イカれた金剛石はバニーガール先輩の夢を見ない。   作:リン オクムラ

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第3話

『前』の世界の2011年、空条承太郎が昏睡状態に陥った。それを救う手がかりとして東方仗助はとある一冊のノートの復元を頼まれた。承太郎がその時何に巻き込まれただとかそういうことはよくはわからなかった。『DIO』の残したノートの復元にしか仗助は関わらなかったからだ。

その後、世界は加速し、一巡し、そして…。東方仗助は全く別の『誰か』である『梓川咲太』として『生まれたことになっていた』。

仗助自身には何が起こったのかよくわかっていなかった。しかし、自分は戻らなくてはならないと思っている。こちらにも大切なものや放って置いてはならないものもある。『妹』の『かえで』のこととかどうにかしなければならない問題がいくつかあることにはある。それが全て終わったら、何もかもが解決したなら、自分は帰らなくてはならない。思春期症候群と呼ばれる『病気』の『症状』には色々なものがあった。ともすればスタンドと同じように多種多様である。だとするならば、『思春期症候群』を使うことで『前』の世界に戻ることはできないだろうか、と『梓川咲太』は考えている。『妹』の時に色々調べた中には一人の人間が複数の思春期症候群の『症状』を『発症』した例もあった。

 

(思春期症候群の『発動条件』と『狙った効果』がわかればよォ〜それを使って帰ることができるかもしれねえ。じじいのこともあるし早いとこ向こうに戻る条件を探さなきゃあならねえ。『思春期』症候群っつーぐれえだから、もしかしたら『発症』に『年齢制限』があるかもしれねーからなぁ)

 

実のところ、仗助が積極的に桜島麻衣の思春期症候群に関わろうとした理由がそこにあったのだ。麻衣を『調べる』ことによってその『症状』と『発症条件』を知るためである。

 

「今日は『認識』されてるみてーっスね、先輩。前はよォおれ以外の人間にはまるで風景に溶けこんでるかのように、そこに有っても有るように感じねえ言っちまえば幽霊みてーに誰にも『認識』されてなかったってのに」

 

「……」

 

麻衣は言葉を発さない。

 

「ただこの『現象』は先輩が操れるってワケじゃあないみてーだな。操れるっつーならよ。あんな図書館の中でバニーガール姿でうろつくみてーなクレイジーな行動したりだとか、盗撮された時に『認識』できねーようにしちまえばいい話なんだからよォ〜。ま、先輩に『そういう』シュミがあったりしたなら別の話なんだがなぁ〜」

 

「な!?そんな趣味わたしは持ってないわよ!?」

 

甚だ不名誉だっていう顔をしながら、仗助に食ってかかるように否定する麻衣。仕方ないと言った顔をしながら『現象』について話す。

 

「なんとなく気まぐれで江の島の水族館に行ったの。でも、家族連れで賑わっている水族館の中で、誰も私を見ていないことに気がついたのよ。いつもなら見られるどころか声をかけられて魚を見るどころじゃないのに」

 

仗助は黙って聞いている。そこから麻衣の表情が険しくなっていった。

 

「それで帰りがけに喫茶店に入った瞬間ハッキリした。『いらっしゃいませ』の声もかけられないし、席にも案内されないもの。びっくりして急いで藤沢まで帰ってきたらみんな普通にわたしを見てた。江の島でのことは気のせいじゃないかって思ったんだけど、やっぱり気になって調べ回ってたの」

 

「…それでバニーガールっスか」

 

「あの格好なら見えてたら見るでしょ。気のせいを疑う余地もなく。まあ見えてても全く騒がない誰かさんのことに気づくのにはちょっと時間がかかったけど」

 

あの時、仗助は麻衣に対して頭がちょっとオカシイヤツなんじゃあないかなとか結構失礼なことを考えていた。何しろ仗助の周りにいた杜王町の連中は一癖も二癖もある連中ばっかりだったから。

 

「つまりよォ、先輩のソレはタイミングとかそういうのじゃあなく『場所』が問題ってワケなんだな」

 

