fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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諦めない理由

竜の魔女、ジャンヌ・ダルク・オルタの宝具は魔力、そして憎悪を燃料にして燃え盛る。魔術師は魔術の行使で自爆。サーヴァントは魔力放出から宝具の解放に至るまで、多大な損傷を覚悟しなければならない。

 

「簡単なこった。自力で復讐師弟をぶっ飛ばす」

「そう簡単な話じゃあない。オルタの憎悪だけでも相当な熱さだ」

 

滴る汗で喉を鳴らし、地雷亜は笑う。

竜の魔女の宝具は人を選ばない。誰にも平等に毒を吐く本人のように、地雷亜もまた霊気をジワジワと焼かれている。

 

(顔を捨てたときに比べれば極楽だ)

 

そして地雷亜は彼女の異変に納得した。

宝具の威力が落ちている。以前、魔術師を相手に解放したときは数分とせずに仕留められた。

 

(宝具の質が変化している。ふん、あの男の仕業か。

ジャンヌの精神を成長させながら敵に塩を贈るとは。上手いこと出し抜かれた)

 

もし彼の手が加えられていなければ、この場面は実現しなかっただろう。しかし、竜の魔女の在り方が変わらずに実現していれば…。

この先の思考を止める。

 

「ふん、せいぜい耐えることね。私を欺いたこと、許してはいません。彼らを仕留めたら、次はアナタの番です」

「分かっている。罪を糧にするのが業に生きる者の定め。

復讐者に仕えるための義務なのさ」

 

霊気が歪んでいた。

バーサークに侵された地雷亜は作品完成のため。

泡沫から抜け出したアヴェンジャーは勝利のために。

 

顔を合わせてこなかった師弟の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

マシュが立香を抱えて跳ぼうとしたとき、既に暗殺者の蜘蛛糸は張り巡らされていた。建物に張り付き、マシュと立香だけでなく倒れ伏したジャンヌを囲う。

 

「この宝具、ジャンヌさんが…」

「マシュ、来てる!」

 

立香の声に引き戻されて、ほぼ直感で盾を構えた。

蜘蛛糸をなぎ払い、地雷亜の蹴りを受け止める。盾を蹴った脚から力を抜き、その場で力の向きを斜め後ろに修正を入れて蹴り直した。

 

「ええ!?」

「マシュ!」

 

追撃の回し蹴りが腹部に直撃して、蜘蛛糸を絡めながら立香ごと退げられる。マシュの背中を支えるが勢いは止まらない。退がる距離だけ蜘蛛糸が2人の身体を裂く。

 

「先輩、大丈夫ですか!?」

「うん、これくらいなら…」

 

燃えていく真っ白な想い。

崩れる頬の皮膚を気にも止めず、地雷亜の蜘蛛糸は2人の世界を狭めていく。

 

「英霊の力はろくに使えない。オルタの宝具中なら身体能力の差でしか優劣はつかないのさ。お前さんたちに勝機があるかは明白だろう?」

 

魔術礼装がなければ援護の1つも出来ないマスター。

戦闘経験、ステータスともに地雷亜とは天地の差が開いたデミ・サーヴァント。

地雷亜の言う通りだ。否定しない、だから。

 

(魔術礼装を使ったら、きっと熱いんだろうなぁ)

 

他人事のように考えて、自分の恐怖心を押さえ込んで、躊躇を捨てたフリをする。

 

『む、無茶だ藤──』

 

「ジャンヌッ!!」

 

大股5歩先で動かないジャンヌへ手を向けて、魔術礼装カルデア・応急手当を発動した。

瞬間、応急手当の発動した感触とともに、身体の内側が熱に蹂躙される。

 

「あああああああッッッッッッッ」

「先輩!!」

 

ジャンヌからの加護を受けながらも、意識の回線が焼けるを感じた。マシュの叫び声が無ければ、もう起きていられなかった。

血が流れる視界を振り払って、横たわるジャンヌに視線を向ける。

 

(…なんで、起きないん…だ)

 

