一部キャラの口調が凄く不安です……
20区で行われた比企谷八幡と有馬貴将の戦闘から数日後。CCGでは有馬貴将からの報告を受けるために特等会議が行われていた。
「……以上です」
「報告ご苦労、有馬特等。丸、今の報告を聞いてどう思った」
「悪魔に似た様相の赫者、二種持ち、そして有馬貴将と真っ向からやり合って傷だらけながらも逃げ帰れるだけの体力を残しておける冷静な判断。同じ隻眼っていう繋がりからも、隻眼の梟と同等の力はあると見て良さそうですね」
有馬貴将が比企谷八幡の力を見たかっただけの為に、敢えて殺さずに自分から戦闘の終わりを告げて逃がしたのが事の真相。しかしそのまま報告をすれば不味いのは誰にでも分かる事なので有馬貴将は比企谷八幡には逃げられたと嘘の報告をしていた。
有馬貴将は喰種と喰種捜査官の両方からCCGの死神という異名を知られる程の捜査官。そんな捜査官が嘘をつく意味はないと思っているからこそ信用してしまう。
丸出特等の発言に反論する特等は誰もおらず、静かな空気が流れる。それを打ち破るように和修吉時は最終的な結論を述べた。
「では隻眼の悪魔改め、通称゙デビル゙のレートはSSSレート喰種とする。単独での戦闘はなるべく避けるように。以上で特等会議を終わりにする」
そして喰種捜査官全員に新たに指定されたSSSレート喰種゙デビル゙の現状分かっている情報が共有された。その日のCCG内はデビルの話で持ち切りになっていた。
その一方。あんていく。その地下ではカネキがトーカによる地獄の特訓を受けていた。
「腰抜けヤロー、もっかい指折ってやろうか? あんな角砂糖に頼ってるから力が出せないんだよ。分かってんの?」
「だって……僕人肉は食べたくないっていうか……食べられないっていうか……」
元々は人間だった僕に人肉を食えと言うのがそもそも無理な話だ。だから角砂糖に頼っているのだし。
「まだそんなあまっちょろいこと言ってんのかよ。また飢えで苦しみたいならアタシは止めないけど、次はもう面倒見てやらないからね」
「……分かってる」
「また仕事終わりに特訓やるよ。それと……明日ちょっと付き合ってよ。比企谷さん探したいから」
「……うん、分かった」
悔やんでいても仕方ない。とにかく今は強くなることと比企谷先輩の捜索を頑張らないとと気持ちを持ち直してその日はあんていくの仕事に集中した。
そして次の日。トーカちゃんに言われた通りにあんていくに向かうと、既にトーカちゃんは僕のことを待っていた。
「トーカちゃんが先に来てるって珍しいね」
「なんか文句でもあんの?」
「そういう訳じゃないけど……」
「とりあえず、今日は20区を探すよ。店長に比企谷さんの住所は聞いたからとりあえずそこに向かう」
「その道中に何か痕跡があれば……ってそういう事?」
「そ。初めからこうしておけば良かったね。店長も知ってんなら言ってくれればいいのに……」
そう愚痴を漏らすトーカちゃんを宥めながら歩き出す。それにしても店長はどうやって比企谷先輩の住所を知ったのだろう。四方さんも知らないと昨日あんていくで言っていたのに。やっぱり店長は謎が多い人だ。
トーカちゃんに道案内をしてもらいながら歩いているが、今のところは何も変わった様子はない。が、歩いていく程に住宅が少し増えてきている印象がある。
「なんか段々と静かになってくね」
「まァ比企谷さんは静かな場所好きだしねっ……! クソカネキ、そこの路地入るよ」
「えっ、なん……」
「いいからさっさと来い!」
いきなり様子が変わったトーカちゃんに引っ張られて路地に入ると、トーカちゃんは顔を少しだけ覗かせてから路地の深い所まで僕を引っ張っていく。
