白鳥志貴は兄である   作:exemoon

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初投稿です。
月姫とか勇者であるシリーズのネタバレが結構あるかもしれないのでご注意ください。


2015年7月30日 上

幼いころ、魔法使いに出会ったことがある。

その人は、誰にも信じてもらえなかった「眼」のことを信じてくれて、これからどうすればいいか一緒に考えてくれた。

短い間だったけど、何か大切なことを教えてくれた

たった一人の先生だった――――

 

 

 

 

 

――――夏。

多くの学生が夏休みを迎える七月の末。

自分こと白鳥志貴も、学生の例に漏れず夏休みを甘受していた。

 

 

ふと、目が覚めた。

と時刻はまだ朝の八時。学校のある日よりは遅いが、体がまだ規律を保っているらしい。とはいえ夏休みである、惰眠をむさぼるという手段をもって謳歌しなければ、夏休みに失礼というものだろう。

偶には、二度寝も悪くない―――

 

 

「お兄ちゃん起きてーーーーーー!!」

「おごばっ!?」

 

 

体に衝撃。強制的に意識が覚醒させられる。

「あ、起きた。グッモーニン、お兄ちゃん」

残念ながら二度寝は彼方へ。

妹にボディプレスを仕掛けられたらいくら何でも寝てられない。

眼鏡をかけ、体を起こす。

 

 

「お、おはよう歌野。起こすときはもう少し穏やかにできない?」

怒りたいところだがこういう時はたいてい自分が何かしらやらかしている。

とりあえず、冷静に抗議する。

「えー?ふつーの起こし方だったらお兄ちゃん起きないじゃない」

「いや、ここまで過激じゃなくても起きるよ。特に今なんか普段より起きる時間も遅いし」

 「おにーちゃんシリアスリー?今日も、2.3回起こしたけど起きなかったよー?それに、昨日起こしてって頼んだのはお兄ちゃんじゃない。時南先生のとこ行くんでしょ?」

 やはり、自分の方が立場が悪いらしい。撤退。この件は有耶無耶にせねばなるまい。

 

 

「ともかく起こしてくれてありがとうな。着替えたらリビングに行くよ」

「ユアウェルカムお兄ちゃん。朝ご飯の用意して待ってるね。」

そう言って、歌野は自分の部屋を出ていった。

さて、さっさと着替えることにしよう。

 

 

リビングに行くと、食卓にはご飯、みそ汁に漬物、納豆が並べられていた。手間のかかるものではないとはいえ、実に手際がいい。

そのうち、家事を全部一人でこなしてしまいそうだ。そうなってしまっては、兄としての沽券に関わる。何とか、今のままでいてほしいものだ。

「うたのー歌野はそのままでいてくれー」

「何言ってるの?お兄ちゃん、でもグッドタイミングね。ほら、座って」

キョトンとした顔でスルーされる。

あいよと返事をして座り、二人同時に手を合わせる。

「「いただきます」」

 

 

「それにしても、いい手際だな。いつでも嫁に出れるんじゃないか?」

「そうでしょう、そうでしょう。もっと褒めて。なんなら、お兄ちゃんがもらってくれてもいいのよ?」

歌野が胸を張って威張る。俺の言葉がお気に召したようだ。

だけど、自分からもっと褒めろというのは中々自信家が過ぎる気がする。

「もう少し慎み深ければ考えるんだけどなぁ」

折角、綺麗なんだから、おしとやかにしておけば数年後にはさぞ、おもてになるであろうに。

 

 

そんな他愛のない話をしながら、食事をとっていると、不意に、家が揺れた。

大した揺れではなかったが、念のためテレビをつけて震度を確認する。

震度は3。震源は岐阜だったようだ。

 

「また地震か。父さんと母さんは大丈夫かな?」

「最近、ほんとひどいよね。でも、ドントウォーリー。二人が今いる四国じゃ被害は少ないらしいわよ。」

「へぇ、それは安心だけどなんでだろ?」

「さぁ?海に囲まれてるからじゃない?」

「日本全国そうだろ。そりゃ長野には海ないけど」

そーだったわねー、と 笑う歌野。

こいつの無邪気な笑顔を見ていると、まぁ大丈夫かな、なんて理屈もなしに思えてしまう。俺も随分絆されたものだ。

 

 

ここ最近、各地では異常豪雨、地震、など様々な自然災害が頻発している。あんまりにもひどいものでこれは神の怒りなのだー、なんて言説まで流布しているらしい。

幸いにも、俺たちが住んでいる諏訪近辺はあまり被害にあわず、こうして日常を謳歌できている。とはいえ、両親の仕事には中々影響があったみたいで二人は各地を飛び回っている。何か災害が仕事に関係していたらしい。

 

