放課後、だらけ部は通常営業である。
「んっんっんっ、ぷはぁ~~~!」
弁慶は大和の膝枕で、おつまみの竹輪を口に運ばれながら、杯に満たされた川神水を呷る。
大和も、寝転がったまま器用に杯に川神水を満たして差し出す弁慶から、杯を受け取って川神水を呷る。
初夏にしては暑い気温で火照った体に、キンキンに冷えた川神水が染み渡る。
「くはぁ~~~!やっぱり夏はこれに限るね」
「大和がおじさん臭い台詞を言うとは…似合わない」
「良いんだ。この幸せな時間に老若男女関係ない」
弁慶の髪を優しく撫でながら、再び空になった杯に川神水を満たした。
気持ち良さそうに目を細めながら竹輪を一口、川神水を一気に飲み干す。
「ぷはぁ~~~!…あ~もう私はこの膝枕の上で一生を過ごす」
「勘弁してくれ」
「んふふ~本当は嬉しいくせにぃ…ん?この気配は」
ドアの外から部屋に入ってこようとする気配を感じた弁慶だが、あえて誰が来たとは言わない。
だらけ部の部員は後一名しか居らず、大和も弁慶に聞くまでもなく誰が来たのか察していたからだ。
「ガラッとドアを開けて入ってきたのは髭の冴えない中年男であった。なんちって」
「おいおい、来て早々随分な言われようだな。おじさん傷つくぞ」
巨人は頭を掻きながら、何時もの場所にどっかり腰を下ろした。
「まぁまぁまずは一杯」
巨人は大和から差し出された川神水が満たされた杯を受け取って一気に飲み干す。
「くはぁあ~~~やっぱ夏はこれに限るな!」
「おっさん臭いなぁ」
「事実おっさんだから良いんだよ。それに、俺なんかよりお前の方がよっぽどおっさん臭いぞ」
「あ~良いの良いの。私は川神水さえ飲めればおっさんでも何でも良いの」
「何とかしろよ直江、お前の女だろ」
「「付き合ってない」」
大和と弁慶の言葉がハモる。
「その状態で付き合ってないと言われてもな。直江、良い年なんだからもっと健全に生きろよ、あっと言う間におじさんになっちまうぞ」
「そう言うヒゲ先生だって、俺くらいの時はこんな感じだったんでしょ?」
「いやぁもっとだらけてたでしょ、んっんっんっぷはぁ~~」
「確かに、なんか既におじさんだったみたいなのが想像つくね」
巨人は、大和と弁慶に好き放題言われて何時ものように頭を掻いて渋い顔をする。
「ばーか。俺がお前達くらいの頃はなぁ…」
☆ ☆ ☆
「宇佐美ーー!!」
「ああん?」
突然の怒声に巨人はダルそうに振り替えると、そこには、地元ではない学生服を着崩した、いかにも不良と言った感じの五人の男達が、手に鉄パイプや木刀といった武器を所持して殺気だって居た。
巨人の隣に居る女は何事かと、少し怯えた様子で腕を絡めてくる。
「てめぇ昨日は良くも仲間をやってくれたな!きっちりケジメ取らせてのらうから覚悟しやがれっ!!」
男の言葉に巨人は考えるように上を向いて頭を掻く。
しかし、巨人には自分の楽しい事や女の事以外に使う記憶力はなく、まるで覚えていない。
「あ~…人違いじゃねぇか?」
「っざけんじゃねぇぞ!!昨日、七浜の中華街で俺等のダチをやっただろうが!!三人とも病院送りにして人違いじゃすまねぇぞ!?」
「七浜?…よぉ、昨日なんかあったっけ?」
「宇佐美くん、昨日デートしている時に絡んできた人達を倒しちゃったじゃない。覚えてないの?」
「ん?…あ~あ~なんかあったなそんな事。お前と良いことしてすっかり忘れてたよ」
巨人の惚けた態度に不良達の怒りは頂点に達する。
「てめぇら!殺っちまえ!!」
その言葉を合図に不良達が一斉に巨人に襲い掛かる。
「下がってな」
巨人は女を後ろに下げると、面倒くさそうに制服の上着を脱ぎ捨てる。
「死ねやぁっ!!」
男が振り下ろした鉄パイプを難なく交わすと、その顔にカウンター気味に拳をめり込ませる。
歯が折れる嫌な音がして倒れる男から鉄パイプを奪うと、木刀を持って襲い掛かってくる男の足に向かって全力で投げつけや。
「ぎゃっ!?」
足の脛に鉄パイプが命中した不良は、短い悲鳴を上げてその場に倒れ込む。
そこに、投げると同時に駆けていた巨人が、そのままの勢いで倒れている不良の顔を、まるでサッカーボールのように蹴りあげると、声もなく吹っ飛んだ先で血を吐いて痙攣する。
