私がマシュ・キリエライトを彼女に預けてから四年の月日が経過した頃のことだ。
マシュ・キリエライトを預ける以前に疑似英霊化の実験台として彼女を使用し、無事に成功したとはいえ意思疏通の出来ない赤子を最前線へ投下することは出来ず、頼み事を断ることが出来ないと定評のある日本人の彼女へマシュ・キリエライトを預けた。
結果としてマシュ・キリエライトは逞しい四才児へと成長を遂げた。日本人へ預けたおかげなのか、少しばかり淑やかな立ち振舞いも身に付いている。
しかし、ロマニのようなオタクになるとは予想していなかった。マシュ・キリエライトは普通の四才児の語る内容とは逸脱しており、私も趣味としている特撮視聴の範疇を越えているのだ。
一文字でも怪人の名前を間違えれば覚えるまで名前を連呼してくる。彼女のことを育て上げたアイツのせいなのは分かっているのだが、私を含めてカルデア職員は彼女を咎めることが出来ない。
「レフうぅぅぅぅぅ!!!」
なんとも情けない悲鳴を上げて、私へ助けを求める学友を見ればレオナルドの作ったであろう掃除機に吸い込まれそうになっていた。
私達のような凡人がレオナルド・ダ・ヴィンチの考えていることを知ろうとするだけ無駄な行為だと理解しているが、本当に何をやろうとしているんだ?
そんなことを考えているとロマニ・アーキマンが掃除機の中へ吸い込まれていき、気色悪い悲鳴を上げながら助けを求めてくる。
もう、お前は掃除機の中で過ごせば良いんじゃないか?等と思いながらも学友だった頃のなんとも言えない思い出が浮かんできた。
「レオナルド、すまないがロマニを返してくれないだろうか?」
「それは困るな、私の実験にはどうしても彼の肉体は必要不可欠なんだ」
「ふむ、そうなのか。それでは仕方ない、ロマニのことは忘れよう」
ソッとレオナルドの傍を離れようとした瞬間、掃除機の吸引口から呪詛のような言葉が聞こえてきた。どうやら自分のことを見捨てようとしている私に対する愚痴を言っているようだ。
「ロマニ・アーキマン。そう、慌てる必要はない」
私はレオナルドの隣を通り過ぎながら溜め込んだゴミを排出するであろう部位をステッキの先端で叩いて掃除機の中身を弾き出す。
どのような実験を行おうとするのはしていたのかは知らないが、マリスビリー・アニムスフィアまで吸い込んでいるのは有り得ないことだ。
万能の天才とはいえレオナルド・ダ・ヴィンチを英霊として召喚した使役者を実験台へ使おうとするか?等と考えていると二人は震えながら抱き着いてきた。
私は年老いた相手と抱き合う趣味は持っていないんだが、あのような密着する掃除機の中から生還したのだ。彼等は掃除機の中で身体を重ね合わせていたのだろう。
掃除機の中の悲劇は三人だけの秘密だ。
「…うわぁ…キモッ……」
レオナルドのグサリと突き刺さるような鋭利な言葉を受けて倒れ伏す二人を介抱しようかと思ったが、そこまで私が彼等を手助けする理由は見当たらない。
「ああ、ちょうど良いところに来てくれた。彼等を仮眠室へ連れていって貰えないか?」
「いや、変態はちょっと…」
ふむ、彼女の中では私も同類と見なされたようだ。それは否定したいのだが、ロマニとマリスビリーから射殺さんばかりに鋭い視線を感じる。
はあ、此処のヤツは面倒しか起こせないのか?