白鳥志貴は兄である   作:exemoon

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難産。文体試行錯誤中。
DDD3巻が出ないので初投稿です。


壮途

ある晩夏、私に兄が出来た。

 

その時、私はただ無邪気にお兄ちゃんができたと喜び、諏訪に来たばかりの兄にいろいろ教えてあげようと、おかしな話だが姉気取りで彼を連れまわしていた。

出会った頃の兄はどこか儚げで、常に何かに怯えているようだった。

その儚げな雰囲気が私に、彼を元気づけなければ、なんて使命感を抱かさせたのかもしれない。

 

今になって思えば、あの頃の私は無条件に自分を認めてくれる存在を、無意識に求めていたのだろう。

事実、私は兄に甘えに甘えた。兄は我儘な妹に本当によく付き合ってくれた。

だけど、私はその優しさが何なのか考えなかった。ただ優しさを甘受し、兄への信頼を深めていった。

 

ただただ、私が甘えるだけだったその関係に変化が起きたのは、小学三年生の秋だった。

隣の家には、少々頑固なおじいさんが住んでいた。

後から聞いた話だが、奥さんは早くに亡くなっていて、息子とも仲が悪かったらしく酷く孤独な暮らしだったらしい。

 

 

十月に入りそれまで、そのおじいさんとあまり関わりがなかった兄が急にそのおじいさんの家で過ごすことが増えた。

私は子供もながら小さな嫉妬をした。それまで、自分を一番にしてくれてると信じて疑わなかった兄が急にほかの人にもちょっかいをかけ始めたのだ。面白いはずもなかった。

それなら兄と一緒におじいさんの家で過ごせばよかったのだが、幼い私にとって老人の家で過ごすよりも、友達と遊ぶほうがよほど面白かった。

故に、おじいさんの臨終を兄が看取った時も、私は傍にいなかった。

 

 

その日の晩、兄は縁側でただ黙って月を眺めていた。

私は、初めて知る現実的な死がよくわからなくて、少し怖くて、だから聞いてしまった。

 

―――お兄ちゃんは怖くないの?

 

酷く曖昧な質問だけどお兄ちゃんは理解したらしかった。

 

―――怖いよ 多分人より怖いと思う

 

―――だけどね

 

―――誰かが傍にいれば少しは怖くないと思うんだ

 

 

ああ、この時なんの理屈もないのに理解してしまった。

兄は優しすぎる、本当に。しかも、その優しさは誰にでも向けられるもの。異常なほどに。

あまり親しくないおじいさんが長くないことを知って、傍にいてあげる。

そんな優しさ、誰もがふりまけるものではない。

それ故、その優しさは酷く孤独。誰にでも理解できて誰にも理解されることはない。

 

 

だから、私は誰よりも彼の傍にいると決めた。。

そうすれば、彼の孤独を埋められるかもしれない。

いや―――こんなのはただの言い訳だ

 

―――私は初めて会った時から彼のことが好きだったんだ

 

兄妹としてではなく、人間として―――――

 

…この時

私にとって、白鳥志貴は誰よりも何よりも大切な、特別な存在となった。

 

 

 

 

 

 

 

あのあと、歌野は体力を使い果たしたのか眠ってしまった。

仕方がないので、歌野をおぶって結界に戻る。

思い返してみれば、歌野を背負うのは随分久しぶりだ。

昔は本当に俺に甘えてきてくれてよくおぶっていたんだけど、いつからそういうことはなくなった。

 

「それにしても、やっぱり軽いな…」

 

こんな小さな体で戦い続けていたのかと思うと、胸が苦しくなる。

本当に…こいつはすごい奴だ。

春宮の前まで来るが、なぜか瑠璃さんの車は影も形もない。

 

「あれ、おかしいな…ここで待ってるって言ってたはずなんだけど」

 

瑠璃さんに限って、勝手に帰るなんてことはないはずだ。

何かあったのだろうか。

 

「あ、志貴さん。ご無事でしたか」

 

水都ちゃんがとことこと駆けてくる。

何やら荷物を多く抱えている。

 

「ああ、水都ちゃん。何とか、大丈夫だよ。ところで、瑠璃さんは?」

 

「瑠璃さんでしたら、さっき避難してきた方の中に発作を起こしてる人がいて、今その方を病院に運んでいます。ちょっと前に出発したのでしばらくしたら戻ってくると思いますよ。」

