-前回のあらすじ
トブの大森林からハムスケを連れだした影響を確認するため、モモン一行はカルネ村へと向かった。
道中で特秘情報を話しながら進んでいた一行の前に現れた驚きの人物とは…?
過去にそれらしき存在が居る事は確認できていたが、ようやく確信を持てる情報が得られた。
───プレイヤー
自分と同郷であり、そして同格の存在。
もしそれらが人間種であった場合、悪名高い異形種ギルドであったアインズ・ウール・ゴウンとは高い確率で敵対するだろう。そうなった場合、こちらと同格の強さを持ち、ユグドラシルの強力なアイテムを持っているであろうプレイヤーとの戦闘によって、ナザリックに少なくない損害が出る事になる。
実際にこちらに対して攻撃を仕掛けてきた存在、シャルティアを洗脳した者どもは、プレイヤーかそれに連なる者だろう。そいつらは確実に探し出して必ず始末をつけねばならない。
それはナザリックへの脅威を取り除くためであり。そして、アインズ自身がけじめを付けるため、心の安寧のためでもある。
この世界に他のプレイヤーが居るというのは恐ろしい事だ。
今も監視をされているかもしれないし、これからの行動によっては攻撃も受けるだろう。
だが、それは希望でもある。
───かつての仲間たちがこちらの世界に来ているのではないか?
───これから先、ギルドメンバーがこの世界に訪れるのではないか?
パンドラズ・アクターからこの情報がもたらされた時、アインズはそれを考えずにはいられなかった。
今すぐ飛び出して確認しに行きたい衝動を、種族特性で鎮静化されながらも必死に最善を考える。
拷問して情報を得る。否、デメリットが多すぎる上に、陽光聖典の時の様にまともに情報を得られない可能性もある。
ナザリックの財で懐柔する。否、ナザリックの存在を明かすのも、謎が多すぎる者を取り込むのは危険だ。
情報だ、情報が足りない。
最終的にパンドラズ・アクターに情報収集を任せる事が出来たのは、理性的に動けるように成長できた証だろう。奴ならば自分より上手く情報を聞き出す事ができるだろう。
だが、焦る気持ちがじわじわと精神力を削っていく
逸る思いで報告書を読む目が滑り、一向に仕事が捗らない。
ため息とともに書類を机に放って天井を仰ぐ。
そこで、ふと天啓がひらめく。
冒険者のモモンとは別の立場でアプローチを掛ければ、より情報を得られるのではないか?──例えば、長年引き籠って研究をしていた魔法詠唱者とか──。
パンドラズ・アクターは彼女たちをカルネ村に連れて行って、人間種以外の者に対する反応を調べると言っていたな。ナザリックに取り込む可能性を考えているなら、自分も反応を観察しておいた方が良いだろう。
カルネ村なら支援者であるアインズ・ウール・ゴウンが居ても不自然ではないな?
そして、アインズ・ウール・ゴウンとモモンが別の人間だと思わせる事ができるな。
もし自分がプレイヤーだとバレても、カルネ村を支援している様子を見せれば、人間種に友好的な存在だと理解してもらえるだろう。少なくとも、即座に敵対するような事態は避けられるだろう。最悪の場合は村を盾にする事も出来る。
カルネ村を訪れる理由は、ンフィーレアに装備制限のあるアイテムを装備させてみる実験、というのはどうだろう。あるいは、取得経験値増加アイテムを装備させながらポーション作りをさせて、薬師としての成長が加速するかを実験するのもいい。
普段は働かない頭脳が、アインズが直接に動くメリットを次々に啓示してきた。
現金なものだと苦笑しながら、メイドに口唇蟲を運び込むように命ずる。
エントマも装備している口唇蟲は、声を変える事の出来る装備用のモンスターだが、これをアインズも装備できると知ったのは最近の事である。
ニューロニストに厳選させた声の口唇蟲をメイドから受け取り、その艶々とした肌色の生き物を
声が変わったことを確認するために、そして自分に喝を入れるために、少し気合を入れて声を発する。
「よし……行くぞ!」
意気込んだ自分に応えるように、喉に居るヌルヌルくんが脈動する。
初めは少し気持ち悪いと思っていたが、今はヌルヌルくんが頼もしい戦友のように感じられた。
ヌルヌルくんに勇気を貰い、アインズは力強く転移門へと一歩を踏み出した。
「ご、ゴウン様!!?」
転移門の漆黒の闇を抜けると、いつかの初めてこの場所に訪れた時のように、エモット姉妹が驚いた顔で迎えてくれた。
さあ、大芝居だ!
