炭治郎を捉えて離さなかった。

 

(これが先の鬼が言っていた──檻の主、なのか……)

 

 大きさは、先ほどの大きな鬼よりかなりデカい。

 その無数の腕は、一部巻きつく用意して頭や頸に巻きついている。

 間違いなく、沢山人を喰って強くなった鬼だ。

 そんな鬼を前にして炭治郎は──

 

「いいだろう。悪鬼滅殺──滅ぼし尽くしてやろう」

 

「おお、活きがいい。そうでなくてはなぁ!!!」

 

(体力もキツイ、速攻決めるッ!)

 

 こんな化け物は見過ごせない。

 ただそんな思いを胸に、刀を再び握りしめ挑んでいく。

 炭治郎は、まさか二匹の鬼を殺した自分が、このまま敵わないとは思っていない。

 悪鬼滅殺。

 滅ぼしつくせると信じているのだ。

 だが、しかし――

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――”狐の面”が割れる。

 

「あ……れ?」

 

 俺は、その砕け散った破片の前で地にはいつくばっている。

 

 呆けるな。

 何があった、思い出せ。

 

 俺は──そう、刀を振り上げ、全集中の呼吸を使いながら、水の呼吸で戦った。

 そして、小さな鬼と大きな鬼と闘い、頸を落とした。

 でも、その先に──コイツ。

 檻の主に立ち向かったんだ。

 

 コイツはただ純粋に強い。

 この檻の中で凝縮された蟲毒のようなコイツは、一線を(かく)していた。

 でかい図体だけあって、速さはない。

 しかし、それを補う攻撃範囲、手数、そして力強さ。

  

 呼吸で強化した俺の攻撃はどれも効かなくて。

 技も、ただの”腕”を切り落とすのに精いっぱいだ。

 頸には届かない。

 しばらく全力で戦ったが、光明は見えなかった。

 ズキリと大きな鬼に不意に貰った攻撃が痛む。

 そうだ、あの大きな鬼も、小さな鬼も圧倒できたわけではない。

 

 そして、土の中から鬼の匂いを感じ、そのまま飛び上がったら、そのまま……

 二匹の鬼に貰ったダメージのおかげで、ついに避けることもできず、地面に叩きつけられた。

 

「フフフフ、フフフッ」

 

 鬼は、嗤っている。

 いや、馬鹿な。

 このまま終われない。

 認められるか、そんなもの。

 

 俺は、刀に体重を掛けるようにしてフラりフラりと立ち上がる。

 もはや、残ったスタミナもわずかであるし、傷だらけでこうして立つだけでも覚束ない。

 

「俺の頸の守りは硬いから切れない。口元に傷がある狐小僧でも切れなかった」

 

 あぁ、そうだ。

 硬くて切れない。

 そもそも、どうして俺は無策に突っ込むことしかできなかったのだ。

 疲労やけがの程度を無視して、勢いだけで殺せる?

 速攻挑めば、流れでそのまま殺せる?

 そんなわけがない。

 浮かれているにもほどがあるだろう。

 俺は、馬鹿だった。 

 

「あの女のガキみたいに、手足を引きちぎってそれから──喰ってやるよ」

 

 鬼は、じわりじわりと近づいてくる。

 とうとう技も出し切り、どれも通じず、総ての手を尽くして絶体絶命の窮地に陥った。

 逃げることは叶わないし、逃げるつもりもない。

 俺が取るべき選択はそんなものではない。

 鬼殺し完遂の先に、笑顔の花を咲かせるため。

 鬼の死骸を敷き詰めて、(きら)めく花弁と灰の舞う道をこの手で必ず造り出す。

 

 だから俺は──

 それは、単なる決意の表明。

 気合と根性、それ一つにより起こされる不条理。

 

 そう、悪鬼滅殺を渇望するのならば、この局面で選ぶのは当然この選択しかあり得ない。

 




ボロクソに殴られるシーンはカットです()

そう、悪鬼滅殺を渇望するのならば、この局面で選ぶのは当然この選択しかあり得ない。

  • “勝つ”のは俺だ
  • ――そう、まだだッ!
  • 天霆の轟く地平に、闇はなく
  • 万歳、万歳、おおぉぉォッ、万歳ァィ!
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