【悲報】無惨さま、禰豆子の鬼化に失敗して殺っちまった模様。   作:ζ+

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第五話

「男を殺せ。女を殺せ。老婆を殺せ。赤子を殺せ。犬を殺し、牛馬を殺し、驢馬を殺し、山羊を殺せ──フフ、フフフフ」

 

 悪鬼滅殺──すべての鬼を滅ぼしつくす。

 そして、笑顔を取り戻すんだ。

 鬼の死骸を敷き詰めて、(きら)めく花弁と灰の舞う道をこの手で必ず造り出す。

 

「──そう、まだだ(・・・)ッ!」

 

 それを阻むというのなら、是非もなければ斯くやあらん。

 あらゆる森羅万象を真っ向から踏み躙ろうとも、無謬(むびゅう)の光輝で焼き払おう。

 故に──再び立ち向かう。

 

「フッ、フフッフフ──意味がない。ムダ。不毛。無意味で無価値。なぜ立ち上がる? そんな折れた刀でなんとする?」

 

「俺は決して揺らがない……おまえを砕き、そして勝つ。鬼どもを滅ぼしつくすために」

 

「そんな、押せば倒れそうな姿でか? 俺に立ち向かうのか? 今(こうべ)()れるなら、苦痛なく殺してやるぞ?」

 

「悪いが後が控えている。それはできない相談だ」

 

「──ああ、いいぞ。やはり狐のガキは違う。ならば望み通り、存分に(なぶ)ってやろう。フフウフフ」

 

 鱗滝の弟子は皆殺しだ、そう鬼は言い放ち、俺に向かって無数の攻撃で押しつぶそうとしてくる。

 言うまでもない。

 数は、すなわち力だ。

 腕を無数にはやした鬼は、文字通り手数が違う。

 対する俺は小さな腕が二本だけ。

 そして握られた刀は、二匹の鬼と殺しあった損傷も加わり、先のこの目の前の鬼との戦闘で、刀身半ばからポキリと折れてしまっている。

 一方、折れた先は、鬼の(くび)に刺さっている。

 そこにも腕が巻かれており、鬼の頸は無数の腕の一部が守っているため貫通はしていない。

 そして、身体の傷もうずく。

 致命傷こそ貰ってはいないものの、度重なる打撃で内臓はぐちゃぐちゃにかき回されているだろう。何度血反吐を吐いたことか。

 長期戦になれば、回復できないこちらが不利なのは明白だ。

 だが──

 

「なに?」

 

 奪われたものは、奪い返さねばならない。

 涙も、嘆きも、痛みも、皆すべて、希望(ヒカリ)で焼き尽くしてやるべきだ。

 

「俺の腕が斬り伏せられただと?」

 

 そして地獄の先にも花は咲く事を、人は陽だまりに辿り着けるという事を、証明してみせる。

 

「いやはや、たかが数本。これには勝てんだろう? 圧倒的物量に潰されるがいい」

 

 さぁ、今こそ。狂える顎門(アギト)に運命を。

 

「ばかな!?」

 

 鬼の攻撃の波を越え、立っていたのは俺だった。

 総てを折れた刀で斬り伏せ、有限のスタミナを気合と根性でねじ伏せた。

 ただ匂いをかぎ分け、地中からすら伸びてくる敵の手を残った短い刀身で叩き切ったのみだ。

 そしてその果てに、いつのまにか鱗滝さんから借りた刀は、この夜の闇すら飲み込むほど漆黒に染まっていた。

 

「なんだ、その黒い刀身(・・・・)は。いや、そんなものはどうでもいい。色が変わった程度でなんだ。それよりもだ。人間の反射神経じゃどう足掻いても見切れるはずがない。さっきとはまるで別人だ。何をした?」

 

「恐れは越えた、ならば道など無限に拓けて当然だろう。人間は可能性の塊だ。勇気と気力と夢さえあれば、大概どうにかなるんだよ」

 

「冗談じゃない。狐小僧、本当に分かっているのか? その身体……当たればそこで死ぬんだぞ? 間違いなく、たった一撃受けただけで」

 

 言いたいことはわかる。

 つまりこうだろう。

 

「馬鹿げているって? まあ確かに俺も最初はそう感じたが──実践できればご覧の通り、極めて野蛮で強力だ」

 

「──いい加減にしやがれぇぇッ」

 

「全集中──」

 

 呼吸を。

 ただ静かに集中する。

 心臓がばくばくと唸る。

 血液が最高速度で体内を駆け巡っているようだ。

 それと同時に、体温がこれでもかと上がっていくのが分かる。

 ──そう、今だ。

 

「水の呼吸──(さん)の型、流流舞い(りゅうりゅうまい)

 

 水流のごとく、流れる足運びによって鬼に肉薄する。

 道中、襲い掛かってくる腕を斬り落としながら。

 だが、まだだ。

 

(ろく)の型──ねじれ渦」

 

 技を追加で出した。

 しかし、不安定な体勢での繋ぎの技はそのまま鬼に掠ることなく、違う方向へ刀が振られる。

 

「外したな? そこだぁああ!」

 

 そう、これの狙いは鬼を斬ることではない。

 

「なッ──づォ──馬鹿な──これはッ」

 

 本来、上半身と下半身を捻った状態から、勢いを伴って斬撃を繰り出すが、この勢いを足に回し、蹴る力に変換する。

 そして蹴りこむ先は──半分に折れた刀身、その折れた断面だ。

 そして、刺さった刀身をより深くまでねじ込む。

 しかし、決定打にはなりえない。

 鬼は、忌々しそうに刺さった刀身を己の身体から抜き出そうと蠢いている。

 

 そのまま蹴った勢いで俺も飛びのき、鬼と一時的に距離をとった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ふと、懐かしい光景を思いだした。

 

「炭治郎、これは決して忘れてはいけないよ」

 

日の神様(アマテラス)に祈るんだ」

 

「そして、怪我や厄災が起きないよう、神楽を舞う」

 

「だから、よく見ておいてね。さぁ──」

 

 これは……一体? 

