ジャンヌと合流し、住民を避難させた街で敵を迎え撃つことで意見を合致させた一行。
「街に入んのはいいが、アンタはどこぞの竜の魔女と勘違いされてんだろ。素直に入れてくれるとは思わねえが」
「いいえ、問題ありません。むしろ好都合です」
ジャンヌは素晴らしく活気に満ちた笑顔を見せて。
ヴォークルールの街の門に向けて歩いていくのだった。
門番の前に立つジャンヌ。遠目から見ても、門番たちが慌てて武器を構えたのが確認できる。失敗したか、誰もがそう思った瞬間にジャンヌは拳を握った。
「えっ」
ドゴオン。
擬音が目に見えるほど豪快に門が飛ぶ。清々しいほどに砕け、門番たちも腰を抜かした。街を行き交う人々の視線は門に釘付けとなり、そして。
「竜の魔女です」
照れ顔で恐怖の宣言をするジャンヌ。
追い討ちとばかりに門の奥から炎が噴き上がり、いよいよ真実を帯びたところで。
「うわあああああああああああ!!!」
「出たぞ、竜の魔女だ!!」
「逃げろ!!!!」
街は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄と化した。
「皆さん、街の皆さんの誘導を手伝ってください。ラ・シャリテまで逃げる時間を稼ぎます!」
「おいいいい!豪快になにぶちかましてんの!?」
「わ、私たちが悪者のようになってしまいました!」
「ルーラー、もしかして緊張してたのか?」
「はい、注目されるのに慣れてなくて…。つい」
「火は俺の糸に着いたものだ。家屋には移らないようにしてあるから安心しろ」
『絵面!!』
『聖女ジャンヌ。農民でありながら軍を率いるカリスマ、どんなものかと思っていたが……まさか脳筋だったとは』
『これが田舎頭、つまり農筋だね!ってそうじゃない!』
「ラ・シャリテへの門はあっちです」
「くっ、やるしかねえ!お前ら、逃げ惑う住民を誘い込むんだ!」
「えっ、どうするんだマスター!?」
人が焼かれた。
門が壊された。
殺戮者たちが来る。
ドンレミのように、故郷が蹂躙される。
恐怖が恐慌を呼び、ジャンヌの策に光の速さで事実に尾ひれ背びれが付いて街中を駆けていく。
『大丈夫だよねこれ!?モニター越しで、贔屓目に見てもこっちが侵略者にしか見えないんだけど!?』
モニターに映るロマニも震え上がる阿鼻叫喚の街。
大量のワイバーンから人々を逃すため、各自、避難誘導を手伝いに行ったのだが。
「うわーっ!助けて、ゾンビがいる!」
「ウア”ア”ア”」
誤った避難経路に進む人々の先から、立香が叫びながら飛び出してきた。
「ギャアアアア!」
「バイオハザード!?」
「ヒイイイ!」
ゾンビ役のジークが特殊メイクで変装し、立香に覆い被さると血が吹き出した。
『ふ、藤丸君!?』
『あ、血のりだね』
『どんな避難誘導なの!?皆んなパニックに拍車が掛かってるよ?危ないからやめようね!?』
『フランスならフレンチホラーだ。アクションホラーは受け入れがたいのかもしれない』
『そういう意味で逃げてるの!?』
ごめんなさい、とロマニに謝る2人の背後から叫び声が上がる。
「きゃーっ!この家で密室殺人事件がーっ!
しかも小さな名探偵と金◯一耕助の孫がいます!」
「◯ナン!?ハジ◯!?」
「OMG!」
立香に倣ったマシュも当然、逃げたくなるような避難誘導を行ってしまう。
『ほら見なさい、すぐ真似する人が…いやマシュウウウ!ここフランスだから!しかも2000年代の……いやなんで現地の人たち通じてるんだよ!しかもオーマイガーって…ここ本当にフランス!?』
モニターの向こうでデスクを叩きながら突っ込むロマニ。なぜ遥か昔に生きるフランス人が、日本の誇る推理漫画を知っているのか気になるところだ。
「かてーこと言うなよ。時代は常に新しいものを追い求めてるんだ。すぅ…。
大変だ!あっちでディ○イトワークスがANIPLE○に吸収されてFG◯に天井が実装されたぞーっ!」
「なんだってー!?」
「急げ、奴らの気が変わらないうちに!」
銀時の避難誘導により、iT◯nesカード片手に走り去る人々。
『なにやってんの銀時君!?そんなこと今言ったらタイムパラドックスが起きちゃうよ!?』
『よく見るんだロマニ!周回効率を求めるフランスの人たちが一気に流れているぞ!』
『うわあ本当だ!これで避難誘導は完了しそうだね〜!
