孤高の喰種   作:湊眞 弥生

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5 絶望

 笛口親子の騒動の後。局員達もそろそろ退社するような時刻。そんな時間に本局宛に真戸呉緒上等捜査官からの報告書が届いた。

 この時間になんだと局長の和修吉時がその報告書を手に取って読んでみれば、緊急度の高い報告が上がってきていてその報告書にはこう記されていた。

 

 

『20区にて喰種容疑者と思われる対象を捜査していた際、局内の資料に記されていない鬼の面を付けた鱗赫を保持した隻眼の喰種と交戦。亜門一等捜査官と共に交戦するが、軽くあしらわれた上で対象と共に取り逃がす。推定レートS+以上と思われる』

 

 

 この報告を受け、これは緊急の対策を取らねばなるまいと和修吉時は判断を下し、特等捜査官に明日本局に出勤するように連絡を入れる。

 そして、その翌日の朝。招集をかけられて出勤してきた特等捜査官が一同を介した。

 

 

「いわっちょも呼び出しされた?」

 

「うむ」

 

「一体なんだろうねぇ、今回は」

 

 

 最初に口を開いた人当たりの良さそうな男、篠原幸紀。不屈のシノハラとも呼ばれる程の特等捜査官。その篠原の会話に頷いたのは黒岩巌。どちらもCCGが誇るベテランの特等捜査官。

 

 

「有馬くんも呼ばれた?」

 

「はい、緊急を要すると」

 

 

 白髪に眼鏡をかけてコートを着ている男。この男こそ喰種に最も恐れられている特等捜査官。通称CCGの死神とも呼ばれ、未だ無敗の捜査官。有馬貴将。

 

 

「一体なんだってんだ、隻眼の梟でも暴れてんのか?」

 

 

 愚痴を漏らすのは対策局Ⅱ課で指揮官として作戦の立案から指示出しまで行うことを主な仕事としている特等捜査官。丸出斎。

 あと二人、田中丸望元と安浦清子を含めた計六名の捜査官が招集されて局長の待つ部屋に入った。

 部屋に入ると和修吉時ともう一人、真戸呉緒がその部屋で佇んでいた。これから行うだろう会議の場において階級的にも相応しくない人物が部屋にいることに丸出が苦言を呈する。

 

 

「吉時さん、なんでそいつがここにいるんですか」

 

「丸、これにはきちんとした理由がある。特等の諸君、特等会議がある訳でもないのに急な呼び出しに応じてもらってすまない。腰掛けてからでいいから、まずはこれを見てほしい」

 

 

 局長の吉時に促されて集まった特等捜査官達は席に座ってから吉時が差し出た一枚の紙を手に取り目を通した。差し出されたその紙は昨日、真戸呉緒が提出した報告書。

 その報告書を読んで最初に言葉を漏らしたのは対策Ⅱ課で指揮を務める丸出だった。

 

 

「鬼の面を付けた隻眼、ですか……」

 

「そうだ。まだCCGでも交戦したことの無かった新たな喰種だ。今回はこれの対策を考えるべく来てもらった」

 

 

 このクソ忙しい時期にめんどくせえやつが現れたと丸出がボヤく。

 

 

「困ったね、こっちも色々忙しいのに」

 

「うむ」

 

 

 丸出の発言に頷くように困った表情を浮かべて頭を掻き毟る篠原とただ腕を組んで頷く黒岩。

 

 

「この報告書を提出した真戸呉緒上等捜査官には、昨日の様子を詳しく話してもらうべくここに呼んだ。話してもらえるか」

 

 

 局長の吉時が真戸に話を振ると、彼は頷いてからゆっくりと口を開いた。

 

 

「いいでしょう。まず昨日、私とパートナーの亜門くんで喰種容疑者の笛口親子を追ってました。それを追い詰めた時に介入してきたのが、この鬼の面を付けた隻眼の喰種。赫子のタイプは鱗赫であり、戦闘中には五本まで赫子の発現を確認。しかしまだ実力を隠していると思われる。というのもその隻眼が鱗赫の五本目のを出した状況というのが、私のクインケを鱗赫三本で食い止めて残りの一本で笛口を抱えて逃げる体勢を取っていた際に亜門くんに背後を取られたことからですね。結局そのまま私と亜門くんを軽くあしらって逃げられてしまいましたが私の現場の経験から、推定S+以上のレートはあると判断し報告書を提出。そして今日になります」

