僕と騎士と武器召喚~another~   作:ウェスト3世

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従者 吉井明久

 

 吸血鬼の住む世界は人間の世界の裏側に存在する。人間達はこれを裏世界と呼ぶ者が多い。しかし、吸血鬼達はこの世界を『シュヴェルツェ』と呼んでいる。この世界は人間が住む表世界みたく朝を迎えることは永遠にない。夜の世界こそ吸血鬼が住む最適の世界なのだ。

 その為、表の世界で行動する時も、出来るだけ朝の行動は控えるようにしている。日の光は吸血鬼の天敵であり、理由は吸血鬼としての能力が半減してしまうからだ。常に暗い世界に慣れている吸血鬼にとって明るい場所は体に悪い影響を与えてしまう可能性もある。

 そんな中で吸血鬼は今日も闇の中で生活を送っている。

 シュヴェルツェの王都、アカツキ―――。

 そこは吸血鬼の世界でも最も人口が多く、活気あふれている町だ。その中央に建っている巨大な建物が王族が住む王宮だ。

「で、月光院政宗(げっこういん・まさむね)。十六件目の事件の犯人は見つかったのか?」

「ああ、簡単に見つかったよ。」

 月光院政宗と呼ばれた金髪サングラスの男は投遣りに言う。

「おい、貴様ッ!陛下に向かってその態度は何だ!?」

 女王のすぐ傍に居た側近が政宗に向かって怒鳴る。しかし、政宗はそれを無視する。

「よい。彼の態度には慣れている。私は結果さえ出せていればそれで良い。それに比べればコイツの態度など些細なことだ。」

 女王は怒鳴る側近を説得させる。その言葉に側近もぐぅ、と納得するしかなかった。

 政宗は王女にその時の状況を簡潔に述べた。

「まあ、犯人を見つけるのは簡単だったよ。王都を適当に歩いていたらいきなり襲撃してきてね。驚いたよ。あまりの攻撃の速さに。人間にしちゃかなりの身体能力だったし、剣術の腕も中々。」

「そうか…。で、その犯人は名前を何と言う?」

「えーと。確か吉井明久くんだったかな。」

「吉井……明久…。」

 女王は神妙そうな表情を浮かべた。そんな彼女に政宗は「どうかした?」と訊く。それに王女は「何でもない」と答える。

「吉井明久…か。知らん名前だ。A級戦士をも凌ぐ力を持つとすると、少し調べる必要があるな。」

 そんな女王の言葉に政宗は「そうですか」と軽く受け流す。

「ま、でも、いずれ彼は僕が殺すよ。いずれ決着をつけようと彼とも約束したしね。」

 政宗は薄く微笑みながら言う。その表情は心の底から戦いを求めているものだった。修羅こそが彼の生きる世界なのだろう。

「そうか…。お前の好きにすればいい。」

 それに女王も反対する気はなかった。むしろ、強敵は潰してくれた方が吸血鬼側としてもメリットになる。

 そう思いつつも女王は少し不満そうに、

「だが、お前はあまり人間に関わらない方が良いと思うぞ。」

 と言う。

 それに政宗は「何故?」と訊く。

「元人間だったお前は人間とあまり関わるべきではない。今でも未練が残っているんだろう?人の世界に…。」

 その言葉に政宗は眉を顰めた。先程までヘラヘラしていた彼が初めて見せる真剣な表情だ。そして女王を睨み、拳を握った。

「未練?そんなものはない。人間は己の為だったら家族さえも簡単に殺すことが出来る醜い生き物だ。吸血鬼以上に化け物染みている。」

 女王はそんな政宗に微笑み、

「そうか。なら、いいんだがな…。」

「チッ…。」

 イライラと舌打ちをし、政宗は姿を消す。

「フン、いつまで吸血鬼でいられるかな…。」

 女王はそんな政宗の態度を咎めることなく、ただ笑って眺めた。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 カヲール二世は吉井明久に第三国家騎士である木下優子の従者として働くよう命じる。

