終わりゆく世界で、あり得ざる猛攻が繰り広げられる。
相手は炎上都市の狙撃手、アーチャー。
猛攻の中心点は地上最後の侍、坂田 銀時。
「うお、オオオオオオ!!」
「ぐ、うっ────ゥ!?」
双剣で迎え討つアーチャーが後手に回る。常に先手を打ち、退がれば追撃がアーチャーの身体を深く叩く。
ただの木刀と侮ったのが最初の過ち。英霊にダメージを通すほど強力な礼装と見るべきか、その真価をまだ見せないまま猛威を奮う。
(凄いです、アーチャーとはいえ接近戦で圧倒するなんて…!私も、役目を果たさないと!)
マシュは2人の攻防を見て、ここだと思ったタイミングで飛び込んだ。銀時の死角から放たれる不可避の刃。攻めこまれながらも、カウンターの形で首を狙うソレを。
「ハァッ!!」
盾で上方に弾き、銀時の攻撃に不備を生じさせないように立ち回る。マシュには、死角からの刃を銀時なら躱せるという確信があった。だが、それでも実行するには危険な綱渡り。相手は宝具を持つ英霊。どんな隙になにを仕掛けるか分からない。
「狙った隙は確実にカバーする。
やはり多対一は厄介極まるな……っ!」
ならば、と。
銀時には攻撃に集中してもらうため、マシュは一切の防御を引き受けていた。
予想を上回る圧倒的優位。
ドクターは手筈通り、立香たちに近づくように助言している。これはアーチャーを引きつける間にジークたちの到着を待つ作戦。
それも直ぐに終わる。だから、銀時の戦いを少しでも目に焼き付けておこうと2人の動きに全神経を注ぎ込む。
「はっ、1人で格好つけて門番なんかしてっからそーなんだよ‼︎大人しく集団行動してりゃ勝てたかもなあ‼︎」
「私も進言はしたさ。なんと言ったと思う。『臣下が居ては剣を存分に振るえない』と一蹴されたよ。
全く、気にかけられるとは嬉しいじゃないかッ‼︎」
怒鳴り合いながら、大雑把な剣撃で死を交わし合う。
不敵に笑う銀色が現実を塗り替えんと、誰よりも輝いている。この瞬間、世界を歪めんとするアーチャーでは届かない場所にいると知る。
マシュの世界を押し広げるには十分な景色だった。
「んだそりゃ。どっちも甘ちゃんだな」
「………ちっ」
幾度の刃が火花を散らし、そして盾が何度目かの隙を払い落とす。懐で重心を落とした銀時が木刀を振り抜いた。
アーチャーの腹に直撃する。苦悶の声を漏らしながら吹き飛んだ。
「
「あれは……ハッ‼︎」
否、距離を置くことがアーチャーの目的。
詠唱とともに宙に現れる十数本の剣。
「剣を宙に出せるのかよ……!?」
「恐らくは爆発します‼︎銀時、こちらへ‼︎」
剣の投影、そんな理屈も内容も知らない彼らは宙で自身を狙い澄ます矢に驚愕した。
思い出すのは炎上都市冬木に来た最初の頃、数度見た射撃。
その矢は目標に届くや爆ぜる、蹂躙の一矢。
「なんとか出来るのか!?」
「分かりませんが、やるしか…!」
前後左右上空、盾で取りこぼす隙が必ず生まれる配置。
避けて進もうものなら通り過ぎざまに爆発するだろう。かといって、守っていては後ろから射殺されるのは必然。
マシュの後ろに周りながら聞く。
彼女は本来持つべき英霊の力を発揮できずに此処にいる。それがこの土壇場で開花することに賭けるしかなく。
アーチャーの手が振り下ろされるのを号令に、全ての剣が切っ先を2人に向けて放たれた。
「させない!」
「───ッ!こっちだマシュ‼︎」
声が響き、銀時はマシュに盾で守る方向を変更させる。
屈み気味に構えた盾の横で、見覚えのある魔力放出が剣を吹き飛ばしていた。
「タイミングばっちり過ぎだろ。
もしかして物陰から見てたりした?
