忠実な従者(仮)   作:晴猫

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お久しぶりです。

しばらく頑張ります。


ご感想等いただけますと幸いでございます。


3章 出羽家の呪い

「はあ、疲れた……」

 

王女様の一件から、数時間後のこと。

辺りは暗くなり、屋敷周りは静寂が包んでいる。

俺は、雪様の部屋の前にいた。

 

(せつ)様。よろしいでしょうか?」

 

修夜(しゅうや)くん? どうぞ」

 

「失礼いたします」

 

一声かけると返答が来たのでそのまま襖を開ける。

寝間着を身にまとい、風呂あがりなのだろう、髪は乾ききっていない。

 

「寝る前でしたか? 申し訳ありません」

 

「いえ、大丈夫ですよ。こんな時間にということは……また、血…ですか?」

 

「……はい」

 

「……私は構いませんが、修夜くん、最近吸いすぎなんじゃないですか?」

 

「大丈夫です。定期健診も問題ないですし、中毒症状も出てないです」

 

「そういう問題ではないのですが……」

 

「心配いただいてありがとうございます。俺は大丈夫ですから」

 

「……はぁ、わかりました」

 

不満げ表情を浮かべながらも、雪様は寝間着をはだけさせる。

少し肩を露出させると、白い柔肌が見える。おもわず、透き通った肌を見入ってしまう。

 

「修夜くん、見すぎです! これでも恥ずかしいんですよ!」

 

「あっ、申し訳ありません」

 

「まったく、変態なんですから」

 

顔を真っ赤にして、ぶつぶつとつぶやく雪様。

 

「はははっ」

 

反応に困りつつも、時間もないため、実行に移すことにする。

 

「失礼いたします」

 

「……はい」

 

俺は、雪様へ近づき、肩を持つ。

そのまま、白い柔肌に歯を突き立てた。

 

「じゅる……」

 

「んっ、あっ」

 

「ごくっ、ごくっ」

 

喉を鳴らし、その鮮血を体へと流し込んでいく。

雪様からは、艶っぽい声が漏れている。

力の解放を感じ、俺はその柔肌から口を離した。

 

「ふぅ……ありがとうございます」

 

腕で口元をぬぐい、雪様に感謝を伝える。

 

「はぁ、はぁ……はい」

 

やはり恥ずかしそうに雪様は下を向いている。

息が荒くなり、下を向いた顔は赤くなっていることがわかる。

 

「では、早速行ってきます」

 

寝間着を整え、座りなおす雪様。

 

「そうですか……気を付けてくださいね」

 

「はい。雪様はゆっくりお休みください」

 

「でも、心配は心配ですからね。眠気もあまりないですよ」

 

「それでも、しっかりと寝てください。明日は普通に学園ですよ?」

 

「それは、修夜くんも同じですよ」

 

「はぁ……」

 

こうなると、引き下がらないのが雪様。

大人しく肯定するしかなくなってしまうのだ。

 

「承知しました。では、行ってまいります」

 

「はい! 早く戻ってきてくださいね!」

 

「……はい」

 

彼女の声に優しく微笑む。

そのまま、襖を閉め部屋を後にした。

 

そして、俺は主人を守る従者(兵士)として戦う----

 

ーーーーーーーー

 

暗闇に包まれた町。

出羽家から出た俺は、あたりを見まわした。

暗闇にあっという間に慣れた目は人影を数人とらえる。

時間は、0時を回ったばかり。出歩く人などいるわけがない。

 

義輝様から聞いていた通り、4、5人だろうか。

 

「……バレてるのは気づいているだろ? 出てきたらどうだ?」

 

少しの静寂ののちぞ、ろぞろと男が5人出てくる。

 

「誰に頼まれた?」

 

男達「……」

 

修夜「まあ、言うわけないよな」

 

「……お前に言う義理はない」

 

「話してくれるとはこちらも思ってない。一応確認しただけだ」

 

男の一人が口を開く。

 

「1人でどうにかできるのか?」

 

「できるからここにいるんだよ」

 

俺は、吐き捨てるように男たちに向かって言う。

口元を覆った黒づくめの男達が、布の下で顔を歪めたのがわかった。

 

「大人しくそこをどけ」

 

「はい、そうですかってなるわけないだろ?」

 

「じゃあここで死ぬんだな」

 

1人の男が発した言葉を皮切りに、男達が一斉にとびかかってくる。

 