…ってなるかアアア!ピックアップサーヴァントが出たら消える天井だよ!?そういうところだよディ○イト!』
「天井が付いただけ進歩してるよ。あいつらも◯マ娘に負けないよう頑張ってるんだよ」
「目的が変わっているような…?気のせいか?」
「そもそも、この時代になぜiTu◯esカードが…?」
ふと正気に帰ったジャンヌが疑問を抱くなか。
フランス兵たちが駆けつける。
「竜の魔女め!ここで同胞の敵討ちをしてやる!」
「ちょ、お前どこ向いてんだ!?そっち逆!」
「いや、あれ!?身体が勝手に!」
そして、流れるように住民たちと同じ方向へと走っていった。
「なにやってんのあいつら。言動と行動が合ってないんだけど」
「ここの兵士たちは俺が追い払った。さ、これで心置きなく街を壊してもいい」
「地雷亜さん、それ敵がって意味ですよね?ジャンヌ・ダルクが壊す的な意味じゃないですよね???」
疑問やら悲鳴が飛び交うなか、着々と住民の避難を進めるのだった。
───
──
─
ものの数分で住民の避難が完了する。
先ほどの喧騒が嘘のように静かなヴォークルールの街路。
『皆んな、ついに来たぞ!頭上に気をつけるんだ!』
ロマニの通信が警告したのはそんなときだ。
「あれは…」
「ジーク、どうした?」
こちらへ近づく空の大群。
なかでも一際大きい存在に目を細めるジーク。
「事情は後で話す。マスター、隙を見て変身する」
銀時の問いかけにそう応えて、各自に集合を促していく。
(それって、つまり……!)
目視でも分かるシルエットの正体、ジークの変身。
2つの要素を合わせたら、必然と答えが出る。
敵意を剥き出しに巨大が空から飛来する。
初めて出逢ったはずなのに親近感が湧いてしまうほど、大きな竜を俺たちは既に知っていた。
違っていることはひと目見て2つあった。
先ず1つ目は背中に乗せた乗客たち。ただの人間は1人として居ない。身体のなかが異常に満ちていて、救いを捨てた魂で活動する器。生前なら、穢れた者たちを真っ先に拒絶している。
もう1つは。
「あら、ふふ、フ────」
品性に見せた眼差しで崖下を蔑む。精神を逆撫でする笑いが立香たちの意識を握った。
「っと、いけない。面白すぎて気が緩むところでした。失敬?まさか、私よりも先に街を襲っているなんて思わなかったものですから」
邪悪な竜に怯んだだけではない。
言を発した女性の姿に身を見張ったせいだ。
「おいおい、ジャンヌにうり二つじゃねえか」
「中身は全く違うようだがな」
病に望まれた果ての白い肌、愚者たちが見せつけた歪な笑みを浮かべて。異常たちを纏める、ジャンヌ・ダルクに瓜二つの顔を持つ魔女が問いかける。
「愚かな霊気…ボロボロの身体、廃れ果てた私似のアナタにお聞きしたいことがあります」
簡単なことだ。状況証拠とでも言えばいいだろう。
竜を従えて、聖女と同じ成りで、とても恐ろしい雰囲気を纏っている。
彼女が竜の魔女でなければ誰だというのか。
「私たちの邪魔をする愚かな民ですか。それとも」
微笑に反応して、竜の背中から全ての亡霊たちが飛び出す。立香たちを囲うため、四方に降り立つ。
「私に忠誠を誓いにきた、従順な復讐者たち?」
返答に求めるものは1つ。
きっと、どっちに転ばせても彼女は俺たちを殺す。歯向かえば全力で。降伏の意思を見せれば裏切る形で。こっちの意志をいかに愉悦に変換するか。この場には、彼女たちの精神をどう肥やすかの選択肢しかないのだ。
「………私たちは…」
ジャンヌはそれを分かっているから返事を躊躇う。この時間も彼らを愉しませてしまうものだが、少しでも勝機を手繰り寄せようと頭を働かせていた。
返事は即死。巨竜の炎が先か、周りのサーヴァントに殺されるかの違い。
