そこは地獄だった。宿敵【ルドラ・ファミリア】の罠を間一髪の所で回避し、奴等を追い詰めた。やっと
途轍もない無機的な高音域、紛れもなくダンジョンの『痛哭』と同時に現れたそれはこの世を地獄へと変える正しく『厄災』だった。
事態を把握する間もなく1つの少女の命が散った。そしてそれに反応する間に1つ、また1つと仲間の命が奪われた。
激昂し、『怪物』へ放った渾身の一撃も簡単に躱されその反撃によって命を散らそうとするリューを救ったのは輝夜だった。片腕を犠牲にして、ではあるが。
しかしそれでも【アストレア・ファミリア】は折れなかった。リャーナとセルティは仲間の仇に怒りの炎を燃やし、冒険者必殺の魔法をもって『怪物』に抗おうとした。が、それも
今度こそ絶望した。心が折れた。
白兵戦にすら持ち込めず、切り札である魔法さえもはね返される。この世の理不尽のような存在にリューは生まれて初めて『恐怖』した。
アマゾネスのマリューが八つ裂きにされ、みんなの姉のような存在であったマリューも頭から喰われた。それらの事実が『恐怖』を加速させ、リューの心に深い『傷』を作っていく。
『破壊者』が標的をジュラ率いる【ルドラ・ファミリア】に移している間に【アストレア・ファミリア】の団長であるアリーゼが状況を確認するも残されたメンバーは既に満身創痍だった。
アリーゼ自身もボロボロであり、輝夜は隻腕に、
------待って。
------行かないで。
------お願い。
リューは震える声で、歌い出した。
「・・・・【今は遠き、森の空・・・・・】」
最初に標的になったのはライラ。視覚を失い動けない彼女を、
死ぬ前に爆弾を浴びせようと考えていたライラもいつまでも訪れない『死』に不思議に思う。確かにすぐそこに気配を感じる『怪物』はいつまで経っても襲ってはこなかった。
辺りは静寂している。いつのまにか妖精の歌も止んでいる。そして自分と
リューは見てるしかなかった。
歌いながら仲間たちが犠牲になろうとするのを。
リューが思わず詠唱を止めてしまい、顔を上げると1人の青年がいた。煙の様にライラの前に出現してどういう方法かは分からないが
年の方は多分20くらい。顔立ちは整っていて何より特徴的だったのが、リューたちの絶望を照らすような紅い眼。
そして青年が何かを口にしようとした所でまた絶望が動いた。先程まで確かに動きを止めていた筈の『怪物』が『爪』を振り下ろし、青年とライラの体を引き裂いた。
暗闇の中に現れた微かな希望すらも引き裂く『爪』に再び絶望に叩き落とされた気になったが、それはリューの勘違いだった。
引き裂かれた2人の体が烏に変化し飛んで行ったのだ。驚くリューの背後にいつの間にかライラを抱えた青年が移動していて、彼女をリューに預けたと思ったら『怪物』はこの世の全てを焼き尽くす様な黒炎に包まれ悲鳴を上げながら消滅したのだった。
目を覚ましたら何処か薄暗い場所にいた。
また穢土転生の術かとも思ったが自分の身体を見る限りどうやらそうではないらしい。身体は塵も纏っていないし、何より自分の意思で動く。
何故だかは分からないが、生前殆ど失っていた視力も回復している。それに病に蝕まれていた筈の身体も軽い。
どうにか現状を把握しようと周りを見渡してみたが、あまりにヒントとなる物がない。取り敢えず人を探すのが早いと思い歩こうとすると近くで悲鳴のような音が聴こえる。
急いでその声の方へ走ると狭い通路を抜けて広い空間が見えて来た。そこで目にした物は信じられない様な光景だった。
大きく抉れた壁面にいくつもの
そして今も戦闘が続いており、そこには今まで自分が見た事のない様な『怪物』とお伽話の中でしか存在し得ない
すぐに少女と『怪物』の間に瞬神の術によって体を滑り込ませ己の万華鏡写輪眼による幻術『月詠』によってそれの動きを止める。