 しかし、その命令に明久と優子は互いに拒絶し合うように、

「あの、冗談ですよね?」

「なんで、私がこんなボンクラと…」

 などと言う。

 しかし、カヲール二世は何を今更…とでも言いたげに、

「お前らは私のこの命令が冗談にでも聞こえるのか?」

 と言ってくる。どうやら本当のようだ。

「マジでか」

「嘘でしょ」

 二人ともがっかりしたような表情をする。二人ともそれだけ拒絶し合うだけの理由があった。

 以前、明久と優子は商店街の広間で顔を合わせていた。そこで、明久と雄二はフンドシを取り合うという訳の分からないゲームをしていた。

 そこで途中仲裁に加わった優子が二人を思いっきり殴り飛ばし、雄二と明久はそれぞれ違う建物の壁にめり込む。そして壁のめり込みから何とか開放するのだが、壁のめり込みの反動のせいか、明久は自身が履いていたフンドシが何処かに消えていたのだ。

 そのせいで明久は王都の広間で自身の生殖器を後悔する破目となる。

 それを見て「なんて下品な…!」という様な言葉を吐いた優子が顔を真っ赤にさせて、明久をさらに殴りつけた。

 この一件で明久は自分が殴られた理由を全く理解していないことから、優子を何の性懲りもなく殴りつけてくる怪力馬鹿と判断している。

 一方の優子は明久を変態な上に恥を知らない最低男と評している。

 その為、お互いに互いを良く思ってはいない。

 そして、さらに腹立たしいのは、明久と同じくカヲール二世に呼ばれた雄二が明久と優子をニヤニヤと楽しそうに見つめていたことだった。非常に不愉快だ。

 そんなこんなで王宮から抜け、外に出る。

「ホント有り得ないわ。」

「それはこっちのセリフなんだけど」

 互いに顔に怒りマークを付けながら視線を合わせようとしない。

「言っとくけど、私はアナタみたいな下劣な従者が居なくても十分に任務をこなせるわ。陛下の命令じゃなきゃアナタなんか丸焼きにしてチャーシューにしてゴミ箱に捨ててやるのに……!」

「それ、丸焼きにしてチャーシューにした意味全くないよね…」

 明久は呆れたような表情で言う。

「良い?くれぐれも言っておくけど、私は……」

 そう言いかけたところでヒュウッと北風が吹いてくる。すると、無防備な彼女のスカートがふわりと舞う。 

 予想外の出来事に明久は硬直。優子は顔を真っ赤にして、

「み、見た?」

 と訊いてくる。

 それに明久は、

「ピンクか…。うん。可愛らしくて良いよね。ピンクは…。」

 妙に明るい表情で言う明久。そんな明久の言葉に優子は拳を強く握り…。

「くたばれーーーーーーッ!」

 と怒鳴ると共に思いっきり殴り飛ばす。

 明久は以前と同様に建物の壁にめり込む。

「く……そ…。誰があんな怪力馬鹿…いや、マウンテンゴリラの従者になるもんか……!」

 明久は痛みを堪えながらも恨みがましく言う。

 明日から忙しい日々が続きそうだった。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 カヲール二世との対談で、坂本雄二は第六国家騎士に任命され、吉井明久は今通っている文月学園を中退させ、第三国家騎士である木下優子の従者に任命させる。と言うのも、国家騎士は皆、従者を2、3人配属されるのだが、優子はその従者と呼べる人物が一人も居なかったので、国家騎士相当の戦闘力を持つ明久が任命されたわけである。

 そして対談から一日明け、今日から第三国家騎士木下優子と従者吉井明久の任務が始まるわけである。恐らくその任務は国家騎士の受ける難易度の高い任務なのだろうと明久は思う。これからはこの王都の騎士として仕え、日々忙しい生活を送ることとなるだろう。