 ――――あれ?災害に関係している仕事なら、なぜ両親は被害の少ない四国にいるのだろう。

 

ふと、疑問が浮かぶが、自分も歌野も両親の仕事についてよく知らないし、聞いても小難しい大人の理屈をこねくり回されるだけだろう、疑問を思考の片隅に追いやる。

 

「お兄ちゃん、何ぼーっとしてるの?みそ汁冷めちゃうわよ」

「ん、悪い。少し考えごとしてた」

とりあえず、食事を済ませてしまおう。

 

 

 

「じゃあ行ってくる。昼は適当に食べてくるから」

「はーい。いってらっしゃい、お兄ちゃん」

妹に一声かけ、家を出る。

今日は雲一つない快晴。おかげで灼熱の日差しが容赦なく肌を刺す。

「——っと、のんびりしてたらバスに乗り遅れちゃうな」

バスは二時間に一本しか来ない。乗り遅れたら面倒だ。

 

 

 

 

家を出て二時間、およそ病院には見えない時南医院に到着した。

「まさか、こんなに時間がかかるとは…」

もっと早く到着するはずであったが、今朝から地震が何度も起きてるせいでバスが遅れ、普段の倍以上時間がかかってしまった。

 

 

 

「白鳥ですけど、宗玄のじいさんは暇していますかー?」

そうインターホンに呼びかけると、割烹着を着た女性が玄関を開けてくれた。

「こんにちは、志貴さん。お体の調子はどうですか?」

「こんにちは、瑠璃さん。じいさんから今日で来なくていいなんて言われるかもしれないぐらい元気ですよ。」

「それはよかったです。でも、来なくなってしまうというのは少し寂しいです。」

 

この女性は、時南宗玄の養女兼弟子の瑠璃さん。普段は時南家の家事などして過ごしている。昔死にかけた時、助けてくれた俺の命の恩人でもある人だ。

因みに、時南宗玄には瑠璃さんのほかにもう一人娘がいる。

「どうぞ、入ってください。ご案内します。」

瑠璃さんはそう言って、診察室まで案内してくれた。

 

「おう、ようやっと来たか小僧」

診察室でしばらく待っていると、着流しというまるで医者らしくない服を着て、時南宗玄は現れた。

「ええ、瑠璃さんや朱鷺恵さんに言われたら、来ないわけにはいきませんから。時南先生と顔を合わせるのは、半年に一度でも十分なんですけどね」

「ほざけ、小僧。そりゃワシの言い分じゃ」

軽口を言いながら、対面に腰を下ろす時南宗玄。

お互い慣れたもので、指示がなくても何をすべきかわかる。

シャツを脱ぎ、上半身を裸にする。

 

 

 

「ふん、確かにこのところ調子は良いみたいだな」

「はい、おかげさまで」

「まったく、今まで苦労を掛けられっぱなしだったからのう」

 言いつつ、背中や脇をべたべた触ってくる。

「ここに初めて来た時は、死人のような体をしとった癖に。これじゃあ苛め甲斐がないではないか」

「なんてこと言うんです…痛い!痛い!ヤブ医者痛い!」

「体のゆがみを直してやっとるんじゃ。痛みがなければ有難みがないだろう」

「うう…なんで医者に来て整体染みたことされなきゃいけないんだろう…」

「馬鹿者。ワシの方こそ泣き言を言いたいんじゃぞ。男の体なぞ触っても嬉しくもなんともないわ」

 

 

「…もうよいぞ」

「あれ、いつもより短くないですか?」

「これ以上する必要がないからな。瑠璃や朱鷺恵にも感謝しておけ小僧、お前の体がここまでまともになったのはワシだけの力ではない。随分家でも健康を管理されとるようだしの」

「言われなくても、感謝していますよ。どこぞのヤブよりよほど頼りになりますしね。」

「ふん、とにかく体の方は問題ない。暇なら朱鷺恵に鍼でも打ってもらえばよかろう」

そう言って、ヤブ医者は席を立とうとする。

 

 ――――と、また地震が来た。ヤブ医者がこけそうになったので慌てて体を支える。

今度の地震もあまり強くはなく、しばらくすると、揺れは収まった。

「ふん。相変わらず、反射神経は悪くないの」

「はいはい。とりあえず、今日のこの様子じゃ、危なっかしくて鍼は打ってもらえそうにないので、もう帰りますね」

「ああ、次来るときは酒の一本でもってこい」

そうして診察室を出ると――――

 

 

「あら、志貴君。さっきバス行っちゃったみたいだから、お昼ご飯食べていったら?」

と、声をかけられた。

声の主は、時南宗玄の実娘、朱鷺恵さん。

「本当ですか!?しまった、バスが遅れてること忘れてたな…」

今日のこの様子では、次にバスが来るのがいつになることやらわからない。

「しょうがないわね、帰りは車で送って行ってあげるわよ。ちょうど、駅前に用事もあったことだし」

「いいんですか?それじゃあお言葉に甘えて…」

やはり、ヤブより朱鷺恵さんのほうが頼りになるかもしれない…

 