今の俺にはすべてが遅く見える。男達の一挙手一投足が手に取るようにわかった。

右から2人、少しテンポが遅れて左から3人が迫ってきている。

 

「じゃあまずは……」

 

少ない人数のほうから倒していくことにする。

右足を踏み込み、力を込める。次の瞬間には、右から来ていた男達の真ん前。

あちらからしたら、突然目の前に現れたように見えるだろう。

 

「え……」

 

「まずは、2人」

 

腹部に拳を入れ、1人をおとす。すかさず、次に来ているもう一人の男を回し蹴りで吹き飛ばす。

 

「がっ!!」

 

男は、うめき声をあげながら、吹き飛んでいった。

 

「くそっ!!」

 

「おっと」

 

「お前、何者だ!?」

 

「そっちが名乗らないんだから、こっちだって名乗らないよ」

 

「お前の動きは、人間の早さじゃない! いったいどんなからくりが!?」

 

「おっ、なかなか見る目があるな。けど、それ以上は無駄だ」

 

「なっ!?」

 

「うわぁぁあ!!」

 

「ぐふっ……」

 

「あとはお前だけだぞ? まだ、やるか?」

 

他の2人もなんなく戦闘不能にし、残りの男を見る。

口もとは見えないが、男の様子から焦っているのがわかった。

目には、動揺が見える。

 

「……くそっ」

 

拳を固く握りしめ、男は覚悟を決めたようだ。

そのまま、俺に向かって突っ込んできた。

 

「うおおおおおぉぉ!!」

 

「そうか……」

 

俺は、男の後ろに回り込み、蹴りを入れた。

力が増強しているからか、ほとんど感触はなく、プラスチックの人形のような感じだ。

男は壁にぶつかり、動かなくなった。

 

「夜なんだから、もう少し静かにしてくれ……」

 

こうして、任務は完了。

俺は、ため息を一つこぼした。

 

「うっ!?」

 

次の瞬間、俺の視界がゆがむ。

足が震え、膝をつく。体の力が抜けていくのだ。

 

「最近、吸いすぎだったかな……」

 

真っ暗になっていく視界。そのまま、俺の意識は暗闇に飲み込まれていった。

 

 

---

 

「……毎回こんなことをしているのかしら?」

 

「いかがしますか?」

 

「車に運んで」

 

「承知いたしました」

 

---

 

「うぅ……」

 

どのくらい時間がたったのだろうか。

ぼやける視界が少しずつ鮮明になっていく。

 

「俺は……」

 

地面に倒れていたはずなのに、妙に柔らかい地面だ。

手で触れてみると、ふかふかとしている。

それと同時に人に触れたようなあたたかさがある。

 

「目が覚めましたか?」

 

「え……」

 

声は俺の真上から聞こえる。視界は、すでにはっきりとしてる。

大きな二つの丘の間からわずかに見える女性の顔。

それもつい今日見たばかりの顔だった。

 

「王女様?」

 

「その呼び方は、距離を感じるわ……親しい人は、私をリヴィって呼ぶわよ?」

 

「……オリヴィア王女」

 

「もうっ! せっかく呼んでいいと言っているのに」

 

「それよりもここは……」

 

「私がいつも使っている送迎用の車の中よ。そして、あなたが寝ているのは私の膝の上ね」

 

「……膝、膝……なっ!?」

 

うまく働かない頭がやっと理解し、大変問題があることに気づく。

柔らかくて、寝心地がいいと思ったら予想外の場所に思わず跳ね起きる。

おまけに丘と思っていたのは、彼女の胸だったようだ。

 

「そんなに慌てなくても、私の太ももをまさぐってきたのに……」

 

「い、意図的ではありません! 大変失礼いたしました」

 

「私がやったことだから気にしなくてもいいわ。日本ではこういうの膝枕というのでしょ? やってみたかったの」

 

「は、はぁ……」

 

大変柔らかく、いい匂いがしたということは、もちろん黙っておく。

 

「なぜ、俺はここに……」

 

「地面に倒れている人をそのまま放置するわけがないでしょう?」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

彼女は不敵に笑った。

 

「5人の男を1人で倒してしまうなんて、更に興味が沸くに決まっているじゃない?」

 

「なっ!?」

 

見られていた。いつから……

偶然……いや、これは……

 

「なぜ、あの場所に……」

 

「さすがに偶然……であるはずはないわね」

 

「少し調べてみたら、不思議なことがわかったわよ?」

 

「……不思議なこととは?」

 

冷汗が止まらない。そして、同時に体が警戒態勢に入る。

得体のしれない王女様。俺は彼女から視線を逸らすことができない。

 

「なんでも昔からの伝承があるみたいね? 出羽家の呪いだとか?」

 

「っ……」

 

思わぬ、一言に目を見開く。

なぜ、それを知っているのだ!?

