僕と騎士と武器召喚~another~   作:ウェスト3世

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高城雅春

 

 明久は校内を走り続けた。床を踏んでいる足は恐らく血に塗れている。それだけ床は血にまみれていた。

 助けを求める生徒、死んだ生徒…。明久はそんな光景を見て酷く胸が痛んだ。一体何が原因でこんな惨事が起きているのか?

 だが、明久はそれらを全て無視して走り続ける。残酷な光景に息が無意識に上がるのを感じる。心臓の鼓動が早まるのを感じる。こんな惨劇を生み出した人物は校内に居る筈だ。きっと何処かに潜んでいる筈だ。

 そんな瞬間―――。

「あ…アキ…」

 誰かが呼んでいる。それも聞き覚えのある声だった。

「み…美波…!?」

 明久はその声の方に振り向くと、明久のクラスメイトの女子、美波が倒れていた。無視して走り続けるべきか、そう考えたが、流石に知人だけあって放っておく気にはなれなかった。

「……その傷は…」

 美波の傷は酷かった。体の外傷も酷かったが、左足に関しては刀で切断されたような跡がある。美波は片足を失ってしまったのだ。傷口からは血が止まらず流れるように出血している。

「ゴメン、ちょっと……抵抗したら…こうなって…」

 美波は苦しそうに笑った。それを見た明久が冗談言ってる場合か、とでも言いたげな表情で、

「何、馬鹿なことやってんだよ……!」

 と掠れたような声で怒鳴る。そこには悲しさ、悔しさが滲んでいるように見えた。

 そんな明久を見た美波が薄く微笑んで瞼を閉じた。呼吸はしている。心臓が動いている気配もある。だから死んではいない。ただ、意識を失っただけである。

 しかし、明久の心の中からは燃え出す様な感情が溢れてくる。その感情を言葉で表すのであれば、怒り―――。

 明久は再び走り出す。

 

 

 

 

 *****

 

 

 六年前―――。

 まだ坂本雄二が国家騎士の頃だった。町民が行方不明になる事件が相次いだ。犯人は不明でカヲール二世や、他の国家騎士なども必死に町人を探し回ったが、見つかることはなかった。

 しかし、見つからないのも当然だった。フミヅキの中でも奥地にある深い森。そこには人を寄せ付けない強力な結界が張られていた。

 その結界に気付いたのは直感的なものだった。ある騎士がこの森一体だけ妙な違和感がする、ということからだった。

 だからと言ってすぐにこの「妙な違和感」が結界とは思わなかった。ただの気のせいだよ、という騎士も何人も居た。しかし、手掛かりは少ない為、カヲール二世はその「妙な違和感」を結界と判断し、結界解除隊、上級騎士10人、国家騎士3人を派遣させる。その国家騎士3名には幼い雄二も含まれていた。

 そして、実際に結界解除班が、結界の解除術を発動させたところ、結界らしきものが消失し、森の中に在った「妙な違和感」は消失した。だが、問題はそこからだった。

 森の中に入ると、あちこちに骸骨や死体が散乱した状態だった。それを見た隊員達は吐き気や呼吸が荒くなる者も居た。そんな症状を訴える大半が隊員達の中でも若者ばかりだった。雄二も国家騎士とは言え、死体を目の前にするというのは初めてのことであったので、思わず息を詰まらせた。

 すると、途中、叫び声が上がった。後ろに居た隊員達の方からした。

 それに反応した隊員達は皆、武器を召喚する。が、簡単に攻撃は弾かれ、鮮血と共に倒れていく。

 すると、そこには長身の男が立っていた。その男を見た瞬間、皆が驚いた。その男はフミヅキに居る誰もが知る人物だったからだ。

 その男の名は高城雅春。カヲール二世の側近であり、町人からも慕われているスター的存在だ。

 そんな彼が味方であるフミヅキ兵を躊躇いなく殺すことに、皆が驚いた。

 そこで、高城は自ら自分が犯人と主張した。それに、隊員のある一人が何故、アナタがこんなことを?と尋ねた。

 すると、高城は理由はない。ただ吸血鬼や人間、両者を屈服できるほどの『人造人間』(ホムンクルス)を造ろうとしていた、と言う。

 高城は騎士としての実力だけでなく、術などにも長けた存在だった。だが、その中でも最も得意としてるのは死霊術。これは世界共通で禁呪とされていた。理由は極めて簡単で、死霊術は死者の霊魂をエネルギーとして術を発動させるものだった。それは術を繰り返すほど術者に霊魂が憑依されていき、最終的に破滅に導くものだからだ。

 そして高城はその死霊術で『人造人間』(ホムンクルス)を造ろうとしていた。

 その為の媒体となったのは町人の魂だ。町人を殺し、死霊となった魂を人造体に埋め込むことで完成するらしい。

 だが、それは当然犯罪行為なので、隊員達は武器を構え、一勢に高城に刃向った。此処に居る隊員も町人も、カヲール二世も誰もが彼を尊敬し、慕っていたため、刃を向けることに躊躇いの気持ちはあったが、それを必死に押し殺して刃向った。

 だが、隊員達は皆、死んでいった。圧倒的だった。

 生き残ったのは幼い雄二だけだった。その雄二も何が起きたか分からない表情で、口をパクパクしていた。そんな雄二に高城は一歩ずつ近づく。

 だが、彼は雄二を殺さなかった。ただ、雄二の持つ武器『雷切』だけ奪い、去ろうとする。

 何故、彼が雄二を殺さなかったのかは理解できなかった。しかし、その頃の雄二は国家騎士という階級に昇り詰めていても、所詮は子供。高城から敵とは見なされていなかったのかもしれない。

