ポケモンチャンピオンの身の振り方   作:あさまえいじ

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第三話 ポケモン生産部

 ポケモン生産部をサカキさんから貰って早5年、今やロケット団でも随一の収益を上げる、柱の様な存在にまで成長した。

 この功績を持って、俺はロケット団最高幹部の地位を不動のものにした。だが、入団当時は風当たりも強かった。

 

 俺が入団した5年前、ポケモンチャンピオンという肩書を持つことで最高幹部に置いてくれたサカキさん。だが、当時の古株はそのことが面白くなかったそうだ。まだ15のガキに上役に成られるというのは、それは面白くないだろう。俺でも逆の立場ならそう思う。だが、サカキさんはその反対意見も押し込め、俺を最高幹部に据えた。ならば、それに応えるためにも、持ちうる全てを使った。ポケモンチャンピオンへの旅路で得た人脈や前世のポケモン知識を駆使し、あるポケモンを探した。

 

 この世界はゲームの世界とは色々違う。ゲームでお馴染みの預かりシステムは現在ない。あれはマサキが開発するんだが、現在はまだない。

 それにポケモン図鑑もない。俺が旅を始めた時には渡されなかった。それ以後もポケモン図鑑の様な、記録ツールの存在はでてこなかった。なので、俺は旅の最中はメモを取って纏めていた。だが、所詮は紙媒体、調べるには手間がかかるし、ソートなども出来ない。

 なんだかんだで、カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロスと6地方を6年かけて渡り歩いた。その道中の記憶も印象深いことはともかく生息分布なんかは曖昧だ。前世のゲーム知識、と言っても所詮は一般ゲーマーの域を出ない。廃人ゲーマーの様な個体値、努力値、性格補正という数多のパラメータを把握する逸般人とは違うんだ。

 

 だからこそ、私のメモを各地方のポケモン博士たちに送り付けた。そのメモを纏めてもらって、生息地を探す手伝いをお願いした。

 ただで手伝ってもらうんじゃない、フィールドワークの結果、集めたメモはポケモン研究者から喉から手が出る程の価値がある・・・・はずだ。たぶん。まあ、その結果、頻繫に各地方の博士たちからメモについての問い合わせが多発したが、人脈の有効活用という点では悪いことでは無かったはずだ。

 その結果、目的のポケモンを見つけることが出来たし、捕まえて送ってくれた。それが届いたことには感謝もしているが、現在も頻繁にポケモンについて進化や生態についての意見を求められるようになり、面倒なことにはなった。とりあえず、後日に回したが、それがまた面倒なことに発展したが、とりあえず置いておこう。

 

 送ってもらったポケモン、その名は‥‥‥‥メタモン。

 

 メタモン、この名はポケモンをやったことがある人なら、誰もが聞いたことがあるとは思う。

 覚える、いや使える技が『へんしん』という、相手と姿・タイプ・わざが同じになる技だけだ。幻のポケモン、ミュウ以外はメタモンにしか使えない、極めて特異な技だ。

 だが、このメタモンの真の価値はバトルで使う『へんしん』という技ではない。真の価値は一部のポケモンを除いて様々なポケモンと生殖が可能と言う事だ。同種を掛けあわせてもタマゴが得られない性別不明ポケモンとも生殖が可能という、廃人御用達なポケモンだ。

 このメタモンは雄雌のポケモンをそれぞれそろえるのが困難な御三家ポケモンを増やす際に、相手にメタモンを選び、育て屋に預けると御三家ポケモンが生まれる。これは第二世代のポケモンシリーズ金銀が発売した当時、大いに驚いた。それ以降メタモンの価値は飛躍的に向上した、少なくとも俺の中では。

 メタモン失くしてポケモンは語れない、とか、廃人の第一歩はメタモン厳選から、とか、メタモンはみんなの嫁でみんなの旦那、等々様々な意見がある。そんなメタモンはこの世界ではやはり珍しいが、大した価値を見出されていない。これはある意味ありがたい。

 なぜなら、この世界はゲームではない。私にとってこの世界は現実だ、だからこそポケモンが絶滅することもあるかも知れない。もしこの世界にゲームの廃人が列を成してやってきたら、メタモンは狩り尽くされることになるかもしれない。そうなる前に捕獲出来たのは非常に幸運だと思っている。

 

 それから5年、メタモンの数も順調に増えていき、能力に応じて役割も振り分けた。現在の役割は3つある。

 1つ目は販売目的のポケモン生産だ。人気のあるポケモンを捕獲し、それをメタモンで増やし、売ることだ。これはタマムシゲームセンターの交換や、プレゼント用に取引される場合や初心者に最初に渡すポケモン、いわゆる御三家ポケモンをポケモン協会に安定供給することで収益を増やしている。今後の見込みも非常に明るく安定しているため非常に期待されている。

 

 2つ目は戦力強化目的のポケモン生産だ。廃人御用達の高個体値ポケモンを生み出すことだ。この世界には個体値を判断することが出来る人、通称ジャッジがいない。だが、同一個体同士を戦わせて、その戦績や身体測定、体力測定の結果、極めて優秀だと判断された個体を選びだし、そのポケモンを私の前世のうろ覚え努力値割り振りで戦闘特化に育てている。その育成結果個体を団員に支給し、ロケット団全体の底上げを行っている。ただ、その中で最優秀個体は俺がもらっているから、不公平に思われているかもしれないが、最高幹部と言う事で、我慢してもらおう。

 

 3つ目は個体数の少ないものを増やすポケモン生産だ。絶滅危惧に追い込まれたポケモンを増やす事、これは学術的にも非常に意義があり、またポケモン研究の発展に多大に寄与したものである、という建前で動いている。

