忠実な従者(仮)   作:晴猫

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新作です。

鹿角 修夜(かづの しゅうや)178cm
出羽家の従者の一人。雪に絶対的な忠誠を誓う。
鈍感で自分より雪が最優先。


出羽 雪(でわ せつ)157cm 85-55-84
出羽家の一人娘。
スポーツ以外はなんでもできる和風美人。
学園での人気はかなり高い。
修夜に対してだけは、わがまま。

秋元 花音(あきもと かのん)155cm 78-53-80
雪の一番のお付き。雪とは幼馴染であり、良き友人でもある。
胸があまり大きくないことを気にしている。(重要)

出羽 義輝(でわ よしてる)180cm
出羽家現当主であり、雪の父親。
修夜を拾い、育てたこともあり実の息子のように可愛がっている。
普段は、頭のキレる男だが、雪には甘い。






1章 絶対的な従者

両親が死んだ。

交通事故だと突然知らない大人に告げられた。

涙であふれる眼元を何度も拭きながら、両親の遺影を見つめる。

その遺影からは、いつもの両親の声は聞こえない。

遺影を見るのもつらくなり、俺は下を向いた。

ただ、もう明日から両親はいない。明日から会えない。

頭の中にはグルグルと、理解しがたい現実が渦巻いていた。

 

「ねえ、君、私のものにならない?」

 

下を向いていた俺に、突然かけられた言葉に驚き顔を上げる。

 

「ふふっ、男の子がそんなに泣いちゃダメなんだよ?」

 

思わぬ一言に、眼を見開く。

両親が死んだのだ。二人の家族を同時に失ったのだ。

それでも、彼女は笑顔で俺を見ている。長く黒い髪が美しく、一瞬で眼を奪われてしまう。

 

行くあてもない。残された道は、孤児としてどこかに連れていかれるだけだ。

当時、そこまでのことは考えていなかったが、なりふり構っている暇がないことは幼心にわかっていた。

 

「なります……あなたのものに」

 

そして、選んだ。少女のものになることを……

 

「わかった!お父様に言ってくる!」

 

俺の返答に聞くと嬉しそうに駆け出した少女。その後ろ姿から、俺は眼を離せなかった。

 

居場所をくれた少女。馬車馬のように働かされてもあの子のために、居場所を守るために頑張ろう。

 

そう心に決めたのだ。それが俺が生きるために必要だから……

 

 

 

 

 

 

強い風が吹く。

寝ている俺の肌をなでる風は、夏特有の熱気を帯びている。

 

「なんでこんなに暑いんだよ……」

 

「夏、まっただ中だからですよ」

 

俺、鹿角 修夜(かづの しゅうや)の呟いた一言は、少女の一言に遮られてしまう。

声のほうへ視線を向けると、腰まで長い髪の少女がこちらを覗き、その後ろからショートボブの少女が睨んでいる。

 

「雪様、いらっしゃったのですか?」

 

「ん~! 修夜くん気づいていましたよね?」

 

俺の主人である出羽 雪(でわ せつ)様。

彼女はこの町、華屋町(はなやちょう)でも古くからの名家である出羽家の一人娘。

容姿端麗で、成績優秀な少女。惜しくもスポーツは得意ではないが、欠点があったほうが人間らしいだろう。

 

頬を膨らませ、ジトッとした眼で、こちらを見る長い髪の少女。

しかし、残念ながら全く怖くないのが雪様クオリティ。

 

ふと、先ほどと同じく強い風が吹く。

白いワンピースを着ている雪様。風のせいなのか、おかげなのか、簡単にワンピースは舞い上がる。

その結果、棚ぼたな光景が目の前に広がる。

 

「きゃ!?」

 

「……白か」

 

「え?」

 

「あ……」

 

その真っ白な下着をおもわず凝視してしまい、口から洩れる。

気づいた時には、後の祭りだった。

 

 

「何してんのよ!」

 

「ふぐっ!」

 

顔面を思いっきり踏みつけられた痛みから、その場でゴロゴロと転げまわる。

 

「なに当たり前のように雪様のスカートの中を覗いてんのよ!」

 

「踏むことはないだろ!」

 

上半身を上げ、患部を抑えながら二人のほうを見やる。

 

俺の顔を踏みつけたのは、こちらを威嚇するように睨むショートボブの少女。

先ほどまで雪様の後ろにいた少女、秋元 花音(あきもと かのん)がいつものように食ってかかってくる。

 

「修夜くん……」

 

「あ、はい」

 

