次元オバケのカメラマン(または宇宙漂流していたらポケモンの惑星に辿り着いた話)   作:乃響じゅん。

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4:南島恋愛専科~または恋は言ってみりゃボディブロー~

 翌日、オルフェ一家の漁の手伝いを終えた後、祭の会場の準備に参加していた。この島の住民のおおよそは自分より小柄なため、力仕事を任されることが多い。おおよその舞台は完成しているが、細かい装飾などで決まっていない部分や急な変更も多く、その対応に追われていた。

 

「いやーナガレさんが色々やってくれて助かるわぁ」

 

 ひと段落したところで、傍に座っているヌオーのおばさんに声をかけられた。私は微笑む。

 

「これくらい、お安い御用ですよ」

「明日はあんたも出るんでしょう? 活躍期待してるからねぇ。はい、お水」

「さあ、そっちはどうでしょうか。ありがとうございます」

 

 私は苦笑し、水の入った器を受け取る。

 その時、丁度オルフェが近付いてきた。

 

「ナガレっ、今ヒマかー?」

「うん。休憩中」

 

 汗を拭い、配られた飲み物に口をつけて答える。ココナッツのような果実から取れる液体は、ほんのり甘い。

 

「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 

 オルフェはバツが悪そうな顔をする。一体どうしたんだ、と聞いてみても、言葉を濁すばかりで要領を得ない。

 

「あー、何て言うか……とにかく、付いてきてくれよ。頼む」

 

 一体どうしたというのだろう。そそくさと立ち去るオルフェを見失わないように気を付けながら後を追う。やがて一つの建物が見えてきて、そこが集会所であることに気付いた。この島では標準的な、高床式の建物である。今はちょうど、デンリュウの村長や隣村の上役達が明日の祭の打合せを行っている最中だった。入口の階段前には見張りが一人立っており、物々しい雰囲気を伺わせる。

 

 こんにちは、とオルフェは見張りに挨拶し、建物の横を通り過ぎていく。私も彼に習い、何食わぬ顔で挨拶を交わす。彼(彼女かもしれない)は声を出さず、こちらを一瞥して頷くだけだった。オルフェの時もそうであり、職務に忠実なのかもしれないな、と思いながら建物を横切る。

 オルフェは建物の裏で立ち止まった。彼に追いつくと、オルフェは声をひそめた。

 

「ファインプレーだったぜ、ナガレ。あの見張りに気付かれるとまずいんだ」

 

 彼の用事は、出来るだけ素早く済ませる必要があるらしい。私は一瞬、見張りの方を見やった。オルフェも周囲を警戒する。自分たちを見ている者は誰もいない。建物の中からは話し合う声が僅かに漏れてくる。彼の真意は掴みかねているが、正直なところ、彼の行動に興味があった。壮大な計画を練るかのような、子どもの頃に戻ったかのようなわくわくした気持ちが沸き上がる。

 

「何をして欲しいんだ」

 

 私はしゃがみ、オルフェに顔を近付け、率直に聞いた。

 

「この中にあの子がいるんだよ。この集会所、結構壁がオンボロじゃん。その隙間から覗けば、もしかしたら見られるかもしれない。だから、肩を貸してくれ」

 

 彼の言う通り、集会所の壁にはいくつか隙間がある。場所によっては、隙間というよりもはや穴と呼んでもいいほどの大きさである。加えて、その穴は自分の背丈よりも少し高い位置にある。オルフェが私の肩に乗れば、中の様子が伺えるかもしれない。

 

「分かった。乗りな」

「ありがとう」

 

 オルフェを肩に乗せ、私は立ち上がった。穴の位置まで移動し、オルフェが覗きやすい高さに調整する。もう少し下げて、とオルフェの声が聞こえ、僅かに膝を落とす。ここでいいのか、と確認を取ろうとしたが、返事はない。恐らく上手くいったのだろうと判断し、その姿勢を維持する。

 

 

「…しかし、一日や二日で来ることがないとは言え、もし嵐が来てしまったらどうするのです」

 

 中の話し声が聞こえてくる。悪い客のお告げのことらしい。

 

「参加する方々には申し訳ないが、こちらに泊まっていただくのがよろしいかと」

「やり過ごす方が安全でしょう」

「パネマのこともございます。この子に何かあったらと思うと私は心配で……」

「しかし、今回に限ってはそうでない可能性もある。現に本土の方からこうして警察の方が来てくれたこともありますし」

「警戒は十分にすべきですな。特にパネマ様、御付きの者から離れないように」

 

 

 耳を澄ませているうち、あっ、とオルフェが声を漏らした。そのまま、彼は硬直する。そして何か身体を動かしたが、降りようとはしない。気付かれた訳ではないらしい。そのまま、どれくらいの時間が経ったのだろうか。足がそろそろ辛くなってきた頃、明らかに先ほどまでと違った調子の声が鼓膜を直撃した。

 

「パネマ、一体どこを見ているんだい?」

 

 気付かれた。

 

 心臓が跳ね上がる。

 

 オルフェも同様で、とっさに私の肩から飛び降りる。

 

「逃げるぞ、ナガレっ」

「おう」

 

 ささやくようなオルフェの声に応えて、建物が見えなくなるまで走る。

 振り返って見たものの、特別な動きはない。追っ手は来ていないらしい。息を切らして、近くの木を背にしゃがみ込んだ。オルフェもその場に倒れて、空を仰いだ。

 

「あの子、パネマって言うんだな」

 

 オルフェはつぶやく。

 

「君にとっては、願ったり叶ったりじゃないのか」

 

 祭のバトルに勝つことは島の住民にとっての名誉だが、今回に限ってはもう一つ、褒美がある。

 優勝者には、隣村の村長の第三女と結婚する権利が与えられる。

 つまり、あのパネマというピカチュウと。

 

「親父にもさ、そろそろ結婚のことは考えろって度々言われてる」

 

 オルフェは絞り出すような声で呟いた。

 

「でも本当はさ、この島を出てみたいって思うこともあるんだ。海の向こうには、大陸があって、とてつもなく大きな街がある。この村よりももっと沢山の人がいて、広い世界があるんだ。そう思うと、憧れてしまって止まらないんだ。でも、ここにいるみんなのことも大事だから、置いてはいけない。どうしたらいいんだろうな、俺」

 

 海を見つめて、その表情は見えない。

 脱出ポッドが入手した地理情報から、海の先に街があることは知っている。恐らく、この星の中でも有数の大都会だ。この島は、そこからさほど遠くない位置にある。海を渡る手段さえあれば、オルフェにも街の地面を踏むことは出来るだろう。だが、今までの自分を全て捨てて、新しい世界に足を踏み入れることは簡単なことではない。本人の覚悟が問われることだろう。

 

「明日、決めればいいさ」

 

 私は答えた。

 結婚もしたい。バトルで成果を残したい。だが、新しい世界を求めている自分もいる。

 同時には叶えられそうもない願いを抱いた時には、過去の行いと咄嗟の行動に聞いてみるしかないのだ。

 

 私は、彼がどれだけバトルに励んできたのかを知っている。

 

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