銀時達のピンチを救った緑谷は着地した後、2人の元に向かった。
「っ!?さ、坂田先生!その傷…」
「…ああ」
駆けつけて見てみると、銀時だけは所々に攻撃を受けたかのように服が汚れている。
緑谷は助けるのが遅れてしまったのかと思い、悔しそうに頭を下げた。
「くっ…すいませんっ…」
「…おい」
緑谷の言葉を受けて、うつむきながら銀時は声を発する。
「は、はいっ…!」
緊張した様子の緑谷だったが、帰ってきた言葉は…
「…歯ァ食いしばれ」
勢いそのままに返事をした緑谷。
おかしいと思ったその時には目の前に拳が迫っていて思いっきり吹っ飛んだ。
「はい……へ?…ぶへっ!!?」
「てめェは俺に何か恨みでもあんのか!?あァん!?」
「いだっ!…ちょっ!せ、先生!?何するんですかっ!」
地面を転がった緑谷は銀時の奇行とも呼べる行動に抗議する。
しかし…
「こっちのセリフじゃボケェ!何で未来さんのは軌道ずらしただけなのに、俺の方は砕きやがったんだ!?破片が横殴りに降ってきたわ!」
「え゛っ…!?」
まさかの事実に顔を真っ青になる緑谷。
そんな緑谷にゆっくりと歩みより、通りすぎ様に肩に手を置いた銀時は感情のない声で言った。
「ハッハッハ!緑谷くん!……………これが終わったらマジで覚悟しとけよ」
「…」
ナイトアイとエリの元へ向かう銀時に背を向けたまま緑谷は膝から崩れ落ちた。
そんな緑谷をよそに銀時はエリの安否確認のため近くに寄っていった。
「よー、エリ。無事だったか?」
「うん!緑のおにいちゃんはどうしたの…?」
安否確認を終えると、話が聞こえなかったであろうエリが緑谷を指差して疑問を口にした。
「あー、あれはな…人生終了のお知らせをしただけだから気にすんな」
「?」
「ぷっ…くくっ…!」
銀時が絶妙な濁し具合で言うと、エリはいまいちピンとこなかったらしく首を傾げている。
一方、ナイトアイは絶望している緑谷を見てある程度の状況を理解し、笑いを堪えていた。
戦場なのに楽しそうだな、おい。
その後、緑谷に蹴りをいれて強制的に立ち直らせた銀時達はすぐさま状況の確認を始めた。
「どうするか…銀時」
「ああ。正直、未来さんの個性だとあの質量の攻撃は相性最悪だ」
事実、先程の危機的状況で銀時は刀でどうにか防ぐことはできたであろうが、ナイトアイの方はほぼ詰みだった。
だから、銀時は迷うことなく緑谷を呼んだのだ。
「そうだな」
「…まァ…俺がエリを預かって、未来さんと緑谷で組むのが一番いいだろ」
「…了解だ」
「分かりました!」
こうして方針が決まり、腕を修復した治崎が攻撃を放ってくるのを合図にそれぞれ行動を開始した。
・
ナイトアイと緑谷は治崎の攻撃を掻い潜りながら、距離を詰めていく。
「急ぐぞ、デク!」
「はいっ!距離を詰めれば大技は使えない!」
2人が考えている通り近寄ってしまえば先程の大技が来ることはない。
しかし、治崎自身も個性の出力が底上げされているようで地形変形の速度と練度が先程とは別物になっている。
「無駄だ」
上手く避けながら接近してくる2人に視線をやったまま、治崎は地面に手をついて個性を発動する。
今までの直線的な攻撃ではなく、枝分かれや曲がるなどある程度自分の意思でコントロールが効くようになったようだ。
「っ!?こんな…!」
「くっ…!一旦下がるぞ!」
「は、はい!」
たまらず下がるナイトアイと緑谷。
元々、遠距離の攻撃が少ない2人にとって相当に厄介だろう。
「この力……ははっ!感謝するよヒーロー!お前達のお陰でごみ掃除が簡単に済みそうだ!」
治崎は楽しげに口許を歪めながら皮肉を口にする。
ナイトアイはこの状況を打破するべく銀時の方に視線をやるが、銀時も対処に追われていて援護は望めない。
「やるぞ、デク。油断はするな」
「ナイトアイ…僕が道を切り開きます。その隙に攻撃をお願いします」
「できるのか…?」
「はい…やれます!」
「……分かった。信じよう」
「ありがとうございます!それじゃあ行きましょう!」
緑谷は何か策を思い付いたようで、ナイトアイに提案をする。
ナイトアイは少し沈黙した後に首を縦に振った。
そして、気合いを入れ直した2人は再び地面を蹴り治崎に向かう。
「こざかしい」
改めて向かってくる2人を見て、小さく呟いた治崎は個性によって無数の棘をはやし迎撃するが…
(20%じゃ駄目だ…!指の1本や2本くらいっ!)
