排球   作:虚体無名

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「あの■■先輩、スパイクの時なに考えてるんですか?」
「スパイクの時?」

後輩である■■からそのような質問をされ、■■は首を捻る。
同じスパイカーであり、■■とは四歳の差がある彼は、大学時代の最優秀選手に選ばれた猛者である。
そんな彼は、伸び悩んでいた。
そして同じく最優秀選手に選ばれた事のある■■へと、アドバイスを求めてきたのだ。
結論から言えば、参考にはならなかった。
何故ならば___

「どうすれば気持ちよく決まるか、だな」

と、威圧感を撒き散らしながら言われ、悩みなど吹き飛んでしまったからである。



七話

 

とある日曜日。

あの影山の孤独を解消してから三ヶ月。

日山は隣町へと足を伸ばしていた。

小さな用事の為に、この場所へ訪れていた。

自転車特有の擦れる音を聞きながら、目的地へ足を動かす。

暫くして、とある公園に着いた。

そこには《セッター魂》と書かれている、黒のTシャツを着た影山が居た。

 

「待たせちまったか?」

「俺が早く来ただけだ」

「そんなに楽しみなのか?」

「ああ」

 

日山がニヤニヤと笑いながら問うと、影山は即答した。

それに日山は面食らう。

なにを影山が楽しみにしているのか、それは2日前に遡るが、簡潔に言えば日山に、バレーチームが使っている体育館に来ないかと誘われた為である。

あの大会の終わり際に、二人は連絡先を交換していたのだ。

それに影山は飛び付き、こうして案内の為に日山が来た。

 

「そりゃ良かった。行くぜ」

「おう」

 

日山の言葉に続いて、影山も自身の自転車へ股がった。

先導する日山の後ろを、影山はワクワクしながら付いて行く。

そして、穏やかな時間が流れて、日山が口を開いた。

 

「中総体お疲れさん。全国のベスト8、スゲーなぁ」

「…」

「どうした?」

「…俺はもっと上に行きたかった」

 

あの試合の日から影山は実力を発揮し、以前の様な嫌味的なモノではなく、その実力から〝コート上の王様〟と呼ばれるまでになった。

その実力は全国に通じたが、惜しくも準準決勝で敗退。

それに影山は満足すること無く、貪欲に上を目指している。

それに日山は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「ははっ!その悔しさを忘れなけりゃ、お前はもっと強くなれる」

「…そうか?」

「ああ、俺が保証するぜ」

「…妙に説得力があるな」

 

苦笑い気味の笑みを溢しながら、影山は日山の背中を追いかけた。

その顔は、どこか晴れやかだった。

 

 

 

 

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キッ!とブレーキの音を響かせ、駐輪場へ自転車を止めた二人は、市民体育館の入り口へ向かう。

影山は待ちきれないと言わんばかりにソワソワしていた。

それを楽しそうに眺めた日山は、扉を開く。

そして慣れたように受付の人と言葉を交わし、影山を手招きする。

シューズに履き替え、体育館へ入った影山は、オレンジ色の髪を持った、元気に騒いでいる日向を見つけた。

それと同時に、日向も影山を見つけ、目を見開いた。

そして物凄いスピードへ走り寄ると、日山に詰め寄った。

 

「なんで影山が居んの!?」

「俺が呼んだからだよ」

「言って無かったのか?」

「ああ、こいつに()()言ってねぇんだよ」

「なんで!?」

「驚かせようと思って」

「ぬぅ~っ!」

「お前は…」

「あ!俺は日向翔陽!よろしくな影山!」

「日向翔陽…覚えた。よろしく」

 

叫ぶ日向に、日山はカラカラと笑いながら頭をポフポフする。

それに日向は頭を抱え、体を捻りながらうねる。

日向の名前を知らない影山は、小さくそう呟くと、日向が速攻で反応し、自分の名前を叫ぶ。

日向翔陽を()()()()()()()()()()と脳内にインプットした影山は、端から見ればぶっきらぼうに見える返事を返した。

日山はそれが最大限の挨拶だと()()()()()ため、微笑ましく見守り、日向は気にも止めず、目をキラキラさせながら影山に近づいた。

 