 

 

「家の前まで送ってもらって、すみませんでした朱鷺恵さん」

「気にしないで、私の方こそ、買い物に付き合ってもらっちゃったしお相子よ。それじゃあまたね、志貴君」

「ええ、お気をつけて」

そうして、朱鷺恵さんの車は走り去っていった。

 

 

 

「さて、ちょっと早いけど、風呂にでも入るかな」

もうすっかり日が暮れている。

いつも外をほっつき歩いている歌野も、さすがにもう帰ってきているだろう。

「ただいまー」

そう言って、家に入るも、返事はなく、リビングにも明かりはついていない。

「あれ、歌野いないのかー?」

また返事はなく、部屋を確認してもどこにもいない。

「歌野のやつ、また本宮の方うろついてるのかな?」

歌野はよくあの辺りで近所の友達と遊んだりして過ごしている。

とはいえ、ここ最近こんな時間になっても帰ってないということはなかった。

念のため、電話をかけてみるか、とリビングの電話を手に取ったその時――――

 

 

突如、地面が激しく揺れ始めた。

 

 

視る景色がぶれるような強い揺れは十数秒間ほど続き、そして収まった。

「部屋のものが少なくて助かったな」

今日ほど自分の無趣味さに感謝できる日はないだろう、なんて、ズレた思考が頭をよぎる。

    

 

思考が平常に戻ると不意に、歌野が心配になる。

 

あれほどの強い地震だ、建物が倒壊していてもおかしくない。

朱鷺恵さんも心配だけど、彼女は大人だし、車に乗っていたから多分大丈夫だろう。

今は歌野のほうが心配だ。

 

軽く息を吐き、瞑目する。少し気持ちが落ち着いた。やるべき事も纏まった。

まず、歌野の番号に電話をかける。 

当然のように繋がらない。回線がパンクしているのだろう。

「なら、虱潰しに探すしかないか―――」

何やら、嫌な予感がする。

万一のため肉親の形見を懐に入れおく。

玄関を出ると、辺りはもう暗くなっていた。

 

周りを見渡すと、いつも見る光景とあまり変わらない。ご近所には被害が少なかったようだ。地震は思っていたよりも、大したことがなかったのかもしれない、と思考がやや楽観的になる。

ふと、視界に違和感を覚え、今一度辺りを見渡す。

地震で少し変わっているとはいえ、やはりいつもとさして変わらない光景。

なんとなく、空を見上げる。

 

――――すると、何やら、オカシナモノが、視えた。

 

 

「なんだ―――あれ―――――」

眼鏡は、はずしてないのに目がアリエナイものを映し出す。

眼前には、アニメや漫画で見るような巨大な結界のようなモノがあって

その境界線の向こうには、ナニカ、キモチノワルイ、バケモノがいた。

――――数えきれないほどの星屑のように

 

 

 

――――こうして、白鳥志貴の穏やかで幸せな日常は、終わりを告げた




白鳥志貴 2001年10月15日生まれ
まだ中学2年生。たどった歴史が遠野志貴君と違うので割と健康。眼鏡君なのは変わらず。彼の過去とかはそのうち明らかになるはず。小学生の頃からいっぱい貯金してるので中学生の中では小金持ち。なお無駄になる模様。シスコン。

白鳥歌野 2004年12月31日生まれ
まだ小学5年生、10歳、若杉やろ!ウッソだろお前!?原作では、小学生ながら人々に希望を与え続け、一人で諏訪を3年間守った農業王、メンタルお化け。信念を貫く子供など、薄気味が悪い!(カテ公) あとブラコン。

時南宗玄
闇医者。志貴君の実父と関りがあったらしい。腕は確か。定期的に志貴の健康を診てくれてる。志貴とは憎まれ口を叩きあうぐらいには仲いい。昔はたくさん愛人をかこっていたらしい。半隠居爺さん。

時南朱鷺恵
優しいお姉さん。宗玄の実娘。最近、志貴君を見る目が怪しい。鍼治療のエキスパート。ちょくちょく志貴君の身体を診たりもする。魔性の女。

時南瑠璃
優しいお姉さんパート2.宗玄の養女。薬学のエキスパート。頼めば、大体のお薬は調合してくれる。志貴君の命の恩人。経緯は追々。半オリキャラ。元ネタは花のみやこ!の巫浄瑠璃。なお、ググってもほぼ顔が出ないかわいそうな子。イメージ的には琥珀と翡翠を足して2で割った感じ。完璧超人。
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