side ロケット団幹部
「クソ、あのガキが‥‥ちょっと強いからってボスに取り入りやがって!」
俺はロケット団の発足当時からサカキ様の側近としてやってきた。これまではボスのナンバー2として、辣腕を振るってきた。当然甘い汁の啜ってきたが、それに見合う仕事をしてきた。
これからもそうだと、俺に逆らえる奴はボス以外にいない、ロケット団で俺に楯突く奴等いない、そう思っていた。
「今日より、最高幹部はタロウが勤めてもらう。俺がいないときはタロウの指示に従ってもらう。いいな」
頭が真っ白になった。そして、次に思ったのが、怒りだった。
今までの俺を否定したボスに、そして俺の椅子を奪ったクソガキに強烈な怒りを覚えた。
「ボスの決定であれば従います。ですが、其方の新参者がどれほどのモノか、試させてもらってもいいでしょうか?」
「ほう‥‥‥‥では、どうしたい?」
「俺とポケモン勝負を‥‥‥‥どうですか?」
俺はロケット団でもボスの次に強い。だからナンバー2の座を守ってきた。ボスに取り入っただけのガキに負ける訳がねぇ。
「ハハハハハ‥‥‥‥」
ボスが笑った。心底可笑しい者を見たような、嘲笑うような笑い声だった。
「まあいいだろう。タロウ、お前の力を見せてやれ」
「いいですよ。それほど強いの手持ちにいませんけど、まあ問題ないでしょう」
「チッ!」
こっちをナメ腐ったような、あからさまな格下を見るような目で俺を見て、言いやがった。
クッソ、吠え面かかせてやる。
□
「ボーマンダ、ドラゴンクロー」
奴は強かった。
「メタグロス、バレットパンチ」
桁外れに強かった。
見たこともないポケモンを操り、圧倒的な力で俺のポケモンたちを蹂躙した。
「まだ手持ちあります?」
「っ‥‥‥‥もうねえよ」
俺が絞り出すように己の敗北を宣言したが、あのクソガキはどうでも良さそうな感じだった。
後に分かったことだが、あのガキ、ポケモンチャンピオンだった。おまけにボスよりもつええ奴だった。
何だよ、俺に勝ち目なんて、はなからねえじゃねえか。
それから5年、あのガキはロケット団の不採算部門を立て直しやがった。その功績で名実ともにナンバー2の座を不動にしやがった。俺以外のやつらはアイツに頭を下げるようになり出した。以前は俺にペコペコしてやがったのによ、風向きが悪くなれば、俺に挨拶の一つもしねえ。クソ、イラつくぜ。
コンコン、と部屋の扉がノックされる。くそ、誰だ。
今は俺の下に部下はいない。皆、俺を見限って他部署に異動しやがった。だから、俺が直接対応しなければならねえ。
「どうも」
「‥‥‥‥これはこれはタロウ最高幹部、何か御用ですか」
くそ、相変わらずのいけ好かねえガキだ。こっちは顔を見たくなんかねえのに、一体何のようだ。
一応は上役に当たるし、ボスが最も信頼してやがる。悔しいがコイツに睨まれたら俺もロケット団から追放されかねえ、表面上は従順にしてねえと‥‥‥‥さっさと出てけや、クソガキ!
