fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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憤怒は笑う

朝一番、召喚陣の使用を終えた竜の魔女。

集まった二騎に今日の予定を説明してからこう言った。

 

「カルデアの連中と決着をつけます」

「正気か、マスター」

 

オルレアンの居城でセイバーが驚愕する。横で話を聞いていたライダーは頬が引きつっていた。

 

「あら、私は正気じゃないけど本気(マジ)よ?」

「タラスクでヴォークルールに攻め込み、ヤツらを分断して撃破。奇襲にはもってこいでしょうね。けど戦力はこちらが負けている。勝てる見込みを示してくれなきゃ、力尽くで止めるけど?」

「まさかとは思うが…。あそこのバーサーカーを充てにしているのか?まともに機能するかも分からないぞ」

 

左足で立ち、両腕を横に上げてバランスを取る狂人。

 

「追加戦力にちょっとばかし頼るつもりではいましたよ?えぇ、まさか全身ドス黒いだけの狂人が来たから焦っているわけではありませんンンン」

「語尾が胡散臭い陰陽師みたくなっているぞ!?」

 

魔女は冷静さを失ったわけではない。片足立ちの狂人を召喚した途端、水分を無くしたように崩れた召喚陣を見て唖然とはしていたが。やけを起こしての発言ではない。

 

「…耳を貸しなさい」

 

その理由を2人に耳打ちする。

 

「アンタ、それいつから」

「そりゃ昨日ですよ。確認も終えました。夜にヴォークルールに赴きましたからね」

「はあ!?ただの気分転換かと思ったが、マダオと2人で!?彼がいないのはそういうことか?」

「違います、役立たずだから私がクビにしたの。それだけよ」

「深くは追求しない。だけど、昨日の襲撃に加えて夜にも一戦交えたなら話は変わるわ。街を離れていてもおかしくはないんじゃない?」

「対策は練られていても可笑しくはない。だけど安心して。ヤツらは街に止まっているし、きっと、偶然にも対策は瓦解する。

警戒心の強い今、その鼻っぱしをへし折る絶好の機会よ」

 

自信満々に語る魔女を見た2人は顔を見合わせる。

昨日までの冷酷無比、実力至上を掲げる竜の魔女とは別人に見えるからだ。

 

「……そ、ならいいわ」

 

ライダーは敢えて言及せずに返事をする。

ただ機嫌が良いだけかもしれない。もしかしたら心変わりをしたのかも。だが確信はなく、魔女と犯した虐殺の数々は記憶に焼き付いている。心を開くことも、手を握り返すことも出来るはずがない。

 

「あと、これまでの発言は訂正します。昨日の敗走は貴女たちを道具扱いしてきた私の責任」

 

素っ気ない返事の直後、竜の魔女は玉座を粉々に砕いていた。

 

「あなた…」

「マスター」

 

行動で示した魔女に目を見開く。

 

「捨ててきた事実は無くなりません。謝罪なんて並べてももう遅い。だから前を向くわ、復讐心とともに」

 

2人は再び目を見合わせる。

サーヴァントとマスター、バーサーク化という弊害に甘んじた結果が生んだ虐殺ではないかと。取り返しがつかないことを悔やむのは生前から変わらない。

 

「……そもそも、出来るならフランスを蹂躙したくはないんだけど」

「右に同じく」

「考えておくわよ」

 

あまりにも遅すぎた精神の成長。

 

「座標、ヴォークルール。敵、人類最後のマスターども。

目標、敵の殲滅。もし可能ならマスターを確保しなさい。私の奴隷にしてあげるから」

 

もう悔いる暇すらないことを2人は胸に仕舞う。

次に機会があるのなら、どんな理不尽にも抗ってみせると罪滅ぼしの想いを乗せて。

 

「さあ、訳が分からないうちに死ね、カルデア!」

 

居城の壁を破壊して、ライダーの宝具が召喚される。

祈りが粒子を纏い、タラスクは竜の魔女たちを乗せて発射した。

 

 

 

 

 

 

早朝、暖かい日差しによって意識が覚醒した。

知らない天井は白く…はなかった。数週間ぶりの故郷に帰ったような安らぎのなか、木造の天井を見て眠気が遠ざかる。

 

「い、てて。……ん、いつ寝たっけ」

 

まだ働かない頭を起こすと、焼けるように肌が痛む。でも、なんとか耐えられるので布団から出ようとして。

 

「うげっ!?」

 

休めと言わんばかりに全神経が痛覚を倍増させる。情けない呻き声で身体のダメージを知り、一旦ベッドに身を預けた。

ゆっくりと深呼吸をして、ようやく身体の痛みの原因を思い出してきた。昨日、竜の魔女にやられたんだ。手加減していたようだけど、何十回も蹴って殴られた。確か肋骨は折れていたはず…。

 

「折れてないぞ…?」

 

痛みはあるけど、殴られたときの痣程度が残っているだけだ。ちょっと頑丈すぎやしないだろうか?

