日本の王都であるフミヅキは世界中の優秀な騎士が集められるせいか、町の商店街なども賑わっており、また、世界中の産物が王都に集まっていた。そのせいか、世界で最も大きい商店街とされ、ギネスにも登録されているほどである。この王都に観光に来た外人たちは此処で必ずと言って良いほどに、売られている産物をお土産として買っていく。
「Prease give me product.(この商品を下さい)」
「はいよ、2850円な。」
外人女性は達者な英語で商品を要求した。そして、指定された金額を払う。
そして商品を受け取った外人女性は嬉しそうに微笑んだ。しかし、右を向いた瞬間、その微笑みは血の気が引いたように消えていく。
町が賑わっているのは当然なのだ。何しろこの町は世界中の名産品が集まっているのだから、皆目を付けるのも無理はない。
しかし、右方にある光景は明らかにその賑わいとは異なっていたのだ。なにか異様な雰囲気を漂わせている、とでも言うのだろうか。
「It is what?(何なの、アレは…?)」
外人女性はすぐ傍に居る店員に不思議そうな顔で尋ねる。しかし、店員は面倒くさそうな表情を浮かべて、
「あ~、アレはフミヅキに初めて来るお客さんは驚くだろうなぁ。けど、王都じゃ、あんなのは毎日のことだ。」
「What kind of thing?(どういうこと?)」
外人女性は顔を顰めて訊いてくるが、店員はそれ以上は答えない。というよりは答える気がなかったのだ。答えるだけ無駄だと判断したのだ。外人女性はそれ以上は教えてくれないと察して、その異様な光景を見ることにする。
その異様な光景とは―――。
「来い、雄二。今の僕なら誰にも負ける自信はない!」
少年は妙に真剣な表情で言った。それに続き、少年の向かい側に立つやや背の高い少年も、
「フン。バカが…。そう言って敗北したのは何回目だ?明久。結果は変わらん。」
やや背の高い少年も異様な真剣さを放って言う。
そんな真剣な雰囲気のせいか、その場にいた全員が唾をゴクリと飲みこんだ。一体何が起こるのだろうか?きっとスゴイことが起こるに違いない―――。そんな瞳をしていた。
しかし、それと共に落胆する点もあった。何故なら彼らはフンドシ一丁だからだ。
そんな恰好で一体何をするんだ?という疑問が込み上げてくるものの、やはり彼らの真剣さは周りの観客の心をも動かすものだった。
「よーし、明久。このゲームを知らない人達もいるだろうから、ルール説明しろ!」
「OK。雄二」
雄二という少年の命令に明久と呼ばれる少年は親指を立てて頷いた。
「え~、今からやる『フンドシ争奪戦』は名前の通りフンドシを奪い合うゲームです。奪った方が勝ちで、奪われた人は全裸でこの町を一周するというゲームです。」
ゲーム内容は極めて簡単なものであったが、負けた後の罰ゲームはとても痛々しいものであった。恐らく羞恥心を忘れた人間だけがプレイできるゲームと言って良い。そして、このゲームを町中で平然とできるこの二人はある意味チャレンジャーである。いや、変態とも言える。
内心下らないと思うものも中にはいる。しかし、そう思う者は数えられるくらいの人数しかいない。二人の間には何かあったのだ。観客を奮い立たせるような、熱い闘志が。だが、やはりアホらしいものはアホらしい。
「行くぞ、明久」
「後悔するなよ、雄二」
うおおおおおおおっ!という叫び声を上げて二人は直進する。そして二人は互いのフンドシを掴みあう。
町のほとんどの人々がその光景を馬鹿らしいと思った。しかし、彼らの熱心にフンドシを取り合う姿は観客の心をしみじみとさせるものを感じさせた。しかし、中にはやはりドン引きする者も出た。そして、とある外人カップルは「何だ、アレ。ゲイだろ」と呟くものもいた。
「うォオオオオオオォオオオオォッッ」
雄二と呼ばれた少年がフンドシを強く引く。その力に明久は「ぐっ」と苦痛そうに表情を歪める。
勝敗が決する。勝者は恐らく雄二。そう思われた瞬間――――。
二人は吹っ飛んだ。そして二人は別々の建物の壁にめり込んだ。それはほんの一瞬の出来事であったため、観客者はポカンと口を開けてそれを見ていた。