「おすそ分けです。ポケモン生産部が育てた、優秀なポケモン達です」
「! こ、これはどうも」
クソガキがおすそ分けとして持ってきたのはポケモンだった。
俺達ロケット団にとって、ポケモンは武器だ。それも強い奴はそれだけ強力な武器になる。
クソガキは気に食わねえが、クソガキの持ってくるポケモンはとんでもなく強い。それこそ、ジムリーダーどころか、四天王にさえ匹敵するかも知れねえ。
甘いガキだ。俺がお前の事、嫌ってるなんて思ってねえんだろうな、だから俺に強力な武器を与えちまうんだ。この力がお前に牙を剥くと、思ってねえんだろうな。
「今日のポケモンは2体です。ボーマンダとメタグロス、ホウエン地方で強力なポケモンとして名が知られています」
「! へ、へぇー」
知ってるさ、テメエが俺のポケモン、ボコった時に使った奴じゃねえか。
負けた俺はよく覚えてるが、勝ったテメエはそんな事覚えてねえんだろうな。
だが、貰わねえって選択肢はねえ。残念ながら、俺の元々のポケモンじゃ、コイツに歯が立たねえ。それに、これでコイツから送られたポケモンは合計6体、機は熟したぜ。
「折角頂いたので、出来ればタロウ最高幹部に一勝負、御指南頂きたいんですが、如何でしょうか?」
「今からですか?」
「ええ、是非とも。善は急げといいますし」
「うーん生憎、今手持ちが2体しかいないんですが‥‥」
「いえいえ、それでも全然かまいません。是非とも胸を借りるつもりでお願いしたいんですが」
「分かりました。あまり、ご満足いただけないかもしれませんが」
「ありがとうございます。ではバトルフィールドをご用意します」
くくく、うまくいったぜ。コイツは普段は手持ちをそれほど持ち歩かねえ。カチコミの時以外は、大抵2,3体しか連れてねえ。対して俺は機会を伺って、常に6体持ち歩いてる。コイツが俺に送った2体もある。外れるのは、おれと長い付き合いの2体、つまり俺はコイツから送られた6体で戦うことになるわけだが‥‥‥‥仕方がねえ。弱いこいつらが悪いんだ。つええ奴が偉いんだ、コイツもつええから偉いんだ。なら手段なんか選べるか、コイツに勝てるなら俺は何でもやるぜ。
□
「随分とギャラリーが多いですね」
「いえ、俺とタロウ最高幹部が戦うからバトルフィールドを開けろ、と連絡したらこんなに集まってしまいましてね」
俺とクソガキがいるバトルフィールドの周囲にはロケット団の団員の大多数が集まっている。
幹部同士の戦い。いやクソガキが戦うから見てえ奴は見に来い、といって俺がわざと色々なところに情報を流した。ボスまで見に来ている。
後はこの状況で俺がクソガキを叩きのめせば、俺が最高幹部に返り咲ける。見てろや、クソガキ!
「さあ、始めましょうか、タロウ最高幹部」
「ええ、いいですよ」
「いけや! カイリュー」
俺が放ったボールから現れたのは、ドラゴンタイプのカイリューだ。クソガキから貰ったから気に食わねえが、コイツは強えんだ。だから使ってやってる。
さあ、こいや、クソガキ。テメエが俺に与えちまった力でやられちまいな。
「さて、実戦は初めてだな。さあ、いけ‥‥‥‥ミュウツー」
クソガキがボールを投げ、その中から現れたのは、初めて見るポケモンだった。
ケッ、何だろうと叩き潰してやるぜ。
「カイリュー、ドラゴンクロー」
「ミュウツー、れいとうビーム」
カイリューがドラゴンクローで斬りかかるよりも早く、クソガキのポケモンの放った青白い光線がカイリューに命中した。
「なん、だと!?」
カイリューが一撃で倒された。あんなヒョロっとしたポケモンにカントー四天王も使う、カイリューが一撃でやられただと。
「さあ、次はどうしますか?」
「クッ、全部まとめていけや!」
俺は残りの手持ち全てのボールを投げた。
バンギラス、ガブリアス、サザンドラにさっき貰ったばかりのボーマンダ、メタグロスの計5体を同時にフィールドに出した。
もうルール違反とか知ったことか。ロケット団は強え奴が偉いんだ。だから、勝てばいいんだよ。
「やれ、ミュウツー」
だが、クソガキはそんなのお構いなしに指示を出していく。
「バンギラスにはどうだん、ガブリアス、サザンドラ、ボーマンダにれいとうビーム、メタグロスにシャドーボール」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
クソガキが瞬時に指示を出すと、それにポケモンが応え、圧倒的な速さで動き、一体一体的確に攻撃していき、立っているのはクソガキのポケモン一体になっちまった。
なんだよ、なんでだよ、なんなんだよ、そのポケモンは!!!
