境界線上の二天流   作:武智破

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え? なんで武蔵ちゃんにしたのかって? そりゃうちのカルデアで唯一の100lv金フォウ&絆&宝具MAXの鯖だからだよ(隙自語)


1話 体育(カチコミ)

 

 

 広く伸びた青空とどこまでも連なる山渓の間に波を作るものがあった。

 八つの艦艇からなる準バハムート級航空都市艦"武蔵"。その一角を担う"奥多摩"の最奥にある武蔵アリアダスト教導院から張りのある声が響いた。

 

 

「よーし、三年梅組集合ーっ! これから体育の授業を始めまーす! 準備はいいかしら?」

 

「「「Jud.!!(ジャッジメント)」」」

 

 

 高等部教師、オリオトライ・真喜子の呼掛けに梅組の生徒達は了解の意を示した。

 承認を確認したオリオトライは皆にはっきり聞こえるように"品川"に指を指して。

 

 

「ルールは簡単。先生これからヤクザを殴りに行くから事務所のある"品川"まで全速力でついてくること。そこから先は実践ね」

 

 

 一同から『え?』と渇いた声が上がった。

 教育者の口から出たまさかの言葉に戸惑いつつも、すぐに気持ちを一新した。この女教師相手に反論など無意味なのは知っていたことだった。

 

 その時、『会計』の腕章をつけたシロジロ・ベルトーニという青年が前に出た。

 

 

「教師オリオトライ。体育とヤクザに一体何の関係が?……まさか、金ですか?」

 

「バカねシロジロ。体育は運動するものよ? つまりヤクザへの殴り込みも運動なの。理解した?」

 

「なるほど、一銭にもならないということですな」

 

 

 どこか合点がいったシロジロの制服をちょいちょいと引っ張るのは『会計補佐』の腕章を持つハイディ・オーゲザヴァラーという少女だ。

 

 

「あのね、シロ君。先生ったらこの前あったヤクザの地上げのせいで表層の一軒家から最下層行きになっちゃったの。

それで自棄酒してたら酔っ払って暴れて辺り一体穴だらけにして教導部から雷落とされたちゃったんだって。……まあ、途中からほとんど自分のせいなんだけど、初心忘れず報復ってことなの」

 

「失礼ね。これは報復じゃないわ。……復讐よ」

 

「「「いや同じだよ!」」」

 

 

 一同のツッコミを軽く流した彼女は長剣を脇に挟んで辺りを見回した。

 

 

「んで、いない子いるー? ミリアム・ポークゥはまあ仕方ないとして、東は今日の昼に戻って来るって連絡入ってるから、他には──」

 

 

 生徒達が互いに顔を確認し合い、いない面子を探す。

 すると群集から元気よく手が上がる。その腕には腕章が巻かれ、『第三特務 マルゴット・ナイト』『第四特務 マルガ・ナルゼ』と書かれていた。

 

 

「はいはーい! ソーチョーとセージュンがいませーん!」

 

「正純なら講師をしに"多摩"の小等部教導院に行ってるはずよ。それに午後から酒井学長を三河まで送り届ける予定だから今日は自由出席だったわね。

 ……総長、葵・トーリは知らないわ」

 

「ナルゼも知らないのね。たくっ、あの子ったら一体どこで何してんのやら……。誰か"不可能男(インポッシブル)"のトーリについて知っている人ー?」

 

 

 問いかけに心当たりがあるのか、皆が一人の少女を見る。

 茶色のウェーブヘアを風に靡かせ、豊満な胸を揺らすように歩く少女に皆が思わず道を譲った。そして最後に決めポーズ。

 

 

「んふふふっ、ふふふっ。皆うちの愚弟がどこにいるか知りたいのね? 知りたいわよね? だって総長兼生徒会長だものね?