「民を愛し、人の生き様を肯定する。そのために俺たちは特異点を解決しに来た」
だからこそ、魔女への返答は彼でなければならなかった。
「あ?聞こえなかったかしら、私は偽りのジャンヌ・ダルクに質問したのです。しょんべん小僧はワイバーンの火でも消してなさいよ」
「彼女は偽物ではない、故に貴女の質問は独り言だ。なら、誰が答えてもいいだろう」
『ジーク君!?あまり敵を刺激するのはやめてくれ…』
「クソガキが」
『熱ッッ!!彼女のひと睨みで僕のPCが燃えた!?』
そして、違っていることの2つ目。
あの巨竜は最強という誇りを存在ごと奪われている。
冬木から帰還して1週間、ジークの能力について色々と知った。だから分かる、巨竜の名前がファヴニールだと。本来忌むべき存在で、孤高の邪竜である。敵のことながら、敬意を表していたジークだ。誰かに従う最強など、決して受け入れられるものではないはず。
「こちらも問おう。お前たちはこのフランスをどうするつもりだ」
「見てわからない?どう見ても壊しに来た格好でしょ。
あら、それともジャンヌ・ダルクが街を壊すのは納得できない?」
竜の魔女は聖女の名を汚す。
堂々とした邪悪にジークは瞳を細めた。
「生命を足蹴りにするヤツを俺たちは許さない」
「そう、残念。嘘でも認めてくれれば、一生奴隷にしてあげたのに」
ここで対話は終了した。
根本から曲がらない信念を持った者が対立する。竜の魔女とジークの会話で、各々の陣営は納得したのだから。
「ルーラー、少しだけ時間がほしいんだ」
一瞬、ジークはジャンヌの瞳を見て笑った。荒々しい開幕をちょっとだけ申し訳なさそうに、そして守ってくれると信じて。
意図は分からない。なにかを仕掛けたいこと以外、内容が読めなかった。
「分かりました。
それと、ありがとうございます」
「ふふ、相変わらず律儀だな」
それでも信じることにした。自分のことを魔女ではないと言ったとき、欺瞞や打算のない目をしていたから。
戦場で微笑んだ聖女を見て、ただ1人。
「なに、その顔。偽者らしわね…」
竜の魔女だけはジャンヌを蔑んだ。
もう終わった悲劇の形をした者が、本物の前で笑うことは挑発でしかなかった。
「焼き払え、ファヴニール」
だから燃やす。灰に変えて、無様な屍を見て笑いながら進む。竜の魔女はそうあるために望んで生まれた、フランスへの復讐心なのだから。
「Oooo────!」
竜の魔女の命令から、ファヴニールが行動を移すまでの時間は僅か1秒。慢心のない準備には、眼前から感じるかつての脅威を感じていたからだ。
己を殺した英雄の姿はハッキリと覚えている。この特異点に召喚されたとき、微かに彼の存在を感じた程度には警戒するほどに。然し、それも直ぐに消えた。
あの英雄が還った?違う、死んだか、若しくは事情があって姿を隠した。
最強の勘がフランスを焼き尽くせと言う。故に、ファヴニールはこの目で敵の全滅を確かめるために竜の魔女に着いてきた。
(やはり、彼の気配を察していたか)
ジークは左腕を握りしめながら、ファヴニールの行動に共感していた。宿敵の気配が消えるまで、フランス中を焼き払うつもりなのだ。相手が誰であれ、ジークフリートである、という可能性…つまり、英雄という存在が消えるまで。
ジークが令呪を使用し、宝具を放つ。
最速で工程を終了しても、先手と殲滅に狙いを絞るファヴニールには一歩届かない。
だからこそ、ジャンヌの宝具によって対抗する。最大の先手を防ぎ、意表を突いた変身によるカウンター。これがジークのシナリオであった。
(彼女なら間に合う)
聖杯戦争中の記憶がジークに勇気を与えてくれる。最強であるファヴニールを前にして、ここまで胸を晴れるのはジャンヌのおかげだ。
令呪による変身の直前、ジャンヌが勇みよく踏み込んだのを見て身体が強張るまでは。
