孤高の喰種   作:湊眞 弥生

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14 力の差

 たった一撃。それだけでアヤトは蹲って倒れる程のダメージを負っていた。

 それが意味指すもの。つまり―――

 

 

「まず俺とお前じゃ基本的に格が違うって事を知れ。その上で、今お前の持てる全ての力でかかってこい」

 

 

 八幡はアヤトより遥かに強い。そんな事は今の一撃で分かる。しかしアヤトにも譲れないものがある。

(クソ親父は弱いから死んだ。だから俺は強くなる。こんな所でへばってられるか)

 まだ幼い頃のアヤトとトーカの面倒を見てくれていた父。

 その父が突然帰ってこなくなってしまったということは、父は捜査官に殺されたのだとあの頃の幼い姉弟は理解した。

 嫌な記憶を思い出して苦虫を噛み潰したような顔をして目の前の男に向き直ると、八幡は変わらず冷めた目で此方を見ていた。

 

 

「いつまでも上から目線で調子乗ってんじゃねぇよ……。クソヤロォ!」

 

 

 アヤトが背中に生えている翼を広げると、八幡の身体が一瞬ビクついた。その反応を見たアヤトは見逃さなかった。

 

 

「ガラ空きだ、バーカ!」

 

 

 動きが一瞬だけ鈍くなった隙を突いた攻撃。これは確実に入るとアヤトは思った。

 

 

「同じ実力ぐらいの相手ならそれでも攻撃は入っただろうがな……言ったはずだぞ。格が違うって」

 

 

 八幡は身体を少し捻るとアヤトの繰り出した拳が目の前を通った。

 身体を捻った勢いに任せて回し蹴りでアヤトを壁に叩きつけた。

 

 

「が──っ!?」

 

「今の攻撃は中々だったな。ただ、まだ単調過ぎる。攻撃する時は一手先だけ読んでも足りないぞ。三手先まで読め」

 

「……っ。く、そがァ!」

 

 

 この組織に入ってからアヤトは子供扱いされるのがうざくて仕方がなかった。今だって八幡に教育と言われて子供扱いされている。

 確かに自分の年齢は一般的には子供なのだろう。それでも、証明したかった。自分は強いんだと。

 父を殺され、一緒に生きてきた姉とも人間への価値観の違いから決別。それからはずっと一人で戦ってきた。

 

 

「一つ聞きたいんだが。アヤト、お前は何のために戦ってる?」

 

「何のため、だと? んなもん、クソッタレな人間共をぶっ殺すために……」

 

「本当にそれが理由か?」

 

 

 目の前の男を見ると、その片方だけ赤黒く染まった眼はアヤトの全てを見透かしているかのように此方に向けられていた。

 確かに人間は大嫌いだし殺したい程に憎んでいる。けど、そんな理由で戦ってるのかと言われたら多分違うだろう。

 本当は分かっていたのだ。自分がなんのために戦っていて、この組織に入ったのかを。

 力が欲しかったのだ。たった一人の家族を守れる程の力が。

 姉は今では人間の通う学校で居場所を持っていて、幼い頃のように人間社会に溶け込んで暮らしている。

 人に憧れる姉はとても眩しかった。だからこそ守りたかった。

 もう失うのは嫌だから。父の時のように弱い事が理由で白鳩に殺されてなるものかと。

 そんな心のどこかで無意識に考えていたアヤトの心を、目の前の男は見抜いているのだ。それも相まって、気に入らない。

 

 

「その眼が気に入らねぇ。なんでも知ってるかのように見てくるテメェのその眼が。」

 

「お前の姉を見てれば、弟のお前の考えてることくらい分かるってだけだ。守りたいんだったら強くなれ」

 

 

 先の戦闘でアヤトは分からされていた。今の自分ではこの男に一矢報いることも出来ないと。

 自分は赫子を出して戦っているのに相手は全く赫子を出しておらず、こちらを赤子のようにいなしているからだ。

 

 

「ちっ……テメェの事は気に入らねぇし、ムカつくが……今はまだ勝てねぇし、黙って言う事だけは聞いてやる」

 

「分かってもらえたなら良かったわ。組織の事は俺には全然わからんから当面はお前にその辺は任せるとして……俺がお前にしてやれるのは、特訓だな。それに、お前はまだ羽赫の使い方がなってねェ」

 

「はぁ? 羽赫の使い方だと?」

 

 

 この男は一体何を言っているのだろうか。

 これでも自分はこの組織の幹部でそんじょそこらの喰種よりは強いつもりだ。

 それでも尚この男は言い放ったのだ。お前はまだまだ雛鳥だと。

 

 

「今までずっと一人で戦ってたんだろうから教えてくれる奴もいなかったんだろ?」

 

「だからなんなんだよ」

 

「まァ……俺も同じ羽赫持ちだからな。お前の赫子の使い方見てりゃ、お前の実力がどの程度かは何となく分かるんだよ」

 

 

 そう言って八幡は背中から赤黒い羽を伸ばしたが、その様子はアヤトの羽とは全然違っていた。

 

 

「なんなんだよ、その形状は……」

 

 

 赤黒い羽なのは間違いない。それでも、アヤトの羽赫と八幡の羽赫では明確に違いがあった。

 アヤトの羽赫は流動的なのに対して、八幡の羽赫はブレードのように硬質化されていて形状を保っていた。

 

 

「お前は羽赫が他の赫子よりRc細胞の放出が激しい理由を理解してるか?」

 

「知らねぇよ。考えた事もねえ」

 

「羽赫は他の赫子より消費が激しいから長期戦は出来ない。だがその分、赫子の中では最も攻撃的だ。その理由は、他の赫子と違って攻撃手段が多いからだ」

 

 

 他の赫子は形状がある程度決まって発現するのに対して羽赫は人によって形状が常に変化する。

 

 

「羽赫は一般的には遠距離戦の得意な赫子と言われるが、近距離戦が出来ない訳じゃない。お前は他の羽赫がこうやって形を保ってるのを見たことはないか?」

 

「……中にはいた。だが、そういう奴らも決まって遠距離戦だ」

 

「だろうな。そこら辺の奴らなら普通の格闘技で通用するだろうが……強い白鳩とか喰種になると、それも通用しなくなる。その為にも、羽赫の形状変化ぐらいは出来るようになれ。じゃないと……何も守れないぞ」

 

「……っせェな。言われなくたってやってやる」

 

 

 グッと握り締めて何かを決意したような顔で八幡を睨んでいた。

 


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