次元オバケのカメラマン(または宇宙漂流していたらポケモンの惑星に辿り着いた話)   作:乃響じゅん。

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10:ぼくが旅に出た理由<終>

 結婚式の夜、私はデンリュウの村長のいる離れ小島へと足を踏み入れた。

 

「あれ、ナガレさん。あの子たちはもういいのかい」

 

 村長は先に帰っていたようで、ふと呼び止められた。

 

「そりゃまぁ、折角一緒になれたんですから。二人きりにさせてあげないと可哀そうですよ」

「ははは、それもそうだねえ」

 

 村長は笑っている。

 

「して、何かこの島に用があるんだろう」

「はい。このデジカメを、オルフェのお兄さんに渡そうと思って」

 

 オルフェの、と村長は言葉を繰り返した。

 

「これって、動力は電気なんです。元々電源が入らなかったのに、この島の裏手の池に近付いたことをきっかけに電源が入った。それから度々、ピチューの姿が映るようになった。あいつに聞いてみたら、お兄さんだって言ってました。このデジカメにあの子が憑りついたから、このデジカメは動いていたんです。彼がこのデジカメから離れたら、また電源は切れてしまうでしょう。僕が持っているくらいなら、彼にあげたい。オルフェが立派な大人になった証拠を、つぎの次元へ持って帰って欲しいんです」

 

 なるほどね、と村長は呟いた。

 

「ちょっと、聞いてもいいかな」

 

 何でしょう、と私は答える。

 

「君はどうして、オルフェをあんなに気にかけてくれたんだい」

 

 村長のまなざしは優しい。話したくなければ、話さなくてもいいという雰囲気を持っている。だが、そんな村長だからこそ話したいと思った。

 

「私にも、婚約者がいたんです」

 

 思い出せば、辛い記憶だ。

 

「私はかつて、惑星開拓の作業員をしていました。お金を貯めて、結婚しようって。もうすぐ結婚するっていう時に、その星の原住民の反乱が起きてしまいました。あっという間に我々の住居は侵略され、脱出を余儀なくされました。あの人を探している時間なんてないほど、あっという間の出来事だったんです」

 

 目を閉じれば、あの日のことは鮮明に思い浮かべることが出来る。冷凍睡眠装置の眠りの中では、永遠の時間も一瞬のうちに過ぎ去ってしまう。私の中では、まだ塗り替えることのできない、つい最近のことなのだ。

 

「私が流れ着いたこの島は、本当にたまたま、みんな優しかった。だから、できるだけ恩返しをしたい。そう思ってるんです。そうすることでしか、あの日を忘れることが出来ないんです」

 

 気が付けば、私は泣きそうになっていた。

 村長は短い腕で、そんな私を抱きしめてくれた。私がオルフェにしてあげたように。

 

「ありがとうね。きっと君にも、いいことがある」

 

 私は細い胸の中で頷いた。ここに来てから、ずっといいことばかりです。

 

 

 

 ドダイトスの裏に回り込み、池に近付く。それに伴って、ピチューの姿がカメラ越しで無くても見えるようになってきた。真夜中はあの世に近い時間帯なのかもしれない。

 池の前に、私は腰を下した。最後に、オルフェの兄と少し話をしてみたかったのだ。暗闇にぼんやりと、半透明の黄色い小さな身体が浮かんでいる。

 

「君がいてくれたから、オルフェを助けることが出来た。教えてくれて、ありがとう」

 

 私は頭を下げる。ピチューは少し申し訳なさそうな顔をしていた。

 それもそうだ。いくら悪人だったとは言え、間接的に私は同郷の者を一人殺めてしまった。そのきっかけを、彼は作ってしまった。

 

「不可抗力……と言ってしまうには重すぎるね」

 

 あの時殴りぬけた右手の感触は、正直未だに残っている。これから一生、ずっと抱えていくことになるだろう。だが、消えなくても時間と共に薄まっていくと信じている。守りたいものを守ったという思いが消えない限り、私は重さを忘れることが出来るだろう。

 

「大丈夫。僕は負けない」

 

 私はデジカメをピチューに差し出した。彼は両手でしっかりと受け取った。

 私の瞳をじっと見つめて、彼は納得したように頷いた。そして、池にぴょんと飛び込むと、水面に僅かな波を立てて消えていった。

 私もいつか、つぎの次元へ。永い眠りに付くときは、ここで眠りたいと思う。

 

 

 

「話は出来たかい」

 

 広場に戻ると、村長が待っていてくれた。

 

「はい」

 

 私はにっこりと微笑んだ。そうか、と村長はゆっくりと頷いた。

 

「そう言えば、警察の方が何かお礼をしたいって言っていたよ。私の一存で勝手に決めてしまったが、街へ行くラプラス便のチケットを三枚、もらうことにした。オルフェとパネマ、そしてナガレさんの分。みんなで街を見てくるといい」

「本当ですか。きっと、オルフェも喜びます」

 

 私は笑った。なんて幸運な男なのだろう。何だかんだ言って、オルフェは欲しいものを全て手に入れてしまったのだ。

 

「それじゃ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 

 祭のあとも、日々は続いていく。

 明日彼に伝えたらどんな顔をするだろうか。考えるだけで、面白くなってきた。

 

 満天の星空の下、私は砂浜を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

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