 

 ──私にもわからないわ!」

 

 

 『知らないんかい!』と全員がツッコむものの、意を介する振りも見せず。

 

 

「だって私が起きた頃にはもういなかったもの。あの愚弟、人の朝食も作らずに出掛けるなんて……まさか食べ過ぎ注意って言いたげなのかしら? とはいっても私は全然太ってないんだけどね。全っ然太ってないんだからっ!」

 

「あー、そうだね喜美ちゃん」

 

「……マルゴット。その名は無しよ? 私のことはベルフローレ・葵と呼びなさい。断じて(青い)喜美(黄身)なんていう生ゴミまっしぐらの名前で呼ばないでちょうだい!」

 

「……三日前はジョセフィーヌじゃなかった?」

 

「あれは三軒隣の中村さんが飼い犬につけた名前だから却下よ! しかも『ジョセフィーヌ~』って呼ばれたもんだから元気よく返事してやったら目を見開いた中村さんが犬抱いたままこっち見てたのよ! 愚衆の面前で恥かいちゃったじゃない!」

 

「あはは……御愁傷様……」

 

 

 そんな二人を脇目にオリオトライは出席簿にチェックをいれていく。

 

 

「うーん。喜美も知らないってなると、あと知ってそうなのは……」

 

「あー、ごめん先生。俺も知らないや」

 

 

 聞く前に答えたのは極東式制服の上に蒼紅の上着を着用し、銀白色の長髪を後ろに結んだ美丈夫の青年だった。

 顔は中性的な顔つきでどこかおおらかな気迫があり、左右の腰には大刀が一本ずつハードポイントに装着されていた。

 

 

「うーん、君なら知ってると思ったんだけどなー宮本・武蔵。ほら、毎日"武蔵"をランニングしてるじゃない?」

 

「してるけどトーリとは会ってないよ。会ったのは……アデーレくらいか」

 

 

 全員の視線がアデーレと呼ばれた少女に刺さった。

 アデーレ・バルフェット。毎朝トレーニングとして"武蔵"を三周するのが日課の従士階級の少女である。

 

 

「Jud.  自分、武蔵さんとは"村山"で会いまして、その後一緒に"武蔵"をぐるーっと二周した後、一緒に朝ごはんも──」

 

 

 『食べましたね』と言おうとしたところでアデーレは口を閉じた。

 不気味な笑みを浮かべた女衆がこっちを見ているからである。

 

 

「あらなに! アデーレったら私が朝起きれないを利用して武蔵とデート!? まさかの朝帰りッ!?」

 

「ち、ちちち違いますよ! 朝ランニングしてたら偶然会ってご飯奢ってもらっただけですって!」

 

「ちょっと武蔵ー? あんた空腹死寸前の賢姉様を放っといてなに貧乳従士を餌付けしてんのかしら? ……餌付けってよく考えたらエロいわよね? だってほら。『ご飯欲しかったらどうすればいいか分かるよな?』的なシチュエーションだもの。わんわんプレイっやつね!」

 

「すぐエロに直結するのやめてもらっていいですか!?」

 

「はいはい痴話喧嘩はそこまでねー」

 

 

 ギャーギャーと姦しい輩はさておき、出席簿のトーリの項目部分を空白にしてオリオトライはパンパンと手拍子した。

 

 

「さて、いない子のことは後にして本題に入るわよ。ルールは簡単! 事務所に着くまでに先生に攻撃を当てること。当てられたら出席点を五点プラスしてあげるわ

 

 ──つまり、五回分サボれるってわけ。どう? やる気出たかしら?」

 

 

 オリオトライの提案に歓声が涌き出た。

 すると第一特務、点蔵・クロスユナイトが挙手しながら前に出た。

 

 

「先生! 攻撃を"通す"のではなく、"当てる"でいいので御座るか?」

 

「戦闘系は細かいわねー。どっちも似たようなものじゃないのよ。好きなようにやりなさい」

 

 

 それを聞くや否や、点蔵のとなりにいた第二特務、キヨナリ・ウルキアガが耳打ちし始める。

 

 

「聞いたか点蔵。あの女教師、『好きなようにしろ』と公的に認めたぞ」

 

「Jud.  拙者もしかと耳にしたで御座るよ。これがあの『先生の体でお勉強しようか♡』というやつで御座ろう。しかし……金髪巨乳キャラじゃなくてまさか女ゴリラで体験することになろうとは……」