「成程、アナタが陛下が問題視していた少年、吉井明久ね。」
町の中央に突如現れた少女が言う。
すると、壁にめり込んでいた二人は建物の壁から這い出て、
「おい、明久。知り合いか?」
「僕があんなマウンテンゴリラ並の腕力持った女子を知るわけないじゃないか」
知り合いでもないのに名前を認知されていることに二人は困惑した表情を見せる。
瞬間、ブオッと勢いよく何かが明久の横を透き通ってきた。少女の拳だ。
「聞き違いだと良いんだけど…。誰がマウンテンゴリラですって?」
明久はブルブルと震えた状態で、「いいえ、何も言ってません」と首を振った。顔は笑っている筈なのに、後ろから漂う闘気が明久を震わせた。こんな人間を未だ嘗て見たことなかった。
「そうよね、ホントに訊き間違いで良かった」
少女は満面の笑みで言う。だが、明久にとって正直笑い事ではなかった。先程明久は彼女をマウンテンゴリラと称したが、彼女はそれよりももっと悪手のものかもしれない。
「それよりも、明久」
「何だよ、雄二」
「いや、言い忘れいたんだが…。」
すると雄二はふと言葉を止めた。すると、周りの観客者は雄二が何を言いたいか理解したらしい。
視線は明久の下半身に移される。しかし、明久は雄二の意図に気づかない。そのすぐ傍に居た少女も気づいていないようだった。
「お前、フンドシなくなってるぞ?」
「…へ?」
一瞬何を言ってるのか分からず明久はボーッと雄二の方を見ていたが、ふと自分の股間部分を見た途端、雄二の言いたかったことをようやく理解した。
今の明久は下着すらつけていない全裸姿だったのだ。周りの観客者は一斉になって携帯を取り出して、警察に電話した。そして、女性は「キャー」だの「わー」だのと騒ぎ出す。
そして、明久の隣にいたその少女も…。
「なんて下品な…。」
顔を真っ赤にして拳を握った。
「あ、いや。ちょっ、待って!これは事故だから!ホントに望んでやったわけじゃなくて、その自然とこうなって………」
しかし、明久の弁解はその少女に通用せず、少女は「問答無用ッ」と明久に勢いよく拳を振るった。明久の丸出しの体は天に向かい、明久の叫び声も虚しく虚空に消えていった。
☆
騎士の国である日本には当然警察なども騎士が仕切っていた。そしてその中でも王族の直に仕えている警務隊を『王族特務警務部隊』などと言った。全国の警務隊の中で頂点に達する部隊だ。
そして、その部隊長に任命されているのが清水美春という少女だった。彼女はその部隊のトップであると共に騎士の中でも頂点に君臨する国家騎士でもあった。彼女は「第五国家騎士」、つまり、七人いる国家騎士の中でも五番目の実力者だ。
王族特務警務部隊の隊舎は町のビル群に位置していた。そして、その隊舎の中に今、一人の少年が警務部隊長である清水に罰せられようとしていた。
「ま~た、アナタですか」
清水はうんざりした表情で言う。明久はその視線から目を逸らす。
「此処は本当はS級犯罪者を罰するための場の筈なんですけどねぇ。陛下の命で仕方なくアナタを此処で罰する訳なんですが…。これで何回目ですか…?」
明久はギロリと睨みつけてくる清水からそのまま視線を逸らす。彼女の視圧にとてもじゃないが耐えられなかった。
「確かにアナタの報告書を見る限りアナタはある意味S級犯罪者並の問題を起こしている。陛下が頭を悩ませるのも無理はない。」
先ほどから毒舌を突いてくる清水だが、明久はやはり何も言い返せない。
しかし、そんな明久だったが、これだけはどうしても聞いておきたかった。
「…あの、僕はどんな罰を受ければ………?」
明久は恐る恐る清水に訊く。今まで彼は度々問題を起こしては度々罰を受けた。恐らく今回も罰を受けなければならない。
「もう、私自ら罰するのは飽きました。そのため、今回はゲストを呼ぶことにしました。」
「ゲスト…?」
明久は何のことだ?と意味分からなさそうに首を傾げた。しかし、そんな明久の顔から大量の汗が噴き出る。
「吉井……。オレは貴様をそんな生徒に育てた覚えはないのだがな……。」
フンドシ姿の大柄な男が現れる。それは明久のクラス担任の西村宗一だった。
しかし、分からない。何故彼は此処に居て彼は何故フンドシ姿なのか…?