ご立腹の雪様は、無言で近寄ってくる。

 

「謝罪の言葉はありますか?」

 

「大変申し訳ございませんでした」

 

もちろん正直に頭を下げる。本来なら土下座するべきだと思うが、建膝をつく。

 

「あんたは、本当に雪様には従順よね」

 

「主人だぞ……当たり前だろ」

 

眼を反らしながら、答える俺。

 

実際は、笑顔で怒る雪様の説教が、面倒くさいからとは言えない。

 

「すばらしいです。ちゃんと主人が誰かわかってますね!」

 

雪様は、嬉しそうに腰に手を当て、鼻息を荒くする。

 

「いえ雪様。あれは、雪様の説教が面倒くさいからだと思います」

 

「なぜ、わかった!?」

 

「なぜわからないと思った……あんた何年の付き合いと思ってんのよ」

 

呆れたようにため息をつき、雪様を見る花音。

 

「し、知らなかった……」

 

「大丈夫です。それも雪様の魅力ですから」

 

「あんまり嬉しくありません!」

 

少し涙目になりながら、花音に抗議を示す雪様。

 

寝っ転がっていた田んぼの畔から立ち上がる。

 

「本当にこんなところで寝れるって修夜ぐらいよね」

 

「それって褒めてんの?」

 

「はっ、なわけ」

 

鼻で笑う花音にイラっと来るが、事実なので我慢する。

 

「じゃあ、一緒にここで昼寝でも……」

 

「いいです……」

 

「よくないです」

 

「ぶぅ」

 

お付き様のガードは硬く、俺の昼寝仲間は増えなかった。

まあ、これからもっと暑くなるからしばらくはここを使わないと思うが……

 

「雪様!女の子なんですから気を付けてください!そこの変態が何をしでかすか……」

 

「変態言うな、変態」

 

「大丈夫ですよ、修夜くんですから」

 

「理由になってないんですけど……」

 

謎の信頼を得ているらしいが、俺も不安になる。

 

「あ、ところで俺に用ですか?」

 

ここに来たという事は、なにかあったということだろう。

現在は夏休み。基本的に俺の仕事は、学園の間ということになっているため、あまり雪様とはいない。

というより一緒にいると大変なのだ。いろんなところに強制で付き合わされるため、絶対に疲れる。

 

「あ、忘れてました!」

 

「用事を伝えに来たのに忘れていたんですか?」

 

「うっかりしてました」

 

「本当に姉妹みたいですね」

 

毎回の如くこのやり取りを見てるが、悪くない。むしろ写真集作ったら、結構売れそう。

 

「姉妹ですか~だったら私がお姉ちゃんですね!」

 

「え?」

 

「え?」

 

雪様が言った一言に花音が首を傾げ、顔を見合わせる。

 

「あの、雪様……それは無理がありますよ?」

 

「何を言ってるんですか?花音。私は、まじめに言ってますよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

静寂が訪れる。もう一波乱来る予感があり、徐々に二人の顔が曇っていく。

面倒なことになる前に間に入ることにした。

 

 

「あの、一回きり脱線するの辞めません?」

 

「そ、そうですね」

 

「……」

 

納得がいっていない様子の二人だが、なんとか制止できた。

また話が脱線する前に話を聞くか……

 

「で、用事とは?」

 

「あ、それです!」

 

「ここまで長かったですね……」

 

「はい、用事っていうのは、私ではなくお父様です」

 

「……義輝様ですか」

 

「あからさまに嫌な顔しないの」

 

「だって……」

 

出羽 義輝(でわ よしてる)様。現在、出羽家当主で雪様の実の父。

厳格だが、町の人々にも尊敬されるような人だ。そして、俺の恩人でもある。雪様のわがままを聞き入れ、両親の死んだ俺を養ってくれている。

欠点を上げるとすれば、一人娘の雪様に甘いことだ。

 

「仕事だろ絶対……」

 

「それが使命でしょう?」

 

「しばらくは休みだって言ってたのに!」

 

「修夜くんならあっという間ですよ!」

 

「そういう問題じゃないんです。雪様……」

 

面倒にな仕事になるのは、目に見えているが、行かなければまた別で怒られるので我慢するしかない。

雪様に同伴してもらおうと思ったが、更にややこしくする可能性もあるので、一人で行くことにする。

 

「……とりあえず行ってきます」

 

「はい、頑張ってください!」

 

「死なないようにね~」

 

笑顔で手を振る雪様と、にやけた笑みを浮かべた花音にため息をつきながら、出羽家へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