 

「ふっ。甘いな点蔵は。そんなもの、想像力の前には些細なこと。想像力を駆使すれば火も涼しく感じられるということだ」

 

「なるほど……さすがはウッキー殿! ……ゴホンっ。では先生のパーツで触ったり揉んだりしたら減点されるパーツはあり申すか?」

 

「または加点やサービスポイントが出るようなところは?」

 

「よーし準備運動として二人を半殺しにしよっかなー?」

 

 

 『ひいっ!?』と抱き合う二人を尻目に全員の顔を軽く確認した瞬間、オリオトライの身体は後ろへ飛んだ。

 呆気にとられている生徒達の顔を面白がるように彼女は吠える。

 

 

「どうしたの! もう授業は始まってるわよ!」

 

「くっ、追うぞ!」

 

 

 ウルキアガの声に応え全員がオリオトライの後を追う。

 目指すは"品川"、ヤクザの事務所。梅組総動によるカチコミである。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 右舷二番艦"多摩"に警報が走ったのは午前九時前のことだ。

 『奴らが来るぞー!』という物見の声に従い、店を営む者はシャッターを閉じたり防護術式をかけたりとそれぞれに店を守るための対処に動いていた。

 

 そんな中、何の対処もしていない軽食屋の店内にドアベルの音が鳴り響いた。店の名を"青雷亭(ブルーサンダー)"という。

 

 

「──いらっしゃい。なんだい、大工屋の旦那じゃないかい」

 

「客になんだいとはひでぇもんだな、善鬼さんよ。しかし、ここは閉まってなくて助かるよ。ここのパン食わなきゃ、身体が動かねぇもん」

 

「買い被りすぎだよ。それに誉めるんなら、あたしじゃなくてその子に言いな」

 

 

 店主が顎で指したのは白い長髪の自動人形──P-01sだ。焼き上がったばかりのパンをトレーから商品棚に移し変える彼女を見ながら大人二人は。

 

 

「……そういや、この自動人形がこの店に来てからもう一年か。歳をとると一年が短くてしゃあねえな。どうだい、もう一人前かい?」

 

「あたしからすりゃあまだまだだよ。──でも助かってるよ。仕事は丁寧だし、客受けもいい。うちは問題児が二人はいるからねぇ。手伝いの一つや二つ、やってほしいもんだ」

 

「ははっ、自動人形の爪の垢でも煎じて飲ましてみりゃあ、ちっとはよくなるんじゃねえか?」

 

 

 そう言ったところで音が近づいてきた。物音が大きくなっていくにつれ、地震のような地のうねりまでもが増長していく。そろそろこの辺りを通過する頃だろう。

 それを見計らった店主がP-01sに命令した。

 

 

「あんたが作った創作パン、埃かぶんないように布被せときな」

 

「創作パン?」

 

「たまにはこの子のやりたいようにやらせたいと思ってね。そしたら自分のレパートリーを増やしてみるって言うから厨房も好きに使わせてんのさ。まあ、これが変わり種というか、珍妙というか……」

 

「気になるなそれ。なあなあ、おっちゃんに一つ食わしてくれよ」

 

「──jud.」

 

 

 P-01sが奥へ消えたところで店主が呆れたように。

 

 

「……こう言っちゃなんだけどさ、あんまり期待しないほうがいいよ? 自動人形だからなのかは知らないけど、奇をてらったようなモノばかりだから」

 

「いいっていいって。ここの店の商品にゃハズレがねぇんだ。ちょっとばかし形が崩れたもんでもいいってことよ」

 

「……あたしゃどうなっても知らないよ」

 

 

 厨房から戻ってきたP-01sが手にしているトレーに載せられていたのは──。

 

 

「お待たせしました。カツオの刺身にケチャップとマスタードをかけ、パンで挟んでみました。これぞ和洋折衷を体現したパンです。どうぞご賞味ください」

 

「………」

 

 

 外の騒音に負けないような店主の笑い声が店内に響いたのだった。

 

 

 

 

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