 

得体の知れない寒気を感じたとき、部屋の外で物音が聞こえた。

 

「…誰かいるの?」

 

誰かが外に出て行った気がする。

きっと看病してくれたんだ。マシュかな、早くお礼を言わないと。

 

「あれ、誰もいない」

 

部屋中探しても誰もいなかった。

それにしても、知らない家を使わせてもらっているのに、やけに安心する場所だと思うのは何故だろう。

…分からない。誰もいないなら仕方ない、外に出よう。

 

「…あ、いた」

 

家のすぐ側に設置されたテーブル。

朝食らしきパンを食べながら、全員が作戦会議をしている。

 

「では、ジルという男が手を引いている可能性が高いと」

「憶測ですが…。オルレアンを衛っていた兵士の話を聞くと、私にはそう思えるんです」

「ふらんすを転々と旅して竜を狩っていたが、はて。ジルという男の話は聞かなんだ」

「俺もその男のことは確認していない。どこかに隠れているのかもしれんな」

「ま、とにかく聖杯をぶんどればいいんだ。目処さえつけば地雷亜に獲ってこさせりゃいいだろ」

「場合による。魔術で守られていたら、俺には手出しが出来ん。特異点を生むものだ、裸で転がしているはずがない」

 

『地雷亜の言う通りだ。敵は聖杯になにかしらの隠蔽をしているはず。うん、ここまで纏めるとオルレアンが最有力候補になるね』

 

せっかく盛り上がっているところ申し訳ないこど、お腹空いたし交ざらせてもらおう。

 

「おはよ〜…」

「あ、先輩!おはようござい……ええええ!?」

 

マシュの元気な悲鳴でビックリした。まるでお化けでも見たような反応でちょっとショック。

 

「まさか起きてくるとは…」

「いやいやいやいや、馬鹿なのお前!?死ぬの!?」

「え、いや死なないよ?あ、銀さん髪の毛跳ねてるよ」

「あ、ほんとだありがとう!ってこれは地毛だ馬鹿野郎!」

 

『藤丸君、自分の容態分かってる!?立って歩くなんて……あれ、バイタル異常なしだ。というか、なんか傷痕が所々無くなってない!?』

 

「えっと、自分でも分からなくて」

「良かった、本当に良かったです!」

「マシュは立香を守らなかったことを悔やんでいたんだ」

「ありがとう。心配かけちゃったね。昨日は助けにきてくれて嬉しかったよ。だからほら、ね?」

 

鼻をすするマシュを宥める。

瞳に滲むものが心労を物語っていた。早く目覚められて良かったと思う。彼女に泣かれるのはとにかく嫌だから。

 

「あ、そうだ。起きたとき部屋から出て行った人がいるんです、怪我が治ったのはその人のおかげだと思います」

「あん?ここ数十分は全員いたが」

 

銀さんの顔を見て冗談じゃないと分かった。

じゃあ誰なんだろう。気になってさっきの家に戻ろうと振り返り。

 

『皆んな、構えてくれ!オルレアンの方から時速200km超えで巨大なものが飛んでくる!』

『着地点、藤丸君たちから百メートル離れます!』

 

不思議な朝はなにも解決することなく終わった。

 

「全員隠れろ!」

 

咄嗟に反応出来ない俺を銀時が掴み、建物の陰に飛び込んだ。

 

大気が震えた直後、外壁を突き破る無礼者たちによって広間は震源地と化した。

衝撃は凄まじく、胸の奥が引き締められる緊張感で汗が垂れる。砂埃が舞う広間を物陰から覗き見て、こちらを見る巨大生物と視線が合ってしまった。

 

「運が良いのね、皆さん。いまので全員を倒せば無駄な犠牲を出さずに済んだのですけど」

「あれは恐竜?」

「タラスクだ」

「知ってるんですか、小次郎さん」

 

一緒の物陰に飛び込んだ小次郎が恐竜の正体を教えてくれる。銀さんは嫌そうな顔をしてる、どんだけ警戒してるんですか。

 

「うむ、実は1度たらすくと仕合っている。ライダー殿の宝具だ、建物を卵の殻のように砕く幻想種よ」

「バケモンにゃ違いないが、1人と1匹ならやれる。おいロマニ、奴ら以外はいやがるか?」

 

『大丈夫、奇襲は彼女たちだけみたいだ!』

 

反対側に隠れたマシュ達に目配せをする。

タラスクをこちらで。ライダーをマシュ達に任せて格好撃破だ。

 

「先輩、後ろ!!!!」

「え────」

 

だけど、マシュから帰ってきた返事は後ろを指差している。

 

「Ooootaaaaaーーーーーーーー!!!」

「ぬ────」

 

黒い衝動が振り下ろした刀を、小次郎が捌いていた。銀時が木刀を握ったとき、小次郎は刀を返し終えていた。見事に上半身を両断した早業に興奮する。

そのサーヴァントはあまりにも黒いせいで血飛沫は気にならない。そこが精神的に良かったと思ったとき。

 

「eSaaaaaannーーーーーーーー!!!」

 

再び現れた上半身から雄叫びとともに、刀が振り下ろされる。

 

「これは面妖なっ!」

「あいつは────」

 

影のひと振りに小次郎は押し流され、建屋の上を疾っていく。奇声を上げながら影が追跡する。小次郎の応援には行けそうにない。

 

「なんで!?普通死にますよね!?」

「知らねえよ!おいロマニ、てめっ」

 

声を荒げる銀時が振り向くが、モニターは消えていた。電源すら入らなくなっている。

 

(通信が途切れてる。じゃあ今のは偽物の仕業?)