も〜、所長ったら性格わる〜い」
「んなわけないでしょうがっ!
寄り道せず、最短最速で駆けつけたわよ!」
真っ先に降りたオルガマリーに声を掛ける銀時。
「ジークさん、これ以上ないタイミングでした!」
「2人とも無事で良かった!」
「なんとか間に合ったか。ここまでは計画通りだな」
ジークと立香も合流して、目先の目標を達成する。
「んじゃ、ジーク」
「あぁ、マスター」
2人が前に立ち、アーチャーに剣を構えて伝える。
「「ここは任せて行け」」
騎士王の攻略を3人に託す宣言。
予想外だったのだろう、アーチャーは少しばかり目を開いて反応した。どう見ても、配置するなら逆だと思ったためだ。
そんなもの銀時には関係ない。
アーチャーの手合いはまだ戦うべきではないと判断した。この組み合わせが最適という考えはカルデア職員含めた総意だ。
「来る頃には終わらせておくわ。
アンタたちこそ無事に来なさい、所長命令よ」
そう残して、足早く大空洞の入り口へ駆けていった。
───
──
─
歪な地形の広場から、マシュたちは剥き出しになっている大空洞の入り口へと走っていく。彼女たちを見送る間、アーチャーは微動だにせず待っていた。
この場にいる全員が警戒を高めて観察をしていたが、最後尾の立香が暗がりの奥に姿を消す瞬間まで眉1つ動かさない。
「先に言っとくぜ」
なにを考えているのかを想像する必要もない。
目蓋を閉じ達観したように呼吸する男、すまし顔のアーチャーへ向けて、銀時は一気に飛び込みながら呟く。
「勝つのは俺たちだ」
絶対ではない。しかし、必ずやり遂げる未来を宣言しながら視線が交差する。そして、間合いで木刀を振り抜いた。
「そこに、1つの犠牲もないと言えるか?」
木刀を防ぐ黒い剣が返答に力強さを与える。
火花を散らすほどの勢いで木刀と競り合う。アーチャーが本気で力を込めても押し返せず、ギラリと歯を見せつけながら銀時は答えた。
「バカかお前、あるに決まってんだろ」
「っ…‼︎」
木刀が黒鍵を絡めとるように下へ沈む。
木刀に込めた力を緩め、アーチャーの姿勢を崩した。
「燃えちまったこの町がそうだ。
間に合わなかったは言い訳になんねぇ」
更に、流れるように反対の腕を蹴り上げて白い剣を打ち上げる。
「だから俺たちは戦う。
救えなかった人たちを、最後の犠牲にするために」
機を狙っていたジークが踏み込む。
ガラ空きとなる肩から斬り裂く軌道を、アーチャーは黒い剣を手放すことで回避した。
「ジーク、退がれッ‼︎」
銀時が叫ぶ。
目下に取り残されたアーチャーの武器は、主人を失った鉄に有らず。爆発物だという情報共有をしているジークも既に行動を開始していた。
銀時の身体を掴んで跳んだ瞬間、剣からは想像も出来ない爆発が巻き起こる。
黒煙から飛び出した先で、2人はアーチャーの姿を探す。
だが、見つかるはずがなかった。
「ならば彼女たちは犠牲のうちに入らないと?」
アーチャーと名乗る理由…和弓を手に、黒煙の向こうで矢を番ているのだ。ジークだけが宙を移動する手段を持っており、相手の意図を理解するだけの経験があった。
「己だけでなく、志を共にする者なら死なせる覚悟があるんだな!?」
放たれる矢、次いで驚く怒号。
ジークは矢を撃ち落とすのではなく、夜空へ向けて腕を伸ばす。直後、魔力を放出して地面へと急降下。
「アーチャー、お前はそんなにも人を信じられないのか」
「なにを言うかと思えば、そんな初歩的なことか」
手から地面に着き、同時に銀時が駆け出す。
一瞬の隙としても、距離が離れすぎている。二十メートルばかりを三秒で駆け抜けようと、その間に十の矢が銀時を射抜くだろう。
