イビルアイ尻尾√   作:冠尾かざり

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16 口だけ賢者

-前回のあらすじ

『蒼の薔薇』魔道具店を見て回る。

フールーダおすすめの帝都最高級宿屋に泊まる。


 

 

 

 

 

 『蒼の薔薇』の朝は早い。

 まあ、暇を持て余したイビルアイが、日の出とともに俺たちを起こすからなんだが…。老人と子供の朝は早いと言うが、吸血鬼もその例に漏れないと言うことだな。

 

 帝国風のブレックファーストを済ませた後は、お洒落な待合室で優雅に足を組んでコーヒーを飲み、新聞を読み耽る。

 まあ、読んでいるのは新聞ではなく、広告チラシなんだけどね。

 

 しかしながら、こんな使い捨ての様に紙を利用できるなんて、帝国は紙の生産が盛んなようだ。

 その一方、王国でチラシを大量に配るなんて事はほぼ無い。精々が張り紙だ。それと高級紙も貴族がほとんど独占しているため入手しにくい。

 だが、この宿では高位の生活魔法で作られる高級紙がチラシに使われている。

 

 この紙の事だけを見ても王国と帝国の差が見える。

 

 

「ここまで政治の差を見せ付けられると、王国民としては嫌になっちゃうね」

 

「鮮血帝は有能。大粛清を行なったのにほとんど国力を下げて無い」

 

「鮮血帝は有能でイケメン。10歳若かったらホイホイとついて行ったね」

 

 ジルクニフ君は色々と恵まれ過ぎてるよな。

 まあ、ナザリックの前ではまるで無意味なんだよね。

 

 

「下々の民としては帝国に支配してもらった方が幸せだよね」

 

「王国は(ろく)でもない貴族ばかりだからな。

 魔法の力を軽視している愚か者共の集まりだ」

 

「…一応は私も王国の貴族なんだけど。それを私の前で言う?」

 

 貴族の実家を出奔した鬼リーダーさんは碌でもない貴族の筆頭でしょーが!

 そう言おうとしたら、ラキュースから恐ろしい微笑みが飛んで来たので口を閉じる。

 

 

「私達には王女様がいる。最後の希望」

 

 糞レズの視点で最後の希望ですね。わかります。

 

「確かに王女さんは王国の良心だけどよ」

 

「王女様は根回しが下手だからほとんどの政策が空回り」

 

「ラナーちゃんも権力を持って無いから、結局は王国を変える事は出来ないのさ」

 

 ラナーは最初から王国を立て直す気なんて無いしな。

 むしろ帝国に優れた政策を教示している節さえある。

 おそらく最初のプランではジルクニフを協力者にするつもりだったんだろうな。

 

 

「私の親友の悪口はやめて。

 ラナーだって上手く行かなくて歯痒い思いをしているんだから」

 

 それ演技やでw

 皆さん見事に騙されていらっしゃる。

 ラキュースはラナーの本性に気付きそうになる描写があったと思うけど、そこで友人補正が働いてしまって結局は真実を見抜けないんだよね。

 

 

「そういえば、クライムが寂しがっていたわよ、ターリア。

 弟子の修業を放ってエ・ランテルへ遊びに行くなんて、イケない師匠様ね?」

 

 ああ、クライムとかすっかり忘れていたわ。

 原作で才能が無いと明言されちゃってるから、やる気が萎えちゃうんすよね。

 まあ、当初の予定通り、才能の壁を超えられるかの実験材料だな。とりあえず、英雄の領域に至ったら実験成功と考えていいだろう。

 

 

「いやぁ、モテる師匠はつらいね」

 

「師弟関係を結んだんだ。

 最後までちゃんと面倒を見てやれよ?」

 

 そんなペット拾ったみたいに言うなよ。

 まあ実際、ラナーのペットみたいなモノだけどさ。

 

「いや、元々はもう帰ろうと思ってたんだけどね。丁度良くモモン氏が帝国に行くって話を聞いちゃったからさ。思わず便乗しちゃったぜ。

 今回の帝国観光が終わったら王都に帰るよ」

 

 そしたら地獄の修業でクライムを可愛がってやるか。

 

 

「何?王都へ帰るのか?