 

「そっか。歌野を診てもらいたかったんだけど、そういうことなら仕方がないな。」

 

歌野は、重傷こそ負ってないが細かな傷が多く負っていた。できるだけ早く手当てをしてやりたい。

ベンチかどこかで休ませてもらおう。

俺も少し休まないとダメそうだし。

 

「あっ、そ、そうだったんですね。気付かなくて、すみません。私救急箱持ってきてるので、応急処置ならできます!」

 

そう言うと、水都ちゃんは持っていた荷物から、応急箱を取り出した。

 

「本当かい!?ありがとう、助かるよ水都ちゃん!」

本当にこの子には、世話になりっぱなしだ。

 

 

水都ちゃんに手当てをしてもらった後、近くのベンチで休む。

歌野を膝枕してやっていると、彼女に聞きたかったことがあるのを思い出した。

 

「そういえば、水都ちゃんに聞きたかったんだけど、さっき歌野の場所教えてくれたでしょ。あれってどういうふうにわかったの?」

 

「ど、どういうふうに…ですか?」

 

「ああ、たとえば誰か知り合いの場所を知りたいって念じれば分かるような、意識的に使えるものなのかなって」

 

「い、いえ、突然、何の前触れもなくイメージが湧くんです。何かあいまいなイメージがパッと頭の中に浮かぶんですけど、なぜだかそのイメージが伝えようとする意味が分かるといいますか…」

 

「なるほど、一方通行なんだ、その力。占い…いや、神託みたいなものなのかな?」

 

「神託…ですか?」

 

「ああ、さっき水都ちゃんが受け取った情報ってさ、水都ちゃんだけではどうやっても活用できない情報じゃないか。結界の外の歌野の位置情報なんて本来、あってもあまり役に立つものじゃないだろう?そもそも普通、人を食う化け物がいるところになんて誰も行かないからね。だけど、水都ちゃんが歌野の位置を知った時、ちょうど俺がその情報を欲しがっていた。それでその情報を教えてもらえた結果、俺は歌野の力になれた。ほら、この情報一つでえらく限定的だけど、一つの問題が解決された。占いの助言みたいだけど、意識的なものでないからむしろ神話の神託に似てるかなって」

 

無論、水都ちゃんは巫女だとかそういう存在じゃないし、特別な儀式をしてるわけでもないけどしっくりくる言葉は神託ぐらいしかないように思える。

 

 

「そういえば、昔からそういうことがあったのかな?」

 

「いえ、そういうイメージが見えるようになったのは昨日今日の話で…どういうものかまだ全然わかってないんです」

 

「そっか、それは不安だったよね。だけど、それを飲み込めるなんて、水都ちゃんは我慢強いんだね」

 

そう、普通じゃないものを突然知ったり、視えたりするようになって平静でいられるのは立派な強さだ。ましてやその力を誰かのために使おうと思えるなんて普通はできない。

 

「―――い、いえ。そんな大したことじゃないです。……あのっ、志貴さんは何でそんな簡単に私の話を信じてくれたんですか?」

 

「そうだね…今朝も言ったけど、水都ちゃんが嘘を言う理由もないし、何より俺がその情報を信じたかったからだよ。ただ、それだけのことさ」

 

「で、でも、私の情報が間違っているかもしれなかったじゃないですか。そうなれば、余計志貴さんは大変になったかもしれなかったんですよ?」

 

なんだろう。彼女には自分の力を信じられていない印象がある。いや、昨日今日で得たモノだから当然だろうけど、どちらかというと自分に自信がもてていないように思える。

 

「ああ、だけど水都ちゃんは真剣だったじゃないか。確かに俄かには信じがたい話かもしれない。だからこそきっと、あの時の水都ちゃんはすごく勇気を出して言ってくれたんじゃないかなと思ってさ。それに、水都ちゃんが強くていい子だっていうことは分かっていたからね。信じない訳にはいかないよ」

 

「――――――私、そんな褒められるような大した人間じゃないです。結局、私は助けられてばっかりですし…」

 

「そんなことないよ。昨夜、水都ちゃんがあの男の子を助けようとしていたことも知ってるし、今日もまたこうして、色々と助けてくれたじゃないか」

 

本当に彼女には助けられてる。歌野のこともそうだけど、今日彼女がいなかったらそれこそもっと大変なことになっていたかもしれない。

 

