次元オバケのカメラマン(または宇宙漂流していたらポケモンの惑星に辿り着いた話)   作:乃響じゅん。

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6:溢れ出る血を止めて

「勝者、オルフェ!」

 

 ふう、と大きく息を吐いてオルフェは周囲を見渡した。歓声が上がる。勝ち星を増やすごとに、黄色い声の数が増えていっているような気がするのだが、気のせいだろうか。

 ここ数試合、ナガレの姿が見えない。折角の活躍をあいつにも見て欲しかったのだけれど。デジカメを取りに家に戻っているのかもしれない。そういえば朝から写真を撮ったりはしていなかったし。

 

 ここまで全戦全勝、次が最後の闘いだ。これに勝てば、あの子と一緒になれる。あの子のことを知ることが出来る。せめて出番が来るまでには、ナガレには戻って来て貰いたいものだ。

 そういえば、と審判側を見てふと思い至る。そういえば、途中からあの子の姿も見えないな。

 

 

 

 

 私は写真の中のピチューが指差す方向へ急いだ。祭が行われているのとは別の方角であり、大勢の人が知らないうちに何かが起こっていてもおかしくはない。

 

「あっ、ナガレのお兄ちゃん」

 

 子どもの声が聞こえる。反射的に顔を上げると、すがるような表情で私を見上げている。

 

「助けて、ベベウ姉ちゃんが、ベベウ姉ちゃんが」

「分かった、今行く」

 

 子どもたちに促された先の木陰にいたのは、腕から大量の血を流して衰弱しているフタチマルという種族の少女だった。持ち出された銃で、撃たれた傷としか思えなかった。呼吸が荒い。放っておけば命に関わる。私は彼女の腕を押さえつけて、子どもたちの方を向いた。

 

「君は救護の人……メディさんを呼んできて。祭の会場の休憩所に行って、メディさんはどこですかって聞けば分かってくれるはずだから」

 

 呼びに来た子どものうち一人に指示を出す。不安げな表情ながらも頷き、分かったと行って祭の会場の方へ駆けだした。

 

「君は誰か一人か二人、違う大人を呼んで来てほしい。俺の家の場所は分かるね? 大人を連れて、赤い十字のマークがついた箱を探すんだ。それなりに大きいから、必ず大人の人と一緒にやるんだ。君のお父さんでもいい。会えなければ、最初に会った大人でもいい。この子がケガしてるって伝えれば、きっと手伝ってくれる。出来るね?」

 

 うん、と応えて、もう一人の子も駆け出した。

 力強く、血が流れ出ないように傷口を手のひらで握り続けた。下手にこの子を動かすわけにはいかない。かわいそうに。痛かっただろうに。

 

「恐かったね、もう大丈夫。必ずみんなが助けてくれる。ベベウ、もう大丈夫だよ。君は必ず助かるんだ」

 

 私は声をかけ続けた。もはや彼女には頷く気力もない。毛並みの艶が消え、ぼさぼさになった全身を見たくは無かった。どこを見ればいいか分からず、ただ必死に彼女の血が流れ出ないよう、強く腕を押さえ続ける。

 

「お兄ちゃん、メディさん連れてきた!」

 

 叫び声が聞こえた。私は顔を上げて呼びかける。

 

「ありがとう、こっちです」

 

 メディさんは、タブンネという癒しの力を持つ種族だ。かつてその力を見せて貰ったことがあるが、小さな怪我程度なら一瞬で直してしまえるほどのもので、彼はもっと大きな傷を塞いだという実績もあると聞いている。

 

「手を離すと血が溢れてしまいます。このままお願いします」

「分かった」

 

 メディさんが頷くと、その手を傷口にかざした。緑色に淡く光り、少しずつ傷が塞がって行くのを感じる。

 

「道具箱、持ってきた! これの事かな?」

 

 もう一人の子が大人と一緒に戻って来た。困惑した表情で、箱を大事そうに持っている。

 

「そう、これだ。ありがとう、その箱はこちらに置いて下さい」

 

 私は自分のそばに箱を置くように促した。タブンネの癒しの力は凄まじく、もう手を離しても致命的な失血にはならなさそうなほどまで傷口は塞がっていた。傷口を押さえたままもう片方の手で救急箱の蓋を開け、必要なものを取り出す。手を離し、出来るだけ素早く、傷口に軟膏を塗りガーゼを被せ、テープで止めた。溢れるような血の流れはもうない。

 

「大分血が止まったみたいだね。素晴らしい処置だった」

 

 メディさんは言う。

 

「こちらこそ、この子を助けられてよかった。あなただけが頼りでした。ありがとうございます」

 

 そう言いながら、私は立ち上がる。

 

「何処へ行くんだい」

 

 メディさんの質問に、振り返っている暇はなかった。

 

「もしかしたら、同じ目に合う子が他にも出るかもしれません。みんなは、出来るだけ一人にならないようにって島のみんなに伝えて下さい。僕は奴を止めに行きます」

 

 私は走り出した。とにかく時間がない。説明が不十分だったかもしれないが、後は彼らを信じるしかない。

 

 

 

 

 

 気が付けば、陽は沈みかかっていた。夕焼けの赤が今は血に染まっているように見える。足元が見えなくなる前に、写真の男を探しださなければ。周囲を見渡す。それらしき人影は見えない。ダメだ、と首を振った。闇雲に探し回るだけでは、体力を使い果たすだけでしかない。手掛かりらしき手掛かりも思いつかず、足が止まる。

 

 足元に、何かが落ちる音がした。デジカメだった。拾い上げると、カメラがひとりでに起動した。画面にはピチューが写っている。驚いてカメラから目を離してみると、さっきまでいたピチューの姿はそこにはない。だが、カメラ越しには彼の姿がはっきりと映っている。彼の姿は、どうやらカメラ越しにしか見えないらしい。

 

 姿の見方を把握すると、彼は小さく頷いた。そして、ついてきて、と言わんばかりにある方向を指差し、走り出した。

 

 

 

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