境界線上の二天流   作:武智破

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第3話 夢追い人

 

 

 

「──というわけで"品川"には暫定居住区と呼ばれる管理が杜撰な区域があって……って、コラコラ。後からやって来て寝ない! まだ授業中よ!」

 

「「「無茶言うな!」」」

 

 

 甲板に息絶え絶えで倒れている梅組生徒達。さすがに三十分近く走り続けていれば戦闘系、非戦闘系関わらずヘトヘトになるのは当然のこと。しまいには涙を流して木床を濡らす者さえいた。

 

 

「とりあえず、生きてるのは武蔵と鈴だけね」

 

「え、でも、わ、私、運んでもらっ、た、だけですので…はい……」

 

「いいのいいの! これもチームワークってやつよ。二年の頃なんて武蔵くらいしか辿り着けなかったんだし、それと比べたら遥かにいいわ。

 とりあえず二人にはボーナスとして単位でもあげようかしら」

 

 

 『ありが、とう、ございます……』と弱々しく感謝する向井・鈴に武蔵は驚かさないように小さめの声で。

 

 

「鈴さん、ほら手出して──いぇい、ハイターッチ!」

 

「ハイ、タッチ……えへへ……」

 

 

 『いいネタ思い付いたわ……!』。そんな声がどっから聞こえたような……。

 

 その時だ。オリオトライの背後の事務所が勢いよく開いた。あまりに鋭い開閉音に鈴が『ひぃ!』と小さく身を引かせてしまう。

 身長三メートルは下らない赤い肌を持つ四本腕の魔神族が苛立った様子でこっちに向かってきた。

 

 

「うるせぇぞテメェら! 一体何の騒ぎだあぁん?」

 

「うるさいのはどっちよ。まったく、魔神族も地に落ちたわねぇ……あ、ここ空か」

 

 

 やれやれといった態度で背の長剣を肩に担ぐ。そして周囲の生徒達に聞こえるように。

 

 

「さて皆、準備はいい? 魔神族の特徴として体内に流体炉のような器官を持ってるおかげで内燃拝気の獲得速度がハンパじゃないの。肌は重装甲並み、筋力も軽量級武神クラス。ステータスだけ見れば優秀な種族なのよね。

 んで、最も重要な倒し方なんだけど──」

 

 

 その前に、と付け足してオリオトライは魔神族に向かい直す。

 

 

「ねぇ、一つ聞きたいんだけどこの前あった高尾の地上げ憶えてる?」

 

「あん? そんなんいつものことで憶えてねぇなあ!」

 

「あら、そう。じゃあ理由も分からずにぶっ飛ばされるのもかわいそうよねぇ」

 

 

 魔神族のこめかみに血管が浮き走った。

 振り下ろされた二本の腕。一本一本が丸太のような太さを持つ剛腕が繰り出すパンチは人の身体など軽くへし折るだろう。だがオリオトライは難なく避け、戦闘の最中に講説し始めた。

 

 

「いい? 確かに魔神族は強いけど身体の構造は人間とさほど変わらないわ! この魔神族にも頭蓋があり、脳があるの! だから脳震盪を起こすことも可能ってわけ!」

 

 

 連続で殴ってくる魔神族の隙を見て長剣を鞘付きのまま構える。

 

 

「人なら顎の先端を叩く。そして魔神族なら──ここッ!!」

 

 

 魔神族の左角に長剣が叩き込まれる。鈍い音と共に魔神族は膝から力を失って転倒した。くそっ、と吐き捨てながら立とうとするが膝に力が入らなかった。

 オリオトライは止まらない。振りかぶった回転を殺すことなくチャージして。

 

 

「魔神族みたいな大型の生物には神経塊ってのがあるから回復が早いの。だから立ち上がる前に対角線上の位置を強く打つ!」

 

 