「そ、そんなこと…」

 

ふと、俺はまだ大事なことを彼女に言い忘れていたことに気づく。まったく、もう少し早く思い出すべきだったのに。

 

「大事な事を言ってなかったな。ごめん水都ちゃん。もっと早く言うべきだった。水都ちゃんのおかげで俺は歌野を助けられた。だから、本当にありがとう」

 

「――――――」

 

む、水都ちゃんが固まってしまった。顔も赤くなってるし、もう少し涼めるところを探すべきかもしれない。

と、考えていると瑠璃さんが戻ってきた。

 

「すみませーん!お待たせしましたー!」

 

いいタイミングだ。

とりあえず、ここから移動すれば何とかなるか。

 

 

 

 

「で、なんでうちの家なんですか?」

 

瑠璃さんの車に乗せられてやってきたのはまさかの自宅だった。

たった一晩帰らなかっただけなのに、なんだか随分久しぶりに戻ってきた気がする。

それはさておき、てっきり病院に行くものだと思っていたのだけど…

 

「それがですね、病院が現在パンク状態でして。病院に行くよりこうして静かな家に行ったほうが何かとやりやすいかなと」

 

「それで、あんなに荷物が多かったんだな…まぁどのみち、瑠璃さんには世話になりっぱなしだしこれくらい構わ

ないですけど」

 

そう言って、家の中に入る。

と、玄関のドアのかぎをかけ忘れていたことを思い出し、苦笑してしまう。

とりあえず、歌野を部屋で寝かせてやろう。

 

 

 

「歌野さんが起きたら、今後のことなど諸々話したいんですが、その前に志貴さんにお願いがあります」

 

歌野や俺を診てくれた後、リビングでお茶を飲んだり持って来てくれたお菓子をつまんでいると瑠璃さんが唐突に変な事を言いだした。

歌野は部屋で寝かしている。

 

「ん、どうしたんだい瑠璃さん、急に改まって」

 

まぁ瑠璃さんには何かと世話になってるし大体のことは引き受けてあげようとは思うけど。

 

「いえ、現状けっこう避難してきた方の数が多くて住居の問題が出てきてるんですよ。それでですね、うちの一家なんですけど、志貴さんちのご厄介になれたらなと」

 

「構いませんけど……………え?」

 

反射的に答えてしまったけど何か、変なお願い事を承諾した気がする。

……気のせいだよな?

 

「よかったぁ、これで二人にもいい報告ができます。志貴さんち広いし狙ってたんですよ」

 

まずい、気のせいではなかったようだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!いきなりすぎますし、そもそもなんで俺に言うんですか!?」

 

「だって、今の白鳥家は志貴さんが家長じゃないですか。ですから、まず志貴さんに話を通すのが筋かと思いまして」

 

「だからと言って、そんなことはい、いいですよなんて答えられる訳ないじゃないですか!」

 

「いやだなぁ、志貴さん今承諾してくれたじゃないですか」

 

「い、今のは反射的に答えてしまっただけで…」

 

そう。断じて、承諾したわけではないのだ

 

「でも、どのみち親御さんもいませんしこの先も戦っていくのでしたら家に誰かしらいたほうがいいですよ?もちろん家事などはこちらにお任せしていただいて結構ですし。それにいつでも二人を診てあげられますし」

 

ぐう、正直これからまたあの化け物と戦うって行くのであれば、頻繁に宗玄の爺さんや朱鷺恵さん、瑠璃さんに身体を診てもらうことになるし、家事だって追いつかなくなるかもしれない。だったら、確かにこの家に住んでもらうほうが都合がいい。それに子供だけより、大人が家にいてくれるほうが外聞もいいし。とはいえ、少々気が引けてしまうのも確かだ。…こうなれば、歌野に判断を投げてしまおう。

 

「―――わかりました。まあ、俺は構わないですけど、返事は歌野の意見を聞いてからでもいいですか?」

 

最も、歌野だったら二つ返事で承諾しそうだけど。

 

「ええ、勿論です。いいお返事を期待してますね」

 

はぁ、何か瑠璃さんキャラが変わっきているような気がする。

それにしても住居の問題か。あれ、その問題なら他に―――

 

「待った。その件なら水都ちゃんはどうなるんだ」

 

ふと、気になり尋ねる。

よくよく考えれば、水都ちゃんのことについて俺はほとんど何も知らない。

 

「わ、私のことは気にしないでください。一応家族もいますし」

 

昨夜は一人だったけど家族も無事だったのか。

それはよかった。やっぱり家族はいたほうがいいと思うし。

 

「それならいいんだ。だけど、困ったことがあったらすぐ相談するんだよ」

 

「はい、ありがとうございます志貴さん」

 

「いっそのこと、水都さんも一緒にここに住んじゃいますか?」

 

また、瑠璃さんがさらりとすごい事を言った。

一体、どうしたんだ、そこまではっちゃけた人じゃなかったはずだぞ?

