憎悪の風が銀時の身を焦がしていく。
ただ近づくだけで命の末端から炭になり、生き物としての限界は刻一刻と擦り減っている。
「どーした、テメーの思春期はそんなもんか?」
「消し炭にしてやる…!」
塵芥に変わる景色のなかを、銀時はそれでも身体機能を落とすことなく駆け回る。限界がどうとかで語れる域ではない。感情を燃やす炎の最中なら、この身に委ねて戦うほうが幾分か動けるだけのこと。
空からは憎悪の炎を纏う剣が銀時目掛けて降り注ぐ。
毛先を、皮一枚を割いて終わり。芯は捉えられず、木刀の一振りで包囲網は四散する。
「…なに、その棒っきれ。
やけに固いじゃない。きもいっつーの…」
炎に侵されず、アヴェンジャーの剣が割れる始末。
原理は不明だが、木刀と剣を交わすごとに男の強さを叩き込まれた。数で押している…いや、数でカバーしなければ接近戦は成立しない。
(いつ死ぬの。とっくに神経が焼きただれている頃よ。本当に人間なの?)
死に近づきながら、銀時の猛攻は苛烈を極めていく。
体力を削り、心肺機能を落として、環境を傾けた。
「男ってのは何時でも何処でも踏ん張る生き物なんだよ。ちょっと髪が天パになるくらい、もう慣れっこさ」
「〜〜〜〜〜っっ!」
なおも侍は折れず。
アヴェンジャーの振り下ろした剣を払い、木刀を斬り返した。
経験が足りない。それどころの問題ではなかった。
アヴェンジャーには逆境から立ち上がる数が少なすぎたのだ。国を恨み、神に吼えて、憎しみ以外の感情に突き動かされる。この全てを目の前の男は既に経験していた。
「燃え尽きろ」
それが悔しくて、怒りで踏み留まる。
次は木刀ではなく右腕を掴み、ありったけの憤怒を放出する。
「その炎じゃ俺たちは燃えねえ。燃え尽きてやらねえ」
「うそ…」
銀時はアヴェンジャーの炎を一身に纏って、なおも身体が燃えることはなかった。それどころか笑う姿に掴んだ腕を咄嗟に離していた。
「理不尽な世界も、誰かの復讐も、どこかで誰かが止めなきゃ引き返せなくなる」
ただの呼吸で肺が崩れそうになる。
とうに限界を迎えた身体で、最後の一振りを構えた。
「ここで立ち止まって自分のしてきたことの意味、しっかりと考えやがれ」
異質な執念を見せる銀時を見て、心の奥底から掠れた悲鳴を上げるアヴェンジャー。剣を振り上げて、ありったけの
避けることは銀時には出来ない。木刀を振ることで限界に到達する身体は、
「────いけ、銀時」
怨嗟のなかで放出されるジークの魔力群によって、五体満足でいられた。
自分の剣が壊れて、銀時の木刀が燃えもしない。馬鹿げた現実に目を奪われたまま。
「師匠に言っとけ。
積み荷の背負い方が下手くそだってな」
青い空を仰ぎながら、完敗した現実をゆっくりと受け止めた。
───
──
─
ジャンヌ・ダルク・オルタはフランスに召喚されてから数々の悪虐を行った。ジル・ド・レェと話し合い、現存する彼を討ち、シャルル7世を火刑にして、生前の生まれ故郷を焼き払った。
後悔はない、そんな心はないから。ただ、ジルが幻覚だと知らずに生きてきたことには怒りよりも悲しみが勝ったかもしれない。全部、ジルではなく地雷亜の仕組んだことなのだから。
「ねぇ、アンタは私を憎んでいるでしょう」
だからせめて、本物の顔から同じ感情を見届けたくて、性懲りも無く近づいた聖女に聞いた。
「…………はい、貴女を許しません」
強く言い切ったジャンヌ。
そのご尊顔を見て、アヴェンジャーの期待は裏切られる。
「だから、貴女を許せるのは私たちだけです。
アヴェンジャー、貴女に贖罪の心が少しでもあるのなら。どうか、カルデアの旅に助力してください。いつの日か、心の準備が整ったときに」
「……約束のつもり?呼符なんてビリビリに破くし灰にしてやるわ」
「何度でも、新しいものを持ってきます。気に入らないなら破れたものを継ぎ直します。同じ真名を持つ者として、貴女だけにこの罪は背負わせません」
優しく微笑む姿が憎くて、最後に自嘲する。
「結局、1人も殺せてないじゃない」
「いつか、殺さなくて良かったと言える日が来ます。今日はそれを見つけた記念日ですね」
「………バカよ、イカれてるわ、お前たち」
「はい。だから私もまたここに来たんです」
最後まで暖かい視線を曇らせることは出来ず。
根を上げたアヴェンジャーはため息を吐いて敗北を認めた。
時を同じくして、銀時は無理の効かない身体を引きずって倒れ伏す男のもとにきた。
