fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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大空洞の激闘

 

 

 

大空洞がたった一騎の踏み込みで揺れる。

深淵に染まる黒い槌が、避ける理由を奪われた大盾に直撃する。

 

「う、ヴ……!」

 

騎士王の魔力放出をその盾に浴び、苦悶の声を漏らすマシュ。本来なら避けて距離を詰めるものだが、騎士王の斬撃の軌道には必ず背後に控える2人を捉えている。

 

「くっ、ダメ!私たちが重荷になってる!」

 

『2人とも気をつけて!岩が崩れ落ちてくる!』

 

後方、立香とオルガマリーは限りなく傍観に抑え込まれていた。オルガマリーが立香を抱えるという、男としては情けない格好で。

騎士王の斬撃は魔力放出として大空洞内を駆け廻り、そのたびに吹き飛んでくる落石から逃げる事で精一杯。

辛うじて隙を見てオルガマリーが魔弾を放とうとすれば、マシュを盾にして万が一の可能性を潰す。

 

だが、そんな態度にオルガマリーが黙るわけがなく。

 

「これならどう!?」

 

指先を横に払い、魔弾が騎士王の斜め横に向けて発射される。明らかに外れた弾道はマシュを越える瞬間、急速に捻れて騎士王の側面へとカーブを描く。

 

「……フン」

 

騎士王は一瞥すると、盾を蹴り飛ばした反動でことも無く回避した。

 

「所長の攻撃が全部外れた!?」

「アンタの一発当たったほうが奇跡なだけよ!」

 

再びデタラメな魔力放出がマシュの身に降り注ぐ。

 

騎士王の戦い方は僅かな美麗を残した殲滅活動。

窮鼠猫を噛むことを許さない弱肉強食絶対主義。

 

「それに、次はもうないと思いなさい。

相手は世界に名高い騎士王、アーサー・ペンドラゴン。最初の不意打ちが決まったことが既に奇跡よ」

 

早二分が過ぎて、徐々にマシュは後退している。

 

『マシュも奮闘しているけど、騎士王の火力は桁違いだ。

『まだ生きている要因を挙げるなら、騎士王の意識が常に大空洞の入り口に向けられている。藤丸くんの不意打ちが効いたせいだろう、応援の闇討ち対策だ。

恐らく、姿が見えた瞬間に宝具を使うつもりだぞ』

 

数パーセントの可能性に意識を割きながらマシュを圧倒する。

さらに、オルガマリーの必死の援護射撃があと一歩を踏み込ませないからこそ生存している。世界最強の騎士を相手に二分も対峙していられるのは、ただそれだけの奇跡に過ぎないのだ。

 

「それでも俺は、マシュと所長と勝ちたいんです」

 

力強く訴える立香。

3人の名を挙げていることに驚いて、喉を詰まらせながらオルガマリーは苦渋の現実を伝える。

 

「…くっ、なんとかしたいのは山々。私も考えてるけれど、実力差がはっきり見えて全部上手くいく気がしない。ガンドも魔弾も、全て避けられるんだもの」

 

立香の想いは共有するまでもなく、騎士王を相手取ると決めたときから同じだ。改めて口に出されたことの喜びを早口で誤魔化していると、立香はピクリと表情を躍らせる。

 

「いや、それですよ所長!」

「な、なによ!?」

「避けるってことは、当たれば痛手なんです。なら…」

 

ごにょごにょ。

耳元で囁く立香の提案に、こそばゆさに身を震わせながらも真剣に努める。気恥ずかしい数秒を経て、逡巡する暇はなく答える。

 

「…あんた、顔に出すんじゃないわよ」

 

『藤丸くん、僕たちは信じることしか出来ない。

大丈夫、マシュは賢い子だ。言わずともやることを理解してくれるはずだ。だから、気負わずに行っておいで』

 

立香の提案に否定できるだけの材料はない。

たった一発勝負の賭けに、カルデア職員総員で算出を始めた。

 

 

 

───

 

──

 

 

 

 

漆黒を纏う志しが視界を染めていく。

 

人が自然災害に無力であるように。

騎士王の魔力放出もまた、天災と言って差し支えのない破壊力を持っている。

背後に聳える聖杯が霞むほどに黒く、大空洞に現れた侵入者を排除せんと絶対の一撃を振るう。キャスターの魔力を優に超える火力を前に生きていられるのは、一重に盾の存在があってのもの。

 

「が、あああッ!!」

 

何合目かも忘れるほどに理不尽な攻撃に盾をぶつけ、辛うじて一秒の生存を勝ち取る。

この盾は絶望を前にして折れない、立香やオルガマリーたちの想いそのもの。出来損ないの半人前以下が許される、決意の異議申し立て。

 