いきなりの事で訳が分からず戸惑う僕にトーカちゃんがぽつりと話し出す。
「二人組の箱持ちの白鳩がいた。アンタ知ってんじゃないの?」
「それって……リョーコさんを襲ってた人じゃ…! ガタイの良い人と白髪のヒョロっとした人でしょ?」
「やっぱりそうか……。アイツらまだこの辺嗅ぎ回ってたのか……。リョーコさんとヒナミが安心して暮らす為にも……やっぱり殺すか」
トーカちゃんが捜査官の人達に殺意を向ける中で僕は顔を足元に向けると、地面には血の跡と赫子で傷ついた跡が残っていた。
「トーカちゃん、足元のこれ……」
「血の後。赫子痕も残ってる。これは……鱗赫と羽赫の後っぽいな。しかも結構派手にやり合った感じの」
「その血痕が路地の先に続いてるけど……これもしかして……」
「やっと見つけた。比企谷さんが途絶えた痕跡らしきもの。今表に出て比企谷さんの家に向かおうにも白鳩がまだいるだろうし……行くよ」
トーカちゃんと僕は逸る気持ちを抑えて血の跡が続いた方に走る。まだこれが比企谷さんのものだって決まった保証はない。それでも、やっと見つけた小さな手掛かり。これを逃してはならないと僕とトーカちゃんは走って更に奥へと向かっていく。
金木とトーカが比企谷を探している同時刻。20区の某所で八幡は月山と対面していた。
「よう。お前が美食家、月山習でいいんだよな?」
「そうだとも。そういう君は……今話題の隻眼の悪魔くんでいいのかな?」
「確かにそれは俺で間違いないな」
「そうかい。それで、僕に何か用かな?」
飄々と話す月山と話を進める比企谷。実際に会うのはお互いに初めての二人のその場の空気は今にも交戦しそうな一触即発の空気が流れていた。そんな事に気にかける様子も勿体ないのか比企谷は本題を月山に切り出していく。
「お前のグループが近々、雪ノ下建設と提携を結ぶって聞いたんでちょっと会いに来たんだけど」
「その事か。君がどう関係しているのかは分からないけれどわざわざ僕に会いに来るということは……その雪ノ下建設のご令嬢の二人には手を出すな、そんな所かな?」
「分かってんなら話が早いな。手を出せば俺がお前を殺す」
「あのCCGの死神と恐れられる有馬貴将と真正面から戦って逃げ帰れる君と殺り合いたくはないからそうさせてもらうよ」
じゃあこれで話は終わりだと月山は静かにその場を立ち去ろうとしている所を比企谷が引き止める。
「まだ何か用かな?」
「もう一つだけ、頼まれ事をして欲しいんだ。あんていくはお前も知ってるだろ?」
「もちろん。彼処はいい珈琲を出してくれるし、あんていくの皆は良い人達だからね」
「そこに今、笛口親子が居るはずなんだ。本来は俺が面倒を見ると約束してんだが、ちょっと今は忙しくて様子も見に行けないからお前に様子を見てきてほしいんだ」
「そうだね……僕も久々にあんていくの珈琲は飲みたいし、いいとも。珈琲を飲みに行くついでに聞いてきてあげるよ。その代わり、貸し一つになるけど構わないかな?」
「構わねえよ。何か頼まれ事の一つなら聞いてやる。勿論、内容にもよるけどな」
不敵に笑う比企谷に手をひらひらと振りながら月山はその場を立ち去る。比企谷が月山の後ろ姿を見つめる後ろからもう一つの視線が比企谷を見ている。それに気づいた比企谷は振り返ってその人物に声を掛ける。
「丁度いい所に来たな、エト。その姿の時は高槻泉って呼んだ方がいいのか」
「やぁやぁ、君が有馬貴将と交戦したと聞いて探してたんだ。それでどうだった?」
ニコニコとしながら高槻泉は比企谷にその時の戦闘がどうだったかを問い掛けるも比企谷は苦虫を潰したような表情でその時を思い出しながら語り出す。
「あれは本物の化け物だった。今の俺じゃあ勝てないな。この先も勝てる気はしねえけど。なんせ俺が赫者化してやっと制御できたってのに手を抜かれてたしな」
