一年戦争の兵器たち   作:シモノツキ

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M61A5 MBT 巨人に挑みし老兵

 

 

宇宙世紀0079年1月3日。

地球から最も離れたスペースコロニー「サイド3」はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し独立戦争を仕掛けました。

一年戦争です。

ジオン軍はブリティッシュ作戦、ルウム戦役などの緒戦で連邦宇宙軍を壊滅させると次の目標を地球へと定めました。

ジオン軍による地球侵攻が迫るなか連邦地上軍は「コロニー落とし」の復興もままならぬまま、対応に追われることとなります。

ルウム戦役でジオン軍新型機動兵器MS(モビルスーツ)「ザクⅡ」は華々しい活躍を遂げ、連邦宇宙軍の壊滅と言う戦果を持ってその性能を見せつけました。

連邦地上軍はこのMS(モビルスーツ)がきたるジオンの地球侵攻でも使用されると予想していました。

この18mの巨人に対抗する手段でとして期待されたのが連邦陸軍の主力戦車「61式戦車」でした。

今回はこの「61式戦車」に焦点を当てたいと思います。

 

宇宙世紀0050年代。連邦地上軍はある問題を抱えていました。保有する兵器の旧式化です。

0022年以来、地球圏では暴動こそ有れど大きな争乱はなく平和な時代が続いていました。

その為、兵器の更新などは積極的に行われず、当時の主力戦車「26式戦車」が優秀だったこともあってか兵器の旧式化は真剣に議論されて来ませんでした。

0057年になると各種兵器の老朽化による故障や事故、稼働率の低さが問題視され、連邦軍はようやく各種兵器の更新計画、「57年計画」をスタートさせます。

この「57年計画」によって0061年に設計・制式採用されたのが「M61A1 MBT」、通称「61式戦車」です。

全長11.6m、全幅4.5m、全高3.6mのこの戦車最大の特徴は150mm滑空砲2門を搭載する2連装砲塔です。

従来の戦車は単装砲が主流でした。これは2連装砲塔が砲塔内スペースの圧迫や重量、乗員の増加等のデメリットを多く抱えていたからです。

しかし、砲の軽量化や駐退復座機の小型化、エンジン出力の上昇などの技術の発展により2連装砲塔のデメリットを打ち消すことに成功します。これにより「61式戦車」は高い攻撃力を得ることになります。

「61式戦車」は0062年から本格的に量産され各方面に配備されていきました。0063年にはコロニー内や月面での運用を想定した電気駆動式のA2型が連邦宇宙軍陸戦隊に採用されます。

最新技術の粋を結集して設計された「61式戦車」は究極の主力戦車(MBT)と言える存在でした。

しかし、その高い性能が故に後継機の開発が進まず、数々のマイナーチェンジを施されながら0079年においても、連邦陸軍の「陸の王者」として君臨し続けていたのです。

 

一年戦争開戦時、連邦陸軍で広く運用されていたのは「M61A5 MBT」、後期型と呼ばれるタイプです。

全長11.6m、車体長9.2m、全幅4.9m、全高3.9m、最高速度は90km。主砲は150mm滑空砲から155mm滑空砲へと変更されました。

この砲はジオン軍が運用する主力MS「ザクⅡ」の正面装甲を2000m先から貫通可能でした。

砲塔も再設計され、低くなり被発見率が下げられます。

また、電子戦装備や自動追尾機能等の発達により乗員は3人から2人へ省力化され車長は砲手を兼任することになります。これは当時、連邦軍の人員不足も一因だとされています。

一年戦争開戦前の連邦軍は、平和な時代が続いていたことによる軍縮政策と志願者数の減少から極度の人手不足に陥っていました。

各方面軍の多くの部隊で縮小や改変が行われ、欧州方面軍だけでも最盛期の半分近くにまで縮小されていました。

その為、戦前の連邦軍では装備の無人化、自動化が盛んに行われた記録が残っています。

「61式戦車」も戦術データリンクによる衛星を介した精密照準が可能であり、砲手は車長と兼任でも高い射撃能力を維持して見せました。

しかし、ミノフスキー粒子によって無人化の進んだ連邦軍は大混乱に陥ります。

人手不足を補う兵器群が全く使えないガラクタと化したのです。

「61式戦車」もその自動化の進んだ高い性能を万全に運用するのは、2人の乗員では困難を極めました。

こうして「61式戦車」はその性能を充分に発揮できないままジオン軍の「ザクⅡ」と戦うことになったのです。

 

宇宙世紀0079年3月1日、キシリア・ザビの「鷲は舞い降りた」の演説と共にジオン軍は第一次降下作戦を開始、中央アジア カザフスタンから東欧 ウクライナにかけて降下しました。

欧州方面軍及びアジア方面軍はジオン軍の正確な降下地点を事前に察知出来ず、ほとんど不意討ちに近い形で攻撃を受けることになります。

更に、ミノフスキー粒子による通信網への影響は当初の想定より深刻でした。

欧州方面軍司令部が降下したジオン軍の全容を把握できたのは降下から3日後でした。無線通信よりも伝令の方が効果的だったと言う手記も残されています。

ジオン軍はオデッサに空挺堡を確立。西進を続けていました。

欧州方面軍はウクライナ リヴィウに展開していた第22、31の2個機甲師団をオデッサに向け前進させます。

こうして、0079年3月6日に両軍はキシナウ近郊で衝突します。「キシナウ攻防戦」です。

 