 本音はオーキド博士を含めたポケモン研究者に好印象を持たれることを目的にして、今後も裏で暗躍しても疑いを持たれない様にする事だ。プテラやカブトなどの化石ポケモンを優先的に回してもらえるので、個体数を増やせれば、後々販売目的や戦力強化に回せるので、win-winの関係だと言える。

 

 これらの功績を持って、他の幹部たちを黙らせたが、ちょっと気が引けたし、他の幹部たちには申し訳なく思っている。

 前世のポケモンプレイヤーなら誰もが知っている、タマゴという要素を使い、そのための準備もある意味、転生者という利点を使っている。これらはバレれば、カンニングだと非難されるものだろう、少なくとも俺はそう思う。だが、申し訳ないとは思うが、打ち明けることは決してしない。

 ‥‥‥‥普通に考えて、そんな事言われて信じる人がいるだろうか? この世界がゲームを基にした世界など誰が信じるのか、普通は否定されるし、下手すれば俺の頭がおかしくなったと思われるだけだ。態々懇切丁寧に説明して理解させて、それに何のメリットがあるのか考えたとき、打ち明ける必要を感じなくなった。だから代わりに利益を与えることにした。強いポケモンでも与えれば、機嫌を良くするだろう。

 やれやれ人付き合いも楽じゃないな。

 

「ジロウ、少しいいか」

「はい、タロウ部長」

 

 ポケモン生産部の部長は俺だが、この部の二番手はジロウだ。

 俺が不在の折はまとめ役をやってくれる、非常に有能な男だ。

 

「他の幹部連中におすそ分けをしに行く。少し見繕っておいてくれ」

「はっ! すぐに手配致します」

 

 指示を受けると、ドドドド、という足音と共にポケモン生産部の部屋を走って出て行く。

 俺の指示に対して忠実なのは有難いんだが、もう少し落ち着きを持って欲しいんだが‥‥‥‥

 

 ロケット団の人間は、世間からのはみ出し者、粗暴で暴力的な奴らが多い。ジロウも例にもれず、出会った当時は粗暴な男だった。肩書きは『暴走族』だった。

 今を遡ること9年前、タマムシシティのサイクリングロードにいたのがタマムシ暴走族総長、それが当時のジロウだった。まさか自転車でパラリラパラリラ、という音を鳴らしながら囲まれるとは思っていなかった。その中からゆっくりと前に出てくるジロウ、次の言葉が『おい、バトルしろよ』だった。

 腕っぷしなら勝てないが、ポケモンバトルでは負けない、そう思って戦ったら、案の定、圧勝した。

 当然だ、当時の俺はジョウトチャンピオン、俺の相棒バクフーンのレベルは60を超えていた。対してジロウは精々レベル30がいい所だった。それで圧勝してその場を去ろうとすると、呼び止められ、『舎弟にしてください』と言われた。俺は断ったが、ジロウはグイグイと迫ってきて、仕方ないから了承した。だってポケモンバトルなら勝てるがポケモン(トレーナー)バトルなら勝てない。俺はもやしだ。

 それから先々で俺の追っかけみたいに各地に現れて、兄貴、兄貴と慕ってくる大男。歳はお前の方が上だろうが、と思いつつ、気のすむようにさせていた。

 その後、サカキさんから誘われてロケット団に入ったら、何故か先にいた。エ、ナニソレ怖い、俺は思わず恐怖を感じた。サカキさんに聞くところ、俺が入る一日前に入団していたらしい。へえー、そんな偶然あるんだ(遠い目)

 それからもジロウは俺にまとわりついた。最高幹部に取り立てられた俺とは違い、ジロウは一般入団してきたので、階級は最下位からだった。なのに3か月後にはポケモン生産部の次長、つまりナンバー2の地位にいた。いや、異例のスピード出世ですね(遠い目)

 俺はもう深く考えるのを止め、とにかくジロウに仕事を任せることにした。

 いくら最高幹部、ポケモンチャンピオンといえど、俺は前世がポケモンプレイヤーというだけの一般人。いきなり部門の統括とか出来ないし、ポケモンの育て屋がどういうものか仕方など分からない。あるのは知識だけ。なので指示を出すことと、いざというときの戦力としてだけ仕事をすることにした。

 

 それからジロウに育て屋さんの人に技術指導してもらう事、その教えを俺達ロケット団でも出来るようにマニュアル化するように指示をした。後人手が足りなければ、引き抜いてきてもいいと許可も出した。

 俺の人脈には育て屋さんは無いが、俺の名前は使えた。そのため、育て屋さんにジロウがアルバイトに行き、技術を学ぶことにはすんなり了承された。それから紆余曲折を経て、初めてタマゴが確認されたのは発足から1年経った頃だった。

 いや、初めてタマゴが確認されるまでは気が気じゃなかった。もしかしたら、この世界ではタマゴが出来ないのでは、という考えが浮かんだ。この世界がポケモンの世界でも、もしかしたらこの世界はゲームとは違う法則なのでは、と思った。だから初めてタマゴが確認されて、嬉しいより安心の方が強かった。

 だがこれで、俺の知識も使えることが確認された。その後もタマゴの孵化作業も、ゲームなら育て屋の前を自転車で爆走して孵していたが、それが可能か分からないし、ゲームとは違い割れたらまずいので、慎重を期した。だがその心配はなかった。大体はゲームと同じで歩数制の様で、自転車の衝撃でも割れたりはしなかった。更にブーバーに持たせていると、タマゴが孵るまでの時間が短縮できることも確認した。

 タマゴが確認されてからはトントン拍子で事が進み、発足から二年も経つと部門としても十分な収益が出せるようになり、不採算部門などと呼ぶものはいなくなった。

 そして現在のポケモン生産部は所属団員100名以上、ポケモン多数のロケット団の中でも随一の巨大派閥が出来上がっていた。

 


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