「せ、先生。普段着てるスーツは……?」
「ん?スーツ?そんなもの着たら罰を与えるにも雰囲気がないだろう……?」
明久は少し引いたような顔をする。そんな雰囲気は全く求めていなかった。
そして西村は物凄い形相で全力疾走し、明久の下へ向かってくる。
「ギャアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアッッ!!」
明久の叫び声は誰にも届くことなく虚空へと消える。そして明久の意識も闇へと消える。
☆
此処は吸血鬼が住む世界の裏側だった。この世界には朝というものがなくずっと夜が続いていた。そのせいか、常に空に浮かぶのは太陽ではなく、月だった。
町並みは西洋風で、所々光が灯るっている。
人間の世界でも州や大陸などによって皮膚や髪、瞳の色というのは皆それぞれである。しかし、吸血鬼の世界では皆瞳の色は血のような色だった。そのせいもあり、当然ではあるが、ひどく人間とはかけ離れたような雰囲気を放っている。
そして町の中央には巨大な城が建っていた。吸血鬼ににも、王族があり、やはり王家は吸血鬼の中でも強大な力、全ての吸血鬼を統括するほどの権力があった。
近年まで吸血鬼は強大な権力を誇っていた。数は人間よりも劣るものの、人間が相手にならないほどの力を彼らは持っていた。
しかし、数十年前…。2000年代に入ってからだろうか。人間の力は急激的に上昇する。その理由は『試験召喚システム』の開発だ。このシステムの開発により、戦闘能力に大きく差がある人間と吸血鬼が初めて対等とも言える立場に立つ。それまで、吸血鬼に圧倒的な力を誇る人間と言えば、古代、神代などの英雄と呼ばれた偉人や神に仕える巫女や聖職者、陰陽師といった高度な霊力を持つ人間たちだ。
そんな一般人までもがこのシステムにより吸血鬼に対抗するだけの力を得た。
何より、戦闘からかけ離れた一般人をも立派な戦士へと変貌させるだけのシステムを作ったカヲール二世の存在は吸血鬼にとって脅威とも言えた。
「陛下、ご報告があります」
一人の中年の吸血鬼が仰々しく頭を下げながら陛下と呼ばれる少女の前に現れる。その王室は暗く、吸血鬼の紅い瞳だけが輝いている。そのため、姿、形ははっきりとは見えない。
「興が削がれる報告なら要らないぞ」
陛下と呼ばれた吸血鬼は中年吸血鬼を手をヒラヒラとあしらう様にして言う。報告にはまるで興味がなさそうだった。
「先日、九州を襲わせた吸血鬼部隊がフミヅキ兵士によって殲滅されまし……ィイッ?」
報告の途中で中年の吸血鬼は急に膝間づいた。急に呼吸が荒くなり、先程まで陛下と呼ばれた吸血鬼に向けていた視線は地べたに向く。大気中の重力がとても重く感じた。
しかし、それは重力の急な変化ではない。それは紛れもない殺気だった。
「二度も言わせるなよ。興が削がれるような報告は無用だ。その報告は側近共にすれば良い」
そんなことを言われた中年の吸血鬼は、
「はっ…はい。も、…申し訳ありません。」
としか言えなかった。
「まあ、良い。此度もフミヅキの兵士共か…。」
そんなことを呟き何かを考え込むような表情を見せた。そして、暗い王室の中に微かに月の光が射しこんでくる。
中年吸血鬼の前に立つ陛下と呼ばれたその吸血鬼は陛下と呼ばれるには余りにも幼く、足元にまで伸びる桃色の髪、そしてその顔の美貌は妖艶とも言える美しさだった。
「どうやら人間の勢力も上がって来たみたいだが…。いずれ世界は私の物になる」
そう言い、その少女は悪意に満ちたような笑みを浮かべた。