孤高の喰種   作:湊眞 弥生

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11 決意

 あんていくでバイトを終えた日の夜。シャワーを浴びながら雪ノ下先輩に聞いた話を思い出していた。あの日以来、この喉元まで出かかっているこの違和感の正体が分からずにいる。

 比企谷先輩がいなくなってしまった理由の検討はついている。そして雪ノ下先輩のお姉さんが忙しくて連絡を忘れているということも。

 雪ノ下先輩の話し方や仕草からはとても礼儀正しさが感じられて、さぞ立派な家柄なのだろうということは見て取れた。雪ノ下先輩の家柄の話を聞けばもしかすればとも思ったが、まだ一回しか会っていない僕にそこまでのことを話してくれるようには思えないので諦めた。

 

 いくら考えても結論が出てこないのでは意味がないと、頭を振って気持ちを切り替える。

 雪ノ下先輩の話を聞いた上で、僕が今何をすべきなのか。比企谷先輩が戻ってくるまであんていくを守る?それは当たり前だ。そもそもあんていくの問題は僕だけの問題ではない。では雪ノ下先輩を守る?それは雪ノ下先輩のお姉さんがするだろう。もし雪ノ下先輩が危ないと分かれば比企谷先輩も意地でも守るだろうし僕が出張ることでも無い。ならば僕が今するべきことはなんだろうか。

 

 ここ最近は慌ただしくて忘れそうになっていたが、今回の件の全ての始まりはリョーコさんとヒナミちゃんが白鳩に追われていたからだ。

 リョーコさんが捜査官に襲われたあの日。本当なら一番近くにいた僕がリョーコさんを守らなければいけなかった。僕が捜査官からリョーコさんを助けられれば比企谷先輩が戦闘する必要もなく、捜査官に目をつけられることもなかったはずだ。でも僕にはその守る力がない。それどころか自分の身を守れるかも分からないのにそんな余裕はない。僕が出ていけばやられていたのはこちらなのは明らかで、あんていくの皆に余計に迷惑をかけただろう。

 

 

「僕は……気付かないうちに比企谷先輩に守られてたんだ……」

 

 

 仮に……僕に比企谷先輩みたいな強さがあったとして、僕はあの捜査官と戦えたのだろうか。彼ら捜査官はヒトの平和のために゙喰種゙を退治している。世間的には排斥されるべきは喰種なんだ。悪いのは……ヒトを殺して喰らゔ喰種゙じゃないか。彼らは何一つ間違っていない……。間違ってなんか……。

 

 

「僕は……何も出来なかった……。僕は……この世界のことを知らなさすぎる……クソッ……」

 

 

 己の余りの無力さに悔しくなる。僕がもっと強ければ……と。

 ならば、僕が今やるべきことはなにか。……強くなることだ。トーカちゃんや比企谷先輩のようにはいかないかもしれない。それはそうだ。トーカちゃんも比企谷先輩も、強くなるために努力を沢山してきたのだろう。僕なんかが戦い方を習って、皆を守れるような……その領域にまですぐにいけるとは思えない。それでも。

 

 

「何も出来ないのは……もう……嫌なんだ……」

 

 

 

 次の日。あんていくでバイトに勤しむ僕とトーカちゃん。店内にお客さんはおらず、話すなら今しかないと思った。

 

 

「あの……トーカちゃん……」

 

「……んだよ」

 

 

 僕の事なんか欠片も興味がなさそうな態度で適当にあしらわれる。怯んじゃダメだ。強くなって、僕も戦えるようになりたいんだから。

 

 

「僕に……戦い方を教えて欲しい」

 

「……なに急に。教わってどうすんの?」

 

「守りたいんだ……皆を」

 

「……アンタみたいな小心者(ヘタレ)が……皆を守る? ふざけんな。アンタに守られるほど弱くねえよ。そんなこと言ってるけど、アンタに白鳩を殺せるの?」

 

「……!」

 

 

 そうだ。戦い方を学び皆を守るということは捜査官との殺し合いになるだろう。四方さんの死体運びに付いて行った時に吐き気を催す僕に……果たして出来るのか……?

 

 

「僕には……」

 

「できねぇだろ? それに……なんで店長達が比企谷さんを詳しく探さないか分かってんの?」

 

「それは……」

 

「比企谷さんを倒せる程の白鳩がこの近くにいるかもしれない。そんな危ない状況でアタシ達は千葉に行ったんだよ」

 

「でも! あんていくは助け合いだって!」

 

「ここまで言われなきゃ分かんない? アンタに……全ての白鳩を相手にする覚悟はあるの?」

 

 

 そうだ。雪ノ下先輩に話を聞いて僕は分かっていたじゃないか。比企谷先輩が白鳩に連れてかれた可能性があることを。それでも、僕はやらなくちゃならない。皆の足を引っ張らないためにも。

 

 

「確かに、僕にはヒトは殺せない。でも、比企谷先輩が戦ってる姿や、雪ノ下先輩の話を聞いて強く思ったんだ。人や喰種が死ぬのも、それが僕の知っている人だったら耐えられない。もちろん……トーカちゃんがこの先さらに比企谷先輩を追って死ぬようなことがあったら……悲しいよ。だから…僕に戦い方を教えて欲しい」

 

「……フン、アンタにしちゃ珍しくやる気じゃん……クソカネキ。いいよ、教えてあげる。バイトが終わったら着替えて待ってな」

 