せわしくなく続く廊下と障子の前を通り、一番奥へ着いたところで、正座をする。

息を大きく吸い、大きく吐く。息を整え、声を出す。

 

「義輝様。修夜です」

 

「待っていたぞ。修夜」

 

「失礼します」

 

最後の障子を開ける先にいるのは、我らが出羽家当主、出羽義輝様。

着物に扇子、床の間がとても似合う。

屋敷の主、実質的な町の(おさ)、誰もが認めるカリスマ、そして、俺の恩人の一人。

 

「今回は、どうしたのですか?」

 

「お前が、ここに来るのも久しいな」

 

「はい、夏休み前ですから」

 

障子を閉め、入口の近くで、すぐに建膝をつく。

 

「いい加減、その堅苦しいのはやめないか?」

 

「……俺は、あくまでも雪様のもの……ですので」

 

「そうか」

 

ため息をつき持っている扇子(せんす)を開き、軽く(あお)ぐ。

 

「して、雪とはどうだ?」

 

「……どうだ、と申しますと?」

 

「お前も強情だな」

 

「何もないものを、どう申せば良いのですか?」

 

「一応ではあるぞ? 私はお前の父親のつもりなのだが」

 

「……」

 

「少しは、自分を優先してみてはどうだ?」

 

優しさなのか、自立しろという意味なのか、俺には理解ができない。

だからこそ、平行線をたどる。自分の居場所があるところに……

 

「ご用件はなんでしょうか?」

 

「……わかった」

 

諦めたのか、またもため息をつき扇子を扇ぐ。

しかし、次に正面を向いた顔は、真剣な眼差しを向けてくる。

 

「仕事だ」

 

一気に空気が張り詰める。扇子がしまる音だけが、床の間に響く。

 

「なにやら雪の周辺を嗅ぎまわっている犬がおる」

 

「犬、ですか?」

 

その言い方ならそこまで大きな相手ではないようだ。

せいぜい、金目当てだろう。

 

「金か、雪か、細かいことはわからんが犬の討伐、可能なら生かして連れてこい」

 

「1人ですか?」

 

「複数……と言っても、4、5人くらいだろう」

 

「決行は?」

 

「今夜だ、ああ一応、今日は吸っておけ、武器を持っているかもしれん」

 

保険をかけるのか、かけすぎな気もするが……

 

「承知しました」

 

「前みたいに、吸いすぎるなよ」

 

「っ!……承知しました」

 

「お前も年頃だ。興奮するなとは言わんが……」

 

「承知しました!!」

 

義輝様の話を途中で断ち切るように、大声を出す。

 

「今日は、失礼します!!」

 

勢いよく障子を開け、また長い廊下を歩いていく。

 

 

 

 

 

「……まったく」

 

頬杖をつき、空いたままになった障子から空を眺める。

 

「成長っていうものはあっという間なものだな」

 

「いかん、いかん」

 

どうも歳を取ると感傷的になってしまうな……

 

 

 

 

「たくっ、あの人は何考えてるんだよ……」

 

屋敷から出ようと靴を履いていると、玄関が開く。

 

「あ、修夜くん!もうお説教は終わりましたか?」

 

「雪様、説教前提で聞かないでください」

 

「なんだ、あっさりね」

 

ちょうどよく帰ってきた雪様と、花音が声をかけてくる。

 

「だから説教とかじゃないから」

 

「では、もう帰るのですか?」

 

今夜は、任務がある。そのために準備したいことはあるが……

 

「はい、少し散歩をして帰ろうかと……」

 

「そうですか……」

 

少し思案するように腕を組み、悩むように眼をつむる雪様。

しばらくして、うんと一つうなずき、俺を見る。

 

「では、私もついていきます!」

 

「……はい?なんでですか?」

 

「気分です!」

 

「……」

 

思わぬ一言に、反応できない。焦った俺は、花音を見て助けを求める。

 

「私にはどうもできないわよ?」

 

「ですよね……」

 

雪様は、一度言ったことはなかなか曲げない、かなりの頑固者だ。

俺も花音も長年の仲なので、慣れたものだ。しかし、そろそろ夕暮れが迫る。

面倒ごとになるのは嫌なので、ダメ元で言ってみることにした。

 

「雪様、そろそろ暗くなってきたので、外に行くのはやめませんか?」

 

「むっ、修夜くんは私の言ったことに逆らうんですか?」

 

「いえ、逆らうのではなく、雪様を心配して……」

 

「修夜くんは、私と一緒にいたくないんですか?」

 