 流れるように右角に打撃をぶちこんだ。一発目よりも鈍い音の末、魔神族の意識は闇に落ち、その巨体は木床に沈んだ。

 魔神族が白目を向いているのを確認すると振り返って。

 

 

「──んじゃ、やってみよっか?」

 

「「「出来るかあ!!」」」

 

 

 生徒達が実技を拒否していると背後の事務所が扉を閉まる。扉に施錠の術式がかけられているのを見て面倒くさげにため息を吐いて。

 

 

「あー、こりゃ警戒されちゃったかあ。じゃあ武蔵、あのドアをスパッとやってちょーだい。あ、なんなら事務所ごと斬っちゃっていいわよ。それはそれで手間が省けるし」

 

「Jud. 事務所のみならず"品川"まで斬り伏せてみせよっか?」

 

 

"品川":『やめてください。──以上』

 

 

 

「──あれ? おいおい、皆こんなところでなにやってんだよ」

 

 

 抜こうとした瞬間、後ろのほうで声が聞こえた。

 野次馬が割けて間からやって来たのは小脇に紙袋を挟んだ少年。紙袋からパンを取り出して食しながら向かってくる少年を見て野次馬の誰かが口にした。

 

 

「武蔵の総長……?」

 

「葵・トーリ……!」

 

「"不可能男(インポッシブル)……!"」

 

 

「ん、俺俺、葵・トーリはここにいるぜ? しっかし皆ここでなにしてんだよ? あ、言わなくていいぜ? 俺分かってっからよ! やっぱり皆も俺みたいにエロゲ買いに並んでるんだろ! だろ!?」

 

 

 聞き捨てならない単語が聞こえ、オリオトライの顔が歪んだ。

 しかし万が一……億が一聞き間違えたことも考量して明らかな作り笑顔のまま優しそうな口調で。

 

 

「えーと、もう一度だけ聞くわ。……な・に・を買いに並んだですって?」

 

「おいおいマジかよ先生! 俺の収穫物興味あんのかよ! たくっ、しょうがねぇなあ!」

 

 

 キャラクターの描かれたパッケージの箱を紙袋から取り出し、周囲に自慢気に語り始めた。

 

 

「見ろよこれ! 今日新発売のR元服エロゲ"ぬるはちっ!" これが超泣けるらしくってさ。初回限定版が朝から発売だから早めに起きとかないと、間に合わなかったんだよ。

 しかもよ。あの『チーム・ベラスケス』の最新エロゲなんだぜ! ああ、先生、『チーム・ベラスケス』知ってっか? 綺麗な作画に音は高音質、シチュエーションは最高の三拍子揃った製作チームなんだよ!

 

 テンゾーとウッキーもそう思うだろ? 確かお前らも五、六本持ってたよな?」

 

 

 聞くや否や、点蔵とウルキアガの周りにいた人が距離をとり始めた。ひそひそと聞こえる陰口が二人の心をさらに抉った。

 

 

「……あの馬鹿。こんなところで話すようなことじゃないだろう……!」

 

「うぅ……皆の視線がキツイで御座るよ……」

 

 

「……へぇ、君は授業サボってエロゲ買いに行ってたんだー……」

 

 

 ピキッピキッ、と笑顔はそのままで青筋が二つ。むしろその笑みが怒りをより強調させたのか、皆がオリオトライの周りから引いていく。

  

 だが、トーリはオリオトライの表情が見えておらず、気にも留めない態度のままで。

 

 

「おいなんだよ先生! 先生もこれ欲しかったのかよ! でも残念だけどよ、再販はいつ来るかわかんねぇってゲーム屋のおっちゃん言ってたぜ。まあ安心しなって! 俺がこれクリアしたら次は先生に貸してやんよ。俺と先生の仲だからさ!」

 

「あのさー……先生がなに言いたいか分かってる?」

 

「ああ? 何言ってんだよ先生! 俺と先生は以心伝心のツーカーだろ!? 先生の言いたいことはしっかり俺に伝わってるからよ!」

 