 

「ちょっと、瑠璃さん…急に何言ってるんですか」

 

「いえ、まじめな話、藤森さんの力ってきっと歌野さんや志貴さんと一緒にいて真価を発揮するものなんだと思います。さっきまで、歌野さんが着ていた装束も藤森さんが教えていたものなんじゃないですか?昨夜、何やら話していましたし」

 

「は、はい、そうです。昨夜、その装束が春宮にあるイメージや化け物が多くいる場所イメージがみえて、それを歌野ちゃんに伝えてました。どうして、分かったんですか?」

 

なんと。そんなことまで分かるのか。さっき結構話していたのにそこまで聞けていなかったとは…

 

「いえ、半分勘です。水都さんの力が化け物に関係するものでなおかつ、歌野さんと話しているのを見たのでそれでそうなのかなと。まぁ何はともかく、水都さんは志貴さん、歌野さんとできるだけ一緒にいたほうがいいんじゃないかなと」

 

「―――俺は構わないけど、水都ちゃんは嫌じゃないのかい他人の、しかも異性のいる家に住むなんて」

 

思っていたより、筋の通った話だったし部屋はまだ余ってるから俺としては問題ない。

ただやっぱり、年頃の女の子はこういうことを気にするんじゃないか?

しかも、まだ出会って一日もたっていないってのに…

と思ったが、

 

「わ、私は気にしませんので!大丈夫です!」

 

妙に水都ちゃんは食いついてきた。

いや、そこは正直、気にしてほしい。

ただ、これだと歌野の意見待ちだな。

どのみち、三人も四人も一緒だ。

なんだか、嫌な予感するけど…

と、そこで唐突にリビングのドアが開かれた

 

「私はそのプラン賛成よ!」

 

「う、歌野!?起きて大丈夫なのか!?」

 

「ええ、ノープロブレムよお兄ちゃん。ただ、かなりサースティーね」

 

そう言うと歌野はテーブルの上にある俺の麦茶を飲みほした。

相変わらず、手の早い奴だ。

ともあれ、平気そうな顔を見れて本当に安心できた。

 

「ふー、生き返ったわ。それで話の続きだけどね、やっぱり瑠璃さんたちが近くにいてくれたほうがお兄ちゃんの身体も安心だし、みーちゃんが傍にいてくれたら私たちの動きも速くなって、被害も減ると思うの。だから、みんなでこの家に住むのがベストだと思うわ!」

 

「決まりですね。これからよろしくお願いしますね、志貴さん、歌野さん、水都さん」

 

「は、はい、こちらこそよろしくお願いします。志貴さん、歌野ちゃん、瑠璃さん」

 

「ノン、みーちゃん。うたのんって呼んでって言ったでしょ?」

 

「う、うん。よろしくね、うたのん」

 

「グレート!みんなこれからよろしくね!」

 

ああ、なんだろうこの感じ。この歌野の勢いに圧倒されるような雰囲気。ようやく、家に帰ってこれたような気がする。こいつといると何とかなるような気がしてくるから不思議だ。

それにしても、いつの間にあんなに仲良くなったのだろう。

 

「さて、歌野さんも起きましたし、情報共有と状況の整理をしましょうか」

 

「ええ、そうですね。まずあの化け物についての情報を共有しましょ。私が見てきた限り、奴らは人だけを狙って襲っているわ。特に人が多く集まっているところに群がるみたいね。銃や刃物はまるで通じてないみたいでその顎は鉄をも簡単にかみ砕いていくほどよ。空から飛んできて、合体したら格段に強くなったわ。正体は全然分からない。こんなところね。他に何かあるかしら?」

 

さすがにこれ以上は水都ちゃんも俺も何も知らなかった。

現状、あの化け物に最も詳しいのは歌野だろう。

 