──────
「カルネ村へようこそ、冒険者の諸君。
私はアインズ・ウール・ゴウン。どうぞよろしく」
砦門の前で俺たちを待ち構えていたのは、泣いているような怒っているような異様な外見の仮面を着けた魔法詠唱者だった。
そして彼はアインズ・ウール・ゴウンと名乗った。
モモンとナーベからは息をのむ様な気配を感じる。
えっ、これマジ?
何か反応した方が良いのか?
「え、えーと?
貴方が王国戦士長を救ってくれたという魔法詠唱者ですか?(すっとぼけ)」
「いかにも。
戦士長殿にはこの村でお会いした時に少しばかり助力させていただきました」
「おお、やはりそうでしたか!(名演技)
王国の民として感謝します。ガゼフさんは神的に良い人だから無事で良かったです。
…っと、挨拶が遅れて申し訳ありません、私はターリアです。そしてこっちがイビルアイ」
お互いに知り合いなのに自己紹介をするって、なんか変な感じね?
イビルアイは失礼な態度を取りそうなので先んじて紹介しておく。そろそろ社交性を身につけてくれよな~、頼むよ~。
そして隣のモモン達を見やる。もう動揺は落ち着いているようだ。
「私は『漆黒』のモモン、こちらがナーベ。
彼女たち『蒼の薔薇』とは別のアダマンタイト級冒険者チームです」
若干、説明くさい自己紹介をするモモン。そんなことを説明されんでもアインズ様は知っているんだけどね。
そういえばモモンと声が違うな。アインズ様は口唇蟲を付けてるみたいだ。
しかしパンドラさんが動揺していたって事は、アインズ様がここに現れる予定は無かったって事か?おい、報連相をしっかりしろ!
やっぱりプレイヤーの話を出したから俺たちの重要度が上がったのだろう。俺、何かやっちゃいました?(やらかしたのはイビルアイ)
アインズ・ウール・ゴウンとして俺たちの前に現れたのは、是が非でもその情報が欲しいからだろう。アインズ様は我慢強い性格ではないからね。仕方ないね。
しょうがねえなあ(悟空)。ナザリックを情報的優位に立たせてやるか!
モモンの挨拶が終わった後に、場違い感のある村娘が前に出てきて自己紹介をする。エンリ(推定)はもう村長になっていたのか。
「わ、私は村長のエンリ・エモットと申します。
モモンさん、この間はエ・ランテルの検問所で助けていただき、ありがとうございました。
あ、ナーベさん、この方が前に言っていたルプスレギナさんです」
何時の間にかアインズ様の傍に控えていた赤髪褐色肌のメイドが、エンリに紹介されて綺麗なお辞儀をみせる。君、なんか写真と違わない?
TPOを弁えてる、残忍で狡猾なメイドだからな。失望したぞルプー!
そんなルプスレギナのメイド姿を見て、イビルアイが何かに気が付く。
「あのメイド、どこかで見たことあるような──「あーーっ!!たしか王宮で似た人を見た気がするな!でもこんな所に居るはずないから他人の空似だろう!」
気付いてはいけない事に気付きそうになっているようだ。お前、死にてぇみたいだな!