 

「ありがとう。20区はまだ平和な街だが、そういう訳で隻眼の梟のように今後我々の前に立ち塞がる大きな壁となるだろうこの新たな隻眼は対策急務と判断をしたので諸君には集まってもらった」

 

 

 話を聞いて、とても面倒くさそうな表情をしながら丸出が考えを話し始める。

 

 

「今まで現場で務めてた経験から発言させてもらうと、コイツは赫者か半赫者になっててもおかしくねえな。そうなってくると、レートは恐らくSSはあると俺は判断する」

 

「しかも確認できたのが一回だけなのを考えるに、日常生活を余程上手くやり過ごしながら力を付けてたって所かなぁ。こりゃ参った、アオギリの活動も過激になってきてるというのに……」

 

「しかもコイツがアオギリと手を組んでみろ。いよいよあの組織が手に負えなくなるぞ」

 

「もしかしたら既に組んでいるかもしれないしねぇ……」

 

 

 丸出の考えに乗っかるように篠原も発言をして頭を抱える。

 交戦した回数がたったの一度、それも昨日であり、活動場所も把握できていないことから今から捜査をするのは困難を極めている。

 それに加えて、CCGは今現在活動が過激になってきている喰種組織のアオギリの樹とほぼ睨み合い状態。

 そんな状態の中、確信的な情報がないのに鬼の面を付けた隻眼の喰種討伐に大部隊を動かせば、たちまちアオギリの樹に付け入られてしまう。そのため余計に頭を抱えていた。

 そんな皆が頭を悩ませる中、今まで黙っていた有馬貴将がポツリと発言をする。

 

 

「それなら……自分が20区を少し探索してきます」

 

「それは構わないが……その間24区はどうするつもりだ?」

 

「そんな大勢いらないだろうから……平気です」

 

「そうか……。それなら今回の一件、ひとまず有馬特等に任せる」

 

 

 有馬貴将の提案に局長が折れる形で特等会議はそのまま終了する。

 会議が終了し、全員が部屋から出ていく中で有馬だけはその場で少し考え事をしているのかぼーっと動かずにいた。そして十分にも満たない時間で有馬は席を立ち上がり、独り言を呟く。

 

 

「鬼の面を付けた隻眼の喰種……期待出来ればいいが……」

 

 

 そして、時刻は比企谷八幡が有馬貴将と対峙する場面まで戻る。

 

 

*****

 

 

「こりゃ、本気出さねーと死ぬんじゃねぇか俺……。あんま制御できねーからこれだけはなるべくやりたくなかったんだけどな……」

 

 

 全身を赫子で覆い、肩部からは悪魔の翼のような羽赫を出し、腰部からは計六本の鱗赫を発現させる。

 付けているマスクにも赫子がまとわりついていき、見る人が見ればその姿はさながら…

 

 

「隻眼の悪魔……。通称デビルと言ったところか」

 

「デビル、ねぇ……。まァ……、あながち間違いじゃねぇだろうな」

 

 

 完全な赫者となり、有馬と向き合う。

 赫者となった影響か、頭の中には「体を返せ」「それは私のだ」「ほら、人間なんか殺しちゃえよ」等、数多くの声が頭の中で響く。

 うるせえ、黙ってろ。これは俺の身体だ、テメェらは黙って俺の血肉となってりゃいいんだと頭に響く声を無理矢理抑えつける。

 その比企谷の姿を見て、有馬も両手に持ったアタッシュケースを起動させてクインケを出すと、その両手には真っ黒のランスと少し形の変わったレイピアのようなクインケがあった。

 

 

「行くぞ……。死神……」

 

「……こい」

 

 