「キシナウの戦いは61式とザクが初めて大規模に衝突した戦いでした。この戦いは連邦、ジオン双方に大きな影響を与えました」

戦史研究家ドワイト・シュテッケル氏はこの戦いを一年戦争 重力戦線初期における最も重要な戦いの一つだと言います。

キシナウ攻防戦において連邦軍は2個機甲師団、戦車 約400両、火砲 約100門、航空機 約150機、兵士 約25000人を投入します。対するジオン軍はMS 39機、戦闘車両 約100台、兵士 約8000人でした。

6日未明ジオン軍は1個MS中隊を中核にキシナウ市街で抵抗する連邦軍第15歩兵旅団戦闘団を包囲すべく後方へと進出させていました。

オデッサへと向かう第22機甲師団の先頭、第44機甲旅団戦闘団第443戦車大隊はこのMS中隊と遭遇します。

セルゲイ・パスダヴァ軍曹(当時)はこう振り返ります。

「私は先遣中隊の先頭、つまりは大隊の一番前で街道沿いに前進を続けていました。すると、操縦手のベレンコ上等兵が森の向こうに何かいると言うのです。望遠カメラを向けると木々が不自然に揺れていました。同時に小隊長から無線で停止命令が下されました」

停止したパスタヴァ軍曹はハッチから身を乗り出します。

「あの時のことは今でも憶えています。双眼鏡を覗くと、林の上にザクの頭が見えたんです。写真や映像で見たことはありましたが、実際に見た時の衝撃は凄かったです。言葉も出ませんでした」

この時パスタヴァ軍曹の前に現れたのは1個MS小隊、3機の「ザクⅡ」でした。

第443戦車大隊は直ぐ様攻撃に転じます。

3機の「ザクⅡ」は不意を突かれ2機が撃墜、1機は中破しつつ後退していきました。

この戦闘で連邦軍は勢い付きます。「61式戦車」の攻撃力は「ザクⅡ」に通用することが確信できたからです。

この段階でジオン軍もキシナウに接近する連邦軍の大部隊に対抗するため戦力をキシナウに集中させます。

「ジオン軍は接近する連邦軍を東欧に展開する軍の主戦力であると捉えていました。これを包囲し撃滅することで東欧での主導権を握れると考えていました」

こうして翌3月7日。キシナウ市街から北東に60kmの地点で両軍は激突しました。

最初に戦端を開いたのは第31機甲旅団戦闘団第311戦車大隊でした。

ミノフスキー粒子下での戦闘経験など皆無だった彼らは戦前からの訓練通り、長距離からの砲撃を試みました。

これは殆ど効果がありませんでした。「61式戦車」の長距離精密砲撃能力は衛星とのデータリンクが不可欠だったからです。

その場から動かないトーチカや砲台ならともかく、素早く動くMSに当てることは困難を極めました。

しかし、同じように「ザクⅡ」の攻撃も「61式戦車」に効果を上げませんでした。

「ザクⅡ」の装備する120mmザクマシンガンは、スペック上では徹甲弾を使用した上で61式の正面装甲を800mの距離から貫通するとこができましたが、1500mを越える長距離戦では役に立ちません。

280mmザクバズーカは有効な攻撃手段でしたが弾速が遅く、回避されやすいという弱点も抱えていました。

連邦軍は従来の長距離戦では戦闘に決定打を与えられないと悟ります。ジオン軍も同様でした。

8日、連邦軍は大きく戦術を変換します。最初に動いたのは第31機甲師団隷下の第50機甲旅団戦闘団でした。

「中隊全車突入の命令が下りました。隣の501戦車大隊の支援を受けながら、502戦車大隊の2個戦車中隊が敵陣に突入したのです」

グレゴリー・ヤシュ少尉(当時)は4両の「61式戦車」を率いて前進しました。

連邦軍は長距離戦を止め命中の望める距離まで接近することにしたのです。

「それまで61式とやりあったのは最大でも2個小隊規模でした。大隊規模の61式が向かってきて自分も仲間も恐怖を覚えました」

そう語るのは「ザクⅡ」のパイロットとして参加していたハンス・ヴェンク曹長(当時)です。

ヴェンク曹長の言う通り地球降下以来、破竹の勢いで進軍するジオン軍に抵抗していたのは歩兵主体で編制された歩兵旅団戦闘団でした。時折遭遇する「61式戦車」も中隊規模を出ない程度だったのです。

