振り抜いた一撃が騎士王を吹き飛ばす。
絵面として輝かしい光景ではあるが、ただマシュが殴っただけなら
オルガマリーがマシュの背後を通り、立香を置いたとき。立香はマシュの背中に触れて、魔術礼装・カルデア服の瞬間強化を起動した。その効果はマシュの瞬発力を跳ね上げ、騎士王にも届く一撃へと昇華された。
「「おっしゃあ!!」」
『『よっしゃ!!!』』
渾身の一撃を見届けて、マシュ以外がガッツポーズする。
マシュは確かな手応えを感じて歓喜に震えていた。
「や、やりました!目標、沈黙です!」
砂埃の向こう、仰向けに倒れる騎士王。
『こちらでも騎士王の霊気の破損を確認。
人間で言うところの、骨が砕けた状態だ。もうまともに立ち上がるのは難しい!』
「けど、まだ敵は消えていません。早くトドメを…」
急いで盾を取りに行ったマシュが振り返る。握り締めた盾を振り上げるのではなく、構え直したことで立香とオルガマリーは嫌な予感に視線を向ける。
「う、そ……」
驚愕の声が漏れる。
そこには、再起不能と分析された騎士王が立ち上がっているのだ。
『ば、馬鹿な!?
ランサーやアサシンなら消えてもおかしくないのに!』
ロマニたちの疑問も当然だろう。だが、誰もが分かる理由が一つ。
騎士王には、立ち上がらなければならない背景がある。
「盾の少女、名を聞こう」
「ま、マシュ・キリエライトです」
息を切らし、血を吐いて。
それでも、聖剣を天高く掲げた。
「そうか、マシュ。称賛だ、受け取れ」
魔力放出の濃度を超える剣が大気を震わす。
歪で、死を報せる黒い花が開花する。
花の蕾が開く瞬間、マシュは盾を構えて。
立香が隣に飛び込んだ。
「ごめん、強化魔術はもう使えない。
けど大丈夫、マシュなら耐えられる」
「先輩……はい、はい!必ず、防いでみせます!」
いまから行われることは宝具の解放。
世界に名高い騎士王の宝具など、言わずとも名前くらい思い浮かぶ。それほどに有名で、その名に違わない威力を持っている。立香は魔術師でも特殊な能力もないただの一般人、普通なら自殺行為だ。
だが、騎士王が立ち上がるように。立香もまた、マシュの隣に立ちたいと願っただけの話。死ぬほど簡単で、死ぬ覚悟がなければ着席不可能な席に一番乗りした。
2人の覚悟を見届けた騎士王は、歯を擦り減らすように謳い、最後の一振りを力強く振り下ろした。
「
地を抉り、熱量を撒き散らして、天文台を屠る供花と化す。
次の瞬間、マシュと立香は騎士王の宝具以外の情報を全て遮断された。
「ーーーァ、ーーー」
「ーーー、ーーー!」
塵すらも塵と化す熱量。
灰すらも熱量に変える一振り。
世界最高峰の宝具を盾で受け止めて、2人は至近距離ですら声も聞こえない闇を浴びる。
こんなものは初陣で体験して良い規格ではない。
もっと小規模な敵と対峙して、徐々に己の力を自覚して、最終的に妥当する相手として初めて受け止めるべき一撃。それらの有るべき段階を飛ばして、決戦の舞台に放り出された。
盾を握り締めるマシュの手が震える。
肌で分かる。このまま、2人は消えていくのだと。
心が消沈していくマシュの背中に、暖かいなにかが力強く触れる。
「ーーー、大丈夫!」
「………あ」
ぐっと背中を押す正体が手のひらと知り、それが誰のものかを理解するのに時間はいらない。
藤丸 立香の手のひらだと理解したとき、彼の励ます声が耳に届いた。
「せん、ぱい」
霊気が砕けても立ち上がる騎士王には、なにか理由がある。なにを捨て置いても……それこそ、誇りを振り払うように優先したいことがあるのなら。マシュにもそれは同じこと。騎士王が敵対するように、彼女にも盾を握る理由があるから。
「聞こえます、先輩!」
理由の名を叫ぶ。
この地獄に放り込まれた身体で、なにも分からないままだけど。
約束した事を果たさないまま終わりたくない、と。
約束した事を実現したいから、と。
炎のなか、絶望の片隅で希望を語った侍と共に見たい景色がある。犠牲にしたくないものは、その1つだけで頑張れる理由になった。
「「うおおおおおッ‼︎」」
騎士王の想いを受け止めたうえで、黒い星屑に変えると決意を轟かせる。
『こ、これは!?』
ロマニたちが目を見開いたとき、漆黒の花を散らす光が盾から放たれる。絶望を押し戻し、それは分厚い壁としてマシュたちの前に顕現した。
絶望に抗う光、それは正しく希望だった。
世界最高峰の宝具は顕現した壁を前に、力尽きるように霧散する。
「……驚いた。私の剣を振り払うか」
轟音が去り、静寂に包まれる大空洞。
「やった……騎士王の全力を防いだぞマシュ!」
「はい、やりました先…ぐっ、ァ……!」
「マシュ!?」
肩で息をする騎士王に対し、マシュは膝を着いて満身創痍だ。
「あと、少しで……!」
マシュは、それでも一歩前に踏み出していた。
『無茶だ、これ以上マシュは動けない!
ここは一旦、銀時たちの応援を……いや!』
カルデアのレーダーに新しく2つの影が現れる。
駆けてくる銀髪の男たちを見て、騎士王は舌打ちする。
「チッ、面倒なっ……!」
『よし間に合った!銀時、ジーク、騎士王を倒すんだ!
もう満身創痍だ、急げ!!』
「私を、侮るな…!」
それは、言ってしまえば力業。
それも、いまのマシュやオルガマリーの力では覆しようのない、連続の宝具使用という最善手。銀時やジークでさえ、熱量の中心に飛び込んで無傷で居られるはずがなく。霊気の外側が砕ける音を聞きながら、騎士王は覚悟を決めて宝具を解放するために構え直す。
銀時とジークは視線を交わし、頷き合う。
「「「「行け、マシュ!!」」」」
立香、オルガマリー、ジーク、そして銀時はマシュの覚悟を受け取り、その背中を押した。
「なにッ!?」
なにかの魔術強化か、その正体を探る暇も、宝具を振り下ろすことも許さず。
「はああああああああッ‼︎‼︎‼︎」
マシュは最後の力を全員から受け取り、その想いに応えてボロボロの身体で盾を突き出した。
「あ………ぁ……」
鈍い音が響き渡り、黒い花弁が静かに宙を舞う。
盾に敗れた矛は独り、想いを束ねる少女に微笑む。
「歴史が正しかろうと、結末はこんなものか。
私の剣は、まだ勝利には程遠いな……」
足元から粒子となるなか、騎士王は褒美を残す。
「正しき歴史を追う者たち、抗い続けてみせろ。
グランドオーダー……聖杯を巡る戦いは始まったばかりなのだから」
こうして、特異点冬木の中心、騎士王は退去した。