「あら? だったら君は今すぐ"武蔵"から飛び降りてもらわないといけないんだけど」

 

「はあ!? 先生のオッパイ揉ませてくれるんじゃなかったのかよ! 汚ねぇ……大人って汚ねぇよ! 期待させるだけさせといてあっさり裏切るなんて……!」

 

「おいコラ君、頭大丈夫? なんか変なもの見えてない?」

 

「うんとりあえず今はこれだな♪」

 

 

────ムニュリ

 

「な──」

 

「「「あっ──」」」

 

 

「あんれー? っかしなあ。先生のは筋肉とかで硬い見立てだったんだけど、意外と柔らかいんだな」

 

 

 白昼堂々 女性の胸を揉みしだく変態がそこにはいた。

 じっくりねっとりと両の五指を使ってもみもみと、それはパン生地をこねるかのような手つきだった。パン屋の息子だけに。

 

 十数秒揉んだのち、トーリは硬直するオリオトライを他所に皆の前で改まる。

 

 

「あのさ、みんな聞いてくれ。前々から話そうと思ってたんだけど……

 

 ────明日、俺コクろうと思うわ」

 

 

「「「は……?」」」

 

 

 

 立て続けにやって来る情報に理解が追いついてこない。

 そんな中、乱れたウェーブの髪を整え直した喜美がいつものテンションのまま首を傾げて。

 

 

「フフフ愚弟? いきなりやって来てオパーイ揉んだ挙げ句、コクり宣言なんていくらこの私でも予想だに出来なかったわ! 正気の沙汰じゃないわよ! でもって私は優しいからフラれる前に相手の名前だけは聞いてあげる! さあゲロりなさい今すぐッ!」

 

「おい姉ちゃん! フラれるって決めつけないでくれよ! それに姉ちゃんだって分かってるだろ? 

 

 ──ホライゾンだよ」

 

 

 その名を聞いて皆の表情が重くなった。どうすればいいのか分からずに。

 

 何故ならもうこの世にはいない人物の名だったからだ。

 

 

「トーリ……ホライゾンはな……」

 

「分かってるってマイフレンド。ホライゾンは十年前に死んだ、あの後悔通りでな。それは分かってる……」

 

 

「……俺はずっと逃げてた。それにコクった後、皆に迷惑かける。俺、なんも出来ねぇしな。それにその後やろうとしてることは尻拭いってか、世界に喧嘩吹っ掛けるようなもんだしな……」

 

 

 でもよ──。決意を込めた言葉がトーリの口から出た。

 

 

「明日で十年目なんだ、ホライゾンがいなくなってから。だからコクってくるッ! 俺はもう逃げねぇ!」

 

 

 普段とはまるっきり違うトーリを皆は静かに見守っていた。最後に喜美が肩をすくめながら弟に確認を促す。

 

 

「じゃあ愚弟、今日はいろいろ準備の日よね。そして、……今日が最後の普通の日?」

 

「そうだな。──でも安心しろよ姉ちゃん! 俺は何にも出来ねぇけど」

 

 

 右の親指を立て、満面の笑みで──トーリは高らかに謳った。

 

 

「──高望みだけは忘れねぇからよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 そんなトーリの肩をポンと叩く手があった。

 

 

「……ねぇ」

 

「ん? おい誰だよ、せっかくいい所だったのに……おわっ!? なんだよ先生か! もしかして聞いてたかよ!? 今の話!」

 

「……人間ってさ、怒りが頂点に達すると周りの声が聞こえなくなるんだけど、それについてどう思う?」

 

「おいおい先生、もしかして更年期かあ? 先生まだ若いんだからもっと草食って身体作らねぇとダメだぜ? 仕方ねぇ、もう一回言ってやんよ」

 

 

 『あ、これヤバイやつや』

 何かを察知したのか、距離をとる梅組一同。

 

 

「──俺、明日になったら告白しに行くんだ♡」

 

 