 

「来ます!」

「忙しい奴らだな!」

 

やられた、と悔やむ暇はない。

再び銀さんに抱えられて建物の反対側に飛び出た。次いで鳴る地面。マシュたちのほうにタラスクが跳躍している!

 

「マシュ!」

 

瓦解する建物を蹴散らしたタラスクのひと払いで、マシュの身体がヴォークルールの外に飛ばされた。

 

(だけど、なんで外に?)

 

「私の相手はアナタ達よ」

「そうか、この目的は分断ですか!」

「させない!」

 

物陰からジークと地雷亜が飛び出していく。

ジークの魔力放出を背で受けるも、タラスクが止まる気配はない。反対に回った地雷亜がクナイを投げる。しかし、ライダーの魔弾が炸裂して全て落とされた。タラスクの身体、魔力を通しにくいのか、元より防御力が高いんだ。だけど前は違うらしい。挟み撃ちでなんとかするしかない。

 

「アンタらはここにいなさい」

 

考える時間はあっさりと潰されてしまう。

ライダーが地雷亜との距離を詰めたかと思えば、手に持つ杖でフルスイングをする。魔術によって強化された足は速く、地雷亜の足に追いつくほど。

 

「女ぁっ!」

 

地雷亜の身体は家屋を突き破っていく。

完全に後衛だと思っていた認識を崩された。だが現実は容赦なく進む。

タラスクは身を翻してジークに襲いかかり、両足で地面を踏み砕く。

 

「ジーク君!」

 

警戒していたジークはかわせたが、タラスクの次の動きにジャンヌが出遅れてしまう。

 

「ジャンヌ!!」

 

巨体を回転させ、ジャンヌの身体ごと外壁に突っ込んだ!?

やり方が無茶苦茶だ、街がもう半壊している…。

味方が一気に分散されてしまった。俺はどうする、あぁ、展開が早すぎてついていけない…。

 

「立香、マシュを頼んだ!」

 

汗ばんだ猫背に衝撃が走る。

銀さんにおもいっきり背中を叩かれていた。

 

…本当にこの人は。カルデアの爆発のときといい、どれだけ修羅場を潜り抜けてきたんだろう。帰ったら洗いざらい聞かなきゃ。

 

「分かった。銀さんたちも気をつけて!」

 

別れて走る。

ジャンヌさんのことまで頼まなかったのは、きっと無理に気負わせないためだ。でも、どっちか1人なんてケチなことは言わない。絶対に2人とも死なせてたまるか。

 

「ヅぅゥ!?」

 

直後、鼻、口から通る空気が内側を焼く。突然の痛みに頭が割れるように痛み、状況が意味不明なまま地面を見ていた。

足の裏にトゲでも刺さったように怯んでしまう。鼻と口を右手で抑えて、混乱する視線をゆっくりと上げる。

 

「…地獄だ」

 

焼ける街。

冬木市とは別種の意味で燃える世界。生命を拒絶する炎が立香の意識を溶かし始めていた。

 

 

 

 

 

 

「ジーク、一気に片付けてマシュたちの加勢に行くぞ」

「あぁ、そのつもりだマスター」

 

立香を送り出した2人。

事は1秒を争う。ライダーを倒すため剣を構えたというのに、ライダーは素知らぬ顔で外壁の向こうへと跳んだ。

 

呆気に囚われるとはこのことだ。

2人の相手をしなければ分断の意味がない。追いかけようとジークに跳躍を頼もうとして、ライダーの行動の意味が明かされた。

 

吠え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

 

天から降り立つ魔女が1人。

怨嗟を燃やし、戦いの残滓を種火とする。

天高く掲げる剣に熱意を宿して、ヴォークルールの街を焚き火と化した。

 

「熱っ!!なんだこりゃ!?」

「これは、ただの炎じゃない」

 

火元は見当たらない。振り向いた風が火花を起こし、吐いた息が自分の肌を焼いている。数分も居座れば人体は機能を焼き切られること間違いなし。とても人間が耐えられる場所ではなかった。

 

「燃料は大気の魔力…それに、感情か?」

「あら、そこまで解るなんて竜殺しサマには参ったわね。なら分かるでしょ、この世界の理不尽さが」

 

視線が合う魔女は昨日とは別人だった。

ガワではなく、心。

 

「我が名はジャンヌ・ダルク・オルタ。オルレアンを焼き払い、忌々しい歴史を塵芥に還してあげる働き者の名よ」

 

真名を謳う姿は敵でありながら輝いている。

自信に満ちた表情に醜い色はどこにも無い。

 

 

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