僕と騎士と武器召喚~another~   作:ウェスト3世

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悪魔との契約

「…『炎を身に宿す堕天使』(イフリータ)……?」

 高城は黒く燃え上がるその剣を、目を細めて見つめた。と言うのも、その剣の名前に訊き覚えがあったからだ。

 イフリートとはイスラム教の聖典「クルアーン」では堕天使と記されている。また、その他にも、精霊、悪魔とも称されている。また、魔術にも優れ、変身能力、炎を自在に操る力などもあるためか、炎の魔人と称される時もある。

 イフリートは男性型で、イフリータは女性型である。つまりは目の前の剣もその女性型の悪魔なのだろうが…。

「……妙だな」

 高城が唸るように言う。明久の召喚方法はフミヅキを中心とした世界各国で扱われる試験召喚でもなければ、霊紙に霊力を込め、術を発動させる式神でもない。魔術による召喚でもない。

 ならば、この召喚方法は一体―――?

 しかし、そう考えたところで高城が何かに思い至った表情をする。

「成程……『契約召喚』か……」

「け…契約召喚?」

 倒れている雄二が何だ、それは?と呻く。明久は眉を顰め、高城を睨んだ。

「…契約召喚は悪魔、天使、神…。そう言った人間とは程遠い存在と契約することで悪魔や神などを武器化させて召喚する極めて珍しい召喚方法さ。だが、それを受け入れる神や悪魔、天使はいない。況してや、人間に武器として扱われるなんて相当な屈辱ですからね。」

 そう、契約召喚とは神などを武器化させ、召喚するものだが、これを扱うものは極めて少なく、そもそも契約すること自体が不可能と言って良い。

 神、天使、悪魔…。それぞれ持つ力も役割も全く違うが、明らかに人間よりは圧倒的なほど高位な存在なのだ。それを武器として扱われるのは屈辱的としか言いようがない。それを申し出て、命を奪われた人間は数多い。また、契約できても、命を奪われることもある危険度の高い召喚術なのだ。

 しかし、明久はそれを上手く手懐けていた。また、契約したその悪魔もその契約を受け入れているようだった。

「成程。君は面白いです。是非、その剣に宿る悪魔の力というのを見せて頂きたいものだ。」

「言われなくてもそのつもりだよ。」

 すると、明久は刃先を後ろに向けた状態で構える。そして、炎をゴウッとジェットエンジンのように逆噴射で加速する。

 凄まじい勢いだが、高城は気圧されることなく、前進する。その顔に苦痛という表情はなく、むしろ快楽に満ち溢れたような顔をする。

 そして『怒り』(グラム)と『炎を身に宿す堕天使』(イフリータ)が激しい轟音を立てて刃を交える。剣と剣が触れ合っただけで地震が起きた様に地鳴りが起きる。

 しかし、そこから明久はさらに剣を連撃でフェンシングのように突く。高城はその連撃を躱していきながら前進する。そして、高城は躱しながらも前進したおかげで、明久の懐に入り込むことが出来た。そこで剣を勢いよくふる。

「ぐ…っ」

 明久は僅かに気圧されたような声を出すが、上手く躱す。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」

 高城は声を上げて笑う。歓喜に満ち溢れているといった感じだ。

「良いですね。良いですね。だが、そろそろ退かせてもらいます」

「逃げるのか?」

「フ。今はね。いずれ決着を付けましょう。吉井君。」

 すると、割れた窓ガラスから冷たい風が吹いてきた。それと共に高城の姿は消えていく。

 明久も召喚を解く。そして、眉間に皺を寄せて、

「…高城……まさ…まささ……名前なんだっけ?」

 と、必死に名前を思い出そうとするが、思い出せない。

「高城雅春だ」

「あ、そうそう。それだ。」

 明久はポンと手を叩き頷いた。それを見た雄二は苦笑し、

「フン。ま、お前が実力を隠してたのは薄々感づいていたが、まさかこれ程とはな。」

「それは雄二も同じだろ?」

 明久も苦笑して返す。それに雄二もああ、そうだな。と認める。

 お互い自分の正体を隠し、お互い自分の正体に気付き、お互い知らぬ振りをしていた。だから、今更咎める気もない。そう言った演技もこれでお終いだ。

 雄二も明久も目的は違えど、正体を必死に隠そうとした。しかし、それは他人の命を犠牲にしてまで守り通すほどでもない。そう思っていたが……。既に何百人もの負傷者を出している。

