今年も頑張って更新しますので、よろしくお願いいたします
「今日はここまでだな」
「クソがっ……。またテメェに一撃も入れらんなかった……」
「まあ初めて会った時よりマシになってるからそう焦んなよ」
アヤトを鍛え始めて数日が経過。今日も相変わらずアヤトと組手をしながらそうじゃない、こうしろとアヤトの身体に叩き込んでいる。
まだ数日しか経ってないとはいえ、少しずつ実力が伸び始めているアヤトを見ていると意外とくるものがある。これが親心って奴なのだろうか。違う気がするが。
そういや、と思い出したようにアヤトの方を一瞥した。
「この後ちょっと出てくるから留守番頼むわ」
「あ? 何しに行くんだよ」
「組織絡みじゃなく個人的な用があるんだよ。夕方には戻る」
「あんま勝手な行動するんじゃねえぞ。いくらお前だろうとタタラに言われんぞ」
「わーってるよ。だから夕方には戻る。一応番号渡しとくから、何かあれば掛けてくれ」
さらさらと紙に俺の電話番号を書いて渡すと、アヤトはハァ?と言いたげな顔をしていた。
「何言ってんだ、お前。電話なんか持ってるわけねーだろタコ」
「……なに? 持ってないの?」
「どうしたらンなもん持ってるように見えんだよ」
そりゃそうだ。こいつは餓鬼の頃から一人で生きてきたんだから文明の利器なんて大層なものを持ってる方がおかしい。
仕方ないと溜息を吐きながら俺は財布を取り出して千円札をアヤトに渡した。
「じゃあ今はとりあえず近くの公衆電話からでいいから何かあったら電話してくれ。携帯は近いうちに用意してやるから待ってろ」
「いらねぇよ。そんなもん持ってたって壊れるだけだろうが」
「そんな頻繁に戦闘する訳じゃないだろお前。今日みたいに俺がいない日はこれからもあるだろうし連絡手段くらい持っててくれないと困るだろ」
「分かったからさっさと行ってこい」
俺を追い出すようにあしらわれアジトを出ると、タタラが外で待っていた。
「どうした? 俺に何か用か?」
「王からの伝言だ。近いうちにまた会いに行くと」
「今更俺に何の用があるんだよ……」
タタラの口ぶりから察するに、俺は有馬貴将に気に入られてしまったらしい。どうして俺の周りはこんなんばっかりなのだろうか。
「俺に平穏をくれってんだよ……。まぁ分かった」
伝える事を済ませたらもう用はないようで、タタラは俺の横を抜けてアジトに入っていった。
「さて……月山はあいつらに伝える事ちゃんと伝えてくれたんだろうな」
様子を見に行きたい気持ちをグッと抑え、雪ノ下さんに頼まれた事を守るために数年ぶりの地元へ俺は足を運んだ。
数年ぶりの地元ということで辺りを見回してみたが、特に街並みも変わっておらず懐かしい気分だった。
今日の目的は本日行われる月山家と雪ノ下家の提携が無事に終わるかを見守る事だ。
跡継ぎになる月山習には釘も刺しておいたので問題ないだろうとは思っているが、念には念をなんて言葉もあるくらいだから警戒するに越したことはない。
それ以外で懸念点があるとすれば俺の知り合いと鉢合わせないかとかその辺のもんだが、遭遇することの方が低いと思うから平気だろう。
「あれ? 結衣、こいつヒキオじゃね?」
「ヒッキー……」
「なんでこのタイミングで会うんですかね……」
声がした方に振り向くと、三浦と由比ヶ浜が立っていた。
というか、数年ぶりとはいえよく俺だと気づきましたね三浦さん。いや、特徴的なアホ毛に姿勢の悪さは全く変わってないし見りゃ分かるか。
「ヒッキー戻ってきてたんなら連絡してよ!」
「いや、今日はたまたまこっちに用事があって来てただけだから……」
「だって、ヒッキー大学教えてくれないじゃん」
由比ヶ浜はムスッと頬を膨らませて、私怒ってますアピールをした。