「無駄だ。俺の糸は魔術を阻害する。カルデアとの通信を阻害したのも俺の糸だ、効果は分かるだろう?」

「そんな…」

 

(ジャンヌを半殺しにして…。こんなことのために、自分を信じた相手を利用したのか、この男は)

 

なけなしの手段を使わされた。

ジャンヌを生かした理由にも、自分が罠にかかったことも、腹が立つ。

 

「その目は…ちっ」

 

蜘蛛糸を食い破る銀時の瞳と立香の瞳は似ていた。

彼には地雷亜を傷つける筋力がない。それでも肌が感じ取った殺気に押されて、地雷亜はクナイを叩きつけた。

 

「順番が違うでしょう」

「それは捕食者次第だ」

 

クナイを盾で弾いたマシュ。

そのまま蹴り返して、2人は戦闘へと移った。

 

「ドクター…。ダ・ヴィンチちゃん…」

 

返事はない。

地雷亜に通信を再び切られたみたいだ。

 

銀さんもマシュも戦えているけど、この熱気のなかでどこまで耐えられるか分からない。

いや、時間が経つごとに敗北へ加速している。

 

なにか、出来ることは、ないのか。

熱い、頭が痛い…。

援護…辛い……魔術礼装…熱い……。

魔術礼装を使うだけで筋肉繊維が脊髄反射で折りたたまれるほどの熱だ。もう、立ち上がるのも息をするのも目を開けるのも現実を見るのも辛くて仕方ない。

だから、先ずは目を閉じた。

 

「心が折れたな。

早く楽にしてやったほうがマスターのためじゃないか?」

 

忍びの声がする。わざとなのか、やけに耳に届く。怒りが湧かないといけないのに恐怖で押し流されるのが分かる。

次に、立ち上がることを諦めた。

 

「死なせません。私たちは所長と約束したんです」

 

マシュの声に引き留められる。

燃え盛る街。思えばここは冬木の町に似ている。炎上し、命が絶えたあの世界で俺は……。

 

”もうこんな想いはごめんだ!”

 

一方的な約束をしたじゃないか…!

 

「くっ…そっ…」

 

起き上がろうとして、全身の筋肉が既に限界だと痛みで教えてくれる。もう立てない、ならばと目を見開いて現状を確認する。

 

「小娘、大事な者を守ることの重さを知っているつもりか?

甘いな、軽すぎる。その背中じゃ小僧1人と背負えんぞ」

「か、ぁ…あ!」

 

防戦一方ながら耐えている。

素人目でもまだ保つ。

 

(…大丈夫、まだ戦える)

 

安堵も束の間、身体が動かなくても出来ることがあることを思い出した。この右手を見て、だけど。

ちょっと熱いのを我慢さえすれば、きっと上手くいく。あとは信じるしかない、この想いがジャンヌに届くことを。

 

「令呪を」

 

弱目に祟り目とはこのことか。

声を出すたびに喉が憎悪に焼かれる。勝利への執念がこちらの未来を妨害する。

 

…大丈夫だ、俺は死なない。

所長との約束を守りたいんだ…!

 

「自分の信念をやり通すんだ、ジャンヌ・ダルク」

 

令呪が煌めいたと同時、右手から憎悪が身体に這いずり回る。奇跡を憎む炎が意識を殺しにきている。

 

「ヂッ……ッ負けるかーーーっ!!」

 

届け、願うしかない。

届け、祈るしかない。

もう一度、立ってくれ、ジャンヌ…!

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)

 

紅蓮の炎を纏うように立ち上がる、年端もない少女の旗が憎悪を振り払う。地面に伏したまま、空が青く広がっていく光景を笑いながら見ていた。

 

「感謝を、藤丸 立香。

この命に代えても役目を果たすと誓います」

 

少年の想いを受け取って、救国の聖女はここに健在している。今度こそ安堵して暖かい空気を吸い込んだとき、立香の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

「くっ………見えない」

 

赤い視界を縦横無尽に駆け回る地雷亜。

追っても追っても掴めない存在に、マシュは身体も心も振り回されていた。上下左右、いつでもそこにいて、気づけば消えている。盾で蜘蛛糸を切り落としても、次の瞬間には新しい巣が張られていた。

バーサーク化は理性を代償にして身体能力を向上させるもの。ここまでの技巧で攻められるのは余程身に染みたものでも難しいはず。

 

(別のものを代償にしているとしか思えない…!)