「おい、起きてんだろ。最後に面倒見てきたアヴェンジャーに挨拶しねえのか」
「…役目は果たした。誰かに
「そこは相変わらず面倒なんだな」
「手塩にかけるには時間が足りなかった。だがな銀時、そして立香。お前たちと触れ合わせて良かった。アヴェンジャーは強くなった、見惚れる月と対を成すように」
ひとつ息を吐く忍びの瞳には正気が戻っている。
霊気が砕けて、バーサークが先に霧散したのだ。
身体を反転させて、地雷亜は最後にこう言い遺す。
「”巢”にかかるものはなかった。
天に昇りきる前に水面の月を捕食しようとした、愚かな蜘蛛の末路さ」
フランスの聖杯戦争をたった1人で壊滅させた男は、アヴェンジャーの生きるさまを見届け退去していった。
▼
こうして、息つく暇もない1つ目の特異点定礎は果たされた。
「急げ!藤丸君を医務室に運ぶんだ!」
「私も手伝います!」
「マシュには休んでほしい…あぁ分かった、手伝ってほしいから小動物のような目を止めるんだ!罪悪感がすごい!」
カルデアに戻ってきた銀時は騒がしさに目を擦り、直ぐに状況を理解した。
「おい、立香のやつは大丈夫そうか?」
「あぁ、お帰り銀時君。心配ないよ。ちょっとばかり無理しちゃってるけど、命に別状はない」
そのわりには慌てていたロマニからの返答だが、運ばれていく立香を見て本当に無事だと分かり安堵する。
「銀時君こそ火傷は大丈夫?それに、サーヴァントと真っ向勝負したんだけど。君、人間だよね?」
「ったりめーよ。世界滅んでもジャンプ読みたさに世界救うのが俺らジャンプ愛好家だからね」
「あーっ!そーやって強さの秘訣を隠す気だなあ!この天才を前にしてその抵抗は無意味だぞー!」
「ちょ、無理に出ていいのこれ?なんか身体ビチャビチャなんだけど!?」
「大丈夫大丈夫。だあーいじょうぶだから!」
背後からひょっこり現れたダ・ヴィンチ。
コフィンから銀時を引っ張り出すと、そのまま外まで引っ張り出して行った。
「なんちゃって。まあ聞きたいことが事なんでね、私の工房に来てもらうよ」
「おいおい、帰ってきて早々に?疲れたからロマンのケーキ食って寝たいんだけど」
「それこそ大丈夫、あいつの秘蔵はあとで全部吐き出させておくから」
とんだ飛び火を食らうロマン。
雑談をしながら歩くこと数分、工房とやらに案内された銀時は手頃な椅子に腰掛ける。
中央の作業机に腰掛けたダ・ヴィンチはタブレットを手に取る。
「今じゃなきゃダメ…というより、その方が有難い。まあ私の都合に合わせてもらってるんだけど、早速質問だよ。
地雷亜というサーヴァント。彼の名前は歴史に残っていない。真名はなんだい?」
「鳶田 段蔵。最強の元御庭番だとか言われてた」
「ふぅむ。うん、そんな真名の人物もいない」
ささっとタブレットに打ち込んで1秒、画面にはどの偉人も照合しなかった。
「バーサーク・ランサーを圧倒し、アヴェンジャーの宝具のなかで打ち勝った。魔術を行使せず、かといって代行者でもない。
君の経歴は真っ白なんだよ、前所長のプロファイリングだとね。
レイシフト適正者No.47、坂田 銀時。
君、どこの世界の出身だい?」
ダ・ヴィンチの質問に銀時はから笑いで答えた。
※作者の独り言が続きます。オマケは最後にあるよ。
お久しぶりです、ひとりのリクです。
さあオルレアンを書き切りました!このペースなら10年くらいかかりそう!そこそこ簡潔に纏めて、書きたいことは詰め込めたと思ってます。
銀魂を混ぜた邪竜百年戦争オルレアン。いかがでしたか。楽しんでいただけたら幸いです。
オルレアンにレイシフトしてから1日足らずで特異点定礎。かなり早い解決でした。原作に寄せて書こうと思ってプロット練ってたんですよ。だけど執筆の時間が思ったよりも確保出来なかったり、登場人物が多くて制御できずに削りました。FGOの紙芝居が羨ましいと思った瞬間です。
味方サーヴァントは相当減ってしまいました。全員、地雷亜によってズブリ…。
彼らの代わりが小次郎、ジークだってんですからバランス取れなさすぎですね笑
敵ですが、ジル、バサスロ、サンソン、アタランテですね。
ジルは地雷亜にズブリ。サンソンは描写を省きましたが、マリーが死んで暴走したので地雷亜が処理してます。アタランテは尺の都合で省きました。試しに入れて書いたら描写増えて読みにくかったので。
幣作はこれからも、原作とは少し違った聖杯探索を書いていけたらいいな〜と思っています。
アンケートのご協力ありがとうございました!