俺の変わらない態度を見て呆れたのか三浦も口を挟む。
「だとしても連絡くらいするのが普通じゃん? あんた、結衣と仲良かったんだし。それに、数年も連絡なかったら心配するっしょ」
「それはそうなんだろうが……今日は本当にたまたまだったから連絡する必要ないと思ったんだよ」
本当は会うつもりはなかったとは言える雰囲気ではないのでそこは黙っておいた。
こいつらは人間で闇の世界なんて知らないような奴らだ。
そして俺は喰種で既に闇にどっぷり浸かっている立場なわけで、尚更巻き込む訳にはいかない。だからこそ連絡もせず突き放したかったんだが、由比ヶ浜や三浦のお人好しは全く変わってないようで、こんな俺の事も心配してくれているのだからいい知人を持ったと言えるだろう。
「ヒッキー、今時間ある? 久々に会ったんだし何処か入ろ! 優美子もいい?」
「いいんじゃね? ヒキオがどうしてるとかは興味ないけど、近況報告くらいは聞いたげる」
携帯で時計を見ると、雪ノ下家と月山家の会合までまだ少しなら時間はある。こいつらが喰種に狙われないかの心配もあるし、少しだけならいいか。
「……少しだけだぞ」
「やった! じゃあ行こ! ハニトーでいいよね?」
「……なんでハニトー?」
「だって、高校生の時に約束してたのにまだ一緒に行ってないし……」
「あー、そういう事ね……まあ、いいんじゃね?」
渋々了承すると、由比ヶ浜は花のような笑顔で三浦と俺の手を引っ張って歩いていく。
近道だからと由比ヶ浜は裏路地に入ろうとしたところで俺は待ったをかける。
「裏路地は危ないから通らない方が良くねーか」
「なんで?」
「いやほら、喰種とかいるかもだしさ……」
「あー、なんか人と同じ姿をしてるっていう?」
「そうそう。襲われたら俺ら何も出来ないだろうし……三浦もそう思うだろ?」
三浦に助け舟を求めると、少し考える素振りを見せた。
「危ないかもだけど、ヒキオ時間ないんしょ?通るだけなら平気じゃね?」
口ぶりから察するに、普段なら止めているのだろう。
「ほら、優美子もそう言ってるし! 早く行こ!」
「あ、おい!」
絶対危ないと思うから止めたのに由比ヶ浜は久々に俺に会えてそんなに嬉しかったのか聞く耳を持たずに三浦と一緒に俺を置いて先に入っていった。
何かあった時は俺が何とかするしかないかと考えながら追いかけると、由比ヶ浜と三浦の悲鳴が聞こえた。
走って追いつくと、案の定そこは喰種の巣窟だった。
「こいつ兄ちゃんの連れかい? 悪いがこいつらは俺らが貰ってくから兄ちゃんはここで死にな」
「ひ、ヒッキー……」
周りの喰種達は既に赫子を出していてやる気満々のようだ。
俺が本気を出せば簡単に切り抜けられるのかもしれないが今は三浦と由比ヶ浜が一緒にいる。
高校の頃は頑張って誤魔化し続けていたが、ここらが限界なのかもしれない。
何れにせよ、いつかはバレてた事だ。それが早まっただけだと思えばいい。
「だから言ったのに……今はここを切り抜けることだけを考える。由比ヶ浜と三浦、怪我したくなきゃそこ動くなよ」
どういう意味だと三浦は問おうとしてくるが時間はない。
俺の右眼だけが赤黒く染まると、周りの喰種や三浦と由比ヶ浜も驚きを見せた。
「嘘……だよね? ヒッキー……」
「ヒキオ……あんた……」
「まあ……こういう事だ。バレるのが嫌だったからあんまり一緒にいたくなかったんだよ……」
バレてしまった以上、元の関係には戻れない。だが、今はこいつらを守ることだけを考える。
「さあ、やろうぜ。かかってこいよ」
「兄ちゃん……お前も喰種だったとはな……。しかも隻眼たぁ驚いたね」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで来いよ。全員まとめて潰してやる」