「そういうわけでは……」

 

もちろん雪様は、不服そうにこちらを見てくる。

 

「修夜くん……」

 

「は、はい」

 

「修夜くんは、誰のものですか?」

 

「……雪様のものです」

 

「主人に従わないというのですか?」

 

「俺は雪様のことを考えて言っているんですよ?」

 

「約束しましたよね?修夜くんは私のものになるって」

 

「ですが……」

 

「ダメですか?」

 

「っ!……」

 

下から覗き込むようにこちらを見てくる雪様。 

 

「ダメ、ですか?」

 

 

 

 

 

「で、結局折れるあたり雪様に心酔してるわね」

 

「うるさい……」

 

どうやら俺は主人に忠実な犬だったようだ。

少し負けた気分だが、諦めるほかないだろう。

 

「あの笑顔は可愛いわよね。あれで、おちない男はいないわ」

 

「……」

 

異論はないです……

 

「二人ともどうしたんですか?早く来てください!」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

花音は、雪様の声に反応しかけていく。

 

「修夜くんも早く来てください!」

 

「はい、今行きます」

 

散歩という名のロスになるが、雪様とより一緒にいれると考えれば安いものだろう。

 

「散歩と言ってもどこに行くつもりだったのですか?」

 

「いえ、とくには決めていませんが?」

 

「なら、あの場所に行きませんか?」

 

「あの場所?」

 

「とは?」

 

首をかしげる俺と花音。

 

「とりあえず、ついて来てください!」

 

「は、はぁ……」

 

笑顔で歩き始める雪様よそに、俺と花音は声を合わせ、はてなマークを浮かべ、なおも謎は深まるだけだった。

 

 

 

 

 

「この道は……」

 

「おぼえていますか?」

 

雪様についてきた俺たちの前には懐かしい風景が広がっていた。

懐かしの坂だ。同時に昔の記憶が思い出される。

 

「……懐かしいですね」

 

「この坂の上には確か……」

 

「はい!町が全部見えるあの場所です!」

 

「よく3人できましたね」

 

「私は今でもたまに来るんです」

 

「雪様、私聞いてないんですけど?」

 

「……あ」

 

どうやら、花音に内緒で何度も訪れていたらしい。

花音は雪様を睨んでいたが、すぐに笑顔に戻る。

 

「次は、私も連れてってください」

 

「……ええ」

 

二人は顔を見合わせて笑い合っている。

 

「では、久しぶりに3人で一番上に行きましょう!」

 

「そうですね」

 

3人並んで坂を上り始める。とても温かい気持ちで心が満たされていく。

なんと言うのだろうか。この気持ちは……

家族が死んで悲しかった気持ちと、居場所をくれた雪様への感謝、彼女たちと一緒にいれる嬉しさ。

いろんな気持ちが混ざり合い、こそばゆい気持ちになった当時のことを思い出す。

 

ふと空を見ようと上を見上げる。

 

「え?」

 

「どうかしました?」

 

「修夜?」

 

俺は上を見上げたまま固まってしまう。

 

宙に舞うものに驚き……

 

それを不思議に思ったのだろう。雪様と花音も上を見上げる。

 

「え?」

 

「きゃ!?」

 

俺たちの目的地、一番の上の展望台。そこから一人の少女が……落ちてきたのだ。

 

「雪様! 空から女の子が!」

 

「言ってる場合ですか!?」

 

俺のボケにすかさずキレキレのツッコミを披露する雪様。

そんなことを思いながらも、すぐに女の子を助けるという考えにシフトする。

 

「修夜くん!」

 

「わかっています!」

 

右足を力強く踏み込み、落下地点へと走り出す。

 

「間に合え!!」

 

ダッシュで間に合わないことを悟った俺は、体を滑り込ませ落下地点へたどり着く。

そして、なんとか少女を抱きかかえることができた。

 

「はぁはぁ、間に合った……」

 

彼女を一瞥し、どこもケガをしている様子はないので安堵する。

 

「修夜くん!大丈夫ですか!!」

 

「その子も!」

 

雪様と花音が駆け寄ってくる。

 

「ええ、俺は大丈夫です。この子も大丈夫だと思います」

 

「はぁ……良かったで……あ、この子!?」

 

「雪様わかるんですか?」

 

一度安堵した雪様は、少女を見るやいなや驚きの声を上げる。

そして、それを聞いた花音が少女の顔を覗きこむ。

 

「はい、この子王女ですよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「「ええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!????」」

 

俺と花音の声が町へ響き渡った。

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