 そうしたらエ・ランテルには私一人か。寂しくなるな」

 

「な~に言ってんだ。イビルアイも帰るんだよ!

 モモン氏とはもう十分に仲良くなっただろう?」

 

 正直、イビルアイを独りにしておくのはアインズ様関連を抜きにしても心配だ。

 こいつの社交性の足りない尊大な態度は『蒼の薔薇』の悪評を広めかねない。

 と言うか、既に『蒼の薔薇』には変な噂が立ってるんだよなぁ…。多分、俺の奇行も原因の一つだと思うんですけど(名自省)

 

 

「いいや。私は帰らんぞ!

 最近はモモン様と良い感じなんだ。だからこのまま結婚までいくぞ!」

 

 駄々を捏ねるイビルアイ。

 

 はぁ~~~(クソデカため息)

 ガガーラン、言ってやれ。

 

 俺の視線を受けたガガーランが、面倒くさそうに肩を竦めながらイビルアイに告げる。

 

 

「イビルアイよお。

 しつこく付きまとうのは、そりゃストーカーだ」

 

「なっ!?」

 

 ショックを受けるイビルアイ。

 

「わ、私の愛はストーカーとは違う!

 私はストーカーでは無い!!」

 

「ストーカーは皆そう言うんやで?」

 

「そんな馬鹿な…っ!」

 

 

 アインズ様もここ数日は居心地が悪かっただろう。でも、貴重な情報を持っているから強気には出られない。

 ストーカーの沼っていうのは、そうやって嵌っていくんですね。

 

 実際、ストーカーされるのはツラいぞ。(ティアを見ながら)

 だからアインズ様をいじめるのはそろそろ止めてあげようね!

 

 

「今回の買い物の出費もあるし、そろそろお仕事しないとね」

 

「ガガーランとティアの特訓の手伝いもしてもらうわよ」

 

 ガックリと項垂れるイビルアイ。

 

 

 

 全員の王都への帰還が決まったところで、顔を上げると漆黒の鎧の姿が見えた。

 モモンとナーベが待合室に入ってきた。

 

 

「すまない、待たせてしまったようだな」

 

「気にしないでください。

 うちはイビルアイが早起きなだけですから」

 

 モモン登場。中身が入れ替わっていなければアインズ様だ。

 俺たちが寛いでいるテーブルまで来て軽く挨拶を交わすとリーダー同士の世間話を始めた。今日のマジックアイテム散策など、これからの予定について話している。

 

 丁度良い機会なので、改めて俺が作ったガイドブックの感想をアインズ様に聞いてみる。

 渡した時には感想を聞く事ができなかったが、その後で翻訳メガネを使って読んだだろうからな。

 

 

「私の作った格付け本は参考になったかな?

 見て回る店が決まったなら案内するよ」

 

「ああ。分かりやすくまとめられていて、この本はとても役に立った。

 それで、今日は日用品のマジックアイテムを見て回ろうと思う。

 戦闘用の魔道具は間に合っているからな」

 

 アインズ様から高評価を頂いた。やったぜ。

 そして予想通り日用雑貨のマジックアイテムに興味を示した。

 

 

「なら、そこを見て回った後は掘り出し物を探して露店ね」

 

「ああ、それで問題無い」

 

 俺も掘り出し物を探してみようかな?

 魔道具自作用の素材で良いものが有ったら買おう。

 それでユグドラシルで再現不可能なアイテムを作ってアインズ様を喜ばせたる!

 

 

「私たちは今日の買い物でマジックアイテムの補充は終わりにするわ。

 後は帝都を適当に散策する予定だけど、モモンさん達は他に何か予定はあるかしら?」

 

「予定は特に決まっていないが、我々も数日は帝都を色々と見て回ろうと考えている。

 そのあとは冒険者組合に顔を出して、何か依頼を受けようと思う」

 

「なら、その時に私たちも一緒に冒険者組合に行った方が面倒が少なそうね」

 

 

 よしよし良い感じに今後の予定も決まったな。

 ならば後顧(こうこ)の憂いなし。

 

 さあ、北市場へ出発だ!