「よっしゃあぁぁ! 死亡フラグゲットぉぉぉッ!!」

 

 

 左足に重心を乗せ、右足は伸ばして振るように。

 オリオトライ本気のハイキックはトーリの脇腹を深く抉るようにしてぶっ飛ばした。

 

 トーリはヤクザの事務所の扉を突き破り、そのまま建物までもを貫通して、後ろの倉庫にめり込んでようやく止まった。

 

 倉庫のオーナー曰く、それはそれは綺麗な大の字だっという──。

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 "品川"で馬鹿共が馬鹿やってる頃、戦闘があった"多摩"では嵐が過ぎ去ったことに安堵しながら営業を再開する店が多く見られた。

 

その一角、青雷亭ブルーサンダー前ではP-01sが店先に打ち水していると珍客がやって来る。

 

 

『おみず』

 

『おみず ほしいの』

 

 

 黒い塊に白い点を付け足しただけの珍客だった。その塊が数体、側溝から現れると人目につかないように物陰を移動しなからP-01sの元へと飛び寄ってくる。

 

 

「また淀みましたか?』」

 

『うん おみず こないの』

 

 

 彼らは"武蔵"の下水処理として働く黒藻の獣と呼ばれる意思共通生物だ。

 下水の汚れを取り除き、真水へ濾過するのが彼らの務めなのたが、ちょうどこの辺りは下水管が歪む場所なのだ。流れてくるはずの汚水を"食べる"ことが出来ないのでこうして水を貰いに来たのだ。

 

 

「Jud.」

 

『ありがと』

 

『わんもあ ぷりーず』

 

 

 柄杓で水をかけてあげると側溝からもう一体現れ、水をねだってきたためにその黒藻にも水をかけた。

 連続してかけ続け、七匹目にかけたところで。

 

 

『いいの?』

 

「いいの、とは?」

 

『におうよね? くさくない?』

 

 

 本来、黒藻の獣達は普段から人前には現れない。それもそのはず、汚水を掃除するということは当然ながらその臭いも身体に染み付いてしまうということ。それを彼らは懸念していた。

 

 

「Jud. 正直に申しますと確かに臭います。ですが、その臭いは誰かに害をなそうとして生んだものではありません。そして貴方方は"武蔵"の人々のために働いてくれている。それに応えないわけがありません」

 

 

 それはつまり──。

 

 

『ともだち?』

 

「Jud. 認め合ってる仲をそう呼ぶなら」

 

 

 初めての友達に黒藻達はどこか嬉しそうな動きを見せ。

 

 

『おまなえ ぷりーず』

 

「P-01sと言います」

 

『ありがと いつも』

 

 

 ペコリと身体全体を傾けて一礼。

 それに連動するように後ろで影が動いた。振り返れば、人がやって来た。

 

 

「──?」

 

 

 来客なのだろうか。武蔵アリアダスト教導院の制服に身を包んだ綺麗な黒髪の男子生徒がフラフラと危ない足取りでよろけながらこっちに向かって来て。

 

 

「み、みず……」

 

 

 パタン、と倒れた。

 

 

「……」

 

『いきだおれ?』

 

「Jud. そのようです」

 

 

 とりあえず柄杓でつついてみる。頬の辺りをツンツンと。

 

 

「──返事がない、ただの屍のようです」

 

 

 ……というのは冗談で微かに背中が上下してるので生きてはいるようだ。

 しかしP-01sの一存では決められないので黒藻達を帰すと。

 

 

「店主様、落とし物を拾いました。──いえ、番所への届け出は不要かと。持ち主が分かるのかって? 調べるまでもありません。──持ち主自身が落とし物なのです」

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

「いやいや正純さん。もう少し割りのいいバイト探して、食べてけるようにしたほうがいいよ?」

 

「……はい、以後気をつけます……」

 

 