「なぁなぁ!〝コート上の王様〟ってくそカッケェよな!」

「お、おう?」

「それにお前スゲー上手いよな!トスの正確さどうなってんの!?機械みてぇだよな!」

「俺はセッターだからな。トスは…トスだけは、誰にも負けねぇ」

「か、カッケェ…!」

「流石」

 

詰め寄られ、戸惑った様に変な声を上げる影山だが、日向はお構い無く思った事を口に出していく。

そしてトスの話題になると、影山は真剣な表情を浮かべ、大きな自信を込めてそう言った。

日向はさらに目をキラキラ光らせ、感極まった様に呟く。

日山は()()()()()()とでも言いたげに、短く言う。

日向が騒ぎ日山がノッて影山が返す。

その光景は、付き合いの長い親友達の談笑の様だった。

 

「ほれバレーバカ共、アップ始めるぞー」

 

パンパンと手を叩きながら、日山の父親:日山彰矢(ショーヤ)がそう告げた。

話し込んでいた三人はハッ!と意識を取り戻すと、ゾロゾロとチームの所へ戻るり、列に並ぶ。

そしてピッ!と音がなり、タイマーがスタートすると、全員が走り始めた。

 

「まずは10分走ってストレッチ。その後にパス、んでレシーブとスパイク練の後に試合形式だ」

「分かった」

「なぁ試合一緒になろうぜ!」

「勝手に決めて良いのか?」

「大丈夫だ。そこらへんは緩いんだよここは」

「そうか。お前もこっちか?」

「おう、お前と一緒に戦うなんて楽しそうなこと逃してたまるかよ」

「楽しみだなぁ!」

「ワクワクすんな…!」

「なぁ!今度トス教えてくれよ!」

「ああ、また来るからその時に___」

 

などと結構なペースで走る中、この三人だけは喋り続けながら足を動かす。

特に日向は高くジャンプしながら走り、なおかつ一番喋っているので、見てるだけで疲れる。

実際何人かの大人はうんざりとした顔で日向を見ていた。

 

 

 

 

 

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ストレッチと対人パス、レシーブの練習を終え、スパイク練習となった。

セッターである影山は、スパイカーから返されたボールをセットアップする。

フワリと弧を描いて上げられるボールは、それぞれが一定の高さを保って、スパイカーへ落ちていく。

セットアップされるボールの全てが、()()()()()()を保ち続ける。

それに気づいたのは日向、日山、彰矢、そしてこのチームの正セッター・高梁だけだった。

 

「スッゲー…」

「何あのトス。高梁さん出来る?」

「出来るわけねっすよあんなの…天才って怖いっすね」

「…」

 

日向は目をキラキラさせながら呟き、彰矢と高梁は戦慄の表情を浮かべる。

その言葉には、畏怖が込められていた。

対して日山はまるで()()()()()様な、満足気な顔で影山を見ていた。

 

「おい当夜、次お前だぞ」

「…ん?あ、わりぃ父さん」

 

順番が回ってきたにも関わらず、突っ立ったままの日山へ、彰矢が肩を叩きながら促した。

影山を見つめていた日山は意識を戻すと、早足で前に出る。

影山から打たれたボールを返し、セットアップと同時に走り出す。

ゆっくりと落ちてくるボールに楽しげな笑みを浮かべた日山は、渾身の力で飛ぶ。

そして飛ぶと同時に腕を引き、弧を描いてボールを叩く。

 

鈍い音がなる。

バレー特有の低く、くぐもった音が()()()()()()()()チームメイトへ届いた。

日山は、()()()()()()()程だったスパイクの感触を確かめるように、手を見つめる。

叩き付けられたボールが2階へ落ちたのと同時に、日山は影山の方を向いた。

 

「ナイストス」

「…ナイスキー」

 