 

「さあ、なんのことでしょうか?」

 

「ちなみに逃げれないわよ? この車から逃げようとしたら私の怖い大人達が相手になるわ。でも、あなたには対処が簡単かしらね? だって」

 

「男5人をあっさりと倒してしまうのだから」

 

そして、彼女の口角があがった。この人知っているのか。俺の秘密、出羽家の秘密を……

 

「俺の口から何も言えません」

 

「ええ、だから。雪に連絡したわ」

 

「……」

 

「もう遅い時間だけれど、今から来てほしいですって」

 

「……そうですか」

 

この王女様は、一筋縄ではいかないようだ。

呪いのことも、とっくにわかっているのだろう。

 

そのとき、ポケットに入った俺のスマホに着信が入る。この音は……

画面を見ずに俺は、スマホをとった。

 

「修夜です。雪様」

 

『……王女といるんですね。彼女を連れてきてください』

 

「……承知いたしました」

 

ただ、それだけを言って雪様は通話を切った。

目の前にいる王女様を見ると、さきほど同じように笑みを浮かべている。

 

「雪はなんて?」

 

わかって聞いているのだろう。

彼女の考えが読めない。目的はなんなんだ。

 

「こちらへお越しください」

 

ひとまず、俺は彼女をふたたび、出羽家へと連れていくこととなった。

 

ーーー

 

「はぁ、まさか……こんなことになるとは」

 

「申し訳ございません。雪様」

 

頭を抱える雪様に俺は、不甲斐なさを感じながら頭を下げる。

 

「雪。修夜を責めないで欲しいわ。倒れるくらい頑張ったんだから」

 

「倒れる!? 修夜くん! 本当ですか!?」

 

驚いた顔で俺を見る雪様。

思わず、目をそらしてしまった。

 

「ははっ……」

 

どうにかしようと考える俺。

漏れ出たのは、乾いた笑いだった。

 

「修夜くん。正直に言いなさい」

 

目をそらしているため、彼女がどんな顔をしているのかはわからない。

ただ、一つわかるのは、雪様が怒っているということだ。

 

「もう……最近吸いすぎだと思ったんですよ」

 

「そうそう、それよ。それ」

 

話を遮るように入ってきたのは、裏読めない王女様。

俺と雪様は、彼女に目を向ける。

 

「吸うとか、なんとか、もう、いろいろな情報がありすぎて困っていたの」

 

「私が気になっているのは、出羽の家の呪いについて……教えてくれるのよね?」

 

「……」

 

「はぁ……どこからその話を聞き出して来たのですか……」

 

「ドレトエン王国の情報網は優秀なので」

 

わかりやすい作り笑いを浮かべ、王女様は淡々と答える。

 

「雪様……」

 

「こうなってしまっては、どうにもなりません。正直に話しましょう」

 

一呼吸おいて、雪様は語り始めた。

 

「私達出羽家には、呪いがかけられているのは本当の話です」

 

「そして、その呪いは、この[華屋町の繁栄]を確約させるものになります」

 

「? この町の繁栄?」

 

王女様は首をかしげる。

 

「この町の繁栄のためになぜ、呪いがかかる必要があるの?」

 

「それは、私のご先祖様が関係しています」

 

「ご先祖……私達のおじいさまのそのまたおじいさまということね」

 

「はい。そもそも華屋町を作ったのは私のご先祖様なんです」

 

そう、この華屋町の原型の町を作ったのは、雪様のご先祖様だ。

そして、ここまで出羽家が代々、この町を守ってきた歴史がある。

 

「それは、調べてわかっているわ」

 

「私が一番疑問に思っていることがあるの」

 

「疑問に思っていることですか?」

 

「ええ、町の繁栄を望むことはわかるけれど、なぜ……」

 

「なぜ、自らに呪いをかけてまでこの町の繁栄を望んだのかしら?」

 

「……」

 

少しの間、下を見つめ黙り込む雪様。

しばらくののち、意を決したように話し始めた。

 

「これは、私達、出羽家に伝わるお話です」

 

「昔、私達のご先祖様は、この町を作りました。そして、少しずつ人が増え、建物が増え、いつの日か一つの町となりました」

 