 

謎は解けない、そんな余裕はない。

1秒経つごとに身体は地雷亜の体術で崩れていく。

 

「心が折れたな。

早く楽にしてやったほうがマスターのためじゃないか?」

 

勝てるところは1つもないかもしれない。

だけど、彼の発言は聞き捨てならなかった。

 

「死なせません。私たちは所長と約束したんです」

 

”もうこんな想いはごめんだ!”

 

先輩の叫ぶ姿が記憶に焼き付いている。

この先、負けそうになるたびに、あの叫びを思い出して立ち上がろうと思えるから。

 

「だから、負けられない!」

 

焼ける空気でも動くために取り込まなければ死ぬ。こんな悔しい想いをして、大人しく死んでいられるほど臆病じゃない。

 

諦めないと駆けた。もう立ち止まる時間は無くす。巣のなかに入ってしまったのなら、全力で蜘蛛糸を巻き取るまで。

 

(マスターから離れず、さりとて蜘蛛糸を断ち切って空中戦を避けるか。未熟だが聡い…生命線をしっかりと把握している)

 

立香に投げるクナイを落として蜘蛛糸を断ち、自分への攻撃は引き寄せて地雷亜を叩かんと生命を使う。

糸を張りながら超絶体術を繰り出す地雷亜。

立香を守りながら観察と攻撃を絶やさないマシュ。

 

生死を賭けた攻防はマシュが不利な状況で佳境に入ったとき。

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)

 

マシュは勝利の兆しも同時に呼び寄せていた。

 

「オルタの宝具が消えた?

ちっ、面倒なことをしてくれたな、立香!」

 

クナイを投げる直前、こういうときに妨害してくる相手が来ないことに気づく。

地雷亜の意識が逸れた瞬間、全ての蜘蛛糸の中から、たった1本の当たりを掴んでいたマシュ。

 

「見つけました」

 

糸に滲む起死回生の結晶()

 

埃のように舞う無数の蜘蛛糸。

無作為なものを切り、地雷亜が足場にしているものを残した。

 

「俺の糸を見切ったと!?」

 

間違いないと確信した。

理由は分からないけど、聖女の導きだと納得できる。

 

「うおおおおおおお!!!」

 

地獄から現世へと昇る蜘蛛糸を引き寄せて、宿主の身体が宙空へと放り出された。もう阻むものも、踏み台も見当たらない。盾を振りかぶり、一直線に地雷亜へ跳ぶ。

体勢が整わない蜘蛛の身体目掛けて、渾身の一撃を叩きつけた。

 

「────え」

 

宙空で2度飛び跳ねて、地雷亜はマシュの攻撃を難なく躱して背後を取る。

 

「俺だけに見える糸があるんだよ」

 

背後から届く声に背筋が凍る。

盾を引き戻す時間はない。首だけを振り向かせて、迫るクナイを見届けた。

 

「地雷亜、アナタは決して許されないことをしました」

 

地面から突き上がる旗が地雷亜の腹を貫いて、マシュに向けたクナイが力なく落ちていく。

 

「誰かの信頼を弄ぶのは最低です。反省しなさい」

「ぐっ……。あぁ、ここでも俺の弱さか出たか…」

 

地面に身体を打ちつける地雷亜。

マシュの身体を抱き寄せたジャンヌは着地すると、もう動く気配のない地雷亜を確認してからマシュを立たせた。

 

「大丈夫ですか、マシュ」

「あ、ありがとうございます…。そうでした、先輩が!」

「彼なら大丈夫。いまは眠っているだけです。

さあ、決着をつけに行きましょう」

 

 

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