ジオン軍は大軍で向かって来る「61式戦車」の前に恐慌状態に陥ったと記録されています。

4両の「61式戦車」を率いるヤシュ少尉は混乱するジオン軍に約1200mの位置から激しい攻撃を加えます。

「攻撃に集中していると隣に居たモルダヴィエ軍曹の61式が反撃を受け吹き飛びました」

先に述べた通り1000m先からザクマシンガンの攻撃を受けても「61式戦車」の正面装甲は耐えられます。

しかし、実際には多くの「61式戦車」が1000m以上の距離から攻撃を受け撃破されていました。

後の調査の結果、撃破された「61式戦車」の殆どが上面装甲に被弾していました。

戦車の上面装甲は正面や側面に比べて薄く出来ています。「61式戦車」も従来通り上面は薄く設計されていました。

「ザクⅡ」を始めとしたMSの全高は約18mあります。対する「61式戦車」は約4m。その高低差からザクマシンガンの120mm徹甲弾は上面装甲に命中、貫通したのです。

「ザクの攻撃を避けるべく、部下には行進間射撃をして敵に肉薄するよう命令しました」

ヤシュ少尉の率いる3両の「61式戦車」は2両で「ザクⅡ」の周囲を絶えず移動して注意を惹き付けた所で最後の1両が後ろから攻撃し撃破しました。

この複数車で敵を撹乱し、背後から一撃を加える戦術はのちに「61式戦車」の対MS戦闘の基本となります。

混乱から立ち直ったジオン軍の動きは迅速でした。突破を謀る第50機甲旅団戦闘団の側面を1個MS中隊が急襲します。

「突然、側面から攻撃を受け中隊長車が撃破されました。横から近づくザクに我々は全く気づいていませんでした」

車長が砲手を兼任する「61式戦車」は攻撃の際、車長は砲撃に集中する必要がありました。レーダーの使えないミノフスキー粒子の影響下ではどうしても周囲の警戒に隙が生まれます。

この弱点は致命的でした。

側面から急襲を受けたヤシュ少尉ら第502戦車大隊は瞬く間に壊滅します。

ヤシュ少尉の「61式戦車」も被弾し操縦手のモロトフ伍長は即死、ヤシュ少尉は間一髪で脱出に成功、随伴していた機械化歩兵に救出されます。

9日になるとジオン軍は反撃に転じ、MSを集中運用することで連邦軍の機甲旅団戦闘団を撃破していきます。

ジオン軍がキエフ方面から進出し包囲する動きを見せたこともあり、3月9日16時、欧州方面軍はオデッサ攻略を中止、撤退を決断します。

連邦軍の戦力を削ぎたいジオン軍は追撃戦に移行します。

「敗走する敵を追っていると突然攻撃を受けました。僚機のザクマシンガンが吹き飛んだんです」

撤退中の連邦軍の殿(しんがり)はキシナウの第15歩兵旅団戦闘団と損害が比較的軽微だった第44機甲旅団戦闘団が担当していました。

追撃戦を行うヴェンク曹長はこれに遭遇します。

「戦車掩体に潜みながらザクがくるのを待ってました。小隊長から必中の距離まで引き付けろと命令されていました」

パスタヴァ軍曹の小隊は森林に潜んで襲撃し、「ザクⅡ」を追い返します。

パスタヴァ軍曹の「61式戦車」がそうしたように第44機甲旅団戦闘団の各大隊は林や稜線に隠れながら「ザクⅡ」を待ち伏せ、中隊ごとに連携して攻撃します。

MSには随伴する歩兵は居らず潜伏する連邦軍の発見は困難を極めました。

第44機甲旅団戦闘団の「61式戦車」は側背面から「ザクⅡ」を待ち伏せて襲撃し大きな戦果を挙げます。

ジオン軍はキシナウ市街でもゲリラ戦を展開する第15歩兵旅団戦闘団に苦戦し、追撃を断念します。

この一連の「キシナウ攻防戦」で連邦軍は投入した「61式戦車」の約半数にも及ぶ200両近くを失う大損害を被りました。

この戦闘の結果、連邦軍は各機甲師団ごとの反撃を諦め機甲師団を集中運用、集中投入する戦略を取るようになります。

ジオン軍は大軍の「61式戦車」を打ち破ったことで進軍は更に勢いづき、「61式恐るるに足らず!」という楽観論が蔓延ることになります。

 

その後も連邦陸軍の「61式戦車」は各地で戦闘を続けます。

対MS戦術も発展を続け、北米では有線通信を使用し観測手と連携した長距離精密砲撃が効果を挙げました。東南アジア等の密林に置いては隠掩蔽がしやすく、待ち伏せ攻撃が絶大な戦果を挙げ局地的な膠着状態を作り出すことに成功しています。

連邦軍初の量産型MS「RX-79 ジム」が投入された戦争後半以降も連邦陸軍の主戦力は依然として「61式戦車」が勤めていました。

「ジムは量産性に優れたMSでしたがオデッサ攻略以降、次の主戦場となる宇宙軍に優先的に配備されていました。終戦のその日まで、重力戦線を支えたのは「61式戦車」だったのです」

ドワイト・シュテッケル氏は「61式戦車」を連邦陸軍の勝利を支えた影の功労者だったと評価します。

一年戦争が終結すると連邦軍はMSへの装備変換が急速に進みます。

重力戦線を支えた老兵はその姿を戦場から消したのでした。




色々書いてたら長くなってしまった。

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