ポケモンチャンピオンの身の振り方   作:あさまえいじ

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第1話 今の仕事

 最後のリーグを制覇して5年が経った。俺が最初にリーグ制覇したときから10年の月日が経っている。

 俺は今20歳になった。仕事は‥‥‥

 

「タロウさん。準備できました」

「おう、では行くぞ」

 

□□□

 

「来たぞ!ロケット団だ!」

 

その声に反応し、俺はモンスターボールからポケモンを出した。

 

「いけ、デンリュウ」

 

 デンリュウとは長い付き合いだ。俺が初めて捕まえたポケモンだ。もう10年か、長いようで短かったような気がするな。

 さて、感傷に浸っているのは止めよう。昔の事を思い出すのは止めだ、もうあんな思いはしたくない。俺に与えられた仕事を全うしよう。

 俺はデンリュウに指示を出した。

 

「デンリュウ、『かみなり』だ!」

 

ドゴオオオオオン!!!

周囲に轟音が鳴り響き、周囲を一掃した。

 

「うわああああああああああああああああ!!!」

 

デンリュウのかみなりで辺りには人が倒れている。俺はそれを見て、部下に指示を出した。

 

「片付いたぞ。さっさと終わらせろ」

「はい、タロウさん」

 

 俺の指示で部下たちが動いている。俺はそれを見て、周囲の警戒を行った。どうやらこいつら以外にはいないようだな。俺はデンリュウを一度ボールに戻し、腕を組んでその場に佇んだ。

 少し時間が経つと部下たちはトラックに運び終えたのか、俺に報告に来た。

 

「タロウさん、全て完了いたしました」

「よし、では帰還するぞ」

「はい!」

 

 俺達はトラックに乗り込もうとすると、声がした。

 

「待ちなさい、()()()()()

 

 そこには、ジュンサーが現れた。そしてモンスターボールからポケモンを出した。

 

「行きなさい、ガーディ」

 

 出てきたのはガーディだった。なるほど俺達を止めようと言うのか、その程度のポケモンで俺に挑むとは。

 俺は腰のモンスターボールを取り、ポケモンを出した。

 

「来い、バンギラス」

 

 バンギラスを呼び出したことで、周囲に砂嵐が発生した。

 これはバンギラスの特性『すなおこし』である。その特性により、いわ、じめん、はがねタイプのポケモン以外はダメージを受ける。

 

「ぎゃう!」

「ガーディ、頑張って。『ひのこ』よ」

 

 ジュンサーがガーディを応援している。だけど力の差は応援では覆らない。

 

「バンギラス、『じしん』」

 

 ドゴゴゴゴゴッッッッッッッ!!!!

 周囲は大揺れだ。俺は慣れているので余裕で立っているが、あちらは大変なようだ。

 

「ギャウ、ギャア!」

「ガーディ!」

 

 ジュンサーがガーディを抱きかかえ心配している。瀕死状態だ、これで追っては来れないな。

 俺はそれを見て、バンギラスをボールに戻し、トラックに乗り込んだ。

 

「おい、行くぞ」

「へい、タロウさん」

 

 俺の今の仕事はロケット団。ロケット団の最高幹部の一人、タロウだ。

 

 

 

side サカキ

「サカキ様、タロウ様がお戻りになりました」

「すぐに通せ」

「は!」

 

 扉が開き、一人の男が入ってきた。我がロケット団最強の男、タロウだ。私が5年前にスカウトしてきた。

 風貌は普通、服装もロケット団の団員の制服を着ておらず、また最高幹部であるので自分で制服をデザインしてもいいが、タロウはスーツを好んで着ている。何故と聞くと、カッコイイからと答えていた。

 タロウのスーツは私が来ているのと同じブランドだ。最初に服装は好きにしてもいいと言うと、まず最初に私のスーツはどこで買えるのか聞いてきた。なので、私が新調するので付いてくるかと聞くと、是非と勢いよく答えたのを覚えている。ただ当時は成長期で頻繁にスーツを新調していて、出費に泣いていた。もう少し成長してからにした方がいいと言ったのだが、イヤだ、と意外と頑固だと知ったのも5年前だったな。今では成長しなくなったから、新調する回数が減ったと喜んでいたのが初めての飲み会の時だったな。

 ロケット団の団員になって5年、まだ年若い青年だ。歳は今年で20、酒が飲める歳になったんだったな。

 初めて会ったのはもう9年前か、当時は11歳の少年が今では20の青年とは、俺も若いつもりだったが、これほど大きく成長したところを見ると俺も歳を取ったな、と感じてしまうな。

 

「サカキさん、無事に終わりました。やはり情報通りでした」

「そうか、残念だが、あの工場は閉鎖だな」

「ええ、仕方ありません。では事前の取り決め通り、マスコミへリークします。それでは」

「まあ待て。タロウ」

 

 私はタロウを呼び止めた。どうもこいつはせっかちに過ぎるきらいがある。もう少しゆとりを持つべきだ。俺が大人と言う者を教えてやらねば。俺はそう思い、席を立った。

 

「どうしました。サカキさん?」

「まあ少し待て」

 

 俺は一本のワインを取り出し、グラスを持って席に戻った。

 

「タロウ、良いワインが手に入った。任務の終了を祝って、乾杯しよう。残念ながら仕事中だからな、これ一杯きりだ」

「ええ、頂きます」

 

