空から振り下ろされた青い光が邪竜を消しとばした。
民家を押し潰していた巨大は粒子となり、街に放たれた恐怖心を和らげていく。
「や、やられた…」
一方で、侵略者たちにとっては想定外の事態。
「うそ、でしょ……ねぇ、ジル……あのファブニールが、こんなに呆気なく殺られるわけないでしょう!?」
驕りに唾をかけられて、怒りを抑えられるほど彼女は賢しくない。おもちゃを盗られた子供のように、地面を踏み締めてしまった。
「現実を見なさい、愚か者」
その声は彼女と同じ怒りから生まれたもの。しかし真っ直ぐで、妬ましいほどに煌びやかな自信を持って放たれていた。
ジャンヌはファヴニールの瞳から落ちた旗を掴み、既に距離を詰めている。竜の魔女に動揺しながらも、直ぐに思考を切り替えた聖女にまた怒りが湧く。
「させるかっ!」
馬鹿正直に受け止めようとする魔女を越して、セイバーの剣がジャンヌの旗を受け流す。
(迷いはない…!いまのマスターじゃ勝てないか)
セイバーの剣技はジャンヌの接近戦に余裕を持って対応できる。バーサーク化による流麗さへの欠損があろうとも、一対一なら霊格を砕くことも可能だ。
「セイバー、邪魔をするなっ!」
「流れを読め、マスター。退くぞ、ぐっ!?」
冷静さを欠いた魔女が割り込もうとする。それだけでも大きくハンデを追ってしまうのに、セイバーに更なる負荷が襲いかかった。
「多勢に無勢は避けたいが…。すまない、ここで仕留めろと俺の勘が告げている」
「助かります、ジーク君!」
ジャンヌの接近戦を補うジーク。
勝ち目を潰されたセイバーは既に魔女の眼中になかった。
(なによ、それは)
心の奥底からなにかが湧き出る。
ああして、肩を並べて戦う姿に心を妬いている。自分にだって、オルレアンで待っている右腕がいるというのに。彼のことを思っても収まらない苛立ち。ならば、先ずはファヴニールを殺してくれた英雄を殺すまで。
「チェックメイトだ」
八つ当たりの剣を握ったとき、最強の忍びがクナイを光らせる。
ガラ空きの敵将が目の前にいる。無防備な者から首を持ち帰るという、ペンを握る英霊でも可能な容易い行為を地雷亜が見逃すはずがない。この瞬間のため、ずっと息を潜めていたのだから。
「あ……」
音もなく飛び、セイバーの守りを呆気なく突破していた。セイバーは狂った感性で気づく。振り向こうと考えるも、四肢を削ぐ犠牲すら許さないのがジークの大剣だ。セイバーの守りは主人を守るに至らないと知り、漸く魔女本人が命の危機…否、
「っ────」
地雷亜のクナイが真っ直ぐに魔女の心臓に突き刺さる。憎悪で染まっていた瞳は絶望に変わり、取りこぼした光を掴む間も無く終わりを迎えた。
「……なんだと」
霊格に届く直前、魔女の身体が弾け散る。終わりの手応えごと消え失せた。
『消えた!?』
『転移か!高等なものを扱える魔術師がいるようだね』
「セイバーも消えたぞ!?」
「残念だ、ライダーも連れて行かれたか」
竜の魔女、セイバー、ライダーがその場から消えていた。
残るはランサーとアサシンとなる。
「そうだ、銀時とマシュは!?」
一息吐く間もなくジークが剣を構える。
「お、のれェ」
振り向いたとき、銀時の木刀がランサーの胸を貫いていた。銀時には傷1つない、完封したことが見て分かる。
『げ、撃破…!?ランサーを撃破してる!?』
驚きながら、直ぐにマシュの方へ視線を向ける。
「な、んで…わ、たしは…!」
「やあああっ!!」
アサシンの棺を弾き、右拳で顔面を打ち抜いていた。無傷とはいかないものの、アサシンの霊気を砕いた場面には脳筋さを感じずにはいられない。
『やった、マシュも敵を撃破だ!』
『うん、藤丸君も良くぞ集中してくれた』
「やりました、アサシンを撃破です!」
「うん、すごいよマシュ!」
ハイタッチする2人。銀時も合流して手をかざし、脅威が一先ず去ったことを実感する。
「あはは、皆んな流石だ」
竜告令呪によって変身したジークは一安心して笑った。
サーヴァントとなり、一瞬のみジークフリートに変身することが可能となった。バルムンクも可能だが、連射が不可能であり威力も本来以下となる。戦況がもつれることを見越しての令呪使用が、良い意味で無駄となったことを喜んだ。
「君には驚かされました。まさかジークフリートに変身できるとは」
「このお陰で彼の力を引き出すことが出来るんだ。あと2回だ、大切に使わなくてはな」
「制限があるのですか?」
「令呪と同じ3画、ジークフリートに変身できる。それは今回も変わらないみたいだ」
ジャンヌはジークの返答に目を細めた。
ジークは察する。きっと、制限のところに隠れたものがあると見抜いたのだろう。それを笑って誤魔化した。
「それよりもルーラー、君も人のことは言えないと思う」
「えぇ!?どこがでしょうか…」
「いや、責めているわけじゃないんだ。宝具が使えないのに、ファヴニールのブレスを止めたことに感謝したくて」
「…!えぇ、任されましたので!貴方に頼まれると、なんだか無条件で聞き入れたくなってしまったんです。
ですから、他にも相談事はばっちこいです!」
「あぁ、ありがとう。すごく頼りにしている。けど、なにかあったら遠慮なく言ってくれ。俺も君の力になれるよう努力する」