「よしっ…SMASH!!」
それに対し、緑谷はデコピンの形に構えて100%の出力でぶっぱなした。
指を犠牲にしたデコピンにより発生した衝撃波は2人の目の前を覆うように伸びていた棘をことごとく粉砕し吹き飛ばす。
「っ!?ぐおっ…」
緑谷によって粉砕された破片が小さい弾丸となり治崎に殺到する。
「…っつぅ…ナ、ナイトアイ!」
「分かっている…ふッ!」
視界を塞がれた治崎の頭部目掛けて、重さ5キロの押印が真っ直ぐに飛ぶ。
ダメージを負っても個性で修復できてしまう治崎に対しては、一撃で意識を刈り取るには頭を狙うのは定説だ。
だからこそ…
「甘いなァ…ヒーロー」
治崎は首を少し動かすだけで簡単に避けた。
つまらなさそうに言う治崎だが、注意がナイトアイに向くことを見越して緑谷が破片を足場に背後に回り込んで拳を握る。
(もらっ…)
ここで決めるため、100%の出力で拳を振りきろうとした緑谷。
「デクっ!!!」
しかし、こちらの王手のはずなのにもかかわらず、ナイトアイの焦ったような声が響く。
「な…んで」
「…これで1人だ」
絶妙なタイミングで振り返る治崎の口許には邪悪な笑みが浮かんでいた。
無情にも緑谷に向かって伸びてくる治崎の手。
そんな時、緑谷は走馬灯のように今までの記憶が流れてきた。
オールマイトから力を受け継いだことから死んだ魚の目をしているのになぜかカッコいい副担任のことまで全てだ。
(死ね……ないッ!オールマイトはこんな時だって笑って何とかしてしまうヒーローだ!坂田先生はこんな時だっていつもの感じで簡単に乗りきってしまうようなヒーローだ!)
そんな事が頭に浮かんできた緑谷の顔にはこんな時なのに自然と笑みが浮かぶ。
(コイツ…笑って…)
(継承者…か)
そんな緑谷を見て顔を歪ませる治崎とは別に、ナイトアイの中では緑谷がかつてのオールマイトとミリオに重なった。
「諦めて、たまるかァァァ!!!」
緑谷は治崎と交錯する瞬間に、無理やり軌道を変え拳を真下に思い切り振り抜く。
次の瞬間、嫌な予感を感じながらも手を伸ばす治崎の視界から緑谷が掻き消えた。
それと同時に治崎も弾けるように後方に吹き飛んだ。
「ぐうっ…!」
「がぁっ…!」
互いに部屋の壁に激突することで勢いが止まった。
緑谷は治崎の個性の餌食にならなかったものの、右腕が力なく垂れ、体にもダメージがあるようだ。
「デク、良くやった。少し休んでいろ」
「はぁっ…はぁっ…了解、です」
ナイトアイは緑谷の安否を確認すると、即座に治崎の方に向かっていった。
・
治崎は壁に埋もれた体を個性で地形変形によって抜け出し悪態をつく。
「ぐっ…ふざけたことを…!」
個性でダメージを修復しながら体を起こすと同時にナイトアイが治崎の元に到着した。
「お前の野望もここまでだ。銀時には歯が立たず、学生のデクとミリオにも良いようにやられたんだ貴様は」
「…」
ナイトアイの的を射た言葉に治崎は無言のまま個性を発動することで答える。
どうやら、本当に諦めが悪いらしい。
そこから、約1分の間攻防が続く。
(やはり私では治崎に及ばないか。俺の最後の役目は…)
激しい動きのなかで、ナイトアイは予測や経験を活かしやりあっていたが、次期に限界がくる。
だが、ナイトアイの目的は戦闘で圧倒することでは決してなかった。
我々、ヒーローの勝利を完璧なものにするために未来視を発動する。
しかし…
(………視え、ない)
ナイトアイが欲した未来は視えなかった。
全員が無事で、治崎が捕まる未来が視えなかった。
「くくっ…ははっ!知ってるよナイトアイ。お前、未来が視えるんだよなァ?何を視た」
「…」
唖然とするナイトアイ。
銀時もいる、ミリオもほぼ無傷だ。
こんな状況なのにナイトアイが目にした未来は真っ暗だった。
「脆いなァ、ヒーロー」
治崎が気味の悪い笑みを張り付けながらそう言った瞬間に、放心していたナイトアイの腹部を治崎の個性でできた棘が貫いた。
「ごふっ…!」
傷から、口から血が溢れ出す。
そんなナイトアイにとどめを差すために、治崎が地面に手を置いて言う。
「お前の視た通りになるようにまずはお前から壊してやろう」
ナイトアイに向かって伸びる棘は全てが急所に当たることだろう。
当たれば死ぬのは確実。
この極限の状況でナイトアイは恐怖ではなく、過去を悔やんでいた。
思い出すのはオールマイトとの記憶。
オールマイトの死を視てからの記憶だ。
「わ、たし…は、また…同じ、ことを…」
「同じゃねェよ、未来さん」
今にも消えそうな声で呟いたナイトアイの前に何者かが立ちはだかった。
その人物…銀時はナイトアイに向かっていた棘を全て両断しナイトアイに向き直る。
「あんたが視たようにはならねェし、させねェ」
「…ぎ、ん…とき…」
銀時は静に、だが芯のある声で言った。
「未来くれェ俺が何度だって変えてやる。だからよ…んな顔すんな」
ナイトアイが視た未来は変わるのか…
最終局面に入る。
なんか、死穢八斎會編は頑張って書いてるけど…くどいですかね?
時間かけすぎ?
すごい不安です…
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