「………ん……」

 明久はボーッとした目を擦りながら目を覚ます。そしてゆっくり体を起こして着替えの準備をする。そして着替えながら明久は思う。昨日までの学校生活は幸せだったな、と。こんなことになるのだったら、授業も真面目に受けておけば良かったと今更ながら思う。

 しかし、それよりも気になるのは昨日の高城の襲撃で被害を受けた生徒達だ。明久のクラスメイトである美波もその被害者の一人で、体中の刃傷、骨折などという傷も非常に深刻であるが、彼女は高城の攻撃で片足を失っている。昨日、彼女の病室を訪れた時、彼女は「心配しないで」と笑っていたが、何処か苦しそうだった。

 自分は戦える実力があるにも拘らず、生徒達を護れなかった―――。そんな思いが明久を苦しめた。 そんなことを考えていた時、時間がおしているのに気づき、慌てて、家を飛び出す。

 そして商店街の広間まで走って行き、「吉井君」と明久を呼ぶ少女の声に気付く。

「一時間の遅刻よ!」

 その声の主は優子だった。携帯の時間を見ながらイライラと足踏みしている。相当怒らせてしまったみたいだ。

「ああ、ゴメン」

 明久は素っ気ない態度で謝る。そんな態度に一層イライラが増したようにも見えたが、深呼吸をして、イライラを少し落ち着かせる。そして…。

「まあ、良いわ。行きましょう」

 と言う。

「いや、それよりも今日の任務は…?」

「移動しながら話すわ。行きましょう。」

 そう言い、明久は取りあえず彼女について行くことにする。

 二人がまず最初に辿り着いたのは王都の最寄駅である東京駅のホームである。

 二人が乗る列車は成田エクスプレス。成田行きの列車だ。

「あの、木下さん。任務先は成田で行うの?」

「ええ、空港に用があるわ。丁度良いから任務内容も話すわね。」

 それに明久は無言で頷く。それを確認して優子は任務内容を説明する。

「ここ最近王都で出回っていた変若水は知ってる?」

「うん、まあ」

 明久は曖昧に返事をするが一応知っている。飲んだ者は強大な力を得る代わりに理性を失うというデメリットがある。

 この薬を飲んだ者は擬似吸血鬼、または羅刹などと呼ばれているが、所詮は吸血鬼の紛い物。本物の吸血鬼には成り得ない。

「その変若水が空港内にも出回っているみたいで、変若水を販売する吸血鬼の商人も空港内をうろついている。これはどういう意味を指すか分かるわよね?」

 明久はああ、そういうことかと頷く。空港は当然日本人だけでなく、海外からの客も大勢いる。変若水が海外にばら撒かれる可能性も大いにあるのだ。とはいえ、変若水の販売は今、世界中で行われている。だからといって売られて許される商品ではない。

「…てことは、その変若水の販売している吸血鬼を討伐すればいい訳か。」

「ええ。販売商人の顔と名前はこのリストに載ってるわ。総計して十人。どいつもC級戦士だから苦戦することはないわ」

 吸血鬼の世界におけるC級という階級はフミヅキの階級でいう中級騎士か上級騎士に相当する。国家騎士をも凌駕する明久の実力と第三国家騎士に立つ優子ならば、苦戦はしない筈だ。少なくともスムーズに任務を終える筈だと、そう思った。

「でも、気を付けてね。」

「へ?何で?」

 明久は聞き返す。確かに多少は危険な任務かもしれないが明久と優子ならばC級の吸血鬼程度、そこまで苦戦はしない。たしかにこういった任務は警戒、注意力というのも重要にはなるが…。

「どうも妙なのよ。敵は大したことはない。ただ、今迄変若水が売られた場所では何が在った?」

「えーと…羅刹…じゃなくて?」

「そう、羅刹よ。今までの事件では変若水が売られている場は羅刹が何十人と潜んでいた。ただ、今回の任務先の成田空港では羅刹になった人間は一人も見つかっていない。妙だとは思わない?」