 

 イクゾー!デッデッデデデデ!カーン!デデデデ!

 

 

 

 

 という事でやって参りました。北市場。

 

 今回、品定めするのはこの商店っ。

 この魔道具店はアインズ様の品定めに耐える事ができるでしょうか?

 

 この店は″口だけの賢者″の考案したアイテムを数多く揃えている。

 ガイドブックにもそう書いておいたからアインズ様もここを選んだのだろう。

 

 店に入って早々に気になる物を見つけたアインズ様が、前世で見たような姿形のマジックアイテムに食い付く。

 水道の蛇口の様な魔道具を弄り回しながらアインズ様が問う。

 

 

「これは″口だけの賢者″の考えたアイテムという事だが…。

 なぜ、このような形になったのか理由はあるのか?」

 

「そのアイテムを考えた本人も上手く説明できなかったらしいね。

 だから″口だけの賢者″なんて呼ばれてるのさ」

 

「ああ…。

 口だけってそういう意味か……」

 

 他にどんな意味が在るんですか?

 

 …もしかして、唇だけの異形モンスターを想像していたのか?

 勘違いするアインズ様、ちょっと可愛いな。

 やはりアインズ様がヒロイン…。

 

 

「″口だけの賢者″はミノタウロスの戦士で、物凄く強かったらしいよ。

 人間の待遇を良くしたり、手術を考案したりと、価値観が普通とは大きく違っている事も考えて見ると、″口だけの賢者″は六大神と同じ()()()()かもしれないね」

 

「なるほど、やはりそうか…」

 

 ふむふむと頷くアインズ様。

 また1つプレイヤーらしき存在の痕跡を見つけましたね!

 

 推定プレイヤーの″口だけの賢者″。

 詳しく説明したい気持ちは山々なんだが、今言ったこと以外はよくは知らない。

 だが、こういう時のためにロリババアが居るのだっ!

 

 

「イビルアイは詳しいんじゃないか?」

 

 ″口だけの賢者″が現れた200年前は丁度イビルアイがブイブイ言わせていた頃だ。きっと色んな裏話を知っているに違いない。

 得意分野になると饒舌になるイビルアイが、知識マンは頼られ過ぎてつれーわー!という態度をしつつ、当時の話を語り出す。

 

 

「まあ、私も直接見たわけではないがな。

 当時に伝え聞いた話では、斧の一振りで竜巻を発生させ、その一撃は地割れを起こしたという。

 かの者が現れてからミノタウロスの国は戦では負けなし。

 さらに文明レベルが引き上げられて大繁栄。一気に強国の仲間入りだ。

 それと、食料でしかなかった人間の扱いが奴隷階級まで引き上げられたというのも本当だ。そのおかげで人間国家との交流が始まったんだ。

 私がミノタウロス国の情報を得る事ができたこと自体が″口だけの賢者″の功績だな」

 

 

 はぇ~。やっぱプレイヤーってすごいっすね! 功績がデカすぎる!

 ラノベの主人公ムーブかますとか、こいつすげぇ変態だぜ?

 完全に人外転生もの小説のお話じゃん!

 

 

「そのミノタウロスの国は何処に在るんだ?」

 

 アインズ様が国の位置を聞く。

 これは、ナザリック軍で遠征しますね、間違いない。

 

「大陸中央部だ。

 まあ、手軽に行ける距離では無いな」

 

「そうか…それは残念だ。

 いつか見に行ってみたいものだな」

 

 あ、意外と遠かった…。

 俺も見に行ってみたかったんだけどな~。

 アインズ様が転移門(ゲート)とかで連れて行ってくれれば楽なんだけどな~。

 

 

「じゃあ、私たちと一緒に冒険に行こうよ」

 

「その時は私が案内しよう!」

 

「冒険か……。

 まあ、今は身の回りの問題を片付けなければな」

 

 

 身の回りの問題(法国)

 アインズ様にはパパパッと、この辺りの地域を平定して欲しいところだ。

 そうしたら念願の、魔導国の支援を受けながら世界観光ができるぞい!