そして、呆然としてる少女たちに状況を尋ねようとしたところで予想外なことが起こる。自身の『月詠』を破れる存在など同じうちは一族の写輪眼使いくらいのものだが、その『怪物』はそれを破って、イタチと少女を抹殺しようとその『爪』を振り下ろしてきたのだ。
しかし、天才だらけのうちは一族の中でも飛び抜けた天才であるイタチの命をこれくらいで獲れるはずがなく、得意の烏分身と変わり身の術によって窮地を脱し、少女を抱えて即座に
驚愕で硬直している彼女に腕の中の少女を預け『怪物』を処理しようと前に出る。骨の様な見た目のそれに得意の火遁はあまり効果がなさそうだと考え、身体に負担はかけるが万華鏡の瞳術である『月詠』を破る未知の生物を倒す為に、回避不可で対象を燃やし尽くすまで消えない黒炎、『天照』を使用した。
断末魔を上げる怪物を黒炎が燃やし尽くしたのを確認すると未だ状況を把握できていない少女たちに声をかけた。
私たちの仲間の命をいくつも奪った『絶望』の象徴ともいえるモンスターが突然現れた青年によってあっさり倒されるのを呆然と見ていたリューは青年に声をかけられた事で我に帰った。
この下層にソロで来れて先程圧倒的な強さを見せつけた青年に始めは
私と同じく硬直が解けたアリーゼと輝夜も少し警戒しながらもお礼を言いに来た。それに答えた彼は
「この場所が何処なのか知ってる事が有れば教えてほしい。」
という質問をしてきた。
ふざけているのかと怒りを覚えたがどうやら彼は気が付けばこのダンジョンに倒れていたと言うのだ。そんな馬鹿な話があるかと思ったが、彼は『ダンジョン』も『オラリオ』という単語も聞いた事がないらしい。
変わりに『火の国』や『木の葉』、『チャクラ』について聞いた事があるかと聞かれたが私はないとだけ答えるとアリーゼや輝夜、ライラも同じらしく、聞いた事がないと答えると彼は難しそうな表情で考えこんだ。そして恐らく別の世界から自分はやってきたと話し出した。 アリーゼたちは半信半疑の様子だったが、私は彼の言うことが本当の事だと思った。私には彼が嘘をついている様には見えなかったし、先程の戦闘、何より命の恩人である彼の事を疑いたくなかった。
それにオラリオにいたらあれ程の戦闘力を有する物が全くの無名なんてあり得ない。と思ったところで、そういえばまだ彼の名前を知らないと思って尋ねてみた。
彼の名前は「うちは・イタチ」というらしい。姓と名が反対なのは極東出身の者の特徴ではあるが、極東出身の輝夜も聞いたことがないそうだ。
少し心が平穏を取り戻しかけていたが、視界の奥の方で男が動いたことで忘れていた怒りが燃え上がってきた。あいつの、あいつらのせいで【アストレア・ファミリア】の仲間たちは私たちを残して全滅したんだ。共に正義を信じて戦ってきた仲間たちが。
しかも、何とか生き残った仲間も輝夜は片腕を、ライラは両眼を失っているし、アリーゼも重傷を負っていた。そもそも彼、イタチさんが来てくれなかったらアリーゼたちも私1人を残して間違いなく死んでいた。そう考えると足が勝手にジュラの方へと進んでいた。
アリーゼと輝夜もジュラの存在に気付き、私と同じ気持ちらしくジュラの方に足を向けている。ライラだけは目が見えてないのでエリクサーを顔にかけてイタチさんの側で休んでいる。
ジュラは近づいて来る私たちに気づいて悲鳴をあげたが、恐怖でろくに逃げれないようだった。私はジュラに止めをさそうと木刀を振り上げたが、それはイタチさんに腕を掴まれ止められた。
何故こんな奴を庇うんだと怒りが沸き上がったが、彼はあの紅い眼(「写輪眼」というらしい)の能力によってジュラに催眠をかけ、彼らのアジトやギルドの裏切り者の情報をジュラに自白させた。
それでも怒りが収まらなかった私たちはジュラを始末して、残党に復讐を誓ってイタチさんと一緒にダンジョンから脱出した。復讐を誓った私たちをみたイタチさんの紅い眼はどこか哀しそうだったことからは目を背けて......
続かない