 俺はタロウにワインを注ぎ、次に自分の分を注ぎ、グラスを掲げた。

 

「では、タロウの仕事完遂を祝って、乾杯」

「乾杯」

 

 カーン、と互いのグラスが奏でる甲高い音が響き、互いにワインに口を付けた。

 ほう、中々良いワインだ。少し値が張ったが、納得の味だ。

 私は満足しているが、タロウはどうだろうか。タロウの様子を伺うと、怪訝な顔をしていた。

 

「サカキさん、これ高いんですか?」

「そこそこだ。3万円くらいだ」

「たけっ!なんすか、これ一杯で大体3千円くらいするんですか。‥‥‥おにぎり30個分か‥‥‥」

「お前‥‥‥相変わらずのおにぎり換算だな。心配するな私のおごりだ。安心して飲め」

「さ、サカキさん‥‥‥今度はもう少し安くてたくさん飲めるものにしてください。俺にはこれの貴重さは分かりませんので‥‥‥」

「お前も今年20だろ。少しは大人のたしなみと言うものを覚えろ。昔の自分を忘れたいんだろ」

「--!はい、そうですね」

 

 タロウは昔の自分にコンプレックスを抱えている。今から5年前、タロウの全盛期だと言ってもいい時期だ。当時、世界中のポケモントレーナーで最も強いのは誰だ、と聞くと皆がこう答えた、『タロウ』と。それも当然だ。当時のタロウは各地のポケモンリーグで優勝し続けていた。各地方のトレーナーを倒し続けていた。俺も負けた口だ。アイツはタイプの不利など関係なく力で押し倒す。俺のサイドンがあいつのバクフーンに負けた。あの時初めて思った、ポケモンは奥が深い。

 だが、それを俺に教えてくれた男が、ある日打ちひしがれていた。俺はタロウに負けてから己を鍛えていた。タロウとは頻繁にポケモンバトルをしていて、友好を深めていた。そんなアイツは俺に言った、自分を変えたいと。何故か、理由を問うとタロウは口籠った。なにか言いにくいことなんだろう。ならば聞かん、話したくなった時にでも聞いてやることにした。

 だが、このままでは殻に閉じこもると考えた俺はタロウをロケット団に誘った。もちろん、今の事業内容を説明した上で、だ。ロケット団に騙して入れたとしても、タロウは強い。一人でロケット団全員を纏めて倒せるほどに強い。俺でもかなわない。なら、タロウ自身からロケット団に入る、と決めてもらう必要があった。だから可能な限り、優遇も取るつもりで説明をするとアッサリと入団を決めた。思わず聞き返してしまうほどにびっくりした。唯一の条件がとある一つの部門を任せて欲しい、という条件だった。私はその部門をタロウに任せることにした。

 それからのタロウは実に職務に忠実だった。とある部門を任せて以降、業績は右肩上がりを見せ、今では我がロケット団になくてはならない部門に成長させた。そして戦闘では誰よりも頼りになった。

 タロウ、お前と出会ったことは俺にとっての僥倖だ。これからも頼むぞ。

 

side out

 

 俺がサカキさんへの報告を終えた後、自分が管理する部門の様子を見に行く。

 元々はロケット団の不採算部門だったらしいが、俺が管理することで業績は改善した。元々サカキさんにロケット団に誘われたとき、この部門の事を知り、即入団を決めた。この部門が何故埋もれていたのか、理解が出来なかった。

 ‥‥‥だけどそれは何故か理由が分かったとき、俺はこの世界の真理が分かった。

 埋もれて誰も改善できず、俺だけが改善出来たのか、理由は単純だった。知識が足りない、これが答えだった。

 知識、と一言で言っても分かりにくい。だが、全てはそれで片付く、俺は特別であり、他の人間にはないものだった。

 仕事場にたどり着き、ドアを開けて中に入ると、職員たちが待っていた。

 

「タロウ部長、おはようございます」

『おはようございます。』

 

 俺が入ると全職員が私に挨拶をしてくれた。最初の頃とは大違いだな。

 

「ああ、おはよう。早速で悪いが、私が不在の間の状況を説明してくれ」

「はい。部長」

 

そう言って私が不在の間、私に代わって指揮を執っていた、ジロウが報告資料を届けてくれた。

 

「現在、重要存在IはM1との間に例の物を確認しました。それ以外も順調に確認できました。また、例の家族とアポが取れました。明日からサブロウとシロウを送り込みます」

「ああ、くれぐれも失礼のないように」

「は!‥‥‥不在の間の報告は以上です」

「分かった。留守の間ご苦労だった、ジロウ」

 

 俺は部下をねぎらい、重要存在Iを見に行くことにした。

 

 

 重要存在Iは非常に希少なポケモンだ。その存在を確認する必要が部門の長である俺にはある。

 俺は扉を開くと中から出てきた存在に体当たりをされた。

 

「ブイッ、ブイッブイーーー」

「元気だな、イーブイ」

 

 重要存在I、イーブイが俺に体当たりしてきた。攻撃の体当たりではなく、あくまで愛情表現的な体当たりだ。私はイーブイを抱き上げて、奥に進むとそこには多くのポケモンが暮らしている。

 ここは私の管理している部門。ポケモン生産部。通称ポケモン育て屋ロケット団支部だ。

 


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