「町になってから、数年が経ったある年、死病と呼ばれる病が広がっていきました」

 

「隣の村が死に、順番に広がっていた病は、ついにこの町にもやってきました」

 

「昔は、対処方法などありません。困り果てたご先祖様は神にお願いしました」

 

「すると、どこからともなく小さな少女が現れ、自分は神の使いだと話しました」

 

「彼女のことを信じきれなかったご先祖様。しかし、現状を打破する方法もなく彼女に従うことにしました」

 

「そして、彼女は町の繁栄と引き換えに自分を山の神として祀るように言いました」

 

「神として祀ることを約束すると、少女は消え町で流行っていた病はたちどころになくなりました」

 

「町は平和になり、のちに華屋町と名前が付き、繁栄していきましたとさ」

 

「……」

 

話を聞いた王女様は、真面目な顔で雪様を見ている。

 

「おとぎ話……神とは何かの例え?」

 

「その真相は私達もわかりません」

 

「それに肝心の呪いはどう関係しているのかしら?」

 

「話には続きがあります」

 

「続き?」

 

「山の神になった少女は、一つ縛りをつけていったんです。出羽家の血に……」

 

「出羽家の血?」

 

「ご先祖様がある日、農作業をしていると誤って怪我をしてしまいました。血が流れてしまい、従者が手当てをしました」

 

「その際に流れた血が従者の体内に入ってしまいました」

 

「すると、従者の様子が変化しました」

 

王女様は少し驚いた表情になった。

雪様は話を続ける。

 

「従者は、身体能力があがり、いつもよりも早く農作業を終えました」

 

「力がみなぎると言って、その日のうちに1週間分の作業を終わらせてしまいました」

 

「……出羽家の血には身体能力の向上や治癒能力を向上させる力があります」

 

「話で聞いた通りね。血とは予想外だったけれど」

 

「そんな素晴らしい血がなぜ、呪いなのかしら?」

 

「……」

 

「雪様。ここは、俺が説明します」

 

「修夜くん……お願いします」

 

あまり雪様は、この話が好きではない。

ここは、実際に経験している俺が話すべきだろう。

 

「血が呪いと言われているのは、その血を出羽家の血を吸ったものを操ることができるからです」

 

「操ることができる?」

 

「血を吸うことによって能力は格段に向上します。しかし、血を吸ったものは、出羽家への一生の忠誠を誓うことになります」

 

「そして、俺もですが摂取の回数を重ねれば重ねるほど、中毒症状が出てきます」

 

「中毒症状とは、依存してしまうということ?」

 

「そうです。人によって差異はありますが、定期的に血を吸いたい衝動にかられます」

 

「……まるで西洋の吸血鬼みたいね」

 

「そうですね……」

 

ある程度の説明を終えると、王女様は一つ息を吐いた。

 

「ふぅ……本当の話とは思えないけれど、実際に修夜が男達を倒すのを見て無理やり納得するしかないわ」

 

「あれも見ていたのですか……」

 

「そんな血の話を聞きつけた人達は、是が非でも欲しいわよね。そんな能力」

 

王女様は、にやっと笑いながら目をつむった。

しばし、何か考えているのかうなっている。

 

「やはり、決めたわ」

 

目を開けた彼女は、雪様をまた見据えた。

 

「? 何を決めたのですか?」

 

「私、しばらくこの町にいることにするわ」

 

「え?」

 

「え?」

 

何を言っているのか、わからない。

 

「な、なにを言っているのですか!? 一国の王女がそんな簡単に……」

 

「大丈夫よ。お父様には許可はもらっているから」

 

「お父様というと……」

 

王女様のお父様というと、ドレトエン王国の現国王その人のことだろう。

よく、許可を出したな……

 

「あと、しばらくこの家でお世話になるわ」

 

「え?」

 

「は?」

 

また、意味の分からないことを言っている。

 

「しかし、おとうさ……」

 

「大丈夫よ。雪。あなたのお父上には許可はもらっているわ」

 

「へっ!?」

 

驚きすぎて、変な声が出る雪様。

なんという根回しの速さ。恐ろしい、というかこれどうすればいいんだ?

 

「じゃあ、よろしくね。2人とも!」

 

「……」

 

「……な」

 

「せ、雪様?」

 

「……なんで勝手に話が進んでいるのですか!? もう!!」

 

真夜中の屋敷。

脳の容量が限界に達した雪様の叫びが、木霊するのだった。

 

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