互いに褒めちぎるあまり照れ始めたところで。
「こほん、お熱いところ悪いけどさ。聖女さま?こいつどうにかしてくんない?」
銀時が申し訳なさそうに指を向ける。
「拙者は佐々木 小次郎。いつの間にやら流れ着いた放浪者、所謂はぐれサーヴァントよ。
安心しろ、ジャンヌ殿とは既に顔見知りだ。微力ながら手を貸そう」
「え、なにこの人。退けっつってんの。なんで刀を仕舞わねーの?」
「礼には及ばぬ。だが先ほどの戦いぶりを見て、無用と考えていた褒賞が欲しくなってしまった。そこな侍、拙者と手合わせ願う」
「話を聞けェ!誰も礼なんざ言ってねえよ!暑苦しいからディスタンスしろって言ったの!」
澄ました顔をして恩を押し売りするのは佐々木 小次郎。
目を輝かせ、銀時に仕合を申し込んでいる。
「彼は見ての通り日本の山育ちです。なかでも特殊なサムライという人種のようで、同族を見つけたら仕合わずにはいられないとか」
「どこの世界もサムライは馬鹿しかいないのが良くわかった」
「知らぬのも無理はない。我ら農民はヒスイなる地にて昼夜問わず駆け回り、もんすたぁの調査を行なっている。きんぐなる強者を探していたらここに来ていた」
「それただのアルセウ○だろうがァ‼︎」
ライダーの宝具、タラスクを捕まえようとしているのを銀時たちはまだ知らない。
『さっきのファブニール、モンスターボールに入りそうだよね』
『おいロマニ、そんな目で私を見るな。……いやまてよ、手に入れられたら調査のリスクが減るかも?』
「ダ・ヴィンチちゃん、いよいよ俺たちがロケッ○団になっちゃうよ」
「先輩、私はロケッ○団登場の名乗りをやってみたいです!」
「ダ・ヴィン博士、モンスターボールの準備をお願い」
『良いよ。ぼんぐりのみ、それからたまいしを準備してね』
膝から崩れ落ちる立香を眺めながらジャンヌが笑う。
「ふふ、面白い人たちですね」
「マスターたちは相手の内面で判断できる。ルーラーがなんと言われようとも、彼らは君の味方でいてくれる。無論、俺も含めて」
「そんで、聖女さん。俺たちと一緒に○ケモン図鑑の完成手伝ってくれる?」
銀時たちの強さを充分に知ったジャンヌに、もう断る理由はなくなっていた。
「我が真名はジャンヌ・ダルク。カルデアのマスター、協力の申し出感謝します。共に、この絶望を振り払い未来を取り戻しましょう」
最強の敵を倒し、最大の悩みを抱えた聖女ジャンヌ・ダルク。
地雷亜、小次郎に続く仲間が増えたことにより、旗を握る力は自然と柔らかく、強くなっていた。
▼
「ーーーーーーーー!!!!」
魔女の奇声がオルレアンの居城に轟く。
理性を放り捨てて、泣き声の代わりに辺りに炎を撒き散らす。
赤子も泣き止む荒みっぷりに、セイバーとライダーは制止することを諦めた。
「何故ですか。ランサーは生身の人間に負け、アサシンは半人前のザコを仕留められない」
床は焦げ、天井には剣が突き刺さる。
「あの竜殺しはなぜ復活した!?なぜ偽物の私が
玉座は砕け、カーペットは灰と化す。
「お前たちはファヴニールも守れない。突っ立っているだけで英霊など笑わせるな!」
「相手の連携が一枚上手だった。そして我々には経験が足りなかっただけのこと。地団駄を踏む時ではないだろう」
「黙りなさい。結果が全てよ」
癇癪とともに投げた剣をセイバーが弾く。
宙を舞う呪いが無様に床に転がる。雑音のなかに消えるそれを拾い上げて、理不尽な存在に声を掛ける人物が1人。
「部下に責任転嫁するようじゃ、アイツには逆立ちしても勝てねーよ」
気が立つ魔女へ投げられたのは、不愉快さを増すだけの事実だった。廊下の向こうから現れて、タバコを吸いながら言い放つ男へ。魔女は宛てのない殺意を向ける。
「…ゴミのくせに何が分かるというのです」
「見なくても分かる。ここの空気は最悪だ」
散り落ちる炎を払いながら、面積に反して窮屈な空間を嗤う。サングラス越しにでも分かる悲しげな瞳に、魔女は剣を手にして。
「あぁ、もういい。私は疲れました、寝ます。
ゆっくりと鞘に収める。
急激に冷めた感情に驚くセイバーたちの間を通り抜けた。魔女は振り向くことなく、ジルという人物に声を掛けて自室へと戻っていった。
「マスターは感情を制御するのが早急の問題だな」
「難しいでしょうね。なにに置いても見聞が足りていない。…今回の敗走、マスターには良い薬になるはずです」
狂化に犯されながら、彼女たちはマスターの脆弱さに気を払っていた。虐殺を指示する者に向けていい感情ではないものの、本来ある面倒見のよさがこぼれ出ている。
本音を口の奥に仕舞い、次に興味を向けるのはサングラスの男。
「彼女を止めてくれたのは助かったわ、ありがとう。驚いたのよ、まだサーヴァントがいたなんて」
「マスターが時折話しかけるジルとは、貴方のことか?」
「いいや、そんな名前の男は知らない。
俺は、マスターの
決してジルという人物ではない。
だが間違いなく竜の魔女陣営であり、サーヴァント。
「略して、マダオ。俺のことはマダオと呼んでくれ」
サングラスの男は真名をそう名乗る。
古今東西、どこにも存在しない真名。
静かに、世界交差は原点を侵食する。
前半はここまでです。
後半は2.25(金)からです。
P.S 地雷亜にはニンフィアが似合うと思います。