 

 バイトの時間が終わって、更衣室で自分の私服に着替えた。しばらく待っているとトーカちゃんが更衣室から出てきてから着いてきてと言うので頷いた。あんていくの奥の方に行ってから下へ潜っていく。到着して中に入ってみると、そこにはとても広い地下の空間が広がっていた。

 

 

「あんていくの地下にこんな場所が……」

 

「昔の喰種が作った地下道。人間たちから身を隠すために。この先には進むなよ? 一人で行ったら迷って二度と出られないから」

 

 

 トーカちゃんに注意事項を教わってから、動きやすいようにトーカちゃんと僕は上着を脱いだ。

 

 

「アンタは本当は同じ鱗赫の比企谷さんに教わった方がいいんだろうけど……仕方ないか」

 

 

 苦笑いを浮かべると、トーカちゃんがこっちに振り返っていてじっとこちらを見つめながらまた喋り出す。

 

 

「アタシは比企谷さんみたいに口で教えるのそんなに上手くないし、そもそもアンタには説明しても分かんないだろうから……私が小さい頃に教わった時と同じやり方でやる……死ぬかもしれないから覚悟して」

 

「……へっ?」

 

 

 どういう意味か分からず首を傾げると、トーカちゃんは素早く僕の懐に踏み込んでから拳で腹に一撃を入れてきた。

 

 

「ぐっ……っぷ……」

 

 

 衝撃に耐えきれなくて、おえええッと思わず吐き出しているとトーカちゃんに待ったをかける暇もなく足を僕の身体に振り抜く。

 重い一撃を貰って僕の身体は軽々と吹き飛び柵にぶつかって倒れると、トーカちゃんはゆっくりとこちらに近づいてきて、僕の眼帯を取った。

 

 

「……イマイチ危機感ないみたいね」

 

 

 そう一言だけ呟くと、僕の中指をつま先で上げて力を入れられた。

 

 

「トッ……トーカちゃん……?」

 

「折るよ、アンタの指」

 

 

 そのまま足を下ろされて、僕の中指は本来曲がらない方向に容易く曲げられて骨の折れた音が地下道に鳴り響いた。その痛みに耐えきれなくて悲鳴をあげる。

 

 

「アアアァァァああああアぁア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

 

「明日にはくっついてるわよ。……でも」

 

 

 これはスグには治らないわよと言うと同時に羽赫が発現していて、こちらに攻撃をしようとしているのが見て取れた。

 

 

「そのまま死ぬかもね。……その時はその時、こっちで処理してやるから」

 

 

 本気で僕が死んでもいいと思っている目だった。トーカちゃんがそのまま羽赫を振り下ろしてきて、嫌だ、死にたくない!と強く思った時だった。

 僕の腰から二本の触手が出てきていて、トーカちゃんの赫子による攻撃を防いでいた。

 

 

「……やりゃ出来んじゃん。ま……この前の赫子の方がもっと強力だったけどね。上に戻るよ」

 

 

 その後は上に戻りながら、僕の赫子はリゼさんと同じ鱗赫の喰種だとか、鱗赫の特徴等を教えて貰ってその日の訓練は終了した。

 

 

「とりあえず……まずは自由に出し入れ出来るようになるまで赫子を引き出す感覚を身体に焼き付ける。赫子が出せない時の接近戦も叩き込むとして……あとは身体作りか」

 

 

 今後の予定をサラッと僕に言ってから僕のシャツを捲った。

 

 

「アンタひょろすぎ。こんな身体で戦うつもり? もっと肉つけろ。とりあえず腹筋・背筋・腕立て・スクワット一〇〇回を毎日。いいね?」

 

「一〇〇回!?」

 

「何?なんか文句ある?」

 

「い、いえ……やるよ……やります……」

 

「分かりゃあいい」

 

 

 トーカちゃんに口うるさく言われている時。店の扉が開いて入ってきた人を見ると、そこにはウタさんが立っていた。

 

 

「あれ、ウタさん」

 

「ウ、ウタさん……なん……」

 

「なんか……ゴメン」

 

 

 ウタさんが突然入ってくるなり謝ってきたので何かと思ってみれば、トーカちゃんが未だ僕のシャツを捲りっぱなしだった。

 

 

「あ、や……ち、違います! そんなんじゃ……! というか、どうしてお店に……?」

 

「……カネキくんのマスクが出来たからスグに届けたくて……ホントは置いて帰ろうと思ったけど……折角だから、カネキくんが付けてるトコ見たいな」

 

 

 言われるがままに付け方を教えて貰いながらマスクを付けると、僕が普段眼帯を付けてる反対の左目だけが開けている黒い歯茎が剥き出しのマスクだった。

 

 

「……どう? ……カネキくんっぽく眼帯風にしてみたんだ」

 

「眼帯……普段僕がしている方と反対なんですね……」

 

「うん。……隠している眼の方が見たかったから」

 

 

 冷たい革の質感と普段と逆の目から覗く世界は、不思議と僕の気分を高揚させていた。

 

 




今現在pixivで更新してある話までとりあえず追いつきました
これで原作2巻までの話が終了です
書いていて地味に濃い2巻の話だなって思いました( ˇωˇ )
この先の話については今プロットを見直して少しだけ話を組み直してるのでもうしばらくお待ちください

八幡もこれからどんどん出番は増えてくるので、もう少しだけ!もう少しだけお待ちいただければと…
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