「他は特にはありませんね。それでは現在の諏訪についてお話ししましょうか。現状、日本全土があの化け物の襲撃にあったとみられ、諏訪以外の状況はほとんど不明です。」

 

「ほかの地域と連絡はとれてないの?」

 

「ええ、今のところは。ですが、諏訪がこうして守られている以上、他の地域にも安全圏が存在する可能性も十分にあると思われます。」

 

ただ、誰も口にはしていないがこの諏訪が日本いやもしかしたら世界唯一の安全圏になっている可能性も捨てきれない。それを考えたのか皆の空気が重くなる。

 

「また、諏訪は外界との接触が断たれましたが何故か電気やガス、水道が普段と同じように使用できています。しかし、さすがに携帯電話での通話などできないことも多いみたいですね。化け物のことといい人知を超えた何かが起きているのは確かですね。住居や食料の問題もなかなか深刻で一部では食料や生活必需品の買いだめや売り渋りが起きているようです。まだ分からないことだらけですが、諏訪各地で外界との連絡手段を模索しています。連絡手段が見つかればきっと、いい情報が見つかりますよ」

 

……思っていたより、今の状況はよくないみたいだ。

依然、両親は心配だし分からないことだらけだ。

雰囲気が少々暗くなる。

とはいえ、状況が今のままとも限らないしあまり悲観的にはならないほうがいいだろう。

 

「それじゃあ、次ね。お兄ちゃんの持ってるパワーってどんなもの?私のはシンプルよ!奴らを倒せる鞭持ったらすごくスピーディーでパワフルになったわ!あと、あの服はいろんなダメージをガードしてくれるみたいでとても便利ね!」

 

暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように歌野が語る。やhり、こういう時の歌野は頼もしく感じる。そういえば、歌野に聞きたいことがあったのを思い出す。

 

「歌野、それはいつから使えるようになったんだ?」

 

「昨日よ。本宮で鞭を手にしたら急に力が湧いてきて、そうしたら、あの化け物を倒せるんだって理由はないけど分かったの!それで、お兄ちゃんのはどんなの?すっごい跳び跳ねてて、みんな一撃で倒してたわよね?」

 

ああ、正直話したくない。

きっと、みんなを怖がらせてしまうし、そもそも信じてもらえるかわからない。

だが、みんなから色々聞いておいて自分だけ話さないのはなしだろう。

腹をくくるしかないか―――

 

「ああ…なんて言ったらいいのかな、俺さ、モノの切れる線や点が見えるんだ」

 

「「「え?」」」

 

あ、呆れてる。

そりゃ、当然か。

こんな話信じてもらえるはずもない。

 

「そ、それ、どういう意味ですか?」

 

瑠璃さんがおずおずと尋ねてくる。

一応、話は聞いてくれるみたいだ。

 

「そうだな、分かりやすく説明するのは難しいけど―――」

 

と、そこで先生に教えてもらったことをまとめたノートが部屋にあることを思い出した。

昔、先生に言われて作ったものだ。

あの人はこうなることまで分かっていたのだろうか。

三人には、少し待ってもらい部屋の奥に大事にしまっていたノートを探す。

 

―――あった

 

この小さな古ぼけたノートを手に取ると、過去の思い出に意識が持っていかれそうになる。

いけない。今することではない。

感傷は置いていかなければ。

 

 

「―――それで、志貴さんは何を取りに行ってたんですか」

 

リビングに戻ると瑠璃さんにまた質問を受けた。

話してる途中に席を立ったのだから、それは疑問にもなるだろう。

 

「ああ、昔俺の『眼』についていろいろ教えてくれた人がいてね。その人が教えてくれたことを纏めたノートを取りに行ってたんだよ」

 

「昔?ということは、志貴さんのそれは歌野さんや水都さんのように昨日今日でのものではないんですか?」

 

「ああ、生まれつきって訳じゃないんだけどね。四年前のあの件からおかしなものが視えるようになったんだ」

 

「四年前って、お兄ちゃんが事故で死にかけた時!?」

 

「―――ああ。その時からだ」

 

本当は事故ではなかったのだが…これは今話すことではないだろう。

 

「それで、志貴さんが見ているものについて詳しくお聞きしても?」

 