 

 

 

 ***

 

 

 

「小賢しいまねをしてくれたな。フフフ、だが、おまえも息が切れている。限界が近いのだろう? この腕の防御を破る技もないようだ。どうだ、さらにに頸に巻いてやったぞ? もはや折れた刀身では届くまい」

 

 やはり鬼は化け物だ。

 人とは違う不死性、再生力、個としての強さ。

 だが、それがどうした。

 人間の気合と根性。これによる不可能は存在しない。

 驕る者に後れは取らない。

 しかし、勝ち筋は──

 

「やってみるしか、ないッ……!」

 

 俺は”見た”。

 創生せよ、過去に見ていた絶技から。

 

「フフフフ、そんなに静かになって、覚悟はできたか? 終わりだ。欠片も残らず消し炭と化せええええ゛え゛え゛!」

 

 今垣間見た過去を今ここに再現する。

 

 

 

 

 

 

「ヒノカミ神楽──日暈の龍・頭舞い(にちうんのりゅう かぶりまい)

 

 

 

 

 

 再生したであろう、腕の波が向かてくるが、総て流れるように粉砕し、突き進んでいく。

 最後の一太刀。

 頸に巻き付いた腕ごと水平に一文字、きっちり頸と胴体に二等分された鬼が、血飛沫と共に無様を晒した。

 

「──は、ア?」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「なんだよ。あのバケモノ()は」

 

「……」

 

 ある少年は、目の前の光景を見てそう感想をこぼした。

 先ほどまで続いていた戦闘にようやく決着がつき、恐らく鬼が勝てば次はこちらだという危機的状況にあったにもかかわらず、その勝利を喜べない。

 

 相手は異形のバケモノ。

 この藤の花の牢獄で人を多く喰らい、外見が変異して無数の腕をはやした人外。

 それに仲間が勝利したというのに。

 

「おかしいだろ、少しは常識で物事を語れよ。鬼も、人間(アイツ)も」

 

「……」

 

 なぜなら、彼はどうしようもないほど一般的感性の持ち主だったからだ。

 怖いものは怖いし、痛いものは嫌だ。

 勝利すらも、代償があるなら求めはしない。

 彼の主観では、戦っていた仲間は死に、次に自分たちが殺されておしまい。

 決して、胸躍る、理不尽な逆転劇など望んでいなかった。

 気合と根性による、人間の可能性なんてばかげている。

 そんなもの凡人に理解はできないし、したくもない。

 そして、己は死にたくはないが、流れに逆らう気力もない。

 故に運命に従う、ただの凡人だと。

 この、”最終戦別”ですら、少年は惰性のまま参加させられたのだ。

 そんな彼が、気合と根性、光という劇薬を見せられれば、強烈な拒絶反応を起こすのも当然のことであった。

 

「鬼は鬼で腕いっぱい生えてキモイし、アイツもアイツで違う型を使い分けてるって、何だよこれ」

 

 少年は自身の刀の柄に手を置く。

 まだこの牢獄で一度たりとも抜かれたことがないその刀の柄を。

 あんな死闘、誰にでもできることではないと。

 出来ない奴は出来ないのだと確かめるように。

 

「俺は……」

 

 少年は言いようのない、いらだちを抑えるため深呼吸をした。

 そして、同じように戦闘を見守っていた──いや少年は怖くて逃げられなかったのだが──少女に問いかけた。

 

「ねぇ、君もそう思うだろ? ……思うよね?」

 

 きっと、同類に違いないと。

 そうでなくては、この無様な自身を認められないと。

 だが、少女の反応は少年の予想とはかけ離れたものであった。

 

「……すごい」

 

「は?」

 

「すごい、炭治郎。すごいッ」

 

 おそらく、あの戦っていた仲間の名前だろう。

 それを呼んで賞賛する。

 少女はそのサイドテールを揺らし、その色白い頬を上気させ、とても興奮した様子で、戦闘を終えた仲間を見つめている。

 もはや少年など眼中にないようだ。

 

「ああああ、もういい! ……好きなだけやってりゃいいだろ、俺の知らないところで!」

 

 ああいうのは特定層(・・・)には刺さるのだろう。

 ゆえに少年は悪態をつき、そっとその場を後にせんと立ち上がった。

 もはや脅威も去った今、この場にはいたくない。

 もうどうにでもなれと、あっけらかんに歩を進める。

 

「バケモノ共め! 勝手にやってろもうたくさんだわ!」

 




一応、ここで一区切りです。
拙いところばかりでしたが、閲覧ありがとうございました。
すでにだいぶツッコミどころが多いですよね(汗)

少々、そういったツッコミどころばかりにならないための修業がしたく、次話投稿は気長にお待ちいただけると幸いです。

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