こいつらは『ゲヘナの炎事件』の時に同じ場面に居たのだ。その時のルプスレギナは仮面を着けていたが、まだそんなに日が経っていないから、イビルアイがルプスレギナの事を憶えていても不思議ではない。そんなこと憶えてなくていいから(良心)。
俺が慌ててフォローするが、場の空気が少し緊張したものに変わった気がする。やべぇよ…やべぇよ…。
不穏な空気に気付かないイビルアイが、続けてアインズ様に向かって言い放つ。
「それにしても怪しい仮面だな?」
「お前もやーーッ!!」
俺の渾身のツッコミがイビルアイに突き刺さる。思わずド突いてしまった。
しかしイビルアイの天然ボケのおかげで場の空気が和んだ。いや、もしかしたらイビルアイのジョークだったのだろうか?お前、なかなかやるじゃねぇか。
それはともかく、どうにか危機は逃れたな…。
「立ち話もなんだな。とりあえず村の中に入るといい」
アインズ様が場を仕切り、先導してカルネ村へと向かう。
そして門の前に来たところで、ルプスレギナが素早く前に出て大きな扉を押し開けた。入って、どうぞ(幻聴)
俺たちが村の中に足を踏み入れた所で、家屋の影から武装したゴブリンが姿を現した。そいつは野生のゴブリンではありえない、しっかりと鍛えられた身体から武術の気配を漂わせている。
これが覇王エンリの配下か。見たところ銀級冒険者くらいの実力がありそうだな。
「なっ!村の中にゴブリンだと!?」
「ああ、そうだったな。
言い忘れていたが、この村にはゴブリンやオーガが人間と共に暮らしている。
彼らを見かけても驚いて攻撃しないように気を付けてほしい」
ゴブリンが居たことに驚いたイビルアイが、モンスターを排除しようと動き出す。
だがそれは、イビルアイの視界を遮るように腕を伸ばしたアインズ様によって阻止された。
それを見てエンリが慌てて俺とイビルアイに説明する。
「彼らはゴウン様がくださったマジックアイテムで召喚したゴブリンなんです!
私の言う事をよく聞いてくれるし、危険は無いんです!」
「そういう事なんで警戒を解いてくれると助かるんですがね、仮面の姉さん。
俺達は暴れたりしないから、安心してくだせぇ」
ゴブリンがこちらに近づいてきて挨拶をする。
安心させようと笑顔を向けてくれているのだろうが、むき出された牙がその顔面を凶悪なものにしている。
それに見かねたモモンがフォローの言葉を口にする。
「以前に我々が訪れた時から彼らはこの村に住んでいる。
この村の様子を見るに、上手く共存できているのだろう」
「モモン様がそう言うなら、私も信用しよう」
モモンの言葉でイビルアイが矛を収める。
どんな言葉でもモモンが言ったなら、恋愛脳のイビルアイは何でも受け入れそう。
そして俺は最初から無警戒だ。
「それじゃあ、もう他の奴らを出しても構わないですかい?」
「という事だ、問題ないな?」
アインズ様がこちらを向いて確認を取ってくる。
ああ、俺に聞いてるのか。
「大丈夫だ、問題ない」
整備されつつある道を歩きながら、アインズ様が村に来た用件を問う。
そんな事を俺たちに聞かれても困る。俺とイビルアイは単なる旅行だからな。
返答は任せる、と意を込めた視線をモモンに送る。
「それで、この村にどんな用かな?」
「トブの大森林から″森の賢王″ハムスケを連れだした影響を見にきたのです。
我々の所為でこの村がモンスターに襲われて壊滅したとなったら寝覚めが悪い」
「それなら問題無いとも。この辺りの土地は私が管理している。
不安なら確かめに行ってくれても良いぞ」
「…ナーベ。確認のためにハムスケと共に二人で、当初の目的である森の調査に行っておいてくれないか?」
アインズ様とモモンがとんとん拍子で話を進めていく。白々しく会話しているが、お前ら同じ陣営やろがい!
そしてモモンがナーベに指示を出し、トブの大森林へと向かわせる。
おおっと、ここでナーベラル退場!
アインズ様を相手に普通に畏まりそうだもんな。絶対にボロが出る(確信)
「詳しい話は村の会議場でしよう。ああ、エンリは自分の作業に戻るといい。
彼らの話は私が聞いておこう。
ルプスレギナに給仕をさせるから、こちらは気にしなくてもよい」
更に覇王エンリも退場!
ここから先は強者しか踏み込めない世界だ…ッ!
さて、アインズ様は一体どんなことを聞いてくるのか?
そして、俺はどんな情報を話そうか?
残った俺達は、さらに村の奥の方へと足を進めた。
-ヌルヌルくん
アインズ様の戦友
ヌルヌルさん、ヌルヌル君さん、正式名が分からん
誤字報告に感謝