 申し訳なさそうに出来損ないのパンをムシャムシャ食べる本多・正純。飢えた腹をパンを満たすため、慌てて食べたもんだから喉に詰まりかけてしまう。

 出された水で一気に食道内のモノを飲み流すのを確認すると。

 

 

「誰もとらないからゆっくり食べなよ。正純さん、女の子なんだからもう少しゆとりのある食べ方したほうがいいと思うんだけどなあ。そんなんじゃ、ファンの一人や二人つかないよ?」

 

「……す、すいません……! そ、それに私のこと女だと知ってるのは父の知り合いとか一部だけですし、あまり知られたくないことですから……」

 

「まあ私も倒れた正純さんを脱がすまでは知らなかったわけだしね」

 

「あ、あれは恥ずかしいので……出来れば忘れてほしいです」

 

 

 食べ終わった皿を下げつつ、店主は会話を切り替えた。

 

 

「ところでこんな時間に何してんの? 確かこの時間帯は教導院は授業中だったけど……もしかして生徒会の仕事? それともサボり?」

 

「あ、いえ、この後副会長として酒井学長を三河まで送り届ける予定なんです。オリオトライ先生からは自由登校していいと言われてるので今日は休ませてもらおうかなと」

 

「立派だねえ。なんで"武蔵"の生徒会長が正純さんじゃなくて、うちのトーリなのか、理解に苦しむよ。そういや、どうして生徒会長に立候補しなかったの? 総長は聖連の推薦だけど、生徒会長は立候補と選挙だよね?」

 

「──生徒会長に葵が立候補したからですよ。……"武蔵"に来て一年の私より、この"武蔵"生まれの彼のほうが人となりなどもわかるでしょう。

 

 それに──宮本・武蔵の後押しが一番の理由だからだと思います」

 

 

 当時の教導院では立候補者以外にも生徒会長に適格だとを思われる人物への推薦も多数あった。その中でも人望があり、武に秀でた武蔵が大多数の推薦を受けた。が、結局武蔵が生徒会長になることはなかった。

 

 何故なら武蔵はトーリを推したからだ。これが決定打となり、晴れてトーリは生徒会長に就任することとなった。

 

 

「武蔵のことはよく知りませんけど、あの二人……仲いいですよね。いや幼馴染みだとは聞いてますけど、それ以上の仲といいますか……。実の兄弟と言われても信じられるくらいの間柄ですから」

 

「まあ武蔵が小さい頃はうちでしばらく預かってたりしてたんだよ。武蔵は両親いないから、よくうちに入り浸ってたんだよ」

 

「そう、ですか……」

 

 

 あまり他人の身の上話をとやかく聞くもんじゃないな、と正純は猛省した。

 するとどうだろう。店主はいい笑顔でこちらをじっと見つめ、楽しそうに微笑すると。

 

 

「なんだい、武蔵のことが気になるのかい?」

 

 

 そう言われ、言葉の意味理解するまで数秒。気づいたときは顔を真っ赤にして否定していた。

 

 

「ち、ちちち違いますよ! ただ単純に仲がいいなあってなだけで──!」

 

「そうかいそうかい。──だったらさ、もっと親しくなりたくないかい?」

 

 

 その問いかけの意味が分からず、正純は首を傾げた。そして店主はどこか遠い目をしていた。何かを思い耽った、そういった目だ。

 

 

「正純さん、もしこの後時間あるならさ──後悔通り、調べてみなよ」

 

「後悔通りって……」

 

 

 その名は知っていた。中央後艦"奥多摩"右舷側、自然公園を抜けた先にある小道。

 初めて聞いた時は変わった名だなとは思っていたが、それが一体何だというのか。

 

 

「もっと"武蔵"のこと、みんなのこと知りたいなら調べるのもいいんじゃないかなってね。だから──一歩踏み出してみなよ。そうすれば"武蔵"の、あの子達のいろんな面が見えてくるさ」

 

 

 そう言った店主の顔は亡き母にどこか似た笑顔で紙袋を渡してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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