死穢八斎會との争いが終着したその日。
怪我を負った数人は現場最寄りの大学病院へ搬送された。
1人1人精密検査をした結果、ナイトアイ以外は特に後遺症も、命に関わることもないと診断されたようだ。
「はい、坂田さんお疲れ様でした。細かい擦り傷以外は特に怪我もなしです」
「そっすか。どォも」
銀時は診察を終えて部屋を出る。
すると…
「銀時」
「ん?おー、消太か」
イレイザーが診察室の前に立っていた。
どうやら銀時を待っていたようだ。
「緑谷達の様子を見に行く。一緒に来てくれ」
「はいよ」
そうして2人は緑谷達がいる病室に向かって歩き始めた。
「消太は怪我大丈夫なのかよ?」
「ああ、大したことない。10針縫っただけだ」
「うわ…痛ェ痛ェ。なんつーか、たくましいねェ」
「バカ言え。お前が異常なんだよ。ずっと前線にいてほぼ無傷だろ」
「けっ。ミリオが勝てるやつに俺が苦戦するわけにはいかねーっての」
「ふっ。銀時らしいな」
「…うっせ」
2人でこんな話をしながら歩いていると、銀時が思い出したようにイレイザーに聞いた。
「…そーいや、敵連合の奴らはどォなったんだ?」
「奴らは…分からん。気づいた頃にはいなくなってた」
「………はぁー。消太、多分…1本取られたぜ」
「まさか…!」
「あァ。そのまさかだろォな。奴らの狙いは…治崎だ」
2人が最悪の想像をしている頃、まさにその想像が実現されようとしていた。
治崎の護送中…敵病院までの道のりの高速道路。
「ふぅ。砂の個性…厄介だったな」
「砂は燃えねェからな」
「まぁ…これでチェックだ」
治崎を乗せた護送車を襲った死柄木達の前には全身を拘束されて動けない状態の治崎の姿がある。
護送車にはプロヒーローのスナッチが同乗していたが、敵連合の前に散った。
「んで、気分はどうだい?自称次期支配者さん」
「…殺しに来たのか」
「そんなつまらない事するわけないだろう?」
「…」
「くくっ…無様だねぇ。どうせ、白夜叉1人に良いようにやられたんだろ」
死柄木の煽るような口調に終始感情のない表情を貫いていた治崎だったが、死柄木から銀時の名前が出ると、途端に怒りや焦りが浮かんだ。
「………するな」
「なんだ?聞こえねェよ」
「その名前を口にするな!」
唸るように叫ぶが、死柄木には逆効果。
むしろ、治崎の余裕のない表情を見れたことに喜びすら感じている。
「……ぷっ…アッハッハ!図星かよ!ザマないなァ!」
「…っ」
「そんなおまえにプレゼントだ。おまえが最も嫌がることを考えてきた」
死柄木がそう言うと、まずはコンプレスが治崎の左腕を圧縮の個性で切り離した。
治崎は痛がる様子もなく、視線は死柄木の手に注がれている。
「コレさァ。2箱あるけど、どっちが完成品?まァ…いっか」
その死柄木の手には、治崎が計画のために作り上げた個性を壊す薬が…
「………返せ」
「あのな、オーバーホール。『個性』消してやるって人間がさァ、『個性』に頼ってちゃいけねェよな」
死柄木は治崎の隣にしゃがみこむと右腕に触れて個性を発動させた。
「…っ!!」
治崎は思惑に気づき、暴れようとするが意味もなく両腕を失った。
手で触れなければ個性を発動できない治崎は両腕を失い無個性のような状態に。
そして…
「これで詰みだ。おまえは晴れて無力非力の『無個性』マン」
奇しくも、治崎は自分が全ての力を費やした薬と血清を奪われてしまったのだ。
死柄木は呆然とする治崎の顔を覗き込むようにして見下ろしながら言った。
「おまえが費やしてきた努力はさァ!俺のもんになっちゃったよ!!これからは咥える指もなくただただ眺めて生きていけ!!」
「あ…ああぁ…」
「そんでヒーローにでも助けてもらえよ!『あなた達を壊そうと思って作った薬を奪われたうえに個性を失いました。助けてください』ってなァ!」
「あああぁぁああぁあああ」
壊れたように叫ぶ治崎から視線を切り死柄木達は歩き出す。