「とんでもないことになったな……。」

「うん、まあ。」

 とても王都一の名門校とは思えないほどの悲惨な状況となっている。

 今日出張している西村がこの場に居ればもう少し負傷者を抑えられた気もする。彼は教師という為もあり、階級は上級騎士だが、戦闘力は国家騎士をも超える実力の持ち主だ。その実力は誰もが認めている。

 そんな状況下の中、二人の少女が現れる。フミヅキ学園の生徒ではない。

「清水さん……と木下さん……」

 二人は絶対零度の視線をこちらに向けてくる。恐らく警戒心から生まれるものなのだろうが…。

 だが、それも無理はない、と明久と雄二は思った。

「負傷者に関しては私の警務部隊と久保くん率いる医療部隊でこの場は何とかします。ですから御二人は木下さんと共に王宮へ向かってください。」

 清水の紹介と共に、優子が、

「さあ、行くわよ。事情は全て話してもらいます。」

 明久と雄二は黙って頷くしかなかった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 王宮の広間―――。

 そこにはカヲール二世がまるで二人を待ち構えた様に足組をしていた。

「連れてきました、陛下」

「ご苦労。」

 そう言われた優子は軽く一礼した。

 そして…。

「さて、今回の襲撃事件。死人、負傷者、どちらも多く出たが、お前たちのお陰で最小限には抑えられたとは思う。そこは礼を言う。」

 しかし、明久も雄二も特に反応はしない。カヲール二世が王宮に呼んだ理由、その本題はそこじゃないからだ。

「前置きは要らない。話は何だ?ババア」

「ちょっ、坂本君!口を慎みなさい!」

 王を前にしていつも通りの口調の雄二を優子は見て居られない、そんな表情で叱る。

 しかし、カヲール二世は、

「フン。お前は性格は変わらないようだ。」

 カヲール二世はフッと笑う。どうやら雄二のカヲール二世に対しての生意気な口調は今に始まったことではないらしい。

「まず、お前から話をしよう。坂本雄二。お前は今回の闘いで自分の武器、『雷切』を再び取り戻したようだな。」

「だから、何だ?」

「率直に言う。お前を再び第六国家騎士に任命する。」

 その言葉に雄二は眉をピクリと動かす。優子は驚いたのか思わず「なっ!?」と声を上げる。恐らく今現在の国家騎士でも、雄二が元国家騎士ということを知る者は少ないらしい。明久は雄二が国家騎士の任命というのに少し予想外というものはあったが、雄二が実力を隠し、高い戦闘力を持っているのは何となく分かっていたので、驚きはしなかった。

「お待ちください。陛下。再び任命とはどういったことなのでしょうか?」

 優子は混乱した表情でカヲール二世に訊く。

「坂本は以前にも国家騎士として活動していた。だが、ある事件をきっかけに一時降格させただけだ。本来コイツの在るべき姿はこれが一番正しいのさ。」

 優子はまだ混乱したようだったが、これ以上訊くと話が進まないことを自覚し、無理やり頷くことにする。

「おい、待て。オレは良いとは一言も言ってねーぞ。それにアンタはオレに好きなように人生を送れみたいなこと言ってたぞ。」

「ああ、昔のことなんかイチイチ覚えていないね。アンタに拒否権もない。有能な人材は出来るだけ私の下に置いておきたいしね。お前も分かるだろ、それだけ事態は深刻なんだよ。」