「みたいね。今なら世界中から見えないんじゃないかって期待したんだけど、学校では普通だったし今もね」

 

「フツウのヤツなら慌ててどーにかしようとするところだけどよォ〜、先輩なんか楽しんでないっスか?まるで子供が新しいゲームやスポーツを始める時におっかなびっくりしながらも楽しんでやってるときみてーに」

 

「そりゃあ楽しいもの。今までずっと人に見られて、人の目を気にしながら生きてきた。いつも思ってたのよ誰もわたしのことを知らない世界に行ってみたいって」

 

それは言ってしまえば未練や執着といったもの。それは芸能人だからこそ持っているもの。子供の頃から誰かに見られることが当たり前だった麻衣だからこそ感じるものである。

 

「私は今の状況に『満足』しているの。わかったでしょ?私がどれだけイカれた女か。……もう関わらないで」

 

キッパリとそう言って桜島麻衣は電車から降りていった。

 

 

 

(おいおいおい〜ッ!あんなにキッパリ助けはいらないっつってたのに、これはちょっとカッコ悪いんじゃあねーの?)

 

咲太…もとい仗助も降りる駅が同じではあるため降りて、ここでまたあの先輩に会ったら気まずいよなぁ〜とかそういうことを考えていた。しかし…

 

「クリームパンを一つください」

 

シィーーンとその売店のおばちゃんは何も動かない。ピタァァとその場所に立ち続けてどこかを見ている。

 

「あの、クリームパンを一つください」

 

(確か先輩はこの前『藤沢駅』では認識されたっつってたよなぁ〜。じゃあなんで今は『認識』されてねーんだ?もしかしてこの『症状』にはまだ『続き』があるのか?癌とかがほっとくと全身に転移していくみてーに『症状』は今、この瞬間にも『進行』してるってーことかぁ?)

 

それにしてもどーすっかなコレとも仗助は考えている。帰るときどっちにしろ売店の前を通るから助けても、無視しても気まずいのには変わりない。

 

「ま、しゃーねえか」

 

そうして、仗助は麻衣の真横に立つ。

 

「おばちゃん!クリームパン一つもらってもいいっスか?」

 

「あいよ!クリームパン一つね!」

 

そして、仗助はクリームパンの包みをもらった後麻衣に渡す。

 

「困ったことがねえとは言っていたがよォ〜本当はちょっとばかし困ってたりするんじゃあねえか先輩?」

 

「そうね。この店のクリームパンが食べられないのは少し困ったわ。でも、信じるのこんなイカれた話」

 

「信じるも何もおれは『こういうの』には慣れてるからなぁー」

 

仗助が『梓川咲太』になってから、この世界で思春期症候群と呼ばれるモノに関わるのはこれで2回目であった。それに杜王町ではこういった不思議な出来事がよく起こったのだ。あの街はちょっとばかし『スタンド』を持ってる奴が多かったからだ。

 

「先輩のそれはよ多分都市伝説でよく言われてる『思春期症候群』だぜ。『スタンド』かもしれねーとも思ったがよォ〜あんたはあの時『見えて』なかったからなぁ」

 

まあ、スタンド使いからの攻撃を受けている可能性も考えられるが、仗助が今のところスタンドの姿を影もカタチも見てないことから、可能性としては思春期症候群の方がまだ圧倒的に高いと思っている。

 

「思春期症候群なんて、よくある都市伝説じゃない。根拠なんてなにもない。というかスタンドってなによ?」

 

「根拠はあるぜ」

 

「!?」

 

「だから、ちょっと付き合ってくれねぇか先輩。『思春期症候群』が『存在』するっつー『根拠』を説明してやっからよォ〜。ついでにスタンドについても教えてやるぜぇー」

 




ちなみに世界が一巡する前の仗助は90代になったジョセフ の介護もちょくちょくやってたりする設定です。まあ承太郎や徐倫が色々なことに巻き込まれている上に、仗助の腹違いの姉であり承太郎の母親のホリィもそれなりに高齢になっているためなおホリィは仗助の祖父・東方良平と同い年なため2011年時点では60代後半に差し掛かっている)ってことにしといてください。

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