 そう思うと、自分の非力さが許せなかった。

 いつか、あの男は自分が殺してやる―――。

 幼い少年が心に宿した野望だった。

 

 

 

 ******

 

 

 

 

雄二と高城の闘いはあっけないものだった。闘いの行方は高城の圧勝。雄二は高城につけられた傷により床に倒れ伏している。

「フ……。君にはがっかりだな。身体能力は昔よりはあるものの、『神童』と言われていたあの時の方が君は恐ろしいものでしたよ。平和ボケでもしましたか?」

 高城は倒れている雄二に落胆したような声で言う。

「フン…。悪かったな」

 雄二は舌打ちをして言う。平和ボケというのはあながち間違いでもなかった。

 国家騎士を下ろされた雄二は命がけの任務もなく、のんびりと学校に通う毎日。それは国家騎士の生活と比較したら当然平和である。そして、その生活にいつの間にか慣れてしまっていたのだ。

 だが、そんな平和ボケした生活を別に否定しようとも思ってはいない。それは国家騎士であった時の自分が欲しくて欲しくてたまらないものではあったから。

 だが、この男は殺したくて殺したくて仕方ない。

「さて、まあ、君は殺しましょう。」

 高城は雄二に剣を突き立てる。雄二は「ぐ…っ」と呻くような声を上げる。そして、高城が剣を雄二の胸に突き立てようとしたその時、雄二は口を開け、

「待て、お前は何故この学校を襲撃した?」

 と、高城に質問する。

 それに反応した高城も剣をピタリと止める。

 だが、それは確かに分からないことであった。何故、突然この男はこの王都に現れたのか?何故この男は真っ先にこの学校を襲撃したのか?よくよく考えれば思い当る理由がない。

「いえ、探し物をしてましてね。」

「探し物?」

 雄二は聞き返した。何かこの学校にしかなさそうな大事な物でもあるのか?と考える。

「君も此処最近フミヅキで起きている連続殺人は知っている筈です。」

「ああ。」

「十六件目の事件で変若水を飲んだ人間、羅刹三十人に吸血鬼三人組が殺されたということも知ってますか?」

「ああ。一応な」

 雄二はぎこちなく頷いた。

 それはフミヅキ中だけでなく各国からも「謎の事件」と評され、報道されている。

 吸血鬼三人、羅刹三十人を殺せるだけの力がある者は上級騎士以上だ。しかし、事件が起きたときの上級騎士以上全員に調査すると、ちゃんとしたアリバイがあった。では、誰が犯人なのか―――?そういった状況となっている。

「正直、僕は驚きました。吸血鬼三人、羅刹三十人を殺せる人材がこのフミヅキに在るのだと。それも上級騎士や国家騎士という上位の騎士ではなく、下級騎士に居るというのも驚きました。」

 それを聞いた雄二が何かに思い至ったように息を飲んだ。

「…それがこの学校の生徒の中に紛れ込んでいる…か?」

「ええ、まあ。彼と一戦交えてみようと思って来ました。でも、君はもう気づいているんじゃないですか?」

 高城は少し悪戯っぽく笑う。まるで雄二の考えを見透かすかのように。確かに雄二は思い当る節があった。

「少しお喋りが過ぎました。そろそろ殺りましょうか」

 すると、再び高城は雄二に剣を向け、突き立てようとする。

「では、さようなら。『神童』」

 剣が雄二に触れようとする。逃れられないと思った瞬間―――。

 刃が弾かれるような金属音が響き渡る。

「…おや」

 目の前に現れたのは黒い剣を持った少年だった。雄二の目は驚いたように見開かれる。何故ならその少年は雄二も見覚えのあるものだったからだ。

「お、お前…明久か……?」

 雄二は息を飲んでその少年の名を呼んだ。

 だが、少年は答えない。ただ目の前の高城を睨み続ける。

「ふ…。君が十六件目の事件の犯人か。会えて光栄だよ」

 しかし少年は高城を睨み続けたまま、

「僕はどうでも良いね。」

 と、低い声で言う。恨み、憎しみと言った感情を滲ませているようだった。

 そして、明久は黒い剣を勢いよく振るった。それを高城が剣で止めず、指先で止めた。

「……!?」

 明久はそれを見て驚いた。剣を素手で止める者など、今まで見たことない。それも指先で止めるなど、今まで経験したことのないものだった。白刃取りといった類でもない。

「ホウ、良い太刀筋です。剣術は型に合せたものでない、独自で編み出したもののようですが、速く、正確性がある。」

 それに高城がニヤリと笑い、剣を明久に向ける。

「なら、僕も少しだけ力を解放させましょう……。『怒り』(グラム)。」

 高城は魔剣グラムに宿る魔力を発動させる。明久はそのまま直進して剣を振るう。

 それに反応した高城も剣を振るうが、明久は素早く躱し、後ろに回りこんで、高城の首筋を狙う。

 だが、そう動くと分かっていた様に高城が微笑する。

「……クソッ」

 魔剣の矛先が明久の心臓を狙う。

 明久はそれをギリギリで躱し、心臓から狙いが外れるものの、刃が肩に突き刺さる。

「中々良い動きをしますが…。此処で終わらせましょう」

 高城は止めの一撃を放とうとする。

 その時、明久は剣を横に掲げる。そして黒の剣からはゴゥッと勢いよく黒炎が噴き出す。

「……『炎を身に宿す堕天使』(イフリータ)よ…。」

 明久は黒炎を纏った剣を高城に向け、走り出す。

 

 

 

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