俺はその場に膝を付いた。全身の力が抜けた。あんなの反則だろ、たった一体に何でここまでやられるんだよ。
俺が放心状態でいると、ボスがクソガキに声を掛けた。
「ふむ、随分と仕上がったようだな、ミュウツーは」
「ええ、コイツも漸く俺の言う事を聞く様になりましたよ。でもまあ、俺の言う事しか聞かないので、常に連れてないと危ないんですがね」
「ポケモン生産部の最初の目的である、人工ポケモンの生産、それの唯一の成功体ミュウツー、圧倒的な力を持って生み出したが誰にも従わず、破壊をまき散らす厄介者だと思っていたが、やはりタロウなら御すことが出来たか」
「俺の相棒の方が、今はまだ強いんで。まあ、その内ミュウツーの方が強くなるかも知れませんがね」
なんだよ、コイツは!? こんなに圧倒的なまでに強いポケモンよりも更に強いポケモンを持っているだと‥‥‥‥どんだけ底が知れねえんだ。
「ふむ、バトルの勝敗を論ずるまではないな。タロウ、ミュウツーはお前のだ。精々強くしてやれ。それと‥‥‥‥」
ボスが俺の目が俺を捕らえた。俺はボスの前で無様を晒した。もう俺に‥‥‥‥居場所はない。
「お前が持っているのはロケット団でも俺とタロウの次に強いポケモン達だ。それを生かすも殺すもお前次第だ。俺のためにお前の力を使え‥‥‥‥期待しているぞ」
「! は、はい! ボスのため、ロケット団のため、力を尽くします!」
俺はボスが去っていく後ろ姿に頭を下げ続けた。
side out
いや、流石にミュウツーは卑怯だよな。でも、今すぐ勝負と言われて、手持ちがバクフーン(レベル100)とミュウツー(レベル70)しかなかった。
相性不利のバクフーンでも、初手『ふんか』を使えば、あちらに渡しているポケモンでも耐えれないだろう。何しろ渡したのがレベル55~60くらいで個体値が低くて、全員性格まじめだった。バンギラスくらいは生き残るだろうが、きあいだまには耐えれないから、そっちでも良かった。でも結局はレベル差のゴリ押しで勝つんだ。
だからミュウツーを使ったが、こっちの方が酷かったな。覚えている技が『サイコキネシス』『れいとうビーム』『シャドーボール』『はどうだん』の4つにしていたから、厨ポケ6体でも勝てはせんだろうな。それにミュウツーは努力値もキッチリ特殊攻撃と素早さ極振りにしているから、とくしゅ技の破壊力が恐ろしいことになっている。もしこれがアニメ版ピカチュウの様に『スキンシップ十万ボルト』の様な事をされていたら、俺は瀕死になること疑いなしだな。俺はマサラ人ではなくワカバ人だ、そんな特殊な訓練は受けていない。
さて戦闘の後には、アレをしておかないとな。
俺は先輩の方にゆっくりと近づいて行く。
「手合わせ、ありがとうございました。先輩」
「‥‥‥‥何の真似だ?」
「何って、戦い終わったらノーサイド、互いの健闘を讃え、握手をするもんでしょう」
「‥‥‥‥いや、それもそうだが‥‥‥‥先輩って、何の真似だ?」
「え、だって俺よりも先にロケット団に入団してたわけですし、一応は俺の方が上役ですが、先輩は先輩ですから」
「‥‥‥‥くっ」
ソッポを向かれたが、ちゃんと握手はしてくれた。
ロケット団にはこういう文化は無いんだろうか、それとも先輩がてれやの性格なんだろうか、まあ特に気にしないでおこう。