結果、1番人気は24票
『ぐだぐだ本能寺-3ブリーフの野望-』
に決定しました〜!イェーイ!
なんとな〜くそんな気がしてました。
3ブリーフorマダオor水着に集まるかな?と。
結果も決まったことですから、イベントの開催予定発表!
『 2022年冬』とさせていただきます!
え、そこは直ぐに書け?ごもっともです。
今年の秋に2章をやるので!どうかご勘弁を!
え、1番人気を最初に書くか分からないって言ってただろ?ごもっともです。
違うんです、ブリーフは自由度が高いので2章のあとから書けちゃいます。ちなみにセイバーウォーズも2章のあとからです。
お話し変わって、今更ですが評価付与の文字数制限についてお気づきの方もおられるかと思います。
評価付与にあたり50文字制限を設けております。理由は完結するか分からないからです。せっかく評価したのに未完かよ…となるのは避けたくて。7章まで書けたら制限を解除するかもしれません。
評価を付与しようとしてくださった方々には申し訳なく思っています。
文字数制限を掛けながらも、それを越える感想を書いて評価をしていただいたお二人。まだ序章ながら感想で盛り上げてくださった方々。お気に入り登録して更新を待ってくれている読者さま。そして銀魂とfateのタグから幣作にたどり着いてくださった皆さまのおかげで執筆意欲がメラメラと湧いております。ご覧になってくださった方々全員に感謝しています。
ちょっと変わったFGOのクロスオーバーはこれからも続きます。作品を書き終えるまで、可能な限り活動を続けていきます。相変わらず遅筆な私ですが、どうかこれからも見守っていただけたら幸いに思います。
最後に、次回予告をどうぞ!
【次章予告】
破壊の大王が降臨した特異点。
彼女が指揮する永続狂気帝国セプテムと対立する者は、ローマの地に突如として現れた。
「余はネロ・クラウディウス。いまは記憶を失くしてしまったが、ローマ帝国の危機を救わんとする立場は同じだ」
その男は筋肉質の肉体美を余すことなく晒した姿で。
民を率いるに値するまげが特徴的な英霊。
「カルデアの遣いたち、どうか我らが国を共に守ってはいただけないだろうか」
「思いっきり知ってる顔なんですけどオオオ!?」
坂田 銀時の絶叫は、もっさりブリーフへ向けられる。
「なんと!その親しみの篭った声、余が忘れようとも解る。同じ志しを持ち、肩を組み合う友に違いない!」
「いや、あんた将軍!おれ侍!
てかお前また記憶無くしてんのかよ!」
江戸幕府十四代征夷大将軍、徳川 茂々。
歴代ローマ帝国に抗う物語を引き継いだ者。
「じゃあ本物の皇帝ネロはどこなんだろう」
「偉いし、風呂知ってるし、薄着だからどっちも同じだろ」
『ブリーフ一丁の変態に乗っ取られるローマ皇帝って大丈夫なのかい…』
【原作不参加サーヴァント】
執筆状況で多少変化するため、この枠は廃止します。
【2章先行ピックアップ】
レア度:SSR(星5)
真名:お岩・タゴサク
クラス:バーサーカー
宝具:Buster
「仙望郷ラッシュ」
敵全体の強化状態を解除&解除不能のバフ数に応じて自身のバスター性能アップ〈オーバーチャージで性能アップ〉(1ターン) &クリティカル威力アップ(3ターン)+敵単体に超強力な防御力無視攻撃[Lv.1]
仙望郷の最強女将にて、原作屈指のスタンド使い。
ローマの地に召喚されてからも、獣人幽霊問わず多くの客を癒し、有るべきところへ返している。