「え?何処が?」

 明久は先程と同じように訊き返した。それに優子は軽く苛立ちながらも説明する。

「普通、空港みたいに人が集まるところの方が変若水も一般人に渡っていき易いし、羅刹になる数も庶民が住む町なんかよりも多いとは思わない?」

 そこで明久はそういうことか、と納得する。

 普通は逆である。住宅街や町など極めて一般的な場所なんかよりも人が多く集まる空港の方が、変若水は多くの人間の手に渡っている可能性が高い。その分、羅刹の数というのも多いように思える。にも拘わらず、羅刹になる人間が一人も居ない、一人も見つかっていないというのは奇妙だ。

「もしかしてC級吸血鬼を動かしている裏役が居るとか…?それも結構強い吸血鬼とか…。階級の高い吸血鬼の方が知能も高いから、羅刹の存在を隠すための策があるとか…。」

「そうね、その可能性もあるかもね」

 明久の意見に優子は頷く。あながち間違ってはいない、そう思ったのだ。

 そんな話をしている内に列車が到着する。列車の窓に映る自分の姿は苦難が浮かび上がった表情だった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 そこは人間が住む世界でも吸血鬼が住む裏側世界『シュヴェルツェ』でもない。

 ただただ争いの堪えない、闘いの世界であった。そこは生前、戦いを求め戦いによって武勲を上げた者が多々集まり、死後も尚、戦いを求め続けている。

 そして空は暗く、月は血のように紅い。地面は争いが絶えず起こるせいか、あちこちで炎が燃えている。そして、その炎で燃やされ命を落とす者も居る。それ以外でも戦いによる傷で命を落とす者も居る。しかし、死ぬことはない。此処は既に死後の世界。戦うことがこの世界の宿命。戦いが終わることは永遠にない。戦い続けるために命を落としたものは再び命が与えられ、再び戦いを強いることとなる。

 まさに此処は修羅だ。皆、瞳は獣のような鋭さを放ち、咆哮している。

 そんな中に黒く禍々しい城が建っている。そこにはこの世界の王とも言える者が住んでいた。

 そこには当然王に仕える使用人、部下、側近が居る。そんな彼らが王の帰りを待ちわびていたかのように、「おかえりなさいませ」などと言う。

「どうでしたか?人間界は」

「ええ、相変わらず醜い世界でしたよ。人間も吸血鬼も僕からしたら大して変わりません。表裏と別れているとはいえ、同じ人間界。この世界みたく戦いを求める修羅な情だけで構成されるのと訳が違う。愛や快楽という情もあれば悲哀という情、そして憎しみ…。善なる情から悪なる情まで様々ある。善と邪が混ざり合う醜悪な世界…。だからこそ利用しやすい世界ではあるのですが…。」

 クククと邪悪に満ちた笑いを浮かべる男。そして、男は自分に近づいてくる人影に気付く。その人影に向かって男は、

「ああ、そうそう。『彼』とも会って来ましたよ。『彼』に君のことは一言も話していないが、未だに君のことを覚えているそうです。未練タラタラにね。フハハハハハハッ。」

 男は嘲るようにして笑う。

 そしてその人影は現れる。

 長いストレートの金髪に淡いブルーの瞳の少女だった。まるで聖女と言っても過言ではない、輝かしい美しさだった。こんな闘いしか起きないこの世界に居ることが不思議に思えるくらいだ。

 少女は男に対して何も言わない。何か言いたい気持ちが込み上げてくるが感情も上手く制御して、顔には表れないようにする。

 だが、彼女の瞳は何処か悲しそうだった。何処か遠い過去を思い出すかのように。懐かしく、大切な記憶であると同時に悲しい思い出。

 そして悲しそうな目を伏せ、『彼』の名を呼んだ。誰にも聞こえない小さな声で。

 

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