「ふ、ふざけやがって!!」
特殊警棒を伸ばして、襲い掛かってくる不良にため息をつきながら、巨人はあっさりと懐に入ると、警棒ごと手を掴んで渾身の力を込めて捻り上げる。
骨が折れたような鈍い音が響いて、不良の手があり得ない方向に曲がる。
「ぎゃーー!?お、俺の手がっ!?俺の手がー!!?」
「手首外れたぐらいで泣き喚くな」
冷たくそう言うと、巨人は男の襟を掴んで背負い投げをする。
背後から襲おうと近付いていたもう一人の不良は、背負い投げされた男の踵が頭に直撃して、鼻血を出して気絶する。
投げられた男も襟をそのまま絞められ、だらしなく涎を垂らしたまま気絶した。
「さて、後はおたく一人だけど…まだやる?」
「ふ、ふふふ、ふざけるなっ!!」
息一つ切らさず、心底面倒くさそうに言う巨人を前に、不良も引くに引けなくなって懐から鈍く光るナイフを取り出した。
「宇佐美くん!」
心配そうに声を上げる女に、振り返りもせず手だけ上げて答えると、先程までのダルそうな表情から一変して、獲物を狙う獣の様な鋭い目付きで殺気を放つ。
「光もん出したんなら覚悟を決めろよ?手加減してやれねぇからな」
完全に気圧されている不良に向かって、巨人は静かに一歩前へ踏み出す。
精神的にも追い詰められていた不良は、それを合図にするかのように、喚き散らしながら向かってくる。
がむしゃらに振り回したナイフが巨人の腕を捉えた。
「はい、正当防衛成立」
冷たい言葉が静かに響く。
それは巨人がわざと斬らせたに過ぎなかった。
鋭い蹴りが的確に相手が持つナイフの腹を捉え、不良の手から呆気なくないふは失われる。
「へっ?」
何が起きたか分からずに、落ちたナイフを見たのが、この不良が巨人の本気の連撃を受けて意識を失う前に見た最後に風景だった。
「やれやれ」
巨人は、頭を掻いて脱ぎ捨てた制服を拾い上げると、面倒くさそうに埃をはらう。
そんな巨人に女は嬉しそうに駆け寄って腕に抱きつくと、その豊満な胸を押し付けて濡れた瞳で見つめてくる。
「カッコ良かったよ宇佐美くん…あたし、興奮しちゃった」
「んじゃ、良い所でも行くか」
女の唇を奪いながら、巨人は悠々とその場を後にした。
☆ ☆ ☆
「「ダウトー!!」」
大和と弁慶の言葉がまたしてもハモる。
「んっんっんっ、ぷはぁ~~!…話盛りすぎ」
「今時、そんな話で「宇佐美先生すごーい!」何て言う生徒は居ないですよ?」
「嘘じゃねぇよ。その時の腕の傷だってまだ残ってんだから、ほら見ろよ」
疑いの目を向けられた巨人は、スーツの袖を捲って見せるが、大和も弁慶もまともに見ようとはしない。
「そんなに必死になら無くても信じる信じるあははははー」
「そうそう、ムキになると逆に怪しまれるから気を付けた方が良いよ」
「…お前らなぁ」
巨人は額を押さえて項垂れる。
「この話、梅先生にしたの?」
「するかよ、小島先生にこの手の話は通じねぇだろ」
「いやいや、今との意外なギャップがうけるかもよ?」
「そ、そうか?…じ、じゃあ、おじさんちょっと行ってみようかな」
巨人は半信半疑でも、わずかな可能性にすがって落ち着かない様子で立ち上がる。
「上手くいったら何か奢ってね」
「任せとけ」
そう言うと巨人は足早にだらけ部の部室から出ていった。
巨人の居なくなった部室で、弁慶がぼそりと呟く。
「…賭ける?」
「…賭けにならないよ」
大和がぼそりと返す。
「「ですよねぇ」」
☆ ☆ ☆
「あ、小島先生。今日あたり暑気ばらいにでもー」
「お断りします」
賭けの土俵にも立てない、宇佐美巨人の日常であった。
「はぁ~あ」
初めましての方初めまして。
前作を読んでくださっている方お世話になっております。
こんなの書いてないで早くアフター書けよと言わずに、たまには息抜きも必要だよねと言う仏心で見守ってください。
ヒゲ先生好きなんですよね。
きっと若い頃はカッコ良くて強かったに違い無い!と言う妄想全開で一気に書き上げました。
また煮詰まったら更新するので、その時はお付き合い宜しくお願いいたします。
ではまた次回で。