ヒーロー達の成長の裏で、悪も密やかに力を付け始めている。
「次は…俺たちだ」
悪には悪の道がある。
強大な悪が世界に牙を剥く日は近い。
・
銀時とイレイザーは病室を渡り歩き、全員の様子を見終わり、ミリオと緑谷を連れてナイトアイが運ばれた手術室へ向かっていた。
「あの…エリちゃんはどうなったんですか?」
「まだ熱も引かず眠ったまま。今は隔離されてる」
「隔離…ですか」
こうして話ながらしばらく歩き、手術室へ到着した。
扉が開き中に入ると…
「君たち…」
「リカバリーガール!オールマイト…!」
リカバリーガールとオールマイトが立っていた。
「よォ。あんたはいつも遅すぎんだよ」
「…返す言葉もないな」
銀時の言葉に自嘲的に笑うオールマイト。
そんなオールマイトをよそにイレイザーはリカバリーガールにナイトアイの事を聞いた。
「リカバリーガール。ナイトアイの容態は?」
「あと1秒でも遅れていたら危なかった。さっき、やっと落ち着いてきたよ。手術は成功さね」
「本当ですかっ!!!」
無事に成功したと言うことにその場にいる全員が深く息を吐き出した。
そして、ナイトアイが横になっているベッドに視線を向ける。
全員が黙って見つめる中、オールマイトが1歩踏み出した。
「ナイトアイ…」
「オール…マイト…ようやく会う気に…?」
オールマイトが声をかけると、ナイトアイはゆっくりと目を開いた。
「ああ、すまなかった。私は君に…ひどい事を…」
「随分としおらしいな…。オールマイト…私は、別にあなたを恨んじゃいないよ…」
責任を感じて項垂れているオールマイトにナイトアイは続ける。
「あなたは1人でどこまでも行ってしまう…行けてしまうから…その先に待つ未来を視てしまったから…あの時のあなたの覚悟が恐ろしくて仕方がなかったんだ」
「ナイトアイ…君は…」
「でも…抗うと決めてくれたなら…私は、良い…」
「…ああ。抗うさ…だから、今度こそ見ていてくれ」
オールマイトの力強い言葉に安心したのか、ナイトアイはふっと笑みを浮かべた。
その後、それぞれ少しだけ会話をして面会を終えた。
・
銀時は手術室を出て、通路の途中にあるイスに腰掛けている。
すると、そこに遅れて出てきたオールマイトがやって来た。
「隣、いいかな?」
「…仕方ねーな」
銀時は嫌そうな顔をしたが、オールマイトの手にいちご牛乳が握られているのを確認して横にずれた。
座ってしばらく沈黙が流れると、オールマイトが話し出した。
「坂田君、まずはありがとう」
「別に礼を言われるような事はしてねェよ」
「いや、今回の死穢八斎會との一件…君がいなかったらこんな上手くはいかなかっただろう」
「はぁ…そんなモンかねェ?」
「そうさ。なぁ、坂田君…………私は選択を間違ったのかな。」
そんな話をしていると、唐突にオールマイトがきりだした。
どうやら、本題はこっちのようだ。
この場合の選択とは何なのか…
だが、銀時は迷うことなく答えた。
「…間違っちゃいねェさ。ただ、強すぎる光ってのは影も濃くなっちまう。あんたが残した正義とあんたが生み出した悪は紙一重なんだろーよ」
「そう…か。分かってはいたんだ…私は、全国民の正義を背負うには脆すぎた」
「んな悲観すんなって。あんたがいたからガキ共は夢を追えるんだ。あんたってゆう明るい光のお陰で迷わず歩いていけてんだよ」
「……ありがとう。坂田君」
こんな湿っぽい話を少しした後、オールマイトは席を立った。
「こんな話に付き合わせて悪かったね。私はそろそろ行くよ」
「ああ」
銀時に礼をいって去っていくオールマイト。
その背中を見送りながら銀時は珍しく難しい顔でため息をはいた。
「はぁー。平和の象徴ねぇ…少なくとも、俺にゃ無理だよ…オールマイト」
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