影山は、楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

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「んじゃ試合始めんぞー」

 

その号令に、影山、日向はソワソワしだし、待ちきれないとばかりに早足でコートに移動する。

その様子を日山は面白そうに笑いながら、後ろを付いて行った。

その様子を彰矢、高梁、他三人は恐々と見ていた。

 

「…あの三人がチームってやばくね?」

「ヤバイっすよ。どうあがいても勝てる気しないんすけど」

「あれで中三とか詐欺じゃねぇの?」

「出来れば当夜くんが前衛の時に前衛になりませんように」

「文字通り吹っ飛ばされるもんな」

 

などと酷い言われようである。

もはや手を合わせて願っている者も居る。

それをつゆ知らず、妖怪(バケモノ)三人組は、ローテや作戦の確認をしていく。

 

そんなこんながありまして、遂に試合が始まった。

日向は高い身体能力を生かし、スパイクと()()()()()()()()()、ほとんどのボールを上げる。

加えて素早さを生かしたブロードで点を稼ぐ。

日山はOPのポジションに付き、上げられるボールを相手に叩きつける。

まさしくエースと呼べる存在だった。

影山は乱れたボールも全て上げ、“コート上の王様″に相応しい働きをしていた。

弾かれたボールにも追い付き、コート外からの精密なロングセットアップにはほとんどのプレイヤーが絶句した。

 

しかし、相手チームもバケモノと長く付き添い、共に戦った猛者である。

簡単にはやられず、食らい付いていた。

 

そして、相手からのスパイクを影山が上げる。

そのボールの下に素早く潜り込んだ日山は、セットアップの準備をしながら、叫んだ。

 

「翔陽!入ってこい!」

「!」

『!?』

 

その言葉に日向は瞬時に反応し、助走に入る。

そのタイミングは通常のクイックよりも早かった。

影山はどうするんだ?と注意を凝らして見つめ、他のプレイヤーはこいつらは何かやると確信していた。

そして、トスを上げる前に、()()()()()()()()()()()()()()する。

そして、日山はボールに触れると同時に、日向は腕を振るい___

 

___ピンポイントで、日向の打点にボールが向かう。

 

叩きつけられ、テンテンと転がるボールを暫く眺めて、ゆっくりと振り返える。

 

「上手く行ったな」

「うおぉ~っ!やっぱこれ気持ち良い~!」

「お、お前ら…今のなんだ?」

 

日山が満足気に頷き、日向は手を掲げながら叫ぶ。

そこへ影山がおっかなびっくりとしながら近づく。

 

「あぁ、今のはマイナステンポっつってな。まぁメチャクチャ早い速攻だよ」

「マイナステンポ…」

「ボールビュン!って来た!スゲー早かった!」

「なんで今まで使わなかったんだ?」

「確かに早いけどよ、その分難しいんだわ。今は打点に合わせられたけど、射程はコート幅の1/4位しかねぇし、体の正面側じゃねぇと出来ねぇ」

「なるほど…」

 

確かに二人の超速攻は成功したが、成功率は高く無い。

せいぜい六割もあれば良い方だ。

 

「でも影山、お前なら出来るんじゃねぇか?」

「!」

 

日山の言葉に、影山は考え込む。

手本は見た、決して出来ない事は無い。

影山は顔を上げると、自信の乗った表情を日向と日山へ向けた。

それに日向は興奮し、日山は嬉しそうに笑う。

 

ローテが回りサーブを打つ。

そのボールはスパイクとなって返ってきた。

日山がレシーブに向かい、完全に威力を殺した優しいボールを、影山に上げる。

 

___それと同時に、日向が助走を始める。

 

しかも、先程の倍以上の距離を持って走る。

それを影山は横目で見て、ボールに視線を戻す。

 

___コートが四角形で分割される。

 

___日向が翔ぶ。

 

___影山がボールに触れる。

 

___日向が腕を振るう。

 

___打点をロックオンした影山が、ピンポイントにボールを持っていく。

 