「えっ?」
ここにジークの誤算が生じる。
ジャンヌ・ダルクの霊気が不完全で、それは宝具解放も出来ないほどだと気づいたのだ。
「させません────!」
ジークに頼まれて、ジャンヌは即決した。ファヴニールの初手を防ぐ手段に宝具は選べなかった。解放出来るほどの力がないのなら、最小限で遂行するのみ。跳んでいたのでは間に合わない。竜の魔女が控えさせている2騎に阻まれるのは確実だ。
だから、踏み込んだ。
旗を槍投げのように構えて、躊躇いなく放った。
「なっ!?」
竜の魔女、そして配下たちが信じられないものを見たと唖然としながら。ファヴニールから吹き上がる血液、次いで空に放たれたブレスを目撃する。
最強の竜の右目に深々と突き刺さる旗。してやったりと鼻を鳴らす聖女。そして、彼女の背後で瞬く光に理解が追いつかないまま。
「マシュ、前のサーヴァントを倒すよ!」
「了解です、マスター!」
マシュは棺を担いだアサシンに。
「よォ、早速だが退いてもらうぜ」
「ヌッ…!?」
銀時はランサーに詰め寄って反撃を開始した。
圧倒的有利な状況から一転。
四方を敵に囲まれながら、
「英雄ジークフリートの身体で成すべきこと。この一瞬、人理焼却を阻止するために────!」
「は?変身?……ライダー、宝具を!」
我に戻ったとき。先ほどまで存在しなかった英雄、ジークフリート。この場においても己の誇りを掲げ、真っ向から討つ姿勢に指示が遅れてしまう。
大剣から溢れ出る、竜を倒すための魔力。ライダーが理解したのはファヴニールの宿敵であること。そして、自身の宝具に身代わりになれという指示。本来なら鉄拳で返事を返すところを、狂った霊気で逆らうことは出来なかった。
「
ジークフリートの宝具解放に時間は要しない。だが、ライダーの宝具をファヴニールの前に召喚すれば、防ぐことも可能だ。タラスクと呼ばれる、聖女マルタを敬う竜を犠牲にするために宝具の解放を口にした。
「待たれよ」
「ぐっ…!貴方、しつこいわよ!」
目の前に現れる長刀が、ライダーの宝具解放を防いでいた。
「失敬。簡単に宝具を捨てようとするのだ、手合わせ願いたい身として止めずにはいられなかった」
「ふざけるな…誰が好んで捨てるものですか!」
長刀を振るう和服姿の男によって、大剣を妨げるものは無くなった。
次々と現れる想定外の英霊の登場。魔女は絶望の淵に立たされながら、ファヴニールの様子を確認する。いま立ち直り、ジークフリートの存在に気付いたところだ。
間に合わないのは百も承知で、
「くそ、くそがっ!」
竜の魔女が手を下そうと
眼前で解放される宝具はそんなもので止められない。本体を攻撃しても一振りで消し飛ばされる。だが、あまりにも格好がつかない。切り札を出して負けるなど、受け入れられるはずがなかった。
「早まるなマスター!」
剣を振るよりも先に、セイバーが魔女の身体を抱えて宝具の軌道上から退避する。
「───
邪竜を屠るためにある世界最強の大剣、バルムンクが放たれる光景を目に焼き付けながら。
ファヴニールがジークフリートの存在に気づいたとき、全てが間に合わないと理解していた。守りも、回避も、逃亡の道までもが塞がれている。だが、ジークフリートを殺すことを諦める気は毛頭ない。
安全圏にいる己の主人を確認して、次に繋げろと想いを送る。そして、手遅れのブレスの準備を始めたとき。
ジークフリートの凝縮される想い。ジークが背負う役目を大剣に乗せて。邪竜必殺の一撃が振り下ろされた。
邪竜の咆哮を退けて、ここに安寧への一歩は踏み出された。
「ファブニール………?」
輝く大剣、透き通る景色。
刹那の攻防を制した正義を、竜の魔女は呆然と見ることしか出来なかった。
邪竜、ここに