「ーーーーーーッ」

 

どんなに不様で、惨めに酸素を吸い込もうと。

藤丸 立香が不意打ちのガンドを決めた瞬間を思うと、もっと汚く足掻いて良いんだと励まされる。

 

現に、その抗いは止まっていないのだ。

 

「食らえ、食らえ、当たれ、こんのっ!!」

 

砂粒を散らすが如く、オルガマリーの魔弾が執拗に騎士王を狙う。その度に魔力放出で弾き、駆け回る邪魔者の影を捉えんと剣を構えて。

 

「くっ、させませんッ!!」

 

また、一秒の生命を繋ぐために盾を振りかざす。

 

立香は相変わらずオルガマリーに抱えられているものの、この瞳には傍観者でいるつもりは微塵も感じられない。

視線が合ったわけではない。ただひたすら、なにかを待ち続けている。異様に落ち着いた様子で戦況を見守っている。

 

なら、やれることに変わりはない。

 

「このままではジリ貧だと気づいているだろう。いずれ貴様たちの体力は底を尽きる。

盾の少女よ、このまま痩せ細るのを待つか?」

「わたし、は………」

 

騎士王の囁きに驚く。

向こうから会話を仕掛けてくるとは思わず。そして現実を良く把握している最悪の指摘。

 

どう見ても先に体力が尽きるのはこちら。

目の前の騎士王は剣を振るだけで相手の身を削ることができる。

まるで黒い太陽の如き存在だ。灼かれる側は脱水症状を起こして倒れ伏すしかない。それを数分の生命に存えるのが、正体不明の英霊から授かったこの盾。

 

「いいえ、違います。

私だけが、まだ覚悟をしていなかったんです」

 

そう呟く。

 

オルガマリーの援護に助けられて。

立香の瞳を見て。

そして、騎士王の在り方を考えて。

マシュ自身の立ち振る舞いを思い返した。

 

敵も味方も、自分を除いて攻め続けている。

突破口を探して、時間稼ぎなど要らないと武器を研いでいる。

なのに、自分は立香やオルガマリーを守ることに意識が向いていた。失うことが怖いから、敵の前で立ち止まることを選んでいた。

 

「前に、進む覚悟を──────!」

 

歯を食いしばり、身体ごと…それこそ感情も力に込めて一歩踏み出す。決意の瞳と交差して、盾の攻撃に騎士王は初めて前進を阻まれる。

 

「これは…!?」

 

それが決着の火蓋の合図。

騎士王の驚愕と全くの同時に、マシュの背後を横切る影。

オルガマリーが駆け抜けたと判断したとき、魔弾が1つ顔を掠める。思わず遅れて、もう1つの事態に気づく。

 

「カルデアのマスターは……」

 

オルガマリーが重そうに脇に抱えていた、黒髪の少年の姿がない。

 

「ちゃんとやりなさいよ」

 

騎士王に聞こえないように呟くオルガマリー。

その口元は緊張しながらも、薄らと笑っていた。

 

オルガマリーの役目はバトン。

この一瞬でケリを着けるために、最高のタイミングを見逃さなかった功労者。

 

「はい、必ず!」

 

その功労者を輝かせるかは、マシュの背後から飛び出した立香次第。オルガマリーとは反対側から飛び出し、存在の認知に僅か遅れた騎士王。立香を目視したとき、右腕から既にガンドが放たれていた。

 

「小癪なっ!!!」

 

当たれば二の舞となるそれを、騎士王は全身から魔力を放出してガンドを蹴散らした。

 

『魔力放出で防がれた!?』

 

騎士王は圧し迫る盾を左腕で制し、右手に持つ聖剣に魔力を込める。

 

「先ずは貴様だ、カルデアのマスター!」

 

盾から離れればその身を守るものはなく、オルガマリーの介助も間に合わない。

それでも、立香は変わらずに騎士王を見ていた。聖剣が歪な魔力を纏い、放出される直前まで目を逸らさない。それが、立香の役目だから。

 

「行け、マシュ」

 

ニッ、と笑う。

死を覚悟するには巫山戯た表情で、悪戯な笑顔を向ける。

その意図に理解が及ばず、思わず目を見開いて。ふと、揺れる空気に盾のほうを見てみれば。

 

「うおおおおおおおおッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

マシュ・キリエライトの右拳が頬に減り込み、表情をグシャリと潰していく。

身体ごと振り抜くと、騎士王は一瞬のうちに地面を跳ねながら吹き飛んでいった。

 

 

 

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