 比企谷が一歩踏み出して羽赫で射撃をしながらも鱗赫で有馬の身体を狙って突き刺しに行く。

 有馬は比企谷の攻撃を必要最小限の動きで避けながらも両手のクインケを操って迫ってくる触手を的確に切り落としていく。

 有馬のクインケ操術を見て比企谷は、間合いに近づけばやられるのは自分の方だと一瞬で理解する。触手全てを切断されて、比企谷は距離を保ったまま有馬を睨み付けた。

 

 

「……もう終わりか……?」

 

「バケモノかよ……。腹くくれ、俺……!!」

 

 

 涼しい顔をしてこちらを見る有馬に向かって体勢を低くさせながら走り出す。

 その間に鱗赫を再生させながらも羽赫をブレード状に変形。そのまま羽赫で斬りかかると、有馬はそれを身体を倒すように避けながらも黒いランスで一閃。有馬が振ったクインケの先にある比企谷の腹に一本の線が入ると血が吹き出した。

 それを受けて、間合いに近づくのはやはり危険だと判断。ジャンプで後方に飛び下がりながら鱗赫で手数押しの攻撃を行う。

 有馬は触手の連打を黒いランスで弾いていると、比企谷が黒いランスを捉えて有馬の手から弾いて後方に飛ばした。

 レイピア状のクインケしか握っていない有馬は前方に突進するように走りながらも比企谷の鱗赫の攻撃を避けて、一言呟く。

 

 

「IXA……、遠隔起動……」

 

 

 比企谷が着地する瞬間を狙ってIXAと呼ばれる黒いランスのクインケを遠隔起動させると、比企谷が着地した瞬間に、螺旋状に変形した黒いクインケが比企谷を頭上から腕を捉えて切断。

 

 

「ごはァっ……」

 

 

 腕を斬られた箇所から目を直ぐに離して前方を見ると、既に有馬が目の前に迫っている。「不味い!」と思いながら身体を後ろに逸らすもそのままレイピアで腹を貫かれて血を吐き出した。

 

 

「間合い、だ……、っのヤロォ!」

 

 

 自分の懐にいるのを逃がさないとばかりに自身の身体を貫いている有馬の頭上から囲むように鱗赫で叩き潰そうとすれば、有馬は突き刺していたクインケを抜いてバックステップで離れながら身体を若干後方に傾ける。有馬の身体があった場所を見ればそこを触手が通っていて間一髪で攻撃を躱している。

 その隙に比企谷は遠距離で羽赫から雷のようなモノを形成して有馬を撃ちに行くも、それは黒いランスが盾状に変形して受け止められてしまう。

 攻撃されて血だらけの比企谷と無傷で涼しい顔をしながらこちらを眼鏡のレンズ越しに見据える有馬。力の差は歴然としていた。

 

 

「一発も当たらねぇのかよ……」

 

 

 意識を失いそうになり、頭の中には自分が今まで捕食してきた喰種達の声が大きくなっていく。

 

 

「ヤメロォォォォ! ごればオレノガラダだァァァ!!」

 

 

 頭を抑えて叫び体内の声を黙らせる。その様子を見て、死神は呟く。

 

 

「……まだ。制御出来ていないのか……」

 

 

 比企谷が有馬を見ると、その目はまるで「期待外れだ」と言っているように見えた。

 

 

「っ……その目で……俺を、見るな……。クソッタレ……」

 

 

 一言呟けば遠隔起動で螺旋状に変形しての攻撃と盾状に変形で相手の攻撃を防げる近距離戦も防御も出来る黒いランス、そして未だその力を見せていないレイピアのクインケ。

 両手のクインケの能力を相手から引き出せていないことからも、有馬は未だ本気じゃない。

 

 

「256……」

 

「……は?」

 

「お前に致命傷を与える事が出来た場面の数だ……。お前は、まだ……弱い」

 

「手加減されてんのかよ……」

 

 

 それを聞いて比企谷は思う。あの一瞬でどこにそんな隙があっただろうと。俺ではコイツには勝てないと。そんな喰種よりも身体能力が化け物であろうコイツを相手にして勝てる喰種なんていないんじゃないかと比企谷は絶望をした。

 

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