「ああ、だからモノの切れる線が視えるんだよ、俺。生き物と地面とか、とりあえず触れるものなら全部。黒い線みたいでさ、それに刃物を通すときれいに切断できるんだけど、別に好きなところが切れるんじゃなくて線が視えてるところしか切れないんだ。それとは別に、黒い点も視えててそこが線の中心点みたいになってる。先生――この眼について教えてくれた人は『直死の魔眼』って呼んでいたな。」

 

「直視の…いや直死の魔眼…ですか…それはつまり志貴さんが見ているものは…」

 

「ああ、先生によると線はモノの死にやすい場所で点は対象の死、そのものなんだって」

 

ノートをめくりながら語る。

正直、こうして話しているだけで気分は悪いし、正直今でもこの事実を認めたくない気持ちは強い。

でも、ごまかすことはできない。俺はこの先もこの「眼」と付き合っていくしかないのだから。

 

「うぅ…うっ…」

 

「みーちゃん大丈夫!?」

 

と、そこで急に水都ちゃんが口を押えて蹲る。

顔も青くなっている。慌てて、歌野が背中を撫でている。

やはり、この話は聞かせるべきではなかったかもしれない。

 

「ごめん…やっぱりこんな話するべきじゃなかったな…」

 

「―――い、いえ、私が悪いんです。すみません、お話を聞いてる時にこんなこと。

 ―――だけど、志貴さんこそ平気なんですか?」

 

ああ、やっぱりこの子はすごいな。

「眼」の怖さをすぐに解って、それでもなお俺の心配をしてくれるなんて普通はできない。

 

「…………いや、全然平気じゃなかったよ。…助けてくれた人がいたんだ。俺の眼がこうなって困ってた時、その人がこの眼鏡をくれた。この眼鏡をしてたら線や点は見えなくて、今じゃレンズだけしか使ってないけど、これのおかげでなんとか普通に生活が遅れてるんだ」

 

―――あの秋の夜。出会ったあの人は本当に多くのことを教えてくれた。返しても、返しきれない恩義がある。

 

「ちょ、ちょっと待ってください志貴さん。ということは、志貴さん身体は普通の人間と変わりないってことですか!?」

 

「ああ、瑠璃さん。そうだけど…」

 

「「「――――――」」」

 

なんだか急に静かになったな。

みんな、見たことのない顔をしているけど、大丈夫だろうか。

 

「正直その『眼』のことはまだ信じきれませんが…仮に本当だとすればあの化け物と戦うとき、手が届く距離まで近づかないといけないってことですよね?それで戦ってたなんて…そんなの今生きてるほうが不思議なくらいじゃないですか!」

 

「ま、待った、瑠璃さん。危ないのは歌野だって同じじゃないか。それにこうして無事なんだからいいじゃないか」

 

「何言ってるんですか!歌野さんは、危なくなったら逃げられる力はありますし、そういう約束もしました!だけど、志貴さんは昨夜だって倒れましたし歌野さんの装束のような防具もありませんから簡単に死んじゃうんですよ!?ええ、きちんとそのあたりの確認をせず志貴さんを送った私も悪いです。ですけど、もう少し、自分の身体を大切にしてください…」

 

やばい、瑠璃さんが泣いてしまいそうだ。

しかし、俺はこれからも戦おうと思ってるし、瑠璃さんになんと言えばいいだろう?

 

「ストップよ、瑠璃さん。お兄ちゃんに一つ聞きたいんだけど、それじゃあ戦っていた時のあの出鱈目な動きは何?あんな動き、私にだってできないわよ。正直、お兄ちゃん私よりよっぽど戦いなれてる感じがしたし、説明してもらえるわよね?」

 

と、思ったら歌野からも答えづらいことを聞かれてしまう。

しかも、いつになく真剣な表情だ。

とてもじゃないけど、言い逃れできそうな雰囲気ではないらしい。

本当の事を話してみるか。

正直、信じてもらえるような話でもないし、簡単にそれらしく説明すればいいだろう。。

 

「………ああ、歌野には話していなかったけどな。俺の前の家は妖怪退治をしてたんだよ。それで、俺もああいう化け物との戦い方を仕込まれてたんだ」

 

「えっ――――――」

 

歌野はものの見事に固まってる。水都ちゃんは最早話についていけてないみたいで混乱している。瑠璃さんは苦々しい顔で頭を抱えている。まさか本当に話してしまうとは思わなかったのだろう。まぁ、まずは順当な反応といえるかもしれない。それにしても、我ながら実に簡潔に説明したものだ。

