第1話
○月%日
早朝、私はカルデア居住区にてレフ・ライノールの話そうとする言葉を遮ろうとした。尤も彼の言葉を遮ることは出来ず、大きな声で「そう、君がママになるんだよ!!」と言われた。
やめろ、そんな目を向けるな。
私の有意義な休日を脅かす存在は打ち消すぞ。そんなことを言いながらレフに腕の中で眠っていた赤ん坊を強引に押し付けられ、通路を行き交う同僚から奇怪なものを見るように見られた。
とりあえず、禁煙しよう。
しかし、レフのヤツは私の仕事を増やすことを楽しんでいるような気がしてきた。だいたい、私より適任なヤツは居ると思うんだが…。
あの男の考えていることを読み解こうとするだけ無駄な努力と言えるし、ロマニ・アーキマンにでも赤ん坊の育て方を聞くとするか。
あの三十路を越えようとしているのに彼女すら作ることが出来ていないオッサンを頼るのは嫌だが、赤ん坊の育て方なんて習ったことはない。
それに母乳なんて出るとは思えない。
◯月⇔日
早朝、私は赤ん坊ことマシュ・キリエライトのオムツを取り替えながらレフの用意した哺乳瓶と粉ミルクの調合する。
霊薬を作ろうとしたことなんて一度もないが、こんな面倒な行程を幾千と繰り返す霊薬師のことは少しだけ尊敬しよう。しかし、哺乳瓶は人肌と聞いたことはあるが熱すぎるのは危険だな。
下手すれば火傷では済まないほど大怪我を負う可能性だってある。ただ、どうしても気になるのはマシュの実の両親は誰なのかということだ。
そんなことを考えながら哺乳瓶をマシュの口元へ近付け、一生懸命に粉ミルクを吸おうとしているマシュを見詰める。
ミルクを飲み終えたマシュの背中をポンポンと叩けば「けぷっ」という可愛らしいゲップを出し、私のジャージを小さな手で握り締めてくる。
むう、残りの仕事を片付けたいんだが…。
もう少しだけ抱き着く体勢を変えてもらえると助かるんだが、こんなことを赤ん坊に言っても分からないか。はあ、書類作成を片手のみで行うなんて聞いたことないぞ。
すまない、私の髪を引っ張るのはやめてくれ。
◯月∥日
夜泣きを繰り返すマシュの背中をさすり、防音の結界を自室へ張ることが増えてきた。このまま私は過労死するんじゃないかと思うときがある。
まあ、そうならないことを願うばかりだ。
それよりレフは所長の娘に魔術の講義を行うために下山していると聞いたが、カルデアへ戻るときに赤ん坊の肌に優しい衣服を買って貰えると助かる。
ああ、料金は払うから安心していいぞ。それと新しいジャージを買って来てくれ。このジャージだとマシュの爪を傷付けてしまう。
なんだ、しっかりと母親の役目は全うしているはずだ。多少のご褒美を貰えないと引き籠り生活を行うぞ。そんなことを言えば「はあ、君まで彼のようなことを…」と溜め息を吐かれた。
むう、私はロマニよりまともなはずだ。
しっかりと育児を行っているし、炊事洗濯だって休まず行っている。いや、これは普通のことなのは知っているけど。マシュを背負いながら行っているんだぞ?
最近は強化魔術を使いながら抱っこばかりだ。このままだと仕事を同僚や部下へ押し付けてしまう。まあ、それも有りと言えば有りだな。