 

 

 アインズ様は幾つかマジックアイテムを買うと満足したようだ。

 

 次は露店で宝探しだ!

 

 

 俺は前世の子供の頃、″赤縞シャツ男を探せ!″の絵本が大好きだったのだ。だから、俺は宝探しが大の得意なのである(絵本と現実を一緒にしてはいけない)

 ということで、露店エリアに入って早々に見つけました、掘り出し物。

 

 この野性味が滲み出るおじさんが売り出しているのはモンスター素材。

 それも、夜行性で滅多に捕まえる事の出来ない、珍しい狐型モンスターの毛皮だ。

 

 彼は狩人だろう。毛皮に目立った傷もない事から、恐らくは罠師だ。

 狩人は下手な冒険者より強い事が多い。この野性味が滲み出るおじさんもミスリル級冒険者くらいの実力がありそうだ。綺麗に剥がされたこの毛皮から玄人の(わざ)が垣間見える。

 

 ふむ、皮なめしに使われた錬金液の質も悪くない。これは買いじゃな。

 しかし、毛皮とかは鍛冶系の市場で売った方が良いんじゃないかと疑問に思っていると。

 アンタみたいなのが高く買ってくれるからな。っと、ニヤリと笑みを見せておじさんが去って行った。…なかなかクールな奴だったぜ。

 

 

 いつになく真面目に宝探しに取り組んでいるが

 実は掘り出し物を見つける事だけが目的では無い。

 

 もう一つの目的。

 それは、原作キャラのワーカー探しである。

 ここで『フォーサイト』と出会ってアインズ様と知り合いになれば、アルシェ尻尾ルートに大きく近づけるだろう。

 

 そして、真剣に探すこと幾時間…。

 

 いました! 原作キャラ!

 

 

 『天武』 エルヤー・ウズルス

 

 

 なんでや!!

 

 でも、仕方が無いんだ。

 金髪の剣士とか魔法使いとか彼方此方(あちこち)に居るから、知り合いでもない他人の『フォーサイト』とか見つけられるわけ無いんだよなぁ…。

 

 それに対して、天才剣士エルヤー。

 なんと、奴隷のエルフを連れています! もう、目立つのなんの…。

 今回もエルフを一人連れていて、そのエルフの娘に暴力を振るったところを目撃したガガーランがエルヤーに突っかかって行ったのだ。

 

 

「なんですか、貴方たちは?

 私は奴隷の躾に忙しいのですよ。邪魔しないでいただきたいですね」

 

「だったら、もう充分だろうがよ!

 それに、そいつらは何も悪くねえだろ!」

 

「私のチームの方針に口を挟まないでほしいですね」

 

「この野郎…!」

 

「よしなさい、ガガーラン」

 

 

 エルヤーに掴み掛ろうとしたガガーランを押しとどめる。

 そんな風に騒いでいるもんだから、衛兵がやってきてこの場はうやむやになった。

 

「ちっ、胸糞悪い野郎だぜ」

 

 憤慨するガガーラン。分かるわ、その気持ち。

 

「闇討ちを仕掛ける」

 

 ティアが言うと洒落にならん。

 …マジっぽい雰囲気出しているけど、冗談だよね?

 

「止めなさい。私達ではどうしようも無いわ。

 もう、会うことも無いでしょうから、忘れましょう」

 

 

 残念ながら、そうはいかない(諸行無常)

 アインズ様について行ったら、また会う事になるんだよなぁ。

 次に会う時は絶対に雰囲気が悪くなる。

 

 憂鬱だなぁ。

 

 

 

 


-ティア

ストーカー。オリ主の天敵。隙あらば()()()()に来る。

オリ主が『蒼の薔薇』のメンバーになったばかりの頃にレズカップルが成立しかかる。

ベッドで服を脱いで、あわやR18!!って所で、オリ主が「やっぱり無理」って逃げ出す。

お楽しみ直前でお預けを食らったからか、それ以来オリ主の身体を執拗に狙ってくるようになった。

 

誤字報告に感謝

 


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