そして、ボールはコートに叩きつけられた。

 

「~っ!」

「…」

 

日向は嬉しさでにやけが止まらず、声にならない声を上げて腕を上げる。

影山は日向とは正反対で、静かに両手を合わせた。

それに高梁は戦慄し、日山は楽し気な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

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あの後、日向が撹乱し日山が決める最強コンボで突き放し、そのまま勝ちをもぎ取った。

そして三人の居るチームが全勝するという記録を叩きだし、今日の練習は終了した。

そして残りの時間を適当に時間を潰そうとしていた日向と日山へ、影山が声を掛けた。

 

「なぁ、お前達は高校どこに行くんだ?」

 

二人が振り向けば、影山が真剣な表情で見詰めていた。

それを見た日山は表には出さずに、内心ではメチャクチャドキドキしていた。

 

「俺らは烏野だよ」

「烏野…?白鳥沢とか青葉城西じゃ無いのか?」

「確かに、バレーの強豪とも迷ったんだが…烏野は俺の憧れなんだよ」

「俺は小さな巨人に憧れて!」

 

そう言う日山の表情は、夢を見る少年の様な顔をしていた。

日向は無邪気な笑みを浮かべてそう告げる。

それを見た影山は暫く無言になって、意を決した様に口を開いた。

 

「なら俺も、烏野に行く」

「「!!」」

 

その言葉に日向は純粋に驚き、日山は嬉しさ全開で目を見開いた。

 

「でも影山はさ、いろんな所から声かかってるんじゃ無いの?」

「確かに、影山程のセッターを欲しがるところは多いだろうな」

「…確かに、声は掛けられた。確か狢坂?とか井闥山とか」

「強豪じゃねぇか!?」

「でも俺は…お前らと一緒に戦いたい」

「!」

「お前らとバレーしたい」

 

真っ直ぐ、影山はそう言った。

告げられた高校に日山は驚愕したが、影山の宣言に口を閉じた。

そして、日向が口を開く。

 

「じゃあこれからよろしくな!影山!」

「!…あぁ、よろしくな日向、日山」

「…まぁ驚いたが…断る理由がねぇよ。よろしくな」

 

日山から差し出された手を、影山は握り返す。

二人の顔は、楽し気な笑みを浮かべていた。

 

…そして、日山が握力を強め、なぜか物凄く威圧感を感じさせる満面の笑みを浮かべる。

余りにも唐突な変化に、影山は目を見開いた。

そしてゆっくりと、日山は影山へ告げる。

 

「んじゃ、勉強…しようか?」

 

影山は手を振りほどいて、背を向けて全力で走り出した。

 





日向が、日山の家でテレビに釘付けになっている。
その理由は、テレビで流れている春高バレー、その()()の試合を見ているためである。
そしてそれは、日向だけでは無く、日山にも言えることである。
日向の無邪気な顔とは対照的に、闘争心が剥き出した顔で、睨み付けるようにテレビを見ていた。
そこでおもむろに日向が口を開く。

「〟小さな巨人〝…かっけぇ~っ!」

両手を握り、目をキラキラさせながら日向は叫ぶ。
それに続くように、日山も口を開いた。

「俺、高校は烏野に行こうと思ってたんだよな…」
「そうなの!?」
「あぁ、烏野は…俺の夢だ」

何かを思い浮かべているのか、遠い目で虚空を見つめる日山。
日向は小さく首を傾げたが、テレビに向き直り、勢いよく立ち上がった。

「俺は!小さな巨人になる!」

握りこぶしを作り、日向はそう宣言した。
現実に戻ってきた日山は、日向の宣言を聞くと嬉しそうな笑みを浮かべる。
そして、優しく日向の肩に手を置いた。

__日向が振り返った先には、おっかない笑みを浮かべた日山が居た。

その笑みの怖さに日向が震えていると、日山がゆっくりと口を開く。

「勉強…しような?」

日向は初めて、同年代の友達に、恐怖した。
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