 

「………お兄ちゃん、それ本気で言ってるの?」

 

しまった。本気で歌野を怒らせてしまったようだ。

とはいえ、こうなる気はしていたしこれ以外に言いようはないから甘んじて怒られるしかないか…

 

「歌野さん、志貴さんの言ったことは大方その通りです」

 

と、そこで冷静になった瑠璃さんが助け舟を出してくれた。

正直、意外だ。

 

「瑠璃さん、なぜそんなことを知ってるの?」

 

「はい、私もその妖怪退治の関係者でしたから」

 

「―――嘘ではないのね、だったら!」

 

「歌野、悪いけどこれ以上は話したくないんだ…だから…」

 

正直、昔の話はあまりしたくないし、あまりショッキングな話を歌野に聞かせたくない。

 

「―――――――――はぁ、わかったわ。正直、アンビリーバブルな話だけど今は目をつむってあげるわ」

 

長い沈黙の後、驚いたことに歌野は俺の我儘を聞いてくれた。

 

「いいのか、歌野。結構、むちゃなこと言った自覚はあるんだけど」

 

「よくないわよ。ただ、今聞いてもお兄ちゃん絶対答えないでしょ。だけど、その分私もわがままを言うわ」

 

なんだろう。歌野が我儘なんてとても珍しいけど。

正直まるで想像がつかない。

 

「お兄ちゃん。これから先も、私と一緒に戦って」

 

「歌野さん!?」 

「うたのん!?」

 

「ごめんね。さっき話していたようにお兄ちゃんが戦うのがどれだけ危険かわかってる。だけど、それでもお兄ちゃんには私のそばで一緒に戦ってほしい。きっと、お兄ちゃんが一緒にいてくれたら私は何倍も強くなれると思うから」

 

―――そうか。歌野には、この先俺がどうやっても戦い続けようとするのが分かったのだろう。

だから、こうしてわがままなんて形で瑠璃さんに俺が戦うことを認めさせようとしてくれているんだ。

まったく、これじゃあどっちが年上か分からないな。せっかく歌野が御膳立てしてくれているんだ、乗らない訳にはいかないだろう。

 

「ああ、最初からそのつもりだったんだ。お前が嫌だって言ったって離れてやらないんだからな」

 

それに、俺は歌野を守ると決めたんだ。

両親がいない今、歌野を守れるのは俺だけだ。

だから、こいつを何があっても守ってやらなくちゃいけない。

 

「ありがとう、お兄ちゃん。お兄ちゃんが手伝ってくれるなら怖いものなんて何にもないんだから!」

 

―――そう言うと、歌野は見惚れてしまうぐらい鮮やかな笑顔を浮かべた。




志貴君
小学生を口説いていくスタイル。なお、本人はそういう意識がないからたちが悪い。水都ちゃんへの好感度が急上昇中。ちょっとだけ昔のことを話した。まだいろいろ隠している。

水都ちゃん
いい子。志貴君待ってる間に避難者の対応とかいろいろしてたら瑠璃さんと名前で呼び合うくらいには仲良くなった。因みに避難者の大半は避難所になってる近くの公民館に案内した。ちょくちょくうたのんに勇者装束のありかとか星屑がいっぱいいるところを教えてた。志貴君に口説かれた。あと、家族は一応無事。なんではぐれたかというと祖父母と父母が仲悪くて別行動。おかげで双方が水都ちゃんは向こうと一緒に行動してると思い込み孤立。なので、病院で合流後大惨事家族大戦が勃発して余計家族と一緒にいづらくなる。そんな状況で仲良くなった子と気になるお兄さんとの同居の提案。乗るしかないこのビックウェーブにって感じだったらしい。直死の魔眼持ちの視界を想像し、気分が悪くなる。けど、怖いと感じるよりまず志貴君の心配するいい子。

瑠璃さん
発作を起こしたおばあちゃんを運んでたりした。徹夜明けのテンションとか諸々で白鳥家ではちょっとだけおかしくなる。とはいえ、情報収集能力の高さは全く損なわれていない。妖怪退治の関係者らしい。同居作戦提案に成功。

うたのん
寝て起きて麦茶飲んだら復活した。お兄ちゃんに一緒に戦ってほしいと告白。大胆な告白は女の子の特権。変な寝方したのに起きたらもう平常運転な辺りやはりたくましい。実はまだちょっと眠い。


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