 雄二はチッと舌打ちをする。どうやら再び国家騎士として働かなければなさそうだ。

「ま、坂本は良いとして、吉井明久。お前が本題だ。」

 カヲール二世は明久をギラリと睨む。

「お前のことは多少調べさせてもらった。だが、不明なデータも多くはあったから分かったことは少ないが…。」

 カヲール二世は資料データの記された紙をペラペラと捲る。

「お前は元々フミヅキの住民ではない。元々信州に建っていたフランス人が経営していたリュミエール孤児院の孤児であり、二年前の『血のクリスマス・イヴ事件』を機にフミヅキにやって来た…。当たってるか?」

「……あの事件のことを知っているんですか…?」

「真相については知らない。未だ謎に包まれたままの事件だ。だが、お前は知っているんじゃないか?お前が自身の実力を隠すのもそれが原因か?」

 すると明久は少し俯き、思い詰めたような表情を浮かべる。

「いえ、知りません。」

 しかし、すぐに顔を上げキッパリと答える。

「フン。まあ良い。だが、コレには答えてもらおう。今週起きた十六件目の事件…。吸血鬼三人と羅刹三十人を殺したのはお前か?」

「はい。僕が殺したら…どうしますか?」

「別に刑を課すわけでも罰を与える訳でもない。ただ、それだけの実力を何故隠していたかが気になるのさ。」

 明久は少し強張った表情だったが、やがて口を開け、

「理由は単純です。僕の武器は世界中で扱われている試験召喚という類の召喚術じゃない。悪魔、天使、神…。いずれも人間以上の存在と契約し、それを武器化させて顕現する召喚術です。」

「ああ、非常に扱いにくい召喚術と訊く。で、それが何だ?お前は上手くその悪魔を手懐けているように見えるが……。」

「確かに、手懐けてはいます。でも、契約召喚の契約は全ての目的を一致していなきゃいけない。僕の契約している悪魔は契約した僕以外の者は全て敵と見做している。たとえ、それが模擬戦闘だとしても。」

 すると、カヲール二世、雄二、優子は何かに気付いたような表情を浮かべる。

 学校のカリキュラムに含まれている実戦練習は実際の戦闘のためのシミュレーションとして行われる模擬戦闘だ。明久にとって相手は当然、非実戦経験者。契約召喚の武器を扱えば、その悪魔は明久以外は全て敵と見做しているのでその模擬戦での敵を殺そうとする。

 明久にとってこの模擬戦での敵はあくまで練習相手であり、本当の敵ではない。

 契約召喚は召喚者と契約した悪魔の目的が互いに一致したとき、本来の力を発揮する。つまり明久も相手を敵と見做し、契約した悪魔も敵と見做した時、目的が一致し、力を発揮できる。

 だが、どちらかが一方的に敵と見做し、一方は敵と見做さない場合、召喚者と悪魔の関係の間に亀裂が走る。常に目的が一致し、常に志を同じくする。それが召喚者に課せられる契約である。

 その為にこの召喚武器は実戦練習では扱えない。本当の殺し合いだからこそ扱える武器なのだ。間違っても、味方には扱ってはいけない。

「フン。成程。お前が実力を隠す理由は他にもありそうだが、敢えて此処は問い詰めるのはやめよう。だが、お前は学校をやめて王族に仕えさせてもらう。お前の力は国の力としても有力そうだ。バカだけど。」

「イヤ、僕はそんな面倒なのは…」

「お前に拒否権はない」

 明久は王族に仕えるという面倒な仕事を拒否しようとすると、カヲール二世に遮られる。明久はうんざりした表情を浮かべた。

「吉井明久、お前は今から第三国家騎士、木下優子の従者として働いてもらう。」

 すると、明久と優子が一緒になって、

「ハァッ!?」

 と声を上げる。

(このクソババアは何を考えているんだ)

 明久は心の中で毒づいた。

 

 

 

 

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