「君でも勝てないか、アレには」
「で、その有馬貴将の口からお前の名前が出たんだが……あれはどういう事だ?」
「アイツ……面倒だからって説明をこっちに投げたな。やれやれ……」
仕方ないと肩を竦めてエトは有馬貴将との関係を比企谷に話し出す。この歪んだ世界を壊すために手を組んだこと、彼が喰種と人間のハーフである半人間のこと、それから有馬貴将が隻眼の王であることと彼が隻眼の王である意味も。
「つまり……奴程の捜査官を殺せる喰種が現れれば、喰種たちの希望になると」
「そういう事だ。それに一番近いのが君だったから私も君に期待したし、有馬も君に会いに行ったんだけど……」
「それじゃあ俺には荷が重すぎるって話だ。俺にはアイツを殺せるビジョンは全く見えてないからな」
比企谷は話を聞いて、それをなし得てくれそうな人物を頭の中で探す。一人だけ心当たりはあるがその人物がそこまで強くなってくれるか保証がない。正直に言って先が思いやられる話だった。
「有馬貴将は半人間だ。だからこそ奴にも時間はない」
「だが、奴を殺すのに一番近いと思われた俺でも駄目。そうなると……育てるしかねえな。それをなし得てくれそうな人物を」
「君もその判断に至るか。私的には君が育ってくれるのが一番早いけど」
「何度も言ってんだろ。俺じゃ無理だ、諦めろ」
仕方ないと諦めるエトに思い出したように比企谷は別件について尋ねる。
「お前の組織……アオギリの樹だっけか。とある喰種の親子を少し匿って欲しいんだが平気か?」
「出来なくはないだろうけど、タダでそれを引き受ける訳にはいかないな。あの組織も安全って訳じゃないし、好戦的な喰種は沢山いるからね。命の保証は出来ない。君が条件を飲んでくれるなら考えなくもないけどね」
「その条件ってのは?」
「君がアオギリの樹に入って、その親子の面倒を見ること。それと……君が隻眼の王を名乗ることだ。勿論本当にその座に着けと言うわけじゃない。あくまでも有馬貴将がそうだと思わせないためだ」
「入るのは想定してたからいいけど……俺なんかが隻眼の王を名乗っていいものなのかよ?」
「有馬貴将が喰種と手を組んでいるとは今のところバレていないが念には念だ。君の実力的にも白鳩にそう思われていてもおかしくはない。一時的でいいんだ。君が、喰種達の希望になってくれ。これは有馬貴将の望みでもある」
俺がそんな大層な物に座していいものなのか不安が残る。しかし有馬貴将にも時間はなく、このまま有馬貴将が先に寿命を迎えれば隻眼の王は二度と誰にも名乗れなくなるだろう。それならば、俺が一時的にその座に着いて、俺がアイツを有馬貴将を殺せる程に育てればいいんだ。
そもそも笛口親子の面倒を見ながら守るにはアオギリの樹に入るしかない。あんていくに任せてもいいとは思ったが、20区には未だに笛口親子の顔を知っている捜査官がいるし、リョーコさんとヒナミはまともに外にも出られない。選択肢はあるようで最初からないようなものだった。
「……あくまでも笛口親子の為だ。そのために、今のところはアオギリの樹に入って俺が隻眼の王を名乗る。……ったく、俺には荷が重すぎるってのに」
「組織の運営はタタラさんと私がやるから君はあまり気にしなくていい。いざという時にその名を名乗って喰種達の希望になってくれるだけでいいんだ」
「あんまり期待はするなよ」
「分かってるさ。一刻も早く有馬貴将を超える喰種を作らないとね」
俺が喰種達の希望に、ねぇ……。重すぎる称号だが、やるしかねえな。リョーコさんとヒナミを守るためにも。
隻眼の王。その名は比企谷に重くプレッシャーとなってのしかかっていた。