「人を信じ続けたからこそ、ここにいるというのに」
木刀を握る銀時、矢を番え直すアーチャー。
そこに、両者の攻撃体制を上回る魔術が地面を疾った。
「
「なにっ!?」
銀時の路を器用に補助し、アーチャーの足場を最大限に破壊、退避の妨害を尽くす魔術。簡単に言えば破壊しか出来ず、それだけならサーヴァントを相手にも通じる手段となる。
ゆえに、銀時の路は動きやすく破壊したに過ぎず、彼が路を見誤れば状況は反転するだろう。
「騎士王なんてのが相手と聞いて、マシュたちは迷わず戦うと言った」
「彼女たちは、たった1つの犠牲を無くすために戦う」
銀色の侍は出会って間もないジークの意図を肌で感じ、一歩先に崩れていく足場を迷うことなく駆けていく。
一瞬の仕業だが、アーチャーも宙に飛んで弓を手に応戦しようとする。そこを、崩壊を利用して地面を突起させ、射出の瞬間に妨害した。
「個々で戦うお前たちとは真逆の存在だ」
「あいつらはそれで良い。
両手で持てる分だけでいまは十分さ」
宙空で、突き出した木刀がアーチャーの霊気を貫く。
「が、っ……」
引き抜いた木刀とともに、和弓がアーチャーの手から落ちていく。
ドサリ、力なく放り出された五体。
その横で銀時が力強く地を踏んだ。
「なぁ、この世界はどうなってる。
お前さんの目的は、街を火の海にすることか?」
もう時間のないアーチャーに、銀時は生きる者として凶行の理由を問う。アーチャーは薄らと目蓋を上げて、血混じりに答えた。
「俺、は”正義の味方”……だ。
信じた道を……縋った責任を果たすまで。そもそも……お前たちは、俺たちとは戦う理由が違う」
「テメェ、そいつはどういう」
「答える義理はない。返答が欲しいなら、先ずは…私の問いにキミが答えを示すのが筋だ」
身体が粒子となる直前、アーチャーは囁く。
「証明してみせろ……お前たちが”間違ってはいない”ことを。その身、朽ち果てるまでに」
虚空に消えた言葉の真意は分からず。
嫌な予感に圧されるように、2人は大空洞のなかへと駆けていった。
▼
暗い洞窟のなかを駆ける。
全員、不安はあるが言葉にはしない。
銀時たちに見送られた時点で覚悟は決めていた。
「明かりが漏れてる」
そして、道は終わりを迎える。
3人は互いを見て頷き合い、大空洞へと踏み込んだ。
「これが、キャスターの言っていた…」
見渡せば底。
意識が引き寄せられるほどに深い黒が満ちた世界。
立香ですら異様な空気が漂っていることを察知する。
ロマニが言っていた”神代の魔力濃度”というものを理解するならこのことだ。
生憎と、失われた歴史の神秘に浸る暇はありそうもない。
神代の魔力とやらよりも明確な脅威が居るのだ。
憐憫に立つ騎士の姿を見る。
「名乗れ。ここに来た目的はなんだ?」
カッと見開く目。
そして。
「ブッ!?」
小さな弾が黒き騎士に直撃、爆発とともに全身に電流のようなものが奔る。
『えっ…』
「えっ」
突然の爆発に呆けていたのはオルガマリー、そしてカルデア職員一同。痙攣する騎士に目が点になるなか。
「とおおおおっ!!」
飛び込んだマシュが、その盾で騎士…否、騎士王を弾き飛ばしていた。
『ええええええええええええええ!?』
「アーチャーの奇襲、上司のアンタが責任取ってね」
爆発の首謀者、藤丸 立香は騎士王が口を開いた瞬間、問答無用でガンドを放っていたのだ。
「まだ話し終えてないだろうっ!」
「チャンスが転がってたら狙うでしょうが!」
「騎士王マジになってるじゃないのっ!」
「マシュ・キリエライト、押して参ります!」
こうして、激昂した